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Sing a Song!

Track6 ; Yesterday Once More



「ジョンデー」


いつもの時間になっても起きてこないジョンデを心配してレイは部屋を覗いた。
静かにドアを開けるとベッドの縁に座る彼。
肩を落として項垂れている。

「おはよう。どうしたの?」

そう声をかけると彼はゆっくりとこちらを向いた。レイは近づいてそっと頭を撫でる。そして少しくせ毛でさらに寝癖のついたふわふわの髪を優しく梳いた。

「……おはよう、ございます」
「二日酔い?」
「うーん、まぁそんなところですかね……」
「珍しいね、そんなになるまで飲むなんて」

ジョンデは酒には強い方だし、何より深酒をするようなタイプではない。レイは不思議そうに見た。

「昨日、頭痛くて薬飲んだの忘れてて」
「あぁ、そっか」

それは災難だったね、と今度は背中を擦った。
薬と酒の飲みあわせが悪いことなんてジョンデ自身わかっているだろうから、そんなことはわざわざ言わない。

「それで……」

ジョンデは僅かに目元を歪めて続けた。

「言っちゃったんです……」
「何を?」

「チャニョルに、キスして……って」


レイは瞬間、動きを止めて息を詰めた。


「……バカみたいですよね、酔った勢いでなんて」


自嘲気味に言うジョンデにレイは慌てて否定する。

「そ、そんなことないよ!ジョンデの素直な気持ちだったんでしょ?」
「そうですけど……、チャニョルのやつ、あからさまに困った顔するし。結局そのまま帰っちゃったんでなにも無いんですけどね」

本当にもう泣きそうです。

言ってジョンデは頭を抱えた。

あぁ、どうしちゃったんだろう。
どうすればいいんだろう。
レイはあたふたと、普段から遅いと自覚してる頭を懸命に回転させた。


「えっと、あの……ねぇ!そうだ!」

そうして咄嗟に声をあげる。

「何ですか?」
「告白!告白はしたの?」
「告白……?」
「そう、好きですって。ちゃんと言った?」

ジョンデは昨夜の出来事を思い返すように、思考をぐるりとなぞった。

「……いえ」
「じゃあそこから始めないと!」
「は……?」
「ちゃんと好きですって言わないと伝わらないよ?」

大丈夫、ジョンデなら上手くいくって、とレイはジョンデの背中を叩いた。
気休めなんかじゃなく、本当にそう思っているから。

「でも……好きです、だなんて。中学生じゃあるまいし、わざわざ言いますか?」
「好きですって言うのに年齢なんか関係ないよ。あ、そうだ!ほら練習しようよ!」
「練習?」
「そう、僕に。チャニョルだと思ってさ!ほら言ってみて!」
「え?は?」
「いいから早く!」

レイは呆けるジョンデを笑顔で急かした。
もはやレイの方が楽しんでるんじゃないかと思うとジョンデはさらに頭痛が増しそうだったけど、こうなってしまえばレイが引かない人だということも分かっているので、少しだけ面倒くさいと思いながらも、急かされるままジョンデは口を開く。

「……好き、です?」
「違うよー!もっとさぁ、こう感情を込めなきゃ!」

「好きです!」
「ダメ!伝わらない!」

「えー、もうなんなんですか。じゃあ、レイさんが見本を見せてくださいよ」

ジョンデが言うとレイは「いいよ」と言ってジョンデの正面に向かい両手を握ると視線を合わせた。優しげな大きな二重の瞳が真摯に突き刺さる。


「……ジョンデ、好き」


───瞬間、何故だかジョンデの心臓は大きく跳び跳ねて。


静寂が辺りを包み込んだ。




「え、あ、あの……」
「わかった?じゃあジョンデの番ね」

レイはにこやかに笑みを浮かべる。
思わぬ事態に未だ鳴り止まない心臓の音を必死に押さえた。
一体、どうしてこうなった……?

纏まらない思考のまま、それでも仕方なく。ジョンデもレイがしたのと同じようにレイの手を両手で握る。


「……好き、です」


レイの大きな二重を真っ直ぐに見つめて、呟く。
真摯に。思いを込めて。
また同じように、静寂が辺りを包み込んだ。


その瞬間、今度はレイの心臓が跳び跳ねていたことをジョンデは知らない。


「……そ、そう!やればできるじゃん!」

「そ、そうですかぁ?」
「うん!今のでいいよ!今みたいに言えばちゃんと伝わると思う!」

頑張って!と慌てて離した手でレイはジョンデの肩を叩いた。



レイは驚いていた。
ジョンデの真剣な言葉に。真剣な眼差しに。
驚いて心臓が跳び跳ねて、なにこれ!なんて困惑する。
そうして赤くなり始めていた頬を隠すように、そそくさとジョンデの部屋をあとにして自室へと逃げ込んだ。

自分が好きなのはクリスで、待っているのもクリスなのだ。そのはずなんだ。
なのに、さっきの言葉も眼差しも、頭にこびりついて離れない。ジョンデの少し低めの柔らかな声が何度も何度も繰り返される。

レイは、そわそわと騒ぐ胸を必死になだめた。






告白しろと言われたって。

ジョンデは酷く困惑してた。「好きです」だなんて高校生の時を最後に言った記憶もない。なのに、いい年をして真正面から伝えるだなんて。

きっとこの前の出来事は、酔って覚えていないと言えばチャニョルならそのまま流してくれるだろう。それが互いにとって一番の得策であることは分かりきっている。だから自分がするのは告白の練習なんかではなくて、笑顔を作る練習のはずなのに。

そう思うのに……


『ちゃんと好きですって言わないと伝わらないよ?』

『好きですって言うのに年齢なんか関係ないよ』


レイの言葉が頭から離れなくて。

まぁ、どのみち振られるんならきちんとした言葉で振られた方がすっきりするかもしれない、なんて。正に当たって砕けろってやつだろうか。
それにチャニョルのことだから、振られたところで「これからも友達としてよろしくね」なんて笑顔で言えば、そんな自分を避けるとは到底思えなかった。

これからもあのバーで歌い続けるなら……


ジョンデは考えて笑った。

レイの勢いに、真っ直ぐさに、こうも簡単に絡め取られてしまうのか。今朝はあんなにも寝覚めが悪かったというのに。こんなに簡単に笑みを浮かべてる自分に驚いたのと同時に、レイがいてよかったな、と心底思った。

「善は急げ、かな」

ジョンデは呟くと携帯電話を取り出して簡素なメッセージを打った。







バーの定休日である月曜日。
ジョンデはチャニョルを呼び出した。

「チャンニョラー!」
「お、おう」

"話があるから"だなんて文章にチャニョルの方も何を言われるのか予想が付いてるのか、いつにも増してぎこちない笑みを張り付けている。ジョンデはそれが妙に可笑しかった。

「ごめんね、休みの日に」
「い、いや!」

この前の喫茶店で今度こそ二人で向き合う。

「えっと、チャニョリに言いたいことがあって……」
「う、うん……」

大きな目玉をキョロキョロと動かしては、にぃっと口の端を持ち上げて。いたたまれないと顔に大きく書いてある。こんな姿はバーではまずお目にかかれない。

「まずはこの前、酔っ払って変なこと言っちゃってごめんね」
「あ、いや!」

チャニョルは身ぶり手振りを交えてブルブルと顔を横に振る。

「それで、それでさ……」
「お、おぉ……」
「僕、チャニョリが好きなんだ」

思いの外その言葉はするりと口を出た。
あんなに固執して、必死に隠して少しずつ少しずつ暖めてきた想いが、絶対に外に出すことはないと仕舞い続けてきた想いが、まるで好きな歌を口ずさむようにするりと飛び出してきたのだ。
ジョンデは自分自身に驚きながらも真正面にある瞳を見つめた。

しかしそれはやっぱり困惑の色を浮かべていて。


「ごめんね、突然変なこと言って」
「……い、いや!」

驚いたでしょ?と笑うと、チャニョルは笑みを歪めて僅かに頷いた。

「あの、俺……!」
「いやいいんだ。振ってくれて構わないから」

言うと少しの沈黙のあと「……ごめん」と呟くチャニョル。
そんなに深刻そうにするなよ、って笑って。

分かっていた答えだけど、やっぱり少しだけ胸が苦しくなった。


「──ベッキョナが好き?」
「え……?」
「違う?そうかなぁと思ったんだけど」

僕の勘けっこう当たるんだよ。

おどけて言うと、チャニョルは恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
上手くいくといいね、なんて笑って店を出た。


こんなふうに笑えるのは、きっとレイのお陰だ。この告白のチャンスも、気持ちの整理も、レイがいたから出来たことだ。いつまでもぐだぐだと思い悩むのではなく、きちんと前に進む大切さを教えてくれた。
と言っても、レイ自身が前に進めてるのかは甚だ疑問ではあるのだけれど。
ジョンデは考えて苦く笑った。

他人には色々言うくせに、自分のことは全然わかってないんだから。

クリスのこと、どうするつもりなんだろう……


ここ最近自分のことで忙しくて忘れていたことをジョンデはようやく思い出す。




店を出るとそのままバイトへと向かった。
週4日程度で入っているコンビニのバイトは学生時代から続けていて、何だかんだともう四年が過ぎた。接客は苦にはならないし、このまま何処かのコンビニで雇われ店長をするのも悪くないかもしれない、なんて考えていた時期もあったけど、今はまた少しだけ歌うことが楽しくなってきている。
それもこれもチャニョルと出会えたお陰かもしれない。

振られたというのに、ジョンデの心は霧が晴れたように穏やかだった。





帰宅途中のレイの頭をどうしようもなく悩ませていたのは、昼間に見たジョンデの姿だった。

スタジオの窓から何気なく外を見渡したとき向かいの喫茶店から見知った後頭部が見えて声をかけようかと窓の鍵に手を掛けたとき、連なるように出てきた姿に瞬時に固まった。

チャニョルが、楽しそうに笑顔でジョンデの後から出てきたのだ。


あぁ、成功したんだ……


喜ばなきゃいけないことなのに、どうしてか釈然としない。ちくりと小さな棘が刺さったみたいに痛みだして、抜こうとしても正体が分からないみたいにもやもやとする。

結局、その小さな棘は見て見ぬふりするしかできなかった。







「まだ起きてたんですか?」

ジョンデがコンビニのアルバイトを終えて家に帰ると、いつもならもう寝てるはずなのにレイがリビングのソファーに掛けていた。

「おかえり!」
「あ、えっと、ただいま?」
「おめでとう!」
「は……?」

レイは嬉しそうに笑みを浮かべて言う。
一体何のことを言っているのやら理解が追い付かなくて首を傾げた。

「告白、成功したんでしょ?」

レイが口にした言葉でジョンデは合点がいった。

「あぁー!そのことですか」
「うん、二人が喫茶店から出てくるところちょうどスタジオから見えて」

よかったね、と尚もレイは笑みをこぼした。

「いやいや、僕、振られましたよ?」
「え……?」
「すっぱりさっぱりすっきり、振られました!でもこれでよかったんです。後悔はしていませんから」
「そんな……」
「なんか可笑しいんですけどね、すごく清々しいんですよ。これも全部レイさんのお陰です」

ジョンデが満面の笑みで言うと、レイは眉を下げて「そっか……」と呟いた。それから立ち上がって「よくがんばったね」とジョンデの頭を撫でる。

頭上に感じる暖かな温もりに、ジョンデの心は何故だか酷く締め付けられた。
我慢していたつもりも堪えていたつもりもなかったのに、レイの優しさによって、心が、溶かされていくのだ。

ジョンデの笑みがぎこちなく崩れて……


「レイさん、僕平気ですから……大丈夫です……」

呟いた声は涙混じりだ。

「うん……ジョンデは大丈夫」

言って、レイはジョンデの涙がおさまるまで、その小さな頭を撫で続けた。







来慣れない夜の繁華街。

通りに佇む呼子の人たちから怪訝な眼差しを向けられながらも、レイはきょろきょろと辺りを見回して以前ジョンデから聞いた店名を必死に暗唱する。

「あった……」

教えられた名前の店は繁華街の外れにひっそりと佇んでいた。

ゆっくりとひとつ呼吸をする。
木製の重い古いドアに手をかけてゆっくりと押し開けた。その途端響いてきたのは揺ったりとしたピアノの音色。そして聞き慣れた優しい歌声。思わず、はっ、と息を飲んで、その音源となるところを探した。

見回した店内は少しだけ奥に広がっていて手前には一枚板の大きなバーカウンターが鎮座していた。カウンターの中に見知った顔を見つけて。瞬間、ちくりと忘れていた棘が疼いた気がした。けれどもレイは笑顔で小さく手を振った。
長身の彼も驚いた顔をしたけれど、スマートに営業スマイルに切り替える。そしてフロアの奥を指差した。覗き込んでみるとピアノに向かうジョンデの姿。聞こえる歌はいつも家で口ずさんでくれるものより遥かに迫力があって。
あぁ、本当にプロなんだなぁ、なんて思考は少し呑気だろうか。
チャニョルに促されてカウンターへと腰かけた。


「いらっしゃいませ。ジョンデ見に来たんですか?」
「うん、そう」
「今始まったとこだから、ゆっくりしていってください」
「ありがとう」

そうしてビールを一杯もらってジョンデの方に視線を向けようとすると隣の席、またも見知った顔に、思わず目を見開いた。
いると思ってなかった分、今度の方が驚きは二倍だ。

「ジョンイナ?」
「ヒョン?」

スタジオのダンス仲間、ジョンインだ。

「どうしたの?こんなところで」
「それはこっちの台詞ですよ。ヒョンがこんなところに来るなんて……」

珍しいですね、とジョンインが驚くのも訳はない。レイは元来お酒に強くないこともあって、こういった店にはあまり出歩かないのだ。それがこんな繁華街の、それも少しばかり分かりにくい隅に佇んでるようなバーに、たった一人で来たもんだからジョンインは驚きに目をしばたかせていた。

「友達を見に来たの」

そう言ってジョンデの方を指差す。

「え……」
「どうしたの?」
「や、えっと、俺たちもあの人の歌聞きに来てて……」

「ジョンデの?」と聞くと、うんと頷いた。

「知り合い?」

ジョンインの連れ合いだろうか、向こう隣に座っていた彼から不意に声がかかる。ジョンインが振り返って彼に耳打ちすると、白目の大きな目を見開いて「はじめまして、ギョンスです」と声をかけられた。

「ジョンデの友達なんですか?」
「え、あの、はい」
「僕も、ジョンデの友達なんです」

音大時代の同期で、とギョンスは続ける。

「音大?」
「えぇ、あいつは逃げ出しましたけどね」

恨めしそうにジョンデの方を見ながらギョンスは呟く。

「あんなに才能があるのに……」
「才能を活かしきれてないって意味では、レイヒョンも同じじゃないですか?」

ジョンインの明け透けな物言いに、レイは曖昧な笑みを返した。




ゆったりとピアノの音が終わって、ジョンデが一曲終えたところでフロアからはぽつりぽつりと拍手が上がる。
そうして顔を上げたジョンデが視線の先にレイを捕らえて、驚いてそして気恥ずかしげに頬を染めた。レイも返すように小さく拍手を贈った。


レイはかねてからずっと、ジョンデの歌うところを見てみたいと思っていた。
レイが知っているジョンデの歌う姿は、いつもどこか悲しそうだったから。どうしてそんなに切な気に歌うのだろうかと。さっきギョンスが言ったように、彼には才能があるのだ。才能なんて簡単な言葉で片付けるのはレイ自身好きではなかったが、努力では敵わない何かがあることも知っていた。だからつまりそう、ジョンデの歌には人を穏やかに包み込む力がある。それはきっと彼の才能から来る部分で。
レイは幾度もジョンデの歌に癒されてきた。一緒に住むようになってからはまだ数ヶ月しか経っていないけど、それでも、彼の歌には力があることを知っている。

自分が、クリスのことから立ち直れたとすれば、それはきっとジョンデのお陰なのだ。

代わりに泣いてくれるような切なげなその歌声の。




When I was small,
and Christmas trees were tall,
Don’t ask me why,
but time has passed us by,
someone else moved in from far away.

( 私が小さかった時、
クリスマスツリーは高かった
何故?なんて聞かないで、
でも、時は私たちを過ぎていった
誰かが、彼方へとつき動かすかのように )
"若葉のころ"/The Bee Gees



またジョンデの歌声が響く。
今日は誰の代わりに泣いてるんだろうか。
レイはその声に微かに浮かぶクリスを思った。彼が選んだその人と、幸せにしてるだろうか。笑っていればいい。もう、あの大きな手で抱き締めてもらうことは叶わないかもしれないけれど、次に会ったとき、お互いに幸せであればそれでいい、と。

かけがえの無いものはきっとひとつじゃないし、変わりゆくものだから。







「逃げ出したんだって?音大」
「あ……ギョンスのやつ」

バーからの帰り、ジョンデとレイは並んで帰路についていた。

「どうして辞めちゃったの?」

レイが聞くとジョンデは苦ぐしそうに笑みを浮かべた。

「なんでしょうね。平たく言えば壁、ですかね」
「壁?」
「はい、ある日朝起きたら目の前にものすごーく大きくて高い壁があったんです。刑務所の中みたいな。コンクリートのでっかい壁。どう頑張っても登れなくて、その内にどんどんどんどん怖くなってきちゃって」

それで逃げ出しちゃいました。

言ってジョンデは笑う。
本当は笑い事なんかじゃないことをレイもちゃんと分かっている。誰でも、どんな分野の人間でも、上を目指す限り一度はぶつかる壁だから。そしてレイ自身も何度もぶつかった経験がある。

だからこそ、飛び越えられるかどうかは本人次第だということも知っている。


「今もその壁、あるの?」
「うーん、どうでしょう。そういえば最近は見ないかも」
「そっか、よかった」

レイは笑みを浮かべた。
ジョンデも応えるように柔らかに笑う。

簡単じゃない苦しみを、優しい笑みに変える彼をレイは思い切り抱き締めてやりたいと思った。
お酒のせいかもしれない。
でも甘やかしたいと思うのは本当だ。


「ねぇジョンデ。手、繋いでもいい?」
「手、ですか?」
「そう」


言って、掌を差し出す。ジョンデは恥ずかしそうにはに噛んでそっと手を乗せた。
じんわりと体温が伝わる。
冷たいその手を、ぎゅっと握りしめた。

「なんか、照れますね」
「ふふ、そうだね」

しっかりと握り締めて小学生みたいに振り上げれば、同時に溢れたのは笑い声。
きっと、こんな時間を小さな幸せと言うのだろう。

「ねぇ、僕もなんか歌いたいなぁ」
「歌いますか?」
「うん!一緒に歌おう!」
「じゃあ、有名な曲でも……」

あーあー、と喉を馴らしてジョンデは呟くように歌い始める。
サビに差し掛かると、あっ!とレイも声を重ねた。



Every Sha-la-la-la
Every Wo-o-wo-o Still shines
Every shing-a-ling-a-ling
That they’re startin’ to sing’s So fine.

When they get to the part
Where he’s breakin’ her heart
It can really make me cry
Just like before
It’s yesterday once more.

( 全てのシャラララが
全てのウォウウォウが 今でも輝いているわ
全てのシンガ リンガ リングが
歌い始めたのよ 本当に良かったわ

そのパートになったら
彼が彼女の心を壊しているそれになったら
本当に私を泣かせるの
まさに昔と同じようにね
あの日がもう一度蘇るの )
"Yesterday Once More"/The Carpenters




深夜の住宅街、響くのは二人の歌声。
照らしているのはまんまるのお月様。


レイは、覗き見たジョンデの笑顔を守りたいと思った。




続く
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