突然のスホ美シリーズ
D.O.
薄暗い照明に、下品な内装。
円形にせり出したステージの上には真っ直ぐに伸びる一本のポール。
そのステージを囲うように配列された古ぼけたワインレッドのベルベッドのソファー。
場違いなのは百も承知だ。
ここに来た理由を簡単に告げるなら、ただの気まぐれ。そんな些末な言葉で括られるだろう。
どうにも仕事が煮詰まってしまい、気分転換にと出かけた競馬場で財布に入っていた札をあるだけ掴んで適当に賭けたら、まさかの万馬券になった。手元には当初の元金の3倍にはなろうかという金額。どうせあぶく銭だと、そのまま繁華街へ出かけて立ち飲み居酒屋で一杯ひっかけて店を出たところで、ベンチコートを羽織ったボーイの男に掴まった。
やたらと背が高く懐っこいその男は、絶対に楽しいから寄ってってよ!と強引に腕を掴み店内へと引き込む。
「はい、飲み物。もうすぐ次のステージ始まるから!」
もう少し待ってて、と言ってその男は席を立つ。
残された僕は、場違いも甚だしいのは理解した上で、渡された水割りに口をつけた。
並んだソファーと半端な高さのテーブル。
派手な音楽と煌びやかに回るミラーボール。
照明が落とされると店内はヒートアップして、熱気がぐんと上がった気がした。
「…………あ」
無意識に小さく呟いていた。
スポットライトの照らすステージに上がってきたのは、真っ赤なドレスを着た女性。
真っ白な肌に大胆なスリットの赤いロングドレスがやけに眩しく見えた。
茶色の髪は肩につかない程度に切りそろえられていて、その人の表情を妖艶に隠している。
小指には、胸元と同じ赤い羽根が一片揺れていた。
綺麗な人だと思った。
音楽に合わせてポールに絡みつく姿も、スリットから覗く生白い脚も、重たい前髪に隠された目元も。
「あれ、うちのナンバーワンなの。綺麗っしょ」
件のボーイが仕事の合間にソファーの後ろから耳元で囁く。
僕はステージを食い入るように見つめながら、こくりと頷いた。
「山場はこれからだよ」
楽しんで!と低いわりに軽やかな声を上げてボーイは僕のグラスを交換していった。
なみなみと注がれたその酒に視線もそぞろに口をつける。
口の端からこぼれるのも構わずに、一気に半分ほど煽った。
一瞬の暗転ののち音楽と照明が切り替わる。
先ほどまでのアップテンポな曲からは変わって、一気に妖艶な空気に包まれた。
あぁ、これからだ。
わずかに覚悟して、ごくりと唾を飲み込んだ。
背中のファスナーが外れて、ゆっくりと肩が露になっていく。
胸元では赤い羽根がやわらかに揺れていて、もったいぶるようにドレスが徐々に滑り落ちていく。観客からは、わっと歓声が上がり、僕の心臓は理由もなく高鳴った。
目が離せない。釘付けになる。
結局抵抗むなしくするりと落ちたドレスによって現れた生身の身体は、息を飲むほど美しかった。
白く華奢な身体には余計な肉もなく、適度に鍛え上げられている。
なのに、あると思っていた膨らみはなく、僕の脳内はどう見ても性別を間違えている。
「……え!」
思わず上げた声は艶やかに響き渡ったサックスホンの音にかき消される。
口許に手を当てて、ほ、っと胸を撫でおろ したのも束の間、目を見開いて固まった瞬間、今度はその人と視線が重なった。
そうしてくすりと浮かべる笑み。
見せつけられるように披露されたダンスは、白い肌を惜しげもなく晒して、観客の喝采を浴びていた。
小指で揺れていた赤い羽根がいやに目についた。
飲み干したグラスは氷がだいぶやせ細っていて、自分の額と同じようにじっとりと汗をかいている。
その後にも何人かの人を見たけど、あの人ほどの衝撃はなかった。
一通り終わって「どうだった?」と件のボーイが声を掛ける。じろりと見上げれば、降参だというようにおどけて両手を上げてみせた。
「……面白かったです」
「よかった!また来てよ」
次があるかは分からない。
なんたって今日は気まぐれで入っただけなんだから。だけど今日は何だかとてつもないものを見たような気がして、多分あの小指で揺れた赤い羽根を忘れることはできないだろうと思う。
「あの、赤い衣装の人……」
「あぁジュニさん?」
「その人に、とても綺麗でしたと伝えてもらえますか?」
真っ赤なドレスも短く揺れるボブの髪も、綺麗に上がった睫毛や小指に揺れる一片の羽も、そして真っ白に透き通るような身体も。すべてが綺麗で妖艶で、悪夢のように引き込まれた。
スポットライトの熱なんかじゃ溶けないような冷たさに手を伸ばしそうになった。
「うーん、じゃあ直接伝えたら?」
「え?」
「もうすぐ降りてくるよ」
ほら!と言うとそのボーイは大きく手を振る。
僕はまたしても心臓が止まりそうになった。
いや、現実にそんなことはあり得ないんだけど。
客席に降りてきたその人は、さっきまでの人物とは別人のように屈託ない笑顔で駆け寄ってくるのだ。
途中で他にも残ってた常連らしき人たちに挨拶なんかしながら。ローブを羽織って。
なんで、何でなんだ。
ステージの上とは別人すぎる!
「チャニョラ、お疲れ!」
「お疲れさまでした。今日もさすがでしたよ」
「はは!ありがとう。そちらは……友達?」
僕の方に視線を寄越して、その人はやっぱり屈託なく笑う。
「いえ、通りで捕まえたお客さんっす!」
「そうなの?」
二人してこちらを見るので無言で頷くと、その人は一段と大きな声で笑った。
「こういうところは初めて?」
「はい……」
「どうでした?楽しかった?」
「はい……あの、とても……とても綺麗でした」
「俺?」
「はい」
「ありがとう!」
チャニョラ、聞いた?ヒョン誉められちゃった!
自分のことを”ヒョン”と呼ぶその人の頭の上では、やっぱり相変わらずボブのウィッグが揺れていて、それでも「また来てね」と少女のような笑みを浮かべるんだ。
どういうわけだか、自分がまたこの店に来るだろうことだけは分かったような気がした。
おわり
------------------
今回、いつものぷぅちょこさんたちとペンミ記念ってことで遊んでもらいました\(^o^)/
お手製の『カップリング自動生成機』と言う名のただのあみだくじ(笑)お二人に数字を選んでいただいて、私が作ったあみだでぷぅ様が引いたのがスホちゃん!ちょこ様が引いたのがギョンス!ということで、ドスホ縛りになりました☆ドスホってなかなか難しかったですねー((T_T))結局スホ美ちゃんを出動させてしまいました(笑)ギョンスがただのムッツリな話になってしまったwww
またリベンジするぞ!(`・ω・´)キリッ
薄暗い照明に、下品な内装。
円形にせり出したステージの上には真っ直ぐに伸びる一本のポール。
そのステージを囲うように配列された古ぼけたワインレッドのベルベッドのソファー。
場違いなのは百も承知だ。
ここに来た理由を簡単に告げるなら、ただの気まぐれ。そんな些末な言葉で括られるだろう。
どうにも仕事が煮詰まってしまい、気分転換にと出かけた競馬場で財布に入っていた札をあるだけ掴んで適当に賭けたら、まさかの万馬券になった。手元には当初の元金の3倍にはなろうかという金額。どうせあぶく銭だと、そのまま繁華街へ出かけて立ち飲み居酒屋で一杯ひっかけて店を出たところで、ベンチコートを羽織ったボーイの男に掴まった。
やたらと背が高く懐っこいその男は、絶対に楽しいから寄ってってよ!と強引に腕を掴み店内へと引き込む。
「はい、飲み物。もうすぐ次のステージ始まるから!」
もう少し待ってて、と言ってその男は席を立つ。
残された僕は、場違いも甚だしいのは理解した上で、渡された水割りに口をつけた。
並んだソファーと半端な高さのテーブル。
派手な音楽と煌びやかに回るミラーボール。
照明が落とされると店内はヒートアップして、熱気がぐんと上がった気がした。
「…………あ」
無意識に小さく呟いていた。
スポットライトの照らすステージに上がってきたのは、真っ赤なドレスを着た女性。
真っ白な肌に大胆なスリットの赤いロングドレスがやけに眩しく見えた。
茶色の髪は肩につかない程度に切りそろえられていて、その人の表情を妖艶に隠している。
小指には、胸元と同じ赤い羽根が一片揺れていた。
綺麗な人だと思った。
音楽に合わせてポールに絡みつく姿も、スリットから覗く生白い脚も、重たい前髪に隠された目元も。
「あれ、うちのナンバーワンなの。綺麗っしょ」
件のボーイが仕事の合間にソファーの後ろから耳元で囁く。
僕はステージを食い入るように見つめながら、こくりと頷いた。
「山場はこれからだよ」
楽しんで!と低いわりに軽やかな声を上げてボーイは僕のグラスを交換していった。
なみなみと注がれたその酒に視線もそぞろに口をつける。
口の端からこぼれるのも構わずに、一気に半分ほど煽った。
一瞬の暗転ののち音楽と照明が切り替わる。
先ほどまでのアップテンポな曲からは変わって、一気に妖艶な空気に包まれた。
あぁ、これからだ。
わずかに覚悟して、ごくりと唾を飲み込んだ。
背中のファスナーが外れて、ゆっくりと肩が露になっていく。
胸元では赤い羽根がやわらかに揺れていて、もったいぶるようにドレスが徐々に滑り落ちていく。観客からは、わっと歓声が上がり、僕の心臓は理由もなく高鳴った。
目が離せない。釘付けになる。
結局抵抗むなしくするりと落ちたドレスによって現れた生身の身体は、息を飲むほど美しかった。
白く華奢な身体には余計な肉もなく、適度に鍛え上げられている。
なのに、あると思っていた膨らみはなく、僕の脳内はどう見ても性別を間違えている。
「……え!」
思わず上げた声は艶やかに響き渡ったサックスホンの音にかき消される。
口許に手を当てて、ほ、っと胸を撫でおろ したのも束の間、目を見開いて固まった瞬間、今度はその人と視線が重なった。
そうしてくすりと浮かべる笑み。
見せつけられるように披露されたダンスは、白い肌を惜しげもなく晒して、観客の喝采を浴びていた。
小指で揺れていた赤い羽根がいやに目についた。
飲み干したグラスは氷がだいぶやせ細っていて、自分の額と同じようにじっとりと汗をかいている。
その後にも何人かの人を見たけど、あの人ほどの衝撃はなかった。
一通り終わって「どうだった?」と件のボーイが声を掛ける。じろりと見上げれば、降参だというようにおどけて両手を上げてみせた。
「……面白かったです」
「よかった!また来てよ」
次があるかは分からない。
なんたって今日は気まぐれで入っただけなんだから。だけど今日は何だかとてつもないものを見たような気がして、多分あの小指で揺れた赤い羽根を忘れることはできないだろうと思う。
「あの、赤い衣装の人……」
「あぁジュニさん?」
「その人に、とても綺麗でしたと伝えてもらえますか?」
真っ赤なドレスも短く揺れるボブの髪も、綺麗に上がった睫毛や小指に揺れる一片の羽も、そして真っ白に透き通るような身体も。すべてが綺麗で妖艶で、悪夢のように引き込まれた。
スポットライトの熱なんかじゃ溶けないような冷たさに手を伸ばしそうになった。
「うーん、じゃあ直接伝えたら?」
「え?」
「もうすぐ降りてくるよ」
ほら!と言うとそのボーイは大きく手を振る。
僕はまたしても心臓が止まりそうになった。
いや、現実にそんなことはあり得ないんだけど。
客席に降りてきたその人は、さっきまでの人物とは別人のように屈託ない笑顔で駆け寄ってくるのだ。
途中で他にも残ってた常連らしき人たちに挨拶なんかしながら。ローブを羽織って。
なんで、何でなんだ。
ステージの上とは別人すぎる!
「チャニョラ、お疲れ!」
「お疲れさまでした。今日もさすがでしたよ」
「はは!ありがとう。そちらは……友達?」
僕の方に視線を寄越して、その人はやっぱり屈託なく笑う。
「いえ、通りで捕まえたお客さんっす!」
「そうなの?」
二人してこちらを見るので無言で頷くと、その人は一段と大きな声で笑った。
「こういうところは初めて?」
「はい……」
「どうでした?楽しかった?」
「はい……あの、とても……とても綺麗でした」
「俺?」
「はい」
「ありがとう!」
チャニョラ、聞いた?ヒョン誉められちゃった!
自分のことを”ヒョン”と呼ぶその人の頭の上では、やっぱり相変わらずボブのウィッグが揺れていて、それでも「また来てね」と少女のような笑みを浮かべるんだ。
どういうわけだか、自分がまたこの店に来るだろうことだけは分かったような気がした。
おわり
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今回、いつものぷぅちょこさんたちとペンミ記念ってことで遊んでもらいました\(^o^)/
お手製の『カップリング自動生成機』と言う名のただのあみだくじ(笑)お二人に数字を選んでいただいて、私が作ったあみだでぷぅ様が引いたのがスホちゃん!ちょこ様が引いたのがギョンス!ということで、ドスホ縛りになりました☆ドスホってなかなか難しかったですねー((T_T))結局スホ美ちゃんを出動させてしまいました(笑)ギョンスがただのムッツリな話になってしまったwww
またリベンジするぞ!(`・ω・´)キリッ