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ルハンとシウミン


「あれ?セフナ、」
「なんですか?」
「ちょっとここ並んでみて」


練習室の鏡越し、隣に並ぶとミンソギヒョンは「あー、やっぱり」と呟いた。


「なにがですか?」
「何がってほら、見てみろよ。あーぁ、ついに抜かされたかぁ」



ヒョンの身長を抜かした日、僕はその人に初めて会った。











貴方が彼を好きなことは知っている。
だから、僕は……



「ヒョン、僕ルハニヒョンが好きなんです」


言うと、ミンソギヒョンはアーモンド型の大きな綺麗な目を盛大に見開いた。



僕の身長はあれからぐんぐん伸びて、とうにミンソギヒョンのそれを越えている。僕は、見下げた視線の先にヒョンを捕らえる。少し高圧的に見えるだろうか。そんな顔しなくたっていいのに。


「あ、あぁ知ってるよ、そんなの」
「そうじゃなくて……」


ヒョンが今必死で納得しようとした類いのものなんかじゃなくて。


「そうじゃなくて……、好き、なんです」


ゆっくりと言葉を区切って繰り返すと、ヒョンは僅かに眉間にシワを寄せて苦笑を浮かべた。


「ヒョン、協力してくれますよね?」


僕は狡いから、ミンソギヒョンが僕のお願いを断らないのを知っている。


「協力って……」


何をさせる気なんだ、って顔でじろりと視線を寄越した。


「別に難しいことなんて言いませんよ。ただ……」
「ただ……?」
「ヒョンたち仲良いから、そこに僕を混ぜてほしいだけです」


マンネの笑顔を貼り付けて言えば、「別にお前ら仲良いじゃん」って返された。
分かってないな。ルハニヒョンがどんな目でヒョンのことを見てるか。
全然分かってない。



そもそも、僕の前にルハニヒョンを連れてきたのはミンソギヒョンだった。僕の身長がミンソギヒョンを越えた日、恋なんて知らなかった幼い僕に、それを知らしめたのは紛れもなくヒョンだった。
あの時から僕の胸には消えない炎が灯っている。



「こんなこと言う僕のこと、軽蔑しますか?」
「あ、いや、それはないけど……」


言い掛けて、慌てて訂正を始める。


「うーん、や、うん。軽蔑はしないけど、応援も協力もできないな」
「え……なんでですか?」
「真っ当じゃないから」


いいかセフナ、こんなのは真っ当なことじゃないんだ。


ヒョンはまるで子どもに言い聞かせるように、そして、自分自身に言い聞かせるように、そう言った。

第一に男同士であるということ。
第二にメンバーであるということ。
だから自分は協力できないと。止めるのは長兄である自分の務めだとでも言うかのように、酷く当たり前の言葉を並べてヒョンは言った。


"ヒョンだってルハニヒョンのこと好きじゃないですか──"


溢れそうになった言葉を寸でのところで飲み込んだ。



ミンソギヒョンはいつだって狡い。
何も知らないって顔で本当は全てを知っているくせに。なのに自分からは一切動かないんだ。大人のフリをしてやり過ごす。

ヒョンからルハニヒョンを取ったら、ヒョンはどんな顔をしますか?


僕はただ、その顔を見たかっただけなのに。



「それでも、誰かを好きな気持ちを無くすことは、難しいと思います」


真っ直ぐにその一重の大きな瞳を見つめて言えば、玉のようなその目は僅かに揺らいだように見えた。


「そもそも……こんなもの、常識では捉えられないじゃないですか」
「それは分かるけど……」
「ヒョンが協力してくれないなら、他の人に頼むだけです」


努めて冷静に答えた。




「セフナぁ、どうしたの?」


タオが心配顔を向けるから「なんでもないよ」と笑顔を向ける。日頃表情が乏しいと言われる僕でも、笑顔を張り付けることくらい何ら難しくない。


策士、なのかもしれない。


こうやって何も知らないマンネのふりをしてあらゆることを掻き回してしまうんだ、と。
僕はただ……ヒョンを、ヒョンの心を乱したかった。僕がルハニヒョンを好きだと言えば、ヒョンはどんな風になるんだろうって。


僕が本当に好きなのは、ミンソギヒョン、貴方だから。




ルハニヒョンがミンソギヒョンを好きなことは知っている。とうの昔に本人からも聞かされていた。
それに恐らくミンソギヒョンがルハニヒョンを好きなことも。


どのみち僕が入り込む隙がないのなら、せめて掻き回してみたかったんだ。だってルハニヒョンを僕の前に連れてきた時、僕は初めて恋心を知ったから。ヒョンが僕に越されたと笑ったあの後「そういえば、新しく入った中国人なんだ」って僕の前に連れてきて、楽しそうに恥ずかしそうに二人で微笑みあって。
いつも隣で僕の面倒を見てくれていたミンソギヒョンを取ったのはルハニヒョンの方だ。

ルハニヒョンとミンソギヒョンが一緒にいる時間が増えるにつれ、僕とミンソギヒョンとの時間が減った。ダンスの練習も歌の練習も僕を置いて。ルハニヒョンに連れられていくヒョンの横顔は酷く面倒くさそうに、でもどこか嬉しそうに歪んでた。




「ヒョン、バブルティー買いに行きましょう!」


これは僕の免罪符。優しいルハニヒョンへの免罪符。
それと同時にミンソギヒョンへの当て付けだ。


「あぁ、いいよ!」


僕は、その優しくて美しい人が嫌いだった。ミンソギヒョンが可愛がってる弟だからとルハニヒョンも僕を可愛がってくれるけど、そんな愛情は御免だ。それでも、ルハニヒョンは優しかったから嫌いになんてなりきれなくて。


大人は狡い。





僕の背は、ルハニヒョンをも越えた。

その事をミンソギヒョンがどう思っているのかは知らないけど、あれからこの話はしていない。
ただ、僕がルハニヒョンに近づく度に表情を消すミンソギヒョンの顔だけが見えて。



僕はその事実に、満足する。





おわり
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