その他
僕のまわりには、いつもヒョンばかりだった。
いつもマンネで、たくさんのヒョンたちがたくさん可愛がってくれて。
嬉しかったけど、淋しかった。
年が近くていつもダンスを教えてくれたジョンイニヒョンにはテミニヒョンやジュンミョニヒョンがいて、初めて心を開いたルハニヒョンには気付けば隣にミンソギヒョンの姿があった。
僕のまわりにはたくさんのヒョンたちがいた。
でも、僕はいつもひとりだった。
僕は確かにずっと淋しかったけど、でもだからといってそれをどうにかしようだなんて考えは微塵もなくて。だって、何度も言うけど僕のまわりにはたくさんのヒョンたちがいたから。ただ漠然と、僕も。僕だけの人が欲しいな、なんて考えることはあったけど……
そう、いつも僕を一番にしてくれる、僕だけの友達。
親友──そんな特別な響きの、僕だけの友達。
タオが、僕の前に現れるようになったのはいつからだろう。あいつは気が付けば僕の隣で笑っていた。僕は、あぁやっと僕にもできたんだって、やっとひとりじゃなくなったんだって、ほっとしたんだ。ほっとしてそれから、怖くなった。
いつか離れていってしまうかもしれない恐怖を思って。タオが「ぼくたちずっと一緒だよ」ってそう言う度、僕はいつも怖かった。
必死だったんだ。
タオが離れて行かないように。
だから僕はタオがすることにはいつも付き合ったし、タオが喜びそうなことをいつも考えていた。
いつだかヨリヒョンに「お前らそんなに一緒にいて飽きないの?」って言われたとき、僕は「だってタオがうるさいんですもん」って答えたけど、本当はそうじゃないことをちゃんと分かっている。むしろ、置いていかれないように必死なのだから。
僕はいつでも、タオの一番じゃなきゃいけなかった。何故ならタオは僕の一番だったから。
たとえ相手が家族だろうと、地元の友達だろうと、好みの女性アイドルだろうと。負けるわけにはいかなくて……
仕方なく付き合っているように見せてたのは、恥ずかしかったから。必死な姿を見せたくなかった。タオが僕を連れまわす──そういう構図じゃなくちゃいけなかった。だってタオはきっと笑うもの。僕がこんなにも必死だと知ったら、笑ってからかって。そしたら僕は、きっとものすごく恥ずかしくなって、もうタオと一緒にはいられなくなるから。だからクールでいなくちゃいけなかった。本当はそんなこと、少しも思ってないのに。
タオに連れまわされるのは心地いいし、そうやって強引に連れまわしてくれることで、僕は僕の存在意義を感じるんだ。たとえそれが依存だと言われても、止めることはできなかった。だってそれが、僕とタオの距離だから。
「ヒョン、僕たちおかしいですか?」
消灯してベッドに入ってしばらくたった頃、僕は同室のジュンミョニヒョンに尋ねた。
布団の中からぼそりと呟いた言葉を、ジュンミョニヒョンは丁寧に拾う。
「なにが?」
「僕とタオ」
「どうして?」
「だって、いつも一緒にいるから……」
「うん、そうだね。でもそれだけ仲が良いってことだろ?ヒョンは嬉しいよ」
「……そうですか」
「誰かに何か言われた?」
「いえ、そんなことは……」
そんなことはない。
でも、最近少しだけおかしい気がするんだ。
僕の、タオに対する距離の取り方が。
親友って、こんなに独占したくなるものだっけ?なんて、親友のできたことのない僕には到底分からない。
「じゃあ別にいいんじゃない?」
気にすることないよ、と呟いてヒョンは眠りに落ちた。小さな寝息を聴きながら、今日も僕はお祈りを始める。
いつからか、『明日もみんなが幸せでありますように』という祈りのあとに『それから明日もタオが僕の隣で笑っていますように』と付け足すようになった。それはとてもちっぽけで不埒な、僕の祈り。
親愛なる父なる神よ、どうか
僕の最愛のタオに、あなたのご加護を……
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意味もなく、祈りを捧げるキミを美しいと思った。
だけどその度にキミが心を預ける神様に嫉妬してみたりなんかして。
ボクがどれだけキミを愛そうと、ボクはキミの神様になんてなれやしない。
セフンはいつも優しかった。暖かかった。
それは神様に愛されてる証拠だとでもいうように。やわらかな光が注いでいて、ボクの身勝手な我が儘にもいつも仕方がないなぁって顔で笑って。それがどうしようもなく心地いいことに気づいたのはいつ頃だったかな。ボクがいちいち感じる色んな寂しさにいつでも気づいて然り気無く埋めてくれる。気が付けば、安らかで落ち着いて呼吸ができるのは、セフンの隣にいるときだけになっていた。
「ねぇ、」
「んーなに?」
「絶対に、ぜーったいに!ボクはフンの手を離さないからね」
「えー」
そう言って口を尖らせていたけれど、少し嬉しそうにはにかんでいたことをボクは知っている。柔らかに目を細めて、ふにゃりと笑うセフンの笑顔がボクは好きだ。
ボクたちは奇妙なバランスで保たれている。
フナ、ボクが君を守るよ。
キミが毎日祈る神様なんかよりも、そんな目に見えない人なんかよりも……ボクが、ボクがフンを守るんだ。
手を引いて抱き締めて一緒に歩くんだ。
セフンと出会って、ボクは初めて弟ができた。弟だなんて思っちゃいないけど、ボクが兄って顔をすればセフンは弟って顔をするから、だからボクは兄って顔をするんだ。キミを甘やかすために。
とても大事なボクの弟。
ボクが一生守るから。
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約束なんて破るためにあるんだ、と言っていたのはどのヒョンだったかな。
僕らの約束も、やっぱり破られた。
タオは僕の前からいなくなった。
どんな理由よりも、僕がタオを引き留める足枷にすらなれてなかったことが心底悔しかった。
あの日、一生会えないわけじゃないって言ってタオは笑った。
現に僕らは、たとえばヒョンたち──ルハニヒョンとミンソギョン──のようにきれいに清算することもできなくて、マネージャーヒョンたちに隠れて電話もメールもしている。でも、不意に思うのはやっぱりタオが言ったあの言葉で。
『ぼくたちずっと一緒だよ』
その言葉を思い出す度、ウソツキ、とめちゃくちゃに罵倒して叩いてやりたくなるんだ。
タオがいなくなって、僕はまたひとりになった。
僕の腕に通された高価なブレスレッドは、まるで手錠のようで。一生外せないかもしれない、と気の遠くなることを思う。こんな風にモノで繋がれるんじゃなく、ちゃんと隣で体温を感じていたかった。
神様、たったひとつの願いも聞き入れてもらえないのは、僕が大罪を犯しているからですか。でも僕は、あいつを好きだなんて一言も言ってないのに。
ただ隣で笑っていられるように、そう願ってただけなのに。
だったらせめて、最後の願いだけ。
僕ができる、たったひとつの祈り───
僕の最愛のタオに、あなたのご加護を……
おわり
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そんなつもりなかったのに。