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Sing a Song!



「ただいまー」
「あ、おかえりなさーい」


玄関から聞こえた声に、ソファーから首を伸ばして返事をする。初秋の匂いを連れてレイさんが帰ってきた。
もう秋か、なんて少しだけセンチメンタルになって笑った。

何やらガサガサと音をたてて入ってくるレイさんが気になって、僕はまた廊下の方に首を伸ばした。


「どうしたんですか?それ」


入ってきたレイさんは大きな紙袋を抱えていた。


「あぁ、生徒から貰って」


生徒、とは恐らくレイさんが教えているダンス教室の子どもたちだ。
何を?とか何で?とかそういった類いの疑問全部を含めて、僕は不思議に思って首を傾げる。


「ふふ、誕生日プレゼントなんだって」


可愛いよね、とレイさんは笑みを溢しながら袋の中身を見せてくれた。
中には可愛い似顔絵や折り紙で作った首飾りやいろんなものが入ってて、思わず微笑ましくなった。




って、え……?


「……誕生日?」
「うん」
「誰の?」
「もちろん僕の」
「……いつ?」
「今日……あ、もう昨日か」

レイさんはちらりと壁の時計を見上げた。
釣られて見ると、時計の針は今さっき頂上を越えたところだ。



「え……ええええぇぇぇぇぇ!!!」


思わず声を張り上げるとレイさんは目を真ん丸にした。


「どうして教えてくれなかったんですか!僕なにも用意してないですよ!」


ご飯だって今日は食べてくるって言ってたから作ってないし、お店だってこんな時間じゃもう……



「あ!レイさん、絶っっっ対寝ないで待っててくださいね!」


いいこと閃いた僕は上着と財布を掴むとダッシュで家を出た。




***




「ただいまー!」と勢いよく玄関を開けて入ってきたジョンデは、手にコンビニの袋をぶら下げている。


「おかえり」


さっきの逆だ、と思いながら僕は返事をした。
リビングに入ってくるなりジョンデはがさごそと袋を弄って。中から出てきたのはショートケーキが二つならんだ小さなケース。
こんなのでごめんなさい、と下がり眉を更に下げて苦笑した顔はとても可愛かった。


「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」


彼の厚意ににこりと笑顔を溢す。


「知ってたらちゃんと準備したんですけど……」
「いいよそんなの。ありがとう」


まだお腹に入ります?と言うので、僕はもちろん、と返した。
元々デザートは別腹だし、彼がくれたものなら尚のことだ。

よかった、と笑ってジョンデはさっそくケーキをお皿に分けた。僕もフォークを掴んで「いただきます」と手を付けようとすると、「あ、ちょっと待ってください!」とまたも声がかかる。

今度は何が出てくるのかなぁ、なんて楽しくなって期待しながらジョンデの顔を見あげた。
彼は不意に長いまつげを伏せて目を瞑るとすっと息を吸い込んで。次の瞬間───



綺麗な、とても綺麗な歌声が響き始めた。


簡単なバースデーソング。
子どもたちも今日歌ってくれた、本当に誰でも知ってる短い童謡。


なのに、彼が紡ぎだしたメロディーはキラキラと光るガラス玉のように綺麗なメロディーで。心の底から暖かくなるような歌声だった。


深い深い慈しみみたいなものを感じたんだ。



わー!おめでとうございます!と向けられた笑顔は、どんな贈り物より嬉しかった。


自然と笑顔が溢れる。


うん、いい1年になりそうだ。



「ありがとう」と笑みを向ければ、彼は照れくさそうに眉を下げた。





おわり

#HappyBirthLay
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