第三章
side JD
スホ、ことジュンミョンさんが僕のところへ来たのは教授のもとで初めて会ったあの日から数日後のことだった。
「やぁ!」
大学の敷地内にあるベンチに座って僕を見つけるなり手を上げて微笑んだ。
「あ!ジュンミョンさん!」
今日も教授のとこですか?と駆け寄るとジュンミョンさんは笑顔で「今日は君に用事があって」と言う。
「僕、ですか?」
「うん」
「なんですか?僕で足りることですか?」
「もちろん。って言っても大した用事じゃないんだけどね」
これ、と差し出されたのはライブのチケットだった。
「音楽、好きかなぁと思って」
「え……?」
「この前口ずさんでたから。気分転換によかったらどう?」
「……いいんですか?」
「うん。って言っても、アマチュアの学生バンドなんだけどね。でも気分転換にはなるでしょ?」
そう言ってジュンミョンさんは笑った。
「ありがとうございます」
ライブを見るのなんていつ振りだろう。思いがけないプレゼントに久しぶりにちょっとワクワクして気分も上がる。
最近はレイヒョンのところに行かなくなった代わりに、教授の手伝いばかりしていた。いろんな話も聞けるしそれはそれで楽しいんだけど、音楽にのってぱぁっと騒ぐのもいいかもしれない。頬が上がるのが分かった。
「あと、これ」
そう言ってジュンミョンさんは今度は小さな箱を取り出した。戸惑いつつ首を傾げると「ケーキだよ」と声がかかる。
「編集者の人に貰ったんだけど一人じゃ食べきれないから。それに君、ケーキ好きだよね?いつもシロクマで頼んでた気がしたんだけど……」
「え、あぁ……」
レイヒョンのケーキを思い出してちょっと切なくなった。
「疲れたときは甘いものって言うし」
消費するの手伝ってよ、と言われるとさすがに断るわけにもいかず、僕は有り難くその白い箱を受け取った。
複雑な気分を抱えて家に帰って箱を開けると、中に入っていたのはカボチャのタルトだった。
よりにもよって……
カボチャのタルトはレイヒョンと初めて会ったときに食べたケーキだ。そんなことを覚えてる自分にも驚いたし、あの時にあんな出会いをしていなければ今こんなに悩んでいなかったのかも知れないと思った自分にも驚いた。
僕はレイヒョンのことばかり考えてる。
ヒョンは僕のことなんてもう気にも止めていないかもしれないけど、それでも僕は……
毎日のように顔を会わせていたヒョンと会わなくなってどのくらい経つだろう。最後に会ったのはあのシロクマの時で、ヒョンのケーキを食べなくなってからだと、もう1ヶ月は過ぎたかもしれない。他の店のケーキを食べたいとも思わなかったから、ケーキ自体1ヶ月振りだ。
インスタントのコーヒーを入れて、そっとフォークを刺して口に運んだ。
「あ……」
その味は、美味しいのに美味しくなかった。
確かに美味しいケーキなのに。
ヒョンの味に慣れすぎたのかもしれない。あの優しい甘さに。ヒョンのように優しくて幸せになる甘さに。
僕は、これ以上ないほどの複雑な気持ちに苛まれていた。
──これが恋なのだ
主人公はどうやってジナイーダへの気持ちと向き合っていったんだっけ……
会いたい
会いたくない
会いたい
会いたくない
会いたい
会いたい……
ヒョンにしたらあんなキスくらい挨拶のようなものなんだろう。赤ちゃんやペットにするのと同じような。だけど、そんなことに慣れてない僕にしたらあれは確かにキスで。額にされるのも、頬にされるのも、こめかみにされるのも。キスはキスだ。勘違いしちゃいけないと思っても、何度も何度も思い出すし、思い出せば心拍数が上がる。
ヒョンは今、何をしてるだろう……
スホ、ことジュンミョンさんが僕のところへ来たのは教授のもとで初めて会ったあの日から数日後のことだった。
「やぁ!」
大学の敷地内にあるベンチに座って僕を見つけるなり手を上げて微笑んだ。
「あ!ジュンミョンさん!」
今日も教授のとこですか?と駆け寄るとジュンミョンさんは笑顔で「今日は君に用事があって」と言う。
「僕、ですか?」
「うん」
「なんですか?僕で足りることですか?」
「もちろん。って言っても大した用事じゃないんだけどね」
これ、と差し出されたのはライブのチケットだった。
「音楽、好きかなぁと思って」
「え……?」
「この前口ずさんでたから。気分転換によかったらどう?」
「……いいんですか?」
「うん。って言っても、アマチュアの学生バンドなんだけどね。でも気分転換にはなるでしょ?」
そう言ってジュンミョンさんは笑った。
「ありがとうございます」
ライブを見るのなんていつ振りだろう。思いがけないプレゼントに久しぶりにちょっとワクワクして気分も上がる。
最近はレイヒョンのところに行かなくなった代わりに、教授の手伝いばかりしていた。いろんな話も聞けるしそれはそれで楽しいんだけど、音楽にのってぱぁっと騒ぐのもいいかもしれない。頬が上がるのが分かった。
「あと、これ」
そう言ってジュンミョンさんは今度は小さな箱を取り出した。戸惑いつつ首を傾げると「ケーキだよ」と声がかかる。
「編集者の人に貰ったんだけど一人じゃ食べきれないから。それに君、ケーキ好きだよね?いつもシロクマで頼んでた気がしたんだけど……」
「え、あぁ……」
レイヒョンのケーキを思い出してちょっと切なくなった。
「疲れたときは甘いものって言うし」
消費するの手伝ってよ、と言われるとさすがに断るわけにもいかず、僕は有り難くその白い箱を受け取った。
複雑な気分を抱えて家に帰って箱を開けると、中に入っていたのはカボチャのタルトだった。
よりにもよって……
カボチャのタルトはレイヒョンと初めて会ったときに食べたケーキだ。そんなことを覚えてる自分にも驚いたし、あの時にあんな出会いをしていなければ今こんなに悩んでいなかったのかも知れないと思った自分にも驚いた。
僕はレイヒョンのことばかり考えてる。
ヒョンは僕のことなんてもう気にも止めていないかもしれないけど、それでも僕は……
毎日のように顔を会わせていたヒョンと会わなくなってどのくらい経つだろう。最後に会ったのはあのシロクマの時で、ヒョンのケーキを食べなくなってからだと、もう1ヶ月は過ぎたかもしれない。他の店のケーキを食べたいとも思わなかったから、ケーキ自体1ヶ月振りだ。
インスタントのコーヒーを入れて、そっとフォークを刺して口に運んだ。
「あ……」
その味は、美味しいのに美味しくなかった。
確かに美味しいケーキなのに。
ヒョンの味に慣れすぎたのかもしれない。あの優しい甘さに。ヒョンのように優しくて幸せになる甘さに。
僕は、これ以上ないほどの複雑な気持ちに苛まれていた。
──これが恋なのだ
主人公はどうやってジナイーダへの気持ちと向き合っていったんだっけ……
会いたい
会いたくない
会いたい
会いたくない
会いたい
会いたい……
ヒョンにしたらあんなキスくらい挨拶のようなものなんだろう。赤ちゃんやペットにするのと同じような。だけど、そんなことに慣れてない僕にしたらあれは確かにキスで。額にされるのも、頬にされるのも、こめかみにされるのも。キスはキスだ。勘違いしちゃいけないと思っても、何度も何度も思い出すし、思い出せば心拍数が上がる。
ヒョンは今、何をしてるだろう……