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ルハンとシウミン


最近、ルハンとの関係がとてもしっくり来るようになった。

前から大事な親友だったけど、そうじゃない感覚。満たされていくような、カチリと噛み合うような。

例えば左手が淋しいなと思えば、次の瞬間にはルハンに絡めとられてるし、深夜に腹減ったなぁってキッチンに行けばルハンも同じようにキッチンにいたり。なにかこう、見えない感覚みたいのが重なり始めてる気がする。


移動中のバンの中でそんなことを考えていたら、隣に座るルハンが口を開いた。


「ねぇ、ミンソガ。なんか僕たち最近気が合うよね」


そう思わない?って覗き込まれた瞳はいつものことながらキラキラと輝いている。それを照れ隠しのように三日月形に細めて、そっと指を絡め取られた。


「やっぱ僕たちスゴいね!最強のソウルメイトだ!」


楽しそうに吐かれた言葉に、チクリと心臓が痛んだ。


「うーん?まぁ、そうだな」


面倒くさげに吐き出した言葉の真意は伝わるだろうか。


「これってさぁ、気が合うとかそういう問題?」
「ん……?」
「俺達ってさぁ、生まれた国も育った環境も全然違うじゃん?だけどさ、もしかしたら……」


そこまで言って、何となく言い淀んだ。


「もしかしたら……?」


このあと俺はどんな言葉を言うんだろうと期待と不安を込めたそんな目で、ルハンは俺の言葉を待つ。


「もしかしたら……、前世では双子だったんじゃないかなぁって」


俺が言うと、一瞬の沈黙のあと「なーんだぁ」って笑った。


「深刻そうな顔してるからもっとすごいこと言うかと思ったのに」
「すごいこと?」
「うん、ルハニが好きだぁ!とかそういうこと」
「……なっ!」


固まる俺をよそに、ルハンはけらけらと笑っている。呆れて物も言えないとはこの事かぁ?なんて頭を過ると、バンは目的地に着いたのか、エンジンが切られた。


今まで、自分と一番似てるメンバーはギョンスだと思っていた。いや、その考えは今も変わらない。
だけどルハンと会って、一緒に生活するようになって、ルハンの存在が自分の中に少しずつ浸透してきたような気がして。性格が似てるとかそういうのとはまた別の次元で、ルハンの存在が自分の一部になってきてるのは確かで。だから噛み合うようになってきたのかなぁ、なんて考えながら数歩先を歩くあいつの背中を眺めた。


スケジュールを終えると久しぶりにジョンデとご飯に出掛けた。
なにやら相談があるというのだ。


「レイヒョンが、好きみたいなんです」

ジョンデは言いにくそうに、けれど核心部分をズバリと言った。


「どうしたらいいんでしょう……」
「どうしたらって、お前」
「やっぱダメですよね?」


男同士だしメンバー同士で、こんなことあっちゃいけないですよね。と下がり眉をさらに下げて呟く。


「付き合ってるのか?」
「……そんなまさか!」
「じゃあ、あいつは知ってんの?」
「……知りません、ただ僕が好きなだけですから」


どんなにダメだと思っても、どんどん好きになっちゃって止まらないんです。苦しくて、辛い……


いつも弱音なんか吐かないジョンデが辛そうにしてるのを見てるだけで、こっちまで辛くなってくる。恋愛くらい自由にさせてくれと思う一方で、自分達には責任があって裏切れないたくさんの人がいることも分かっている。だけど、こんなに心優しい弟が辛そうに抱える想いくらいは成就してもいいんじゃないかって。俺は長兄失格かな。いや、そんなのはリーダー様にでも任せておけばいいのか。


「お前の好きにしたらいいよ」
「え……」
「問題なんて、起きたら起きただろ。そんとき考えればいいじゃん」
「ヒョン……僕、レイヒョンのこと好きでいてもいいんですか?」
「恋愛くらい、好きにさせろってんだよ」


心の中は誰にも縛れないさ、って言うと、ジョンデは嬉しそうに笑った。


「さすがミンソギヒョンですね!!僕一生ついて行きますから!」
「なんだそれ」


クククって笑ってビールを流し込んだ。


「……そっか。ですよねー!!」
「は?」

ジョンデが急に声をあげた。

「そもそも、ヒョンだってルハニヒョンと付き合ってるのに、僕のこと反対なんてできないですよね!」

「……はい???ちょっと待て!」


にゃはははは!とおかしな笑い声を上げるジョンデの腕を掴んで聞き返す。


「誰が付き合ってるって?」
「ヒョンが」
「誰と……?」
「当然、ルハニヒョンでしょ?」


「えぇぇぇ???」


たっぷり10秒程は固まって、それからすっとんきょうな声が漏れた。

「なんで?付き合ってないけど」

そう言うと今度はジョンデが驚いて。

「えぇぇぇぇ!!!うそだぁー!」
「そんなの嘘ついてどうすんだよ」
「え、だって!」
「だってもなにもあるか。バーカ」
「ひっど!!だってみんなそう思ってますよ!」
「みんなぁ??」
「はい、みんな」

MもKもみんな、とジョンデは付け足した。

何がどうなったらそうなるんだよ。お前らみんな頭おかしいんじゃないのか?って言ったら、ヒョンたちの方がよっぽどおかしいと思いますって言われた。


「なら逆に聞きたいんですけど。あんなに一緒にいて、好きにならないんですか?」

ジョンデは至極真面目な疑問だ、という顔で呟いた。

「え……?」

「あんなに朝から晩まで暇さえあれば一緒にいて、ところ構わずベタベタして。恋人じゃなかったら何なんですか?」

思わず返答に困った。
あいつの言葉を借りるなら『ソウルメイト』とかそんな所なんだろう。だけど今、何故かその言葉を使うことは阻まれて。

「……い、いいだろ!俺らのことはほっとけ」

投げやりに返すと、ジョンデはクスクスと笑っていた。




俺たちって、そんなにくっつきすぎ???


あれから──ジョンデに言われてから、俺の頭はそんなかとばかり考えるようになった。
だだ俺たちは、リーダーじゃない年長同士、ただでさえ弟たちの多いこのグループでリーダー様たちの邪魔にならないように、そんな理由で一緒にいるだけだと、少なくとも俺はそう思ってて。おそらくルハンだって。


「なぁ、ルハンー」
「なぁに?」


また偶然会った深夜のキッチンで、俺はルハンに尋ねた。


「お前知ってるか?」
「なにが?」
「俺たち、付き合ってるらしいよ」

「なにそれぇ!」って笑い飛ばすと思ったのに。


「うん、そうみたいだね」


ルハンはさらりと答えた。


「え?お前知ってたの?」
「うん。ミンソクこそ知らなかったの?」
「全然。まったく。この前ジョンデに言われて初めて知ったよ。つかお前、知ってたなら否定しろよ」

ふざけながら言うとルハンは「えーなんでー?」と声をあげた。

「なんでって、だって俺たち付き合ってないじゃん?」

まぁ、実は言うほど自分でも気にしてなかったりするんだけど。だって仲が良いのは確かだし。けどなんとなく、知った以上そのままにしとくのもアレかなぁって。
そう思って言ったのに、


「付き合ってもいいけど?」


ルハンは得意の笑顔を貼り付けて言った。

そんなこと顔色伺いながら言うんじゃねぇよ。


「ばーか」

「あ、酷い!」

本当なのに、とルハンは呟く。


「なぁ、お前この前ソウルメイトって言ったよな?」
「うん、言ったけど?だってそうでしょ?僕たちソウルメイトじゃん」


また繰り返されるそれにやっぱり心臓がちくんと痛んだ。


「それさぁ、ちょっと嫌かも……」
「なんで?双子とかの方がよかった?」
「うーん、そうじゃなくて」


ソウルメイトって要は親友って意味だろ?それはやっぱりちょっと嫌だ。当て嵌めるならこれ以上ないくらい正解の言葉なはずなのに、どうにも拒否反応を示す。


「ねぇ、ミンソガ」
「ん?」
「言っちゃいなよ、好きだって」


やっぱりちょっと顔色を伺いながらルハンは言う。


「別にいいのに」
「えー。そういうこと?」


俺の問いに「うん」と頷いて、ルハンは俺の唇を奪った。


「僕は好きだよ、ミンソクのこと」
「……お、お前さっきソウルメイトとか言ったばっかりじゃん」
「ま、そうなんだけどさ」


そう言って浮かべた笑みに、俺の心臓はパンクした。


俺たちがカチリと合い始めたのは、気持ちがカチリと重なったからなんだろうか、なんて高鳴る心臓をよそに考える。だとしたらきっとこれは恋とかそういう部類で。あぁ面倒くさいな、なんて少しだけ思った。


恋愛くらい、好きにさせろ。


いつぞやジョンデに言った言葉が頭を過った。





終わり
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