Sing a Song!
Track4 ; Close to you
「あ!お待たせ!ごめん!」
「全然。遅れてないよ」
平日の昼間に映画館の前で待ち合わせだなんて、なんだかデートでもしてるみたいだ。
ジョンデは弾む心を必死に隠して笑って見せた。
マスターが、映画のチケットがあるんだけど用事ができて行けないから代わりに行かないか?と切り出したのはほんの二日前のことだった。
「ペアチケットなんて行く人いないですから」と断ったのに、「じゃあ俺は?」なんてチャニョルが言うからジョンデは断りきれずに受け取ってしまったのだ。
薄明かりの店でしか会わない相手と明るい日の下で会うのは何だか妙に照れる。
それが好きな相手とあれば尚のことだ。
ジョンデは隠しきれないほどの喜びを抱いた自らの胸をもて余していた。
さっそく二人で飲み物とポップコーンを抱えて、席に着く。
隣で美味しそうにポップコーンを頬張るチャニョルが、店で見るより一層幼く見えて、何だかそわそわと落ち着かない。目線を下げれば投げ出された足はジョンデのそれより当然に長くて、そんなことにも心臓は跳び跳ねた。
ブザーが鳴って上映を知らせる。
映画はヒット作のリバイバル上映とあって、恋愛映画だけどそれなりに面白かった。
といってもジョンデの場合、隣にいるチャニョルが気になってなかなか作品に集中出来なかったというのが本当のところだけれど。
「おもしろかったー!」
「だねー」
「俺、映画館で映画見たの久しぶりだぜ!」
「うん、僕も!マスターに感謝しなきゃ」
「だな!」
映画の興奮冷めやらぬ中、二人して到底必要とは思えないようなパンフレットまで買って。このまま別れるのは惜しいなと思っていたら、チャニョルが喫茶店でも寄らない?と誘ってくれたので、ジョンデはもちろん二つ返事で頷いた。
チャリンとドアベルを鳴らして近くの喫茶店に入る。
「いらっしゃいませー」と長身の店員が案内してくれて席に着いたところで聞き覚えのある声がして振り向いた。
「あれ?ジョンデ?」
「あ!ベッキョナ!」
そこにいたのはレイの弟ベッキョンだった。どうやらレイのスタジオがこの近くで、待ち合わせをしているらしい。チャニョルを紹介すると、持ち前の明るさで二人ともすぐに打ち解けた。
「へぇ!じゃあチャニョルってバーテンダーなんだ!おーカッコいいなぁ!」
「そ、そう?」
「今度飲みに行ってもいい?」
「もちろん!」
チャニョルの、髪の毛から飛び出した尖った独特な形の耳がほんのりと赤く染まったのを、ジョンデは複雑な気持ちで眺めていた。
「ベッキョナー!って……あれ?ジョンデ?」
大きな鞄を抱えて驚いた顔でレイが近づいてくる。
「なんでジョンデがいるの?」
「そこで友達と映画見てたんだって!」
我が物顔でベッキョンが答える。
「偶然会って、話し込んでたんです」
映画?と首を捻るので先程買ったパンフレットを見せた。
「あぁこれ、昔ベッキョナと見たね」
「うん!ヒロインの女優が可愛くてさー」
「そうそう!俺もあんな人妻だったら恋に落ちちゃうかも」
ベッキョンの答えにけらけらと笑いながらチャニョルが続ける。
「結婚してても真実の愛って関係ないんだなぁ。運命?みたいな?」
「そうそう!気付いちゃったもんは仕方ないんだよ!」
映画は単純と言えば単純な内容で。平凡な主婦がある日年下の青年に出会って恋に落ちるという、ラブロマンスだ。
家事に追われるだけだった主婦が買い物帰りに引ったくりにあい、青年がそれを助けたことから物語は始まる。平凡だけど恵まれた生活と非現実的な愛に翻弄される世界との間で揺れ動きながらも、結局主人公は愛を選んで青年と駆け落ちするという話。
駆け落ちした二人の話で盛り上がる中、ジョンデはどちらかというと、残された主人公の夫の方が気がかりだった。確かに無口で無愛想だったかも知れないけど、彼なりに妻のことは愛していた。その証拠に最後妻が駆け落ちするかもしれないと気付いたとき、彼は今まで貯めてきた貯金を妻の口座に移していたのだ。せめてお金の苦労はしないように、と。きっとあの旦那さんはその日だけ少しのやけ酒をして、次の日からはまた何事もなかったように背筋を張って仕事に行くんだ。
真実の愛なんてものは、常に何かの犠牲の元に成り立っている。
「でもさ、あの旦那さんだって素敵だったよ」
ジョンデがちょうど考えていたことをレイが口にしたので、驚いてレイの方を見やった。
「えー、そうかなぁ。無愛想で怖い人だったじゃん?」
ベッキョンが返すとチャニョルもうんうんと頷いた。
「そうかもしれないけど、でもさ、」
彼も奥さんのこと愛してたと思うなぁ、とレイは呟く。
「そうかなぁ……」
「目に見えるものだけがすべてじゃないよ」
ジョンデもそう思わない?とレイが聞くので、「そうですね」と笑った。
レイが同じ感想で、ちょっとだけ嬉しかった。
*
日も沈んで小腹が空いた頃、そういえばこれからご飯食べに行くところだったんだけど一緒にどう?とベッキョンが言うので、今日はバーも定休日だしせっかくだから、と居酒屋に場所を移した。
ベッキョンとチャニョルはよっぽと気が合うのか、頻りに話し込んでいる。
嫌な予感は的中するものだ、とジョンデは二人を眺めながら思った。
楽しそうに嬉しそうに、そして恥ずかしそうに話をするチャニョルを見て、ジョンデは複雑な気分だった。
初めてベッキョンを見た瞬間のチャニョルの顔が頭から離れない。
「ジョンデ、どうしたの?」
隣に座るレイが心配そうに覗き込んできた。
「なにがですか?」
「考え事?泣きそうな顔してるよ?」
心中を言い当てられたようで、慌てて笑顔を張り付けて「そんなことないですよ」と笑って見せた。
それなのに「無理しないでね」と背中を撫でてくれた手がとても暖かかくて、なんだか少しほっとした。
駅で別れて、ジョンデとレイはアパートへと帰った。
別れ際、チャニョルはジョンデに向かっていつものように笑ってくれたけど、その笑顔が何だかベッキョンに向ける笑顔のついでみたいに思えて、苦しい胸のうちを隠すのに必死だった。
やっぱり、恋は一瞬にして落ちるものなのかも知れない。
呆然とする頭でそんなことを思った。
部屋に戻ると、さして強くもないくせに「飲みなおさない?」とレイが言うので、「そうですね」とビールを取り出す。
「ねぇ、レイさん……まだクリスのこと待ってるんですか?」
あの映画を見てジョンデは主人公の夫とレイを重ね合わせていた。
あの日から……あの、クリスの相手が分かったんだと泣いた日から、レイはクリスのことを口にすることが無くなっていた。
ジョンデはとうにそのことに気づいていたし、気になっていた。
「うーん、どうかな。よく分かんないや」とレイは笑う。
クリスのことは大好きだったからそんな簡単には忘れられないかな、と。
「そっか、そうですよね」
できるだけ軽さを出すように、ジョンデは笑みを作った。
それならもうここにいる必要はないだろうと、当初のジョンデなら思ったかもしれない。だけど今のジョンデはそんなことは微塵も思わなかった。むしろクリスと住んでいたときよりよっぽと楽しいと思い始めていたから。レイののんびりとした性格はとても心地よかったし、何よりさっきの映画の感想のように、レイとジョンデはどこかツボが似ているのだ。
「それで、ジョンデは好きな人とかいるの?」
急な問いかけに一瞬目を丸くした。
「はは!ナイショです!」
「ってことは、いるんだね」
図星を刺されて、二人して笑う。
「……ジョンデは幸せになるよ」
ぽつりと優しく穏やかな声が降ってきた。
「ジョンデみたいに優しい子が、不幸になんてなるわけない」
「……はは。そうだといいな」
不幸、か。
自分にとって幸せとは何だろうか。
漠然とした疑問が胸を覆う。
「ねぇ、なんか歌って?」
いつぞやのようにレイがねだった。
それはやはり歌うことなのかもしれない。
「いいですよ、何がいいですか?」
「なんでもいいよ。ジョンデが今歌いたいと思う歌」
少し考えて、口ずさむように歌い始めた。
Why do birds Suddenly appear?
Everytime You are near
just like me They long to be
Close to you
(なぜかしら?あなたが近くにいると
いつも急に小鳥達が姿を見せるわ
きっと私と同じ
小鳥達もあなたの傍にいたいのね)
"Close to you"(遥かなる影)/Carpenters
童話のようなこの曲はきっとレイに似合う。真っ直ぐで真っ白なレイ。
彼こそ幸せにならなきゃいけない、とジョンデは思った。
*
ピーンポーン
お馴染みののんびりとしたチャイムの音と、それとは対照的なドンドンとドアを叩く音が響いた。
ジョンデは飛び起きて眠い目を擦って時計を見やる。
誰だよ、こんな時間に。
時刻は明け方四時を過ぎたところで。鳴り止まない音に苛立ちと僅かに恐怖心がない交ぜになって、恐る恐ると廊下に出た。
ちょうど同じように部屋から出てきたレイと顔を見合わせる。
「誰だろう……こんな夜中に」
「もしかして……」
クリス?と言いかけたところで、「レーイー!!」と間延びした声が聞こえた。
「え、タオ!?」
「知り合い?」
「うん、ルハンの弟。喫茶店にいたでしょ?背の高い店員さん」
「うーん」
居たような居なかったような……
とにかく、二人で慌ててドアに駆け寄った。
ドアを開けると今にも泣きそうな顔の長身の男が心細そうに立っている。
「タオ!どうしたの?」
「……ベッキョナ、いる?」
「ううん。帰ってないの?」
「うん……ベッキョナが、帰ってこないよぉ」
「えっ……」
ルハンの弟タオは、ベッキョンと一緒に住んでいるらしい。だけど、待てど暮らせどベッキョンが帰ってこないので不安になって今日一緒にご飯を食べていたはずのレイの元にやって来たというわけだ。
「またいなくなったゃったのかなぁ……」
涙を浮かべてタオは言う。
「ベッキョナとは駅で別れたんだけどな……」
レイが言った言葉で、今日居酒屋を出たあとベッキョンとは駅で別れたことを思い出した。
チャニョルと一緒に。
「そんな……」
頭を過った思考に、ジョンデは思わずぎこちない笑みを張り付けた。
続く
「あ!お待たせ!ごめん!」
「全然。遅れてないよ」
平日の昼間に映画館の前で待ち合わせだなんて、なんだかデートでもしてるみたいだ。
ジョンデは弾む心を必死に隠して笑って見せた。
マスターが、映画のチケットがあるんだけど用事ができて行けないから代わりに行かないか?と切り出したのはほんの二日前のことだった。
「ペアチケットなんて行く人いないですから」と断ったのに、「じゃあ俺は?」なんてチャニョルが言うからジョンデは断りきれずに受け取ってしまったのだ。
薄明かりの店でしか会わない相手と明るい日の下で会うのは何だか妙に照れる。
それが好きな相手とあれば尚のことだ。
ジョンデは隠しきれないほどの喜びを抱いた自らの胸をもて余していた。
さっそく二人で飲み物とポップコーンを抱えて、席に着く。
隣で美味しそうにポップコーンを頬張るチャニョルが、店で見るより一層幼く見えて、何だかそわそわと落ち着かない。目線を下げれば投げ出された足はジョンデのそれより当然に長くて、そんなことにも心臓は跳び跳ねた。
ブザーが鳴って上映を知らせる。
映画はヒット作のリバイバル上映とあって、恋愛映画だけどそれなりに面白かった。
といってもジョンデの場合、隣にいるチャニョルが気になってなかなか作品に集中出来なかったというのが本当のところだけれど。
「おもしろかったー!」
「だねー」
「俺、映画館で映画見たの久しぶりだぜ!」
「うん、僕も!マスターに感謝しなきゃ」
「だな!」
映画の興奮冷めやらぬ中、二人して到底必要とは思えないようなパンフレットまで買って。このまま別れるのは惜しいなと思っていたら、チャニョルが喫茶店でも寄らない?と誘ってくれたので、ジョンデはもちろん二つ返事で頷いた。
チャリンとドアベルを鳴らして近くの喫茶店に入る。
「いらっしゃいませー」と長身の店員が案内してくれて席に着いたところで聞き覚えのある声がして振り向いた。
「あれ?ジョンデ?」
「あ!ベッキョナ!」
そこにいたのはレイの弟ベッキョンだった。どうやらレイのスタジオがこの近くで、待ち合わせをしているらしい。チャニョルを紹介すると、持ち前の明るさで二人ともすぐに打ち解けた。
「へぇ!じゃあチャニョルってバーテンダーなんだ!おーカッコいいなぁ!」
「そ、そう?」
「今度飲みに行ってもいい?」
「もちろん!」
チャニョルの、髪の毛から飛び出した尖った独特な形の耳がほんのりと赤く染まったのを、ジョンデは複雑な気持ちで眺めていた。
「ベッキョナー!って……あれ?ジョンデ?」
大きな鞄を抱えて驚いた顔でレイが近づいてくる。
「なんでジョンデがいるの?」
「そこで友達と映画見てたんだって!」
我が物顔でベッキョンが答える。
「偶然会って、話し込んでたんです」
映画?と首を捻るので先程買ったパンフレットを見せた。
「あぁこれ、昔ベッキョナと見たね」
「うん!ヒロインの女優が可愛くてさー」
「そうそう!俺もあんな人妻だったら恋に落ちちゃうかも」
ベッキョンの答えにけらけらと笑いながらチャニョルが続ける。
「結婚してても真実の愛って関係ないんだなぁ。運命?みたいな?」
「そうそう!気付いちゃったもんは仕方ないんだよ!」
映画は単純と言えば単純な内容で。平凡な主婦がある日年下の青年に出会って恋に落ちるという、ラブロマンスだ。
家事に追われるだけだった主婦が買い物帰りに引ったくりにあい、青年がそれを助けたことから物語は始まる。平凡だけど恵まれた生活と非現実的な愛に翻弄される世界との間で揺れ動きながらも、結局主人公は愛を選んで青年と駆け落ちするという話。
駆け落ちした二人の話で盛り上がる中、ジョンデはどちらかというと、残された主人公の夫の方が気がかりだった。確かに無口で無愛想だったかも知れないけど、彼なりに妻のことは愛していた。その証拠に最後妻が駆け落ちするかもしれないと気付いたとき、彼は今まで貯めてきた貯金を妻の口座に移していたのだ。せめてお金の苦労はしないように、と。きっとあの旦那さんはその日だけ少しのやけ酒をして、次の日からはまた何事もなかったように背筋を張って仕事に行くんだ。
真実の愛なんてものは、常に何かの犠牲の元に成り立っている。
「でもさ、あの旦那さんだって素敵だったよ」
ジョンデがちょうど考えていたことをレイが口にしたので、驚いてレイの方を見やった。
「えー、そうかなぁ。無愛想で怖い人だったじゃん?」
ベッキョンが返すとチャニョルもうんうんと頷いた。
「そうかもしれないけど、でもさ、」
彼も奥さんのこと愛してたと思うなぁ、とレイは呟く。
「そうかなぁ……」
「目に見えるものだけがすべてじゃないよ」
ジョンデもそう思わない?とレイが聞くので、「そうですね」と笑った。
レイが同じ感想で、ちょっとだけ嬉しかった。
*
日も沈んで小腹が空いた頃、そういえばこれからご飯食べに行くところだったんだけど一緒にどう?とベッキョンが言うので、今日はバーも定休日だしせっかくだから、と居酒屋に場所を移した。
ベッキョンとチャニョルはよっぽと気が合うのか、頻りに話し込んでいる。
嫌な予感は的中するものだ、とジョンデは二人を眺めながら思った。
楽しそうに嬉しそうに、そして恥ずかしそうに話をするチャニョルを見て、ジョンデは複雑な気分だった。
初めてベッキョンを見た瞬間のチャニョルの顔が頭から離れない。
「ジョンデ、どうしたの?」
隣に座るレイが心配そうに覗き込んできた。
「なにがですか?」
「考え事?泣きそうな顔してるよ?」
心中を言い当てられたようで、慌てて笑顔を張り付けて「そんなことないですよ」と笑って見せた。
それなのに「無理しないでね」と背中を撫でてくれた手がとても暖かかくて、なんだか少しほっとした。
駅で別れて、ジョンデとレイはアパートへと帰った。
別れ際、チャニョルはジョンデに向かっていつものように笑ってくれたけど、その笑顔が何だかベッキョンに向ける笑顔のついでみたいに思えて、苦しい胸のうちを隠すのに必死だった。
やっぱり、恋は一瞬にして落ちるものなのかも知れない。
呆然とする頭でそんなことを思った。
部屋に戻ると、さして強くもないくせに「飲みなおさない?」とレイが言うので、「そうですね」とビールを取り出す。
「ねぇ、レイさん……まだクリスのこと待ってるんですか?」
あの映画を見てジョンデは主人公の夫とレイを重ね合わせていた。
あの日から……あの、クリスの相手が分かったんだと泣いた日から、レイはクリスのことを口にすることが無くなっていた。
ジョンデはとうにそのことに気づいていたし、気になっていた。
「うーん、どうかな。よく分かんないや」とレイは笑う。
クリスのことは大好きだったからそんな簡単には忘れられないかな、と。
「そっか、そうですよね」
できるだけ軽さを出すように、ジョンデは笑みを作った。
それならもうここにいる必要はないだろうと、当初のジョンデなら思ったかもしれない。だけど今のジョンデはそんなことは微塵も思わなかった。むしろクリスと住んでいたときよりよっぽと楽しいと思い始めていたから。レイののんびりとした性格はとても心地よかったし、何よりさっきの映画の感想のように、レイとジョンデはどこかツボが似ているのだ。
「それで、ジョンデは好きな人とかいるの?」
急な問いかけに一瞬目を丸くした。
「はは!ナイショです!」
「ってことは、いるんだね」
図星を刺されて、二人して笑う。
「……ジョンデは幸せになるよ」
ぽつりと優しく穏やかな声が降ってきた。
「ジョンデみたいに優しい子が、不幸になんてなるわけない」
「……はは。そうだといいな」
不幸、か。
自分にとって幸せとは何だろうか。
漠然とした疑問が胸を覆う。
「ねぇ、なんか歌って?」
いつぞやのようにレイがねだった。
それはやはり歌うことなのかもしれない。
「いいですよ、何がいいですか?」
「なんでもいいよ。ジョンデが今歌いたいと思う歌」
少し考えて、口ずさむように歌い始めた。
Why do birds Suddenly appear?
Everytime You are near
just like me They long to be
Close to you
(なぜかしら?あなたが近くにいると
いつも急に小鳥達が姿を見せるわ
きっと私と同じ
小鳥達もあなたの傍にいたいのね)
"Close to you"(遥かなる影)/Carpenters
童話のようなこの曲はきっとレイに似合う。真っ直ぐで真っ白なレイ。
彼こそ幸せにならなきゃいけない、とジョンデは思った。
*
ピーンポーン
お馴染みののんびりとしたチャイムの音と、それとは対照的なドンドンとドアを叩く音が響いた。
ジョンデは飛び起きて眠い目を擦って時計を見やる。
誰だよ、こんな時間に。
時刻は明け方四時を過ぎたところで。鳴り止まない音に苛立ちと僅かに恐怖心がない交ぜになって、恐る恐ると廊下に出た。
ちょうど同じように部屋から出てきたレイと顔を見合わせる。
「誰だろう……こんな夜中に」
「もしかして……」
クリス?と言いかけたところで、「レーイー!!」と間延びした声が聞こえた。
「え、タオ!?」
「知り合い?」
「うん、ルハンの弟。喫茶店にいたでしょ?背の高い店員さん」
「うーん」
居たような居なかったような……
とにかく、二人で慌ててドアに駆け寄った。
ドアを開けると今にも泣きそうな顔の長身の男が心細そうに立っている。
「タオ!どうしたの?」
「……ベッキョナ、いる?」
「ううん。帰ってないの?」
「うん……ベッキョナが、帰ってこないよぉ」
「えっ……」
ルハンの弟タオは、ベッキョンと一緒に住んでいるらしい。だけど、待てど暮らせどベッキョンが帰ってこないので不安になって今日一緒にご飯を食べていたはずのレイの元にやって来たというわけだ。
「またいなくなったゃったのかなぁ……」
涙を浮かべてタオは言う。
「ベッキョナとは駅で別れたんだけどな……」
レイが言った言葉で、今日居酒屋を出たあとベッキョンとは駅で別れたことを思い出した。
チャニョルと一緒に。
「そんな……」
頭を過った思考に、ジョンデは思わずぎこちない笑みを張り付けた。
続く