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あの日の僕

夏休みが明けて、また毎朝駅で会うようになって、本当に受験シーズンが本番になる直前。9月の終わりに、僕らは互いの誕生日をお祝いすることにした。

『どこに行きたい?』って聞かれたので僕は思いきって『ヒョンの家はダメですか?』って言った。
その頃には僕はヒョンが一人暮らしをしていることも知っていたから、一人暮らしの部屋を見てみたいですってお願いしたんだ。そしたらヒョンは少し困ったような顔をして、それから『いいよ』って言ってくれた。
高校生の僕の周りじゃ一人暮らしをしてる人なんていないから、とても羨ましくてワクワクしたのを覚えている。


プレゼントは何がいいかなって考えて、そんなに高価な訳じゃないけど毎日使うかなって思ってネクタイにした。母さんもよく父さんにネクタイをプレゼントしてるし、きっと必需品なんだろうって。

それを忘れずに鞄に入れて、あの日のように僕は駅でヒョンの車を待った。
見覚えのあるヒョンの車が停まって駆け寄ると、あの日のように『ごめん、待った?』って。僕は『いいえ』と笑って返した。


『ちょっと寄り道してから家に行くね』

そう言って走り出した車は可愛らしいお店の前に停まって、『ちょっと待ってて』って言い残してヒョンはお店に入っていった。
きっとケーキ屋さんだ。
案の定ヒョンは白い箱を抱えて戻ってきた。
『持ってもらえる?』って渡された箱は思ったよりも大きくて、どっしりと重量感があった。
その箱を膝に乗せてしばらく進むとヒョンが『ここだよ』と教えてくれたのは、ごく普通の白いアパート。

『単身用だから狭いけど』

そう言って案内してくれた部屋は、僕の部屋より大きいくらいのワンルームだった。
入ってすぐに小さなキッチンが付いていて、壁際にはベッド。そして手前にはテーブルとテレビ。余計なものがないシンプルな大人の部屋だ。

『なんか、格好いいですね……』って呟く僕を見て、ヒョンは可笑しそうに笑っていた。


『座ってて』と言うのでケーキの箱をヒョンに預けて荷物を置いて座ると、ヒョンは準備していたであろう食べ物を次々とテーブルに運んだ。小さなテーブルはあっという間にお皿で溢れている。

『すごいです!』
『はは!出来合いばっかりだけどね』

さぁ食べようか、ってグラスにジュースを注いでもらって、『誕生日おめでとう!』って言い合って乾杯をした。

『たくさん食べてね』って言うヒョンに『もちろんです!』って笑って。
二人だけの、すごく贅沢な誕生日パーティー。

『家にジョンデくんがいるなんて、変な感じ』
『ふふ、ダメですか?』
『ううん、そんなことないよ』
『じゃあまた遊びに来てもいいですか?』

ヒョンのアパートは僕の家からでもそんなに遠くはなかったから。また来れたらいいなぁ、なんて。

『いいけど、普段はもっと汚れてるから』
『じゃあ僕が片付けに来ます!』
『受験終わったらね』
『あ……』
『ふふふ』


『そうだ』とヒョンが取り出したのは大きな紙袋だ。『誕生日プレゼント』って言って僕にくれた。

『わぁ!ありがとうございます!あ、僕も』

鞄から取り出して袋ごと渡す。

『少し早いけど、ヒョンもおめでとうございます』
『ありがとう。開けてもいい?』
『もちろん!僕も開けていいですか?』
『どうぞ』

そう言って互いにがさごそと袋を開ける。
僕がもらったのはブランドもののリュックだった。

『わぁ!リュック!』
『うん、大学に入っても使えるかなぁと思って』
『嬉しいです!大事にしますね!』

って喜びながらタグを見れば、これって確かチャニョルが欲しがってたやつだったような。だけど高くて買えないって。

『これって……高いやつですよね?』

万年筆とかもらっといて今さらだけど、高価なものを何度も貰ったりしていいのかなぁって思わず尋ねると、ヒョンは『これでも社会人だから』って。

『ジョンデくんに似合いそうだなって思ったんだけど、好みじゃなかった?』
『いえ、そんな!』
『じゃあ素直に喜んで』
『……わかりました。ありがとうございます!』

にこりと笑うと、ヒョンも嬉しそうに笑みを浮かべてくれた。

『僕のは……ネクタイだ!』
『すみません、安物なんですけど……』
『そんなの関係ないよ』

似合う?って首もとにあてて見せてくれた紺色のネクタイは、予想通りヒョンにピッタリで安心した。

『はい、とっても!』
『じゃあ早速明日から使わせてもらうね』
『はい!』

真っ直ぐな言葉に、僕はとても照れくさくなった。


それから大きなまあるいケーキを食べて、ヒョンが借りてきてくれた映画のDVDを二人で並んでベッドに寄りかかりながら見た。
少しずつ肩が重くなってきたと思ったらヒョンはうつうつとしていて、そのうちに本格的に眠りに入ってしまい、僕の肩に寄りかかる。
僕は少しだけ緊張しながら、ヒョンの体を受け止めていた。
体温が心地いい。
僕はただ幸せだと思ったし、やっぱりこの時間がずっと続けばいいのにと思った。

映画は終わってエンドロールも終わって、チャプター画面に切り替わったそれを僕はそっと手を伸ばしてリモコンを掴んで消した。
静かな部屋の中で、ヒョンの呼吸だけが小さく響く。
だらりと垂れたヒョンの手をそっと掴むと、無意識のようにぎゅっと握ってくれて、あの日のドライブの最後を思い出した。

レイヒョンが好きだと思った。
どうしようもなく好きだ、って。

もう止められないほど自分の中がヒョンで溢れていくのが分かるんだ。好きで好きでどうしようもないほど。全身でヒョンを求めている。
ヒョンは僕のことどう思ってるんだろうって。普段は考えないようにしていることが頭を覆い尽くした。
弟みたいだって言ってくれた。
こうして誕生日を祝ってくれて良くしてくれて。親しくしてくれる。もしかしたら、なんて思う気持ちはいつも、大人にとってはどうってことないことかもしれないって考えに押し潰されて。勘違いしてはいけないって。
ギョンスには何度も『遊ばれてるんじゃないの?』って言われた。『騙されたりしてない?』って。その度に僕は、ヒョンはそんな人じゃないよって答えるんだけど、『じゃあ望みはあるの?』って。そう聞かれると苦笑するしかなくて。そんな僕を見てまた『心配だな』って呟くんだ。
そんなことは自分でも分かってるから。
僕は子供でヒョンは手の届かない大人だって。
ただの憧れだって何度も思い込もうとした。だけどダメだったんだ。毎朝あの笑顔でおはようって言われる度、僕の心臓は軽やかに跳ねて。それだけで一日が頑張れるほど、僕はヒョンを好きになっていたから。



『う、うーん……』ってヒョンが起きそうになって僕は慌てて手を離した。

『ごめん……寝ちゃってた?』
『はい、ぐっすり』
『あー、ごめんねぇ。昨日楽しみであまり寝れなかったからかなぁ』
『そうなんですか……?』
『うん、ジョンデくんよろこんでくれるかなぁって。それなにの寝ちゃってごめんねぇ』

少し舌ったらずに喋る寝起きのヒョンは、今まで見たこともないようなほど緩んでいて。それだけ気を許してくれてるのかなと思うと、不覚にもまた嬉しさが込み上げた。


『あぁー!』
『え!?』
『ごめん!もうこんな時間だった!』

送ってくね!ってパタパタと支度を始めたけど、時計を見ればまだ7時を越えたくらいの時間だ。海の時も思ったけど、ヒョンは時間に律儀すぎる。今どき男子高校生なんて、もっと野放しなのに。なんて思ってもきっとそれはヒョンの大人としてのマナーだから、僕は黙って従うことにしている。

僕は大事なリュックを忘れずに抱えてヒョンの家をあとにした。
次に来れるのはいつだろう……



**


雪がちらつき始めて、受験はいよいよ本番になった。クラスの何人かはもうすでに推薦で決まり始めてて、教室内はピリピリとしていた。僕は一般入試だからまだまだこれからで、どうにかM大を射程圏内にとらえたところ。
毎日毎晩勉強して、朝はやっぱり早めに行って授業が始まる前も受験勉強に当てた。
唯一の休憩時間は朝のヒョンとの電車の時だけで、その何駅か分だけは僕の心の休養だった。その時間があるだけで僕はまた頑張れるから。


ヒョンはいつも心配そうに僕を気遣ってくれた。たまにはお菓子なんかもくれたりして、それを食べながらまたテキストに向かった。

ある時ヒョンは『これ、気休めかもしれないけど』って言って隣町の神社のお守りをくれた。『学業祈願』と刺繍された綺麗なブルーのお守り袋。

『わざわざ買いに行ってくれたんですか!?』
『うん、学業祈願にいい神社だって聞いて』
『あの、ありがとうございます……』

『どうしたの?』

そのとき僕は、きっと色々なことがいっぱいいっぱいだったんだと思う。レイヒョンの優しさに、ありがとうございますだとか、好きですだとか、色んな感情が混ざって泣きそうになっていた。

『いえ、何でもないです……』
『もちろん応援してるけど、そんなに思い詰めないで』

本番で頑張れなくなっちゃうよ、ってヒョンは笑いながら頭を撫でてくれた。

『そうですね』って笑って見せたけど、うまく笑えていた自信はない。
だってヒョンも仕方なそうに苦笑してたから。

『受験が終わったら、またどこか遊びに行こうか』
『……はい!』
『ふふ、』

このとき貰ったお守り袋は受験が終わるまで僕のポケットに忍ばせ続けた。そしたらいつでもヒョンの温もりがすぐそばにあるような気がして、僕は挫けそうになる度、何度も力を貰った。



冬休みはほとんど出歩かなかったけど、ヒョンから連絡が来て、一度だけ一緒に初詣に行った。

『これだけ頑張ってるんだから、最後は神頼みも悪くないと思うんだ』って、ヒョンらしくもないことを言って僕の緊張を解してくれた。
久しぶりに会ったヒョンは少しだけやつれてて、『ヒョンも忙しいんですか?』って聞いたら『ちよっとね』って苦笑いしていて。『でも久しぶりにジョンデくんに会えたから元気になったかな』って。

『僕もです』って笑ったら『はぐれちゃうから』って僕の手を握って一緒にポケットに入れてくれた。
人混みに紛れるように握られたその手は、ポケットの中で指が絡まって、なんかもう本当にヒョンが好きだと思ったし、受験が終わったら絶対告白しようと思ったんだ。振られたっていいから、この想いを伝えたいって。ヒョンだって少しは僕のこといいと思ってくれてるからこうやって手を握ってくれるんでしょ?って。ヒョンから見れば僕なんか本当にただの子供かもしれないけど、それでも一生懸命恋してるんだ。




本命であるM大の受験の日の前日、ヒョンは車で家まで来てくれた。

試験前で登校日も少なくなっていた僕に『ちゃんと顔見て頑張ってねって言いたかったから』って言って。
『風邪引いちゃ困るから乗って』って言われて助手席に乗り込むと、久しぶりの二人だけの空間に少しだけ緊張した。

『ヒョン、約束覚えてますか?』
『約束?』
『うん、受験が終わったらまた遊びに連れてってくれるってやつ』
『もちろんだよ』
『よかった。楽しみにしてますね』
『うん、』

それからこれ、って言ってヒョンは自分がしていたマフラーを外して僕に掛けてくれた。

『お守り』
『ありがとうございます……』

ふわりと漂うヒョンの匂い。
すこし甘くてドキドキするような。
僕は顔を埋めて笑みをこぼした。

『ヒョン、お願いしてもいいですか?』
『なぁに?』
『あの……、明日頑張れるように、ぎゅってしてくれますか……?』
『ふふ、もちろん』

そう言ってヒョンは僕をぎゅーっと抱き締めてくれた。僕もヒョンの背中に腕を回して、ぎゅっとくっつく。それだけで僕は力をいっぱい貰えたような気がした。

『今日はもう早く寝てね』
『はい』
『あとは今まで頑張ってきた自分を信じること』
『はい』
『それから、終わったらまた遊びに行こう』
『はい』

ふふふってヒョンの腕の中で笑って、明日に備えて別れた。


当日、昨夜準備した荷物をもう一度確認した。
まずは大事な受験票。それからヒョンに貰った鞄にぶら下げた羊のキーホルダー。勉強の時ずっと使っていた万年筆。制服のポケットにはブルーのお守り袋。そして昨日ヒョンがくれたマフラー。
僕のこの一年はすべてがレイヒョンだった。
受験勉強を頑張るそばにはいつもヒョンの気配があって、そのお陰で僕は頑張れたと思う。
そして今日も。
ヒョンの温もりが僕に力をくれる。

朝ごはんをしっかりと食べて、両親に見送られ、僕はいつもとは違う電車に乗った。




『終わりました』

会場を出てすぐにメールを送ると、おそらく仕事中だというのにすぐに返信が来て、『お疲れさま』って僕を労ってくれた。それから親にも連絡をして。そしたら何だか一気に力が抜けて、くたりと駅のベンチに座り込んだ。
ふぅ、なんて一息ついて途中で買った缶コーヒーを飲んだ。

ぼーっとしてると携帯が震えて、ヒョンから『今どこにいるの?』ってメール。『駅で一旦休憩中です』って送ると、『すぐに行くから待ってて』って。えっ!?って思わず二度見した。だってヒョンは今仕事中だから。サラリーマンってそんなこと許されるの?って思ってる間にヒョンは僕の前に現れた。


『お疲れさま!どうだった?』
『え、や、まぁなんとか……ってヒョン、仕事は!?大丈夫なんですか!?』
『うん大丈夫、今たまたま近くの営業先出たところだったから』
『そう、なんですか……』
『それより試験どうだった?』
『はい、何とか……っていうか実はもうよく覚えてないんです』

終わった瞬間に真っ白になってしまい、ちゃんとできたのかどうだったのかすら自分でもよく分からないんだ。
何度も確認して解いていって、全然分からない問題もあったけど、全体的には躓かずに出来たような気もするし。でも手応えは?と聞かれると自信を持っては答えられなくて。

そんな曖昧なことを言うと『じゃあきっと出来たんだね!』ってヒョンは笑った。

『そうなんですか?』
『うん、そういう時は出来てるってことだと思う!きっと大丈夫だよ。それにお正月に僕、神様のこと散々脅しておいたから』
『は?』
『ジョンデくんに何かしたら、もう一生お参りに来ません!って』
『あはは!なんですかそれ!』
『え、ダメ?』
『ダメですよ!けど、ヒョンらしいです』

あはは、ってヒョンと一緒に笑うと、一気に現実味が戻ってきた気がした。それに何だかヒョンも少しだけいつもよりテンションが高い気がする。

『発表はいつ?』
『2週間後です』
『そっかぁ。楽しみだねぇ』

そう言ってヒョンはバタバタと仕事へと戻っていった。



発表の日は朝から冷たい雪がちらついていて、それでも僕は朝一番で見に行った。
膨大な受験番号の数字を追って、あっ、て呟いて自分の番号を見つけた瞬間、へにゃりと足の力が抜けそうになったのを必死に堪えた。
会場を出てその場で母さんに連絡をして、その足で学校へ向かった。担任に報告するととても喜んでくれて、今までの想いが込み上げる。

そのまま誰もいない教室に向かった。
あんなに騒がしかった教室には自由登校のせいか誰もいなくて、ぽつりと座っているのが寂しく思えるほどだ。携帯を取り出してトークルームを開いて、ギョンスやチャニョルやベッキョンにも報告した。みんなおめでとうって喜んでくれて、思わず涙がこぼれそうになるほど。結果が出るのが一番遅かった僕を、みんな言わずとも気に掛けてくれていたんだ。

それから家に帰って、夕方にまた家を出た。
母さんに『どうしても直接報告したい人がいるから』って言ったら『あまり羽目外しすぎるんじゃないわよ』って釘を刺されて。『わかってる!』って言って僕は急いで家を飛び出した。

外は昼間からの雪で、こんもりと積もり始めている。

誕生日の日の記憶を頼りに、僕はヒョンのアパートへと歩いた。わりと簡単な道だったから、歩いても30分くらいかなって思ってたのに40分以上かかったのはきっと雪のせいだってことで、少しだけ道に迷ったのは内緒だ。途中でカイロと缶コーヒーを買って、ようやくヒョンの白いアパートへと到着した。
いつも遅いのを知ってるから、いるかどうか心配だったけど、見上げた部屋には灯りが点いていて、ホッと胸を撫で下ろす。

階段を上ってドアの前で雪をほろって。息を整えて、インターホンを鳴らした。


『はぁい』っていつもののんびりとした声が聞こえて、開いたドアの先でヒョンは僕を見て固まった。


『ジョン、デ……』

『へへ、来ちゃった。って言うんですかね、こういう時』


そんな風にふざけて言ってもヒョンは笑ってくれない。


『どうしても直接報告したくて来ちゃったんですけど……ヒョン、褒めてくれますか?』
『え……』
『受かりました』
『ホントに!?』
『ほら、見てください。ちゃんとあるでしょ?』


そう言ってヒョンの目の前に携帯で撮った写真を見せる。


『1021ちゃんとあるでしょ?ヒョンが言ったんですよ、僕らの誕生日合わせたみたいな番号だって』


ヒョン……?


何も言わないヒョンが心配になって携帯をずらしてヒョンの顔を覗き込めば、ドンッて体当たりみたいに抱き締められて。
『おめでとう』って呟くみたいに言って。
僕もヒョンの肩に顔を埋めた。


『今日だと思ったのに何も連絡くれないから、てっきりダメだったのかと思って……だとしたら僕からは聞けないし、どうしようかと思ってた……』
『すみません、でもどうしても直接言いたくて。ヒョンがおめでとうって言ってくれるの目の前で見たくて……』


抱き締められたまま呟く。

ヒョンは『うん』って頷いて。
それから腕を緩めて至近距離で『おめでとう』って言ってくれた。絡まりあう視線をどうしたらいいのかもわからず、僕はそのままに『ありがとうございます……』って呟いて。
それから気がついたら『好きです』ってこぼれてた。


このときの僕の目線は、酷く熱っぽかったんだろうと思う。もう、後先なんか考えられないほど想いが募っていて。僕の心の中に留めておくことが出来なくなっていた。



『ヒョンが好きです、出会ったときからずっと……ヒョンが好きでした……』


ずっと黙って僕の話を聞いていたヒョンは、おもむろに僕の手を掴んだ。
それから玄関に引き入れてドアを閉めて。
そして……



『僕から言おうと思ってたのに』って。


『え……?』

『ずっと、ジョンデくんが高校を卒業したら、僕から言おうって思ってたんだ……それなのに先に言っちゃうんだもん。ずるいなぁ』

『ずるい、って……』

『卒業式いつだっけ』
『は……?』
『卒業式』
『えっと、来週ですけど……?』
『うーん、あと一週間かぁ……まぁいいか。いいよね?』
『え……?』


にこりと笑って、それからヒョンは僕の後頭部を掴んで───唇が重なった。


え……?
えぇぇぇぇ!?


『本当は卒業式の日に迎えに行こうって思ってたんだ。さすがに高校生に手を出しちゃ不味いかなって思って』


でも出しちゃった、って言ってヒョンは笑った。僕の心臓は今度こそ本当に破裂してしまうんじゃないかと思うほどドキドキと高鳴っていて。嘘みたいに幸せになったのを覚えている。






***


「ジョンデ?どうしたの?」
「ふふ、昔のこと思い出してたんだ」
「昔のこと?」
「うん、まだ付き合う前の高校生だった頃。僕も子供だったなぁって思って……」
「どうしたの?急に。感慨深くなっちゃって」
「だってこれ、出てきたから」
「わぁ!懐かしい!」


僕が持つ箱の中には薄汚れた二つのキーホルダー。恐竜と羊。寄り添うように眠っている。


あれから僕らは付き合い始めて。
ヒョンの住んでいたワンルームの白いアパートは、二人で住む2DKのオレンジのアパートに変わった。
二人で過ごしてケンカしたり仲直りしたり。
別れそうになったことも何度かあった。
だけどそれでも、やっぱり僕はヒョンが好きで。それは僕の真ん中にある、あの頃から変わらない気持ちだ。


「ヒョン、これからもずっと一緒にいてね」
「もちろんだよ。僕の方が先におじさんになるんだから捨てられないように気を付けなくちゃ」
「はは!つるっ禿になったってヒョンの隣にいるから安心して」
「もー!」





おわり
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