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第三章

side SH




結局今日も、僕らはシロクマに来ている。
嫌だって言ったのにな。


「どうせもうすぐライブで会えるんだからいいじゃん」
「ダメなの!早くお友達にならないといけないんだから」


またあの人が来るまで待たなきゃいけないのかと思うと少しだけウンザリした。
タオが嬉しそうに目を細めて口角をあげてあの人の話をする度、僕の心はずしりと重いものが拡がっていく。何なんだよ、ってむしゃくしゃして。



タオはその人と友達になったら、僕なんか要らなくなっちゃうのかな。



だったら来なきゃいい。ずっと、永遠に。
あの人とタオが親しくなることなんて、永遠になければいいのに。
いつも勝手な友人に、たまには僕の我が儘も聞いて欲しかった。





カランと鳴って、ドアが開く。


「あ……」


タオの細くて切れ長な目が大きく開いた。
見なくたってわかる。誰が来たのか。
それでも僕は釣られるようにタオの視線の先に目をやった。


「いらっしゃい」
「「こんにちはー!」」
「あ、そうだ。これチケットのお金」
「うわ!ありがとうございます」
「うちのお客さんも結構行くってよ」
「ホントですか!」
「な、やっぱシロクマに置かせてもらって正解だったろ?」
「だな!さすがチャニョラ」
「あ、それとさ。俺の分、もう一枚くれないかな?」
「あ、いいっすよー」
「もしかして、彼女さんとかですか?」
「こら!ちがうっての」


マスターとタオの好きな人とその人の友達の背の高い人と。楽しそうに話してるのを見てタオを盗み見ると、早く自分も話したいとばかりにそわそわしていた。


「どうするの?」
「うん、話すよ」
「なんて?」
「……わかんない」
「は?」
「わかんないよ!けど話すの!!」


え、ちょっと、って思ったときにはタオはもう立ち上がっていた。


二人が席に着こうと椅子を引いたところへ突進する。


「あの!」


急に掛けられた声に、その人たちは驚いて顔を見合わせていた。
うん、当たり前だし。


「ん?なに?」
「ベッキョナ、知り合い?」
「いや……?」

「あ、あの……」


あ、緊張してる。
パンダでも緊張なんてするんだ。
当たり前か、好きな人だもんな。
好きな人、か……

ぼんやりと眺めながらも、心は酷く沈んでいく。


「タオっていいます!僕と、仲良くしてください!!」

「え……俺?」


タオは、うん、と思いっきり頷いて。小柄なその人は、驚いて戸惑っていた。


「は?なんで……?」

「えっと……、可愛いから!」


あぁーあ。バカタオ。


「はぁー?お前、喧嘩売ってんの?高校生の癖に俺よりでかい図体しやがって!」
「まぁまぁ、ベッキョナ。落ち着けって」
「落ち着いてられるか!」
「あ、えっとタオくんだっけ?こいつ、身長のこと一番気にしてるから、可愛いとか禁句なの」


わかる?と背の高い方が言う。


「なんで?可愛いのに」


──だってほら。


言ってタオはその人を抱き締めた。




ダンっ!


大きな音をたてて背の高い人と僕がテーブルを叩いて立ち上がったのは、ほとんど同時だった。

その人と目が合って。あ、ヤバ……


「セフナ?」「チャニョラ?」


「おい、お前らなにやってんだ?」


その音に驚いたマスターが慌ててやって来た。


「え、あ……えっと……」

「タオや、とりあえず離れなさい」
「えー」


マスターは膨れるタオの背中を叩いて腕を離させた。


「面倒くさいからケンカはするなよー」


関心があるのかないのか。
まぁ、そんなもんか。

だけどタオがその人を抱き締めたとき、僕の心臓は確かに悲鳴をあげていた。
普段は、ほとんどあるのかないのか、動いているのか止まっているのか、存在なんて忘れてしまいそうなほどなのに。今のも含めてここ最近は頭と心がちぐはぐだ。


僕はタオのなんでしょ?

じゃあタオは僕のじゃないの?


寂しくなるから僕に彼女を作るなって言って。なのにタオには好きな人がいて。フェアじゃないよそんなの。


全然フェアじゃない。


この気持ちの正体は、一体何?なんて、きっと子どもでも分かる。



僕はそこまでバカじゃない。



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