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ルハンとシウミン


幼い頃にサンタさんがくれたのは、雪だるまとトナカイが立っているスノードームだった。

振り回せばキラキラと雪が舞って、子どもの頃は飽きもせずにずっと眺めていた。お気に入りのそれはクリスマスが終わっても、新緑の季節になっても、茹だるような暑さになっても、木枯らしの季節になっても、変わらずに机の上に飾られていた。勉強に行き詰まった時や考え事をする時、手にとっては振り回してキラキラと舞う雪を眺めた。子どもの手には重たくて振り回すのもやっとだったそれも、今では苦にならないほどだ。

雪がちらつき始めたクリスマスの夜、俺はまた、いつものようにぼんやりと手にとって馴染んだそれを振り回した。

……はずだった。


「あ……!」


ぼんやりしていたのか振り回したはずのそれは、スポンと音が鳴ったかのように俺の手をすり抜け、弧を描くように宙を舞って、やがて鈍い音をたてて床へと落ちた。
瞬間、ガチャンと音がして……


気が付くと目の前には、見知らぬ男がうずくまっていた。

「いてて……」とお尻を擦りながら立ち上がる。


「だ、だれ……?なに?」


慌てる俺に気が付くと、「ミンソガー!!」と抱きつかれた。


「やったぁ!」


ぎゅうぎゅうと抱きつかれて、声も出ない。


「嬉しい!会いたかったー!」

「……っ!だ、だれ?なに?」


取り敢えず離せ!と巻き付かれた腕を叩く。


「あぁ!ごめんね!」
「……あの、どなたですか?」
「僕?」
「うん」
「ルハン!ルハンだよ!ずっと会いたかったんだ!」


だから、ルハンって誰だよ!


「毎日見つめてたでしょ?分かんない?」


キラキラの、まるで小鹿みたいな目でそう言うので、もしや……と思い床を見る。割れた残骸と飛び出てきた液体、中身、雪、雪だるま……


「……トナカイ?!」

「ピンポーン!」


言ってにこりと微笑んだ。


「ミンソクがちっちゃくて丸々して可愛かったときからずーっと見てたよ。僕のこと大事にしてくれてありがとう。だから僕、ずーっと話してみたくて神様にお願いしてたんだ」


やっと叶って嬉しい、って。

そんなこと言われたって俺は一体どうすりゃいいんだ?!
だけど、


「僕はいつでもミンソギの味方だよ」


そう言ってトナカイの目で笑うから。

そうか、今日はクリスマスか。

取り敢えずまぁ、なるようになるか、なんて思っちゃった俺の頭も大概で。



きっとこれは聖なる夜のイタズラだ。








あれから、何故かルハンが住み着いた。何故か、って言ったって行くとこなんてないのだから仕方がないし、そもそも俺のスノードームの住人だったんだから追い出すわけにもいかず。


「なぁ、スノードームの中ってどんな感じ?」
「悪くない、かな」
「悪くない?」
「うん、だってミンソギがいつも覗いてくれてたし。あ!中から見るミンソクはすーごい可愛かったよ!」
「なんだそれ」


なんだかんだ言っても、ルハンとの生活が楽しくなり始めたのは確かだ。
ルハンは俺のことならなんでも知っていた。ずっと部屋にあったんだから当たり前と言えば当たり前で。でもその内容たるや、小学生の時誰々とケンカして泣いてたよね、とか、中学生の時誰々のこと好きになったけどフラれちゃったよね、とか、一人暮しする時両親に反対されて拗ねてたよね、とか至ってプライベートな話だから質が悪い。


「あぁー!もー言うな!言うな!」


拗ねる俺に、あはは!と豪快に笑う鹿は、この世で一番質が悪い。
だって、綺麗だから。
トナカイのはずなのに、人間になった途端こんなに美人になるなんて、世の中不公平だろ!
そのキラキラの目で見られると戸惑いを隠せなくなるんだ。


「ルハンってさ、」

「なぁに?」


二人で並んでテレビを見ながら話し掛ける。二つ並んだマグカップからはさっき俺が入れたコーヒーがまだ湯気を燻らせていた。
トナカイもコーヒー飲むんだ、なんて笑いそうになったのは取り敢えず秘密にしておく。


「誰がその名前付けたの?」


製造元?とか笑いながら聞くと、ルハンは「自分でつけたんだよ」と少し誇らしげに言った。


「考える時間ならたくさんあったからね。"夜明けの鹿"って書いて"ルハン"。トナカイにピッタリでしょ?」
「ああ。でもトナカイにピッタリっていうよりは、お前にピッタリだよ」


"ルハン"って感じするって笑うと、嬉しそうに目を細めた。



「それにさ、なんで人間になりたいなんて思ったの?」
「そんなの、ミンソクと話したかったからに決まってるじゃん」
「話って、何を?」


聞くとルハンはまた、ふふっと笑った。


「ミンソクがさ、スノードームに向かって話す時っていつも落ち込んでる時とか元気がない時だったでしょ?だから、僕がいるよって教えたかったんだ」


それからこうやって抱き締めたかったんだ、って言ってルハンは俺を抱き締めた。
小柄な俺はトナカイの腕の中にすら収まってしまうらしい。


「そっか。サンキューな」


ルハンの背中に腕を回して背中を叩いてやれば、「ミンソガちっちゃくて可愛い」って。


「うるせー!」


ルハンが何者でも俺にとっては大切な人なんだ、と気づいた瞬間、俺の唇は奪われていた。



「……なっ!」


「ミンソク真っ赤ー!可愛い!!」




サンタクロースさんよ、今年のプレゼントは大盤振る舞いが過ぎませんか?






終わり
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