その他
「ヒョン、最高を探しに行きましょう」
「最高を?」
「そう、僕たちの最高を!」
セフンはふにゃりと笑って、僕の腕を掴んだ。
僕はやれやれ、なんて苦笑しながらも、どこかわくわくと胸を弾ませていて、例えば僕らの小宇宙のように何かとんでもなく素敵なものが見れるんじゃないかと思ったんだ。
セフンと一緒なら、きっとどんなものだって見つけることができる。
そうと決まれば僕たちはまず、手始めにクローゼットの奥で眠っている一番大きなリュックを取り出した。
そうして荷物を詰め込んで、コートを着込んだ。
もうすぐ春ですよ、とセフンが笑うので少しだけ薄手のコートに取り替えた。といってもまだまだ朝晩は冷えるから、さっきのよりは本当に少しだけ薄手のコート。
セフンは相変わらず笑っていて、暢気に鼻歌なんかを歌っている。
「ねぇ、セフナ。僕たちの最高はどこにあるんだろうな」
「さぁ?10m先の公園かもしれないし、10万光年先の銀河かもしれない。ヒョンは何処にあると思いますか?」
「10万光年先の銀河はさすがにちょっと困るけど、10m先の公園よりは遠いところだといいなぁ」
「どうして?」
「だってせっかく荷造りしたから」
僕らの足元に転がる2つのリュックを見て言えば、セフンは「それもそうですね!」と愉しそうに笑った。
僕らは揃ってリュックを背負うとアパートを出て路地へ降り立った。
「さぁ、まずはどっちに行こうか」
きょろきょろと左右を見ながらセフンに問うと、セフンは地面に転がっていた石ころを拾って、また地面に落とした。敷き詰められた赤茶けた煉瓦に当たって跳ね返ると、右側に転がる。
「右ですね」とセフンは指を指した。
そうやって僕らは曲がり角が来る度に地面に転がる石ころに聞きながら、何時間も何時間も歩いた。
随分と遠くに来たような気もするし、すごく近所をぐるぐると回っているだけのような気もする。
「ねぇ、セフナ。最高ってさ、どんな形をしてると思う?」
「さぁ。想像もつかないけど……でも見たらきっとすぐに分かると思います」
「どうして?」
「だって、最高だから」
「そっか、そうだね!」
はははと笑って、僕たちはまた歩き続けた。お腹が空いたらパンをかじって、歩き疲れたら木陰で休んで。そうして歩いて日が暮れてきた頃、セフンは言ったのだ。
ヒョン、ありましたよ。って。
「え?どこに!?」
慌てる僕にセフンはいつものふにゃりとした笑みを浮かべて、少しだけ恥ずかしそうに口を開いた。
「ほら、ここに」
そう言って目の前に突き出されたセフンのすらりと伸びた人差し指を見ると、僕の目は寄り目になってしまっていたようで、それを見たセフンはお腹を抱えながら笑った。
「もう!ふざけてないでヒョンにも教えろよ!」
セフンの人差し指を掴んで思わず頬を膨らませて抗議するとセフンは笑うのを止めて、「だからヒョン……」ってまた恥ずかしそうに視線をさ迷わせた。
「僕の最高はジュンミョニヒョンの形をしてました、って」
「え……?」
「僕の最高はヒョンでしたよ。だからヒョンの最高は?」
「えっと……?」
ならば僕も、僕の最高はセフンということになる。
セフンの最高は僕で、僕の最高はセフン。それはぴったりと重なって一つになっているような気もするし、隣り合って並んでいるようにも見える。
こねくりまわして安易に作った紙粘土の人形のようにも見えるし、絶妙なバランスで組み立てられた繊細な芸術品のようにも見える。
僕らの最高は、不安定に安定していた。
10万光年先の銀河でも10m先の公園でもなく、目の前の存在。
それこそが僕たちの最高だったのだ。
あぁ、そうか。
それはなんだか、とても。
とてつもなく素敵なことだ。
そうだね、セフナ ─────
*
*
*
目を覚ますと、そこはいつものセフンのベッドで。弟のくせに僕に腕枕をしている。抱きついてるのは僕の方か、それともセフンか。この体勢で寝ていたせいで、身体中が痛い気がした。
いや、夢の中であれだけ歩いたからか?なんて考えて可笑しくなって小さく笑った。
目の前の寝顔は気持ち良さそうで安堵する。最高探しの旅は楽しかったから。それにしても10万光年も歩かなくて済んでよかった。なんて。
くすくすと笑っていると、ワン、と吠えたビビの鳴き声を目覚ましに、セフンはむにゃむにゃと目を覚ました。
「おはよう」
「……ヒョン?」
「なぁに?」
「いや……何でもない」
ビビ、おいで。とセフンがベッドから呼び掛ければ、ビビは嬉々としてベッドへと乗り上がって僕の腹を踏みつけてセフンの元へ駆け寄った。
「痛っ。飼い主に似て行儀悪いな」
「あ、ビョリも飼い主に似て物隠すんだっけ?」
相変わらずの減らず口が朝から僕を襲う。くすくすと笑うセフンに結局は何でも許してしまうんだ。お前は本当に最高だよ、なんて。
最高に可愛くて、最高に愛おしくて、最高に格好よくて、最高に楽しくて。
だからセフンといると、僕は最高に幸せなんだ。
あぁ、そういうことか。
「セフナ、」
「はい?」
「僕の最高も、セフンの形をしてたよ」
それは、夢の中で言いそびれた言葉。
伝えたかった言葉。
「ふふ、よかった」
セフンはやっぱりいつものようにふにゃりと笑って。
それから嬉しそうに僕を抱き締めた。
おわり
「最高を?」
「そう、僕たちの最高を!」
セフンはふにゃりと笑って、僕の腕を掴んだ。
僕はやれやれ、なんて苦笑しながらも、どこかわくわくと胸を弾ませていて、例えば僕らの小宇宙のように何かとんでもなく素敵なものが見れるんじゃないかと思ったんだ。
セフンと一緒なら、きっとどんなものだって見つけることができる。
そうと決まれば僕たちはまず、手始めにクローゼットの奥で眠っている一番大きなリュックを取り出した。
そうして荷物を詰め込んで、コートを着込んだ。
もうすぐ春ですよ、とセフンが笑うので少しだけ薄手のコートに取り替えた。といってもまだまだ朝晩は冷えるから、さっきのよりは本当に少しだけ薄手のコート。
セフンは相変わらず笑っていて、暢気に鼻歌なんかを歌っている。
「ねぇ、セフナ。僕たちの最高はどこにあるんだろうな」
「さぁ?10m先の公園かもしれないし、10万光年先の銀河かもしれない。ヒョンは何処にあると思いますか?」
「10万光年先の銀河はさすがにちょっと困るけど、10m先の公園よりは遠いところだといいなぁ」
「どうして?」
「だってせっかく荷造りしたから」
僕らの足元に転がる2つのリュックを見て言えば、セフンは「それもそうですね!」と愉しそうに笑った。
僕らは揃ってリュックを背負うとアパートを出て路地へ降り立った。
「さぁ、まずはどっちに行こうか」
きょろきょろと左右を見ながらセフンに問うと、セフンは地面に転がっていた石ころを拾って、また地面に落とした。敷き詰められた赤茶けた煉瓦に当たって跳ね返ると、右側に転がる。
「右ですね」とセフンは指を指した。
そうやって僕らは曲がり角が来る度に地面に転がる石ころに聞きながら、何時間も何時間も歩いた。
随分と遠くに来たような気もするし、すごく近所をぐるぐると回っているだけのような気もする。
「ねぇ、セフナ。最高ってさ、どんな形をしてると思う?」
「さぁ。想像もつかないけど……でも見たらきっとすぐに分かると思います」
「どうして?」
「だって、最高だから」
「そっか、そうだね!」
はははと笑って、僕たちはまた歩き続けた。お腹が空いたらパンをかじって、歩き疲れたら木陰で休んで。そうして歩いて日が暮れてきた頃、セフンは言ったのだ。
ヒョン、ありましたよ。って。
「え?どこに!?」
慌てる僕にセフンはいつものふにゃりとした笑みを浮かべて、少しだけ恥ずかしそうに口を開いた。
「ほら、ここに」
そう言って目の前に突き出されたセフンのすらりと伸びた人差し指を見ると、僕の目は寄り目になってしまっていたようで、それを見たセフンはお腹を抱えながら笑った。
「もう!ふざけてないでヒョンにも教えろよ!」
セフンの人差し指を掴んで思わず頬を膨らませて抗議するとセフンは笑うのを止めて、「だからヒョン……」ってまた恥ずかしそうに視線をさ迷わせた。
「僕の最高はジュンミョニヒョンの形をしてました、って」
「え……?」
「僕の最高はヒョンでしたよ。だからヒョンの最高は?」
「えっと……?」
ならば僕も、僕の最高はセフンということになる。
セフンの最高は僕で、僕の最高はセフン。それはぴったりと重なって一つになっているような気もするし、隣り合って並んでいるようにも見える。
こねくりまわして安易に作った紙粘土の人形のようにも見えるし、絶妙なバランスで組み立てられた繊細な芸術品のようにも見える。
僕らの最高は、不安定に安定していた。
10万光年先の銀河でも10m先の公園でもなく、目の前の存在。
それこそが僕たちの最高だったのだ。
あぁ、そうか。
それはなんだか、とても。
とてつもなく素敵なことだ。
そうだね、セフナ ─────
*
*
*
目を覚ますと、そこはいつものセフンのベッドで。弟のくせに僕に腕枕をしている。抱きついてるのは僕の方か、それともセフンか。この体勢で寝ていたせいで、身体中が痛い気がした。
いや、夢の中であれだけ歩いたからか?なんて考えて可笑しくなって小さく笑った。
目の前の寝顔は気持ち良さそうで安堵する。最高探しの旅は楽しかったから。それにしても10万光年も歩かなくて済んでよかった。なんて。
くすくすと笑っていると、ワン、と吠えたビビの鳴き声を目覚ましに、セフンはむにゃむにゃと目を覚ました。
「おはよう」
「……ヒョン?」
「なぁに?」
「いや……何でもない」
ビビ、おいで。とセフンがベッドから呼び掛ければ、ビビは嬉々としてベッドへと乗り上がって僕の腹を踏みつけてセフンの元へ駆け寄った。
「痛っ。飼い主に似て行儀悪いな」
「あ、ビョリも飼い主に似て物隠すんだっけ?」
相変わらずの減らず口が朝から僕を襲う。くすくすと笑うセフンに結局は何でも許してしまうんだ。お前は本当に最高だよ、なんて。
最高に可愛くて、最高に愛おしくて、最高に格好よくて、最高に楽しくて。
だからセフンといると、僕は最高に幸せなんだ。
あぁ、そういうことか。
「セフナ、」
「はい?」
「僕の最高も、セフンの形をしてたよ」
それは、夢の中で言いそびれた言葉。
伝えたかった言葉。
「ふふ、よかった」
セフンはやっぱりいつものようにふにゃりと笑って。
それから嬉しそうに僕を抱き締めた。
おわり