〇〇とチェン
160624 Time After Time レイチェン
ひとりグループ活動を離れて、一日中くたくたになるまで働いて、ようやく深夜にベッドへと潜り込む。
そんな時に、ふと思い出すのは、誰でもなく彼の笑顔だった。
レイヒョン、って眉を下げて笑って。そうして抱きつかれる温もり。もしくは気持ち良さそうに楽しそうに、伸びやかに広がる歌声。
ノートパソコンに取り込まれた、彼の歌声。
最近は、それが僕の子守唄だ。
僕の作ったメロディに歌をのせていくジョンデを、あの頃僕はいつだって自慢気に眺めていたんだ。
「ヒョン、そんなに生き急いでどうするんですか。もっとのんびり行きましょうよ」
ジョンデはいつだってそう言っていた。
なのにそうできないせっかちな僕を、「仕方ないですね」って笑っていたのもジョンデだった。
彼の歌声を聴くその時だけは、僕の時間もゆっくりと流れた。
ジョンデは、いつだって多くは語らない。それよりは行動で示すタイプだし、僕以上にストイックに励んでいる時もある。そうして僕はそんなジョンデを見て、さらに頑張ろうと思うんだ。
あの時、『いつもごめんね』と言ったのは、紛れもなく僕の本心。いつもそばにいられなくてごめんね、って。それから、いつも寄り添ってくれて、ありがとう、と。あの言葉を彼はどう受け取ったのかは知らないけれど、ベッキョンがちゃんと見せましたよって言ってたから、見てはもらえてるんだと思う。
会わない時間が増えて、久しぶりに合流すると、ジョンデはいつも恥ずかしそうに僕を見ていた。
君の歌、ちゃんと聴いたよ。とか、風邪引かないで元気にやってた?とか、話したいことはたくさんあったけど、なんだかうまくはいかなくて。もどかしい気持ちばかりが空回るんだ。
避けられてるのかな?って思ったけど、そうじゃないかもと思ったのは、時折視線が重なるから。物言いたげな彼の視線とぶつかって、すぐにミンソギヒョンやらベッキョンやらに隠れてしまうジョンデを、僕は苦笑しながら眺めていたんだ。
「ジョンデ、」
ようやく捕まえられたのは、合流してから暫く経ってからだった。
「なんですか?」って振り向いたジョンデは、気まずそうにというよりも、居た堪まれずに今にも逃げ出そうとしているように思えた。
「話、しない?」
「……なんの?」
「なんでも。離れていた間のお互いのこととか」
「別に、話すほどのことは……」
「じゃあ僕の話を聞いて」
いつもなら、真っ先に曲作りに励んでしまいそうな、ふと時間ができたそんな夜。けれど今日だけはジョンデとの時間に充てたいと思った。なのに……
「……聞きたくありません」
そう言ってジョンデはうつむいてしまった。
「どうして?」
「どうしても、です……」
僕は聞いてほしかった。
どんな仕事をしているときでも、どんな窮地に追い込まれたときでも、君ならどうするだろうかって考えていたことを。
いつだって僕はそれに助けられていたことを。
「僕はジョンデがいたから頑張れたんだよ?ジョンデが頑張ってるから、だから僕も頑張れた」
「そんな……」
「ね?だから、君は僕の話を聞く権利があるんだ」
「そんなの、ヒョンの理屈だし、ヒョンはいつでも正しいことを言ってるけど、僕はそんなに正しくなんかいられません……」
顔を上げたジョンデは、うっすらと笑みを浮かべているけど笑ってはいないそれを、僕はぼんやりと眺めた。
君の言ってるとこは、少しだけ僕には難しいんだ。
「ヒョンの口から、知らない人の名前とか、知らない場所とか、知らない出来事を聞くのは、嫌なんです……」
僕ってほら、意外と嫉妬深いですから。
そう言ってジョンデはへにゃりと笑った。
そんな風に笑わないで。僕が謝るから。
寂しい思いをさせた僕が。
「僕の気持ちは伝わってたと思ったんだけど」
「気持ち……?」
「いつもありがとうって。誕生日にそう送ったでしょ?いつも寄り添ってくれてありがとうって」
僕が中国で活動しているとき、ベッキョンやジュンミョンは何度も「がんばって」って応援してくれたけど、ジョンデが何か言ってくることはほとんどなかった。それでも、会えば笑ってくれるから僕は応援してくれてると思っていたんだ……だけど、もしかして僕は重大な思い違いをしていたのかもしれない。
「僕は、ヒョンに寄り添えていましたか……?僕はいつだって淋しくて、ヒョンが楽しそうに仕事をすればするほど、ヒョンの居場所がここじゃなくなっていくようで、すごく怖かったんです……ここじゃなくても輝けるなら、あのヒョンたちみたいに……」
ジョンデ、僕は……僕はね……
「愛する人を悲しませるような、そんなことはしないよ。これが僕の本心だって、君なら分かるよね?」
僕はこれでも大好きなジョンデを泣かせるようなことはしないって誓ったんだ。
僕が最初に決めた最大の決め事。
君がもし、僕の知らないところで涙を流すようなことがあったら、僕は絶対後悔するし、僕の決断は簡単に揺らいでしまうから。
「僕が悩んでるときにね、チャニョルの撮影現場に行ったんだ。そしたらチャニョルが言うんだよ。ジョンデもそんな顔してますって。だからどういうこと?って聞いたら、空元気振り絞ってる感じかなって」
知ってたのにそばに居てあげられなくてごめんね───
そう言って手を握ると、ジョンデの武骨な手が心許なく、ぎゅっと握り返されたのが分かった。
「ヒョン別に悪くないじゃないですか……」
「そうかもしれないけど……」
「ヒョンが頑張ってるの知ってます。誰よりも頑張って、やっと認められて。それなのにいつも僕らにまで申し訳なさそうな顔してて……だから僕、邪魔しちゃいけないって……僕が弱音を吐いちゃいけないんです」
ねぇ、ジョンデ。
"淋しい"って言うのは、僕らの弱音には含めないでおこうよ。これ以上ないくらいの甘い言葉なんだ、って今気づいたから。
ひょいっと体を伸ばして、ジョンデに口づけると、久しぶりのキスは初めての時みたいに照れくさかった。互いに耳元を赤くして、そうして見つめあえば、自然と笑みがこぼれて。全身がむず痒くなった。
ねぇ、ジョンデ。
何度でも僕を見つけて。僕が迷いそうになったら、何度でも。そしたら僕は君のもとに帰ってこられるから。それで何度でもこうしてキスをしよう。
心まで離れてしまわないように、何度でも。
おわり
Time After Time / Cyndi Lauper
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HappyBirthday to とむさん
いつも素敵なコメントとたくさんの愛情をくださるとむさんへ、みどより愛を込めて。
ひとりグループ活動を離れて、一日中くたくたになるまで働いて、ようやく深夜にベッドへと潜り込む。
そんな時に、ふと思い出すのは、誰でもなく彼の笑顔だった。
レイヒョン、って眉を下げて笑って。そうして抱きつかれる温もり。もしくは気持ち良さそうに楽しそうに、伸びやかに広がる歌声。
ノートパソコンに取り込まれた、彼の歌声。
最近は、それが僕の子守唄だ。
僕の作ったメロディに歌をのせていくジョンデを、あの頃僕はいつだって自慢気に眺めていたんだ。
「ヒョン、そんなに生き急いでどうするんですか。もっとのんびり行きましょうよ」
ジョンデはいつだってそう言っていた。
なのにそうできないせっかちな僕を、「仕方ないですね」って笑っていたのもジョンデだった。
彼の歌声を聴くその時だけは、僕の時間もゆっくりと流れた。
ジョンデは、いつだって多くは語らない。それよりは行動で示すタイプだし、僕以上にストイックに励んでいる時もある。そうして僕はそんなジョンデを見て、さらに頑張ろうと思うんだ。
あの時、『いつもごめんね』と言ったのは、紛れもなく僕の本心。いつもそばにいられなくてごめんね、って。それから、いつも寄り添ってくれて、ありがとう、と。あの言葉を彼はどう受け取ったのかは知らないけれど、ベッキョンがちゃんと見せましたよって言ってたから、見てはもらえてるんだと思う。
会わない時間が増えて、久しぶりに合流すると、ジョンデはいつも恥ずかしそうに僕を見ていた。
君の歌、ちゃんと聴いたよ。とか、風邪引かないで元気にやってた?とか、話したいことはたくさんあったけど、なんだかうまくはいかなくて。もどかしい気持ちばかりが空回るんだ。
避けられてるのかな?って思ったけど、そうじゃないかもと思ったのは、時折視線が重なるから。物言いたげな彼の視線とぶつかって、すぐにミンソギヒョンやらベッキョンやらに隠れてしまうジョンデを、僕は苦笑しながら眺めていたんだ。
「ジョンデ、」
ようやく捕まえられたのは、合流してから暫く経ってからだった。
「なんですか?」って振り向いたジョンデは、気まずそうにというよりも、居た堪まれずに今にも逃げ出そうとしているように思えた。
「話、しない?」
「……なんの?」
「なんでも。離れていた間のお互いのこととか」
「別に、話すほどのことは……」
「じゃあ僕の話を聞いて」
いつもなら、真っ先に曲作りに励んでしまいそうな、ふと時間ができたそんな夜。けれど今日だけはジョンデとの時間に充てたいと思った。なのに……
「……聞きたくありません」
そう言ってジョンデはうつむいてしまった。
「どうして?」
「どうしても、です……」
僕は聞いてほしかった。
どんな仕事をしているときでも、どんな窮地に追い込まれたときでも、君ならどうするだろうかって考えていたことを。
いつだって僕はそれに助けられていたことを。
「僕はジョンデがいたから頑張れたんだよ?ジョンデが頑張ってるから、だから僕も頑張れた」
「そんな……」
「ね?だから、君は僕の話を聞く権利があるんだ」
「そんなの、ヒョンの理屈だし、ヒョンはいつでも正しいことを言ってるけど、僕はそんなに正しくなんかいられません……」
顔を上げたジョンデは、うっすらと笑みを浮かべているけど笑ってはいないそれを、僕はぼんやりと眺めた。
君の言ってるとこは、少しだけ僕には難しいんだ。
「ヒョンの口から、知らない人の名前とか、知らない場所とか、知らない出来事を聞くのは、嫌なんです……」
僕ってほら、意外と嫉妬深いですから。
そう言ってジョンデはへにゃりと笑った。
そんな風に笑わないで。僕が謝るから。
寂しい思いをさせた僕が。
「僕の気持ちは伝わってたと思ったんだけど」
「気持ち……?」
「いつもありがとうって。誕生日にそう送ったでしょ?いつも寄り添ってくれてありがとうって」
僕が中国で活動しているとき、ベッキョンやジュンミョンは何度も「がんばって」って応援してくれたけど、ジョンデが何か言ってくることはほとんどなかった。それでも、会えば笑ってくれるから僕は応援してくれてると思っていたんだ……だけど、もしかして僕は重大な思い違いをしていたのかもしれない。
「僕は、ヒョンに寄り添えていましたか……?僕はいつだって淋しくて、ヒョンが楽しそうに仕事をすればするほど、ヒョンの居場所がここじゃなくなっていくようで、すごく怖かったんです……ここじゃなくても輝けるなら、あのヒョンたちみたいに……」
ジョンデ、僕は……僕はね……
「愛する人を悲しませるような、そんなことはしないよ。これが僕の本心だって、君なら分かるよね?」
僕はこれでも大好きなジョンデを泣かせるようなことはしないって誓ったんだ。
僕が最初に決めた最大の決め事。
君がもし、僕の知らないところで涙を流すようなことがあったら、僕は絶対後悔するし、僕の決断は簡単に揺らいでしまうから。
「僕が悩んでるときにね、チャニョルの撮影現場に行ったんだ。そしたらチャニョルが言うんだよ。ジョンデもそんな顔してますって。だからどういうこと?って聞いたら、空元気振り絞ってる感じかなって」
知ってたのにそばに居てあげられなくてごめんね───
そう言って手を握ると、ジョンデの武骨な手が心許なく、ぎゅっと握り返されたのが分かった。
「ヒョン別に悪くないじゃないですか……」
「そうかもしれないけど……」
「ヒョンが頑張ってるの知ってます。誰よりも頑張って、やっと認められて。それなのにいつも僕らにまで申し訳なさそうな顔してて……だから僕、邪魔しちゃいけないって……僕が弱音を吐いちゃいけないんです」
ねぇ、ジョンデ。
"淋しい"って言うのは、僕らの弱音には含めないでおこうよ。これ以上ないくらいの甘い言葉なんだ、って今気づいたから。
ひょいっと体を伸ばして、ジョンデに口づけると、久しぶりのキスは初めての時みたいに照れくさかった。互いに耳元を赤くして、そうして見つめあえば、自然と笑みがこぼれて。全身がむず痒くなった。
ねぇ、ジョンデ。
何度でも僕を見つけて。僕が迷いそうになったら、何度でも。そしたら僕は君のもとに帰ってこられるから。それで何度でもこうしてキスをしよう。
心まで離れてしまわないように、何度でも。
おわり
Time After Time / Cyndi Lauper
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HappyBirthday to とむさん
いつも素敵なコメントとたくさんの愛情をくださるとむさんへ、みどより愛を込めて。