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大男と6人の小人(仮)

「あ!イシンヒョン!やっと起きたんですね」
「うん、おはようジョンデ」
「昨夜は何時までやってたんですか?」
「うーん、明け方かなぁ」
「もー」


ジョンデさんがようやく現れた "ラスボス" こと "イシンヒョン" に駆け寄ると、手を繋いでさっき彼が座っていた隣の席に座らせた。
その人も(他のみんなよりは大きい気もするが)、やっぱり小柄な部類だと思う。そして色白。
この家の入居条件なのか……?



「で?記憶喪失なの?」


ジュンミョンさんが話を戻す。


「えっと、多分……?」
「何も覚えてないの?」
「はい……」
「自分の名前も家の住所も?」
「はい……」


困ったなぁ、と呟いたジュンミョンさんにギョンスさんが、「そういえば……」と声をあげた。


「さっき服を洗濯した時、ポケットに財布入ってました」


ジョンデさんが「それだ!」と声をあげる。
ギョンスさんは急いでリビングに向かって、俺の前に財布を差し出した。
もはや俺にとってはそれが自分のものなのかもよく分からない。
とりあえず中を見るとお金は入っているみたいだ。


「名前分かるようなものない?身分証とか……」
「えっと……」


出てきたのは、どこかの服屋のポイントカードが1枚だけ。
おい、俺!どうなってんだよ!!


ひっくり返すと書いてあるのは名前と生年月日。住所も連絡先も書いてない。


「パクチャニョル……って書いてあります……」
「それだけ?」
「あと、1992年11月27日生まれって……」
「あ!俺たちと同い年じゃん!」
「そうだね!僕とベッキョニとギョンスは同い年だ!」
「それより住所とか電話番号とかは?」
「ない、です……」


ジュンミョンさんの落胆の色が濃くなったのが分かって、思わず「すみません」と項垂れた。


「まぁ、分からないもんは仕方ないじゃん。とりあえずご飯食べてからにしよう、な?」


"ソギヒョン" ことミンソクさんがジュンミョンさんの肩に手をやって、ジュンミョンさんは「そうだね」と苦笑を溢したことで、俺たちの朝食は再開された。

俺の名前は、"パクチャニョル" というらしい。



それからみんなでご飯を食べて、ミンソクさんがまた食後のコーヒーを入れてくれて、洗い物をするギョンスさんとミンソクさんを残して、俺たちはリビングへ移動した。


「名前と生年月日だけじゃどうしようもないよなぁ……」


ジュンミョンさんが口にする。


「とりあえず警察に問い合わせてみる?行方不明の届け出とか出てるかもしれないし」

ジョンデさんの提案に「そうだね!」とジュンミョンさんが頷いた。

「あとは?」
「うーん……」
「ベッキョナー、なんかないの?お前が拾ってきたんだからちゃんと考えてよー」
「うーん、そう言われてもなぁ……あ!ポスター貼るとか!?迷子犬みたいに、『この子知りませんか?』って」
「もぉ!真剣に考えてよ!」
「ははは!」


自分の顔が町中の電柱に貼られるのを想像して、ちょっとゾッとした。
さすがにそれは辞退したい。



「とりあえずさぁ、落ち着くまではうちにいれば?」


ラスボス……じゃなくて、イシンさんがジョンデさんの横でジュンミョンさんに向かって問いかける。


「ジュンミョナ、いいよね?」
「まぁ、仕方ないね」
「あ!でも部屋ないよ?客間はこの前ベッキョニの部屋にしちゃったし」
「そっか。ミンソギとギョンスに追い出されたんだっけ……」
「そう、煩いからって」
「ははははは」
「じゃあ、今一人部屋だしベッキョンの部屋でいいんじゃない?」


そうだね、決まり!……って、ちょっと待って!
ベッキョンって煩くて追い出された人なんじゃないの!?え?俺大丈夫なの!?
ってまぁ、俺に拒否権なんて無いわけで……ここは追い出されないだけマシってことだよな。なーんて。


とにかく、俺にとってどうなることやらよく分からない生活が、ここ、通称" 小人の館" (俺の中で)で、始まることになった。





「チャニョラー!ちょっとアレ取ってー!」

「チャニョラ、もしかして電球届く?」

「チャニョラ、悪いけどこれ、あそこにしまってもらってもらってもいい?」



みんなに何度も呼ばれて "チャニョル" という名前がどうにか板についてきたころ、俺はようやくみんなと打ち解けることができた。




いや嘘です。

速攻でみんなと打ち解けてました。
親和力には定評があったみたいです。


「やっぱデカいのいると楽だな」
「むしろ俺いなくて今までよくやってこれたもんだよ」
「うるせぇ!」

特にベッキョニとは。



「あ、ヒョン!ピアノ借りてもいい?」
「いいよ、今使わないから」

ベッキョニがイシンヒョンに断って、楽しそうにピアノに駆け寄った。
俺はその様子を笑顔で眺める。

「そのピアノって、ラ……じゃなくてイシンヒョンのピアノなんですか?」
「そうだよ。ていうか、その僕を呼ぶ前に必ず『ラ……』って言うのなに?」
「え!?いやいや、何でもないです!!」


やばっ!

今でも心の中でラスボスって呼んでいるのがバレそうになって、ブンブンともげそうなくらい首を横に振った。
イシンヒョンは訝しげに俺を見ていたけど、ジョンデに呼ばれると笑顔でリビングを出ていったので、とりあえずセーフってことにしておこう。よし!


「そうだ。ベッキョニって、ジャズ好きなの?」
「ジャズってー?」
「いつも弾いてるやつ」
「ふーん、そうなの?」
「え、知らないで弾いてたの?」
「うん。俺そんな詳しくないしー。適当に弾いてただけー」
「そうなんだ……」


驚いた。
適当に弾いててアレなの?歌も?
俺はてっきりプロか何かなのかと……


「お前音楽詳しいのな?」
「そう、なのかなぁ……」
「イシンヒョンと話合うんじゃない?」
「ラ……じゃなくて、イシンヒョン?」
「うん。ヒョン作曲家だから」
「へぇー。あぁ!だからピアノ!」
「そうそう」


ラスボスの正体は作曲家らしい。
すげぇ!


「てゆーか、まだ思い出さんの?」
「うん……」
「はは!チャニョリの人生イチからスタートだ!」


ある意味羨ましいな!とベッキョンは笑った。

「羨ましい?」
「うん、だって人生生きてりゃ忘れたいことなんて山ほどあるじゃん?」
「そう?」
「俺なんて忘れたいことだらけだし!0点のテストとか、子供の頃の恥ずかしい遊びとか……ほらさぁ、色々あんじゃん?思い出させんなよ、せっかく忘れてたのに!」
「はは!ごめんごめん!」


何を思い出したのか赤面するベッキョンに近づいて、俺は無意識に頭を撫でていた。
するとベッキョンはさらに赤面して。
それを見た俺までなんだか恥ずかしくなって。俺まで赤くなった気がする。


「何やってんの……」

「あ!ギョンス!」


シラケた視線がやけに痛く突き刺さる。

はは。怖いって。怖いから!
ヤメテ、その視線で見るの!!



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