〇〇とチェン
150626 脆く強固な僕らの世界(ビーグルド)
僕らは、いつも誰かが異分子だった。
互いの関わり方、交わり方、思いの丈がいつも交差していて綺麗な四角形になんてなり得ない。
それでも僕らは───
少なくとも僕は、四人でいることを壊せずにいる。
誰かの一声は、誰かを笑顔にするし、また誰かから笑顔を奪う。その繰返し。
そんな僕らの関係は、とても偽善的とも言える。
僕の場合で言えば、チャニョルが僕を呼ぶ「ギョンスヤー」という低く懐っこい声は僕を幸せにはするけど、同時にベッキョンの愛らしい笑顔を奪う事にもなるということ。
だから時には目をそらすことも重要な防御策になるんだ。
だってほら───
「ベッキョナー、どうした?」
「んー?なにが?」
「いや、なんかほら元気なさそうだったから」
「そんなことないけど」
元気のなさそうなベッキョンに気付いたチャニョルが彼に声をかけて、途端に笑顔になったベッキョンを見てジョンデが胸を締め付けている。
「ねぇジョンデ、僕の充電器知らない?」
「……ん?あ、ごめん、なに?」
「充電器。さっきそこに置いといたんだけど見当たらないから」
「ギョンスのって黒いやつだっけ」
「うん」
「あ、さっきレイヒョンが使ってたかも」
「そう、ありがと」
ねぇジョンデ、僕は君の視線の先を知ってるよ───
なんて言えるはずもないけど。
恋というのはとても厄介で、また友情というのも同じように厄介なんだ。
例えば、チャニョルを好きな僕と、ベッキョンを好きなジョンデが互いに手を組んだとしても、きっと誰も幸せにはなれない。
自分勝手な結末を選べないのは、そこに友情という厄介な情があるから。
そして重要なのは、これが恋愛というただ一面に置いては、ということ。
僕らには他にもたくさんの括りがある。
KかMかでいえばジョンデが異分子になるし、ボーカルラインで括ればチャニョルが異分子になる。ビーグルのノリに僕は入れないし、音楽の話の時ベッキョンが入れないこともある。
そう、僕らは仕事仲間でもあるということ。
それが何よりも厄介なんだ。
時にそれは好きな相手だということをも失念するくらい優位になるときがあって。
そういう意味で、僕らは奇妙な関係だった。
そうして僕らの関係から真っ先に離脱したのはベッキョンだった。
彼自身の叶わない恋と、彼自身が向けられる視線───その両方ともから彼は逃げ出した。
おそらくそれは火遊びみたいなものだったんだと思う。にも拘らず払わされた代償はあまりにも大きかった。
そしてそれに胸を痛めたのは、あろうことか彼の──または僕の、想い人であるチャニョルだった。
大誤算といえば大誤算で、それは僕にとってもベッキョンにとってもそうだった。
面倒見のいい彼は、あの出来事を機にベッキョンに想いを寄せるようになったんだと思う。
もっとも、このことで一番悲惨だったのはおそらくジョンデだったはずで。
だって、もはや彼の想いはどこにも行く宛がなくなってしまったんだから。報われる可能性が限りなくゼロになったということ。
それをどう思っているのか、僕はジョンデに聞いたことはない。
僕が客観的に思っただけだ。
「ベッキョナ、大丈夫?」
「……うん、あぁ」
迷惑かけてごめん、とあの時彼は謝った。
「君はバカだね」
「はは、」
力なく笑って瞳を潤ませたベッキョンを、僕はあの時怒ることができなかった。
チャニョルの愛情は、とてもひたむきなものだった。
ベッキョンに向ける視線はとても優しくて、いつだって彼の楯になれるようにと側を離れなかった。
にも拘らず、大人の事情も含めてその愛情を受け取ることのできないベッキョンは、それでもやっぱり嬉しそうでもあり、そしてもちろん悲しそうでもあった。
僕は───、僕はどう映っていたのだろう。酷く複雑な想いで彼らを見ていたことだけは確かだ。
だってほら、鏡写しのようなジョンデの顔が物語っている。
僕とジョンデは、報われないという意味ではとても似ていた。
ね、ジョンデ。
君の心はまだ平気かい?
あぁ、やっぱり平気なんかじゃなかったんだね。
僕がそれを見たのは、深夜の宿舎だった。
夜遊び派の面々は出掛けていて、僕は部屋で映画を観ていた時、スタッフから預かっていた仕事の書類のことを思い出してジュンミョニヒョンの部屋に持っていこうと廊下に出た時だった。
おそらくリビングにはジョンデが遊びに来ていて、ベッキョンと話し込んでいるようだった。
廊下の影から覗いたリビングでは、ベッキョンが久しぶりに楽しそうに笑っていて、ジョンデも幸せそうに見えた。
何となく邪魔しちゃいけないような気がして、書類は後でもいいかと廊下を引き返そうとした時、「ベッキョナ……」とジョンデの辛そうな声がして僕は何気無くまた振り返った。
立ち上がったベッキョンを、ジョンデが後ろから抱き締めていた。
「ジョンデヤ……」
「いいんだ、僕のことなんて。でもベッキョナ今幸せじゃないよね。僕はそれを見てるのが辛い……」
「……」
「早く幸せになってよ、僕のためにも」
ベッキョンの肩に頭を付けるジョンデの表情は、僕の方からは見えなかった。
だけど二人の背中が悲しそうに泣いているのだけは僕にも分かった。
なぜなら、その時僕の背中も泣いていたから。
僕らはみんな、なんて馬鹿なんだろう。
四人もいて、誰ひとり幸せになれないなんて。
「ただいまー」とチャニョルがビリヤードから帰って来て、ジョンデは直ぐ様ベッキョンから離れた。
「ギョンスヤ、なにやってんのそんなところで」
「え?あぁ、なんでもない」
廊下にいたのを見つかって、取り繕う暇もなく僕はチャニョルに捕まった。
「お土産買ってきたからみんなで食べようぜ」
「あ、うん……」
そうしてチャニョルに連れられてリビングに入るとジョンデと目が合って、彼は苦笑するように眉を下げた。
僕が見ていたことに気がついたんだろう。
「あれ?ジョンデ来てたんだ?」
「うん」
「ちょうどいいからお前も食べてけよ」
「なに?」
「トッポッキ買ってきた」
やったぁ、と声を上げてお皿を取りに行ったジョンデを後目に、チャニョルはベッキョンの元へと駆け寄って「ベッキョナも食べるだろ?」なんて笑って肩を組む。
僕の胸はつきんと痛んで、ベッキョンも「あぁ、もちろん!」なんて作ったような声を上げた。
僕らは一体何をしてるんだろうか。
壊せないものは確かにあって、消せない想いも、やるせない感情も、何一つ変えることができないんだ。
僕らは僕らが作り上げた世界で生きている。
それは酷く脆い世界なのかもしれないし、とても強固な世界なのかもしれない。
おわり
僕らは、いつも誰かが異分子だった。
互いの関わり方、交わり方、思いの丈がいつも交差していて綺麗な四角形になんてなり得ない。
それでも僕らは───
少なくとも僕は、四人でいることを壊せずにいる。
誰かの一声は、誰かを笑顔にするし、また誰かから笑顔を奪う。その繰返し。
そんな僕らの関係は、とても偽善的とも言える。
僕の場合で言えば、チャニョルが僕を呼ぶ「ギョンスヤー」という低く懐っこい声は僕を幸せにはするけど、同時にベッキョンの愛らしい笑顔を奪う事にもなるということ。
だから時には目をそらすことも重要な防御策になるんだ。
だってほら───
「ベッキョナー、どうした?」
「んー?なにが?」
「いや、なんかほら元気なさそうだったから」
「そんなことないけど」
元気のなさそうなベッキョンに気付いたチャニョルが彼に声をかけて、途端に笑顔になったベッキョンを見てジョンデが胸を締め付けている。
「ねぇジョンデ、僕の充電器知らない?」
「……ん?あ、ごめん、なに?」
「充電器。さっきそこに置いといたんだけど見当たらないから」
「ギョンスのって黒いやつだっけ」
「うん」
「あ、さっきレイヒョンが使ってたかも」
「そう、ありがと」
ねぇジョンデ、僕は君の視線の先を知ってるよ───
なんて言えるはずもないけど。
恋というのはとても厄介で、また友情というのも同じように厄介なんだ。
例えば、チャニョルを好きな僕と、ベッキョンを好きなジョンデが互いに手を組んだとしても、きっと誰も幸せにはなれない。
自分勝手な結末を選べないのは、そこに友情という厄介な情があるから。
そして重要なのは、これが恋愛というただ一面に置いては、ということ。
僕らには他にもたくさんの括りがある。
KかMかでいえばジョンデが異分子になるし、ボーカルラインで括ればチャニョルが異分子になる。ビーグルのノリに僕は入れないし、音楽の話の時ベッキョンが入れないこともある。
そう、僕らは仕事仲間でもあるということ。
それが何よりも厄介なんだ。
時にそれは好きな相手だということをも失念するくらい優位になるときがあって。
そういう意味で、僕らは奇妙な関係だった。
そうして僕らの関係から真っ先に離脱したのはベッキョンだった。
彼自身の叶わない恋と、彼自身が向けられる視線───その両方ともから彼は逃げ出した。
おそらくそれは火遊びみたいなものだったんだと思う。にも拘らず払わされた代償はあまりにも大きかった。
そしてそれに胸を痛めたのは、あろうことか彼の──または僕の、想い人であるチャニョルだった。
大誤算といえば大誤算で、それは僕にとってもベッキョンにとってもそうだった。
面倒見のいい彼は、あの出来事を機にベッキョンに想いを寄せるようになったんだと思う。
もっとも、このことで一番悲惨だったのはおそらくジョンデだったはずで。
だって、もはや彼の想いはどこにも行く宛がなくなってしまったんだから。報われる可能性が限りなくゼロになったということ。
それをどう思っているのか、僕はジョンデに聞いたことはない。
僕が客観的に思っただけだ。
「ベッキョナ、大丈夫?」
「……うん、あぁ」
迷惑かけてごめん、とあの時彼は謝った。
「君はバカだね」
「はは、」
力なく笑って瞳を潤ませたベッキョンを、僕はあの時怒ることができなかった。
チャニョルの愛情は、とてもひたむきなものだった。
ベッキョンに向ける視線はとても優しくて、いつだって彼の楯になれるようにと側を離れなかった。
にも拘らず、大人の事情も含めてその愛情を受け取ることのできないベッキョンは、それでもやっぱり嬉しそうでもあり、そしてもちろん悲しそうでもあった。
僕は───、僕はどう映っていたのだろう。酷く複雑な想いで彼らを見ていたことだけは確かだ。
だってほら、鏡写しのようなジョンデの顔が物語っている。
僕とジョンデは、報われないという意味ではとても似ていた。
ね、ジョンデ。
君の心はまだ平気かい?
あぁ、やっぱり平気なんかじゃなかったんだね。
僕がそれを見たのは、深夜の宿舎だった。
夜遊び派の面々は出掛けていて、僕は部屋で映画を観ていた時、スタッフから預かっていた仕事の書類のことを思い出してジュンミョニヒョンの部屋に持っていこうと廊下に出た時だった。
おそらくリビングにはジョンデが遊びに来ていて、ベッキョンと話し込んでいるようだった。
廊下の影から覗いたリビングでは、ベッキョンが久しぶりに楽しそうに笑っていて、ジョンデも幸せそうに見えた。
何となく邪魔しちゃいけないような気がして、書類は後でもいいかと廊下を引き返そうとした時、「ベッキョナ……」とジョンデの辛そうな声がして僕は何気無くまた振り返った。
立ち上がったベッキョンを、ジョンデが後ろから抱き締めていた。
「ジョンデヤ……」
「いいんだ、僕のことなんて。でもベッキョナ今幸せじゃないよね。僕はそれを見てるのが辛い……」
「……」
「早く幸せになってよ、僕のためにも」
ベッキョンの肩に頭を付けるジョンデの表情は、僕の方からは見えなかった。
だけど二人の背中が悲しそうに泣いているのだけは僕にも分かった。
なぜなら、その時僕の背中も泣いていたから。
僕らはみんな、なんて馬鹿なんだろう。
四人もいて、誰ひとり幸せになれないなんて。
「ただいまー」とチャニョルがビリヤードから帰って来て、ジョンデは直ぐ様ベッキョンから離れた。
「ギョンスヤ、なにやってんのそんなところで」
「え?あぁ、なんでもない」
廊下にいたのを見つかって、取り繕う暇もなく僕はチャニョルに捕まった。
「お土産買ってきたからみんなで食べようぜ」
「あ、うん……」
そうしてチャニョルに連れられてリビングに入るとジョンデと目が合って、彼は苦笑するように眉を下げた。
僕が見ていたことに気がついたんだろう。
「あれ?ジョンデ来てたんだ?」
「うん」
「ちょうどいいからお前も食べてけよ」
「なに?」
「トッポッキ買ってきた」
やったぁ、と声を上げてお皿を取りに行ったジョンデを後目に、チャニョルはベッキョンの元へと駆け寄って「ベッキョナも食べるだろ?」なんて笑って肩を組む。
僕の胸はつきんと痛んで、ベッキョンも「あぁ、もちろん!」なんて作ったような声を上げた。
僕らは一体何をしてるんだろうか。
壊せないものは確かにあって、消せない想いも、やるせない感情も、何一つ変えることができないんだ。
僕らは僕らが作り上げた世界で生きている。
それは酷く脆い世界なのかもしれないし、とても強固な世界なのかもしれない。
おわり