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ルハンとシウミン


遊びになら、何度か来たことがあったけど。泊めるのは初めてだった。
俺は、なんだか妙な心地でシャワーの音を聞いていた。



シャワーを終えてバスルームから出てきたルハンは、俺が出しておいたジャージを着て首からバスタオルを下げていた。


「ねぇミンソガー、ジャージちょうどいいんだけど」
「だから……?」
「なんでちっちゃくないの?」


拗ねたように口にするルハンに「ジャージのサイズなんてそんなに変わんないだろ」と言うと「ここはサイズの違いに萌えるとこでしょ!」と笑ったので「こらっ!」と叩く真似をした。

あはは、と三日月型の瞳で笑う。
酷く楽しそうに笑うルハンの笑顔は結構好きだ。



「まだ降ってるんだね」


不意にカーテンを引いたルハンは、窓の向こうを眺めて呟いた。


「あぁ、結構積りそう」
「だねぇ。これじゃ明日も電車遅れるね。泊めてもらって正解だったかも」
「とか言って休講になったりして」
「あ……」


あはは、と笑ってルハンが振り向く。
カーテンの向こうは真っ暗で。ただしんしんと雪が降り続いていた。
窓の枠が、今年も結露している。
あとで拭かなきゃ、なんて思って窓に気をとられていると、「でもミンソクと一日いれるからその方が嬉しいかも」とルハンが呟いた。

だから、そんなことをそんなトーンで言わないでほしい。さっきの至近距離の顔も、不意に見せる眼差しも、何が本当か分からなくなる。


「……寒くない?」


唐突に話題を変えて、ルハンの……いや俺の、気を散らしてコーヒーのマグを渡す。


「ありがと」
「あ、風呂上がりだからビールの方がよかった?」
「ううん、大丈夫。ミンソクってほんとコーヒー好きだよね」
「そう?」
「うん、いつも飲んでるイメージ」
「ルハナだっていつも飲んでるじゃん」
「それはほら、伝染ったんだよ。いつも一緒にいるから」
「そうなの?」
「うん」


僕元々紅茶党だし、と言うその言葉に、思わずなんだか苦笑した。
ちなみにさっき帰り道でカイロがわりにした缶コーヒーは冷蔵庫にしまってある。明日にでも温め直して飲めばいいか、なんて。

掴んだマグからは白い湯気を上げていて、淹れたての芳ばしい薫りが部屋一面を覆った。




「俺もシャワーしてくる」


コーヒーを飲み終えて俺も立ち上がる。
いってら~、なんてルハンが笑顔で手を振った。適当にしてていいから、と告げて俺は脱衣所のドアを開けた。


誰かの──ルハンの、出たての浴室は何だか妙な気分だった。
一人暮らしをしていると、ほとんど経験なんてしない湯気の上がった浴室。濡れた床。俺は一体何を考えてるんだと、熱いお湯を頭から一気に浴びた。




冷蔵庫の残り物で適当にご飯をつくって、録り溜めてあったテレビ上映の映画を見た。ベッドを背に並んで座って、缶ビールを空けた。
窓の向こうではやっぱり雪が降り積もっていて、時折シャッシャッと近所の人が雪を掻く音や、ガガガと除雪車が道路の雪を押していく音が聞こえた。


2本ほど見終えた頃隣を見れば、ぱちぱちと眠そうに目を瞬かせたルハンがいて思わず苦笑した。いつもはキラキラと輝いている瞳も眠気の前では太刀打ちできないのか、なんて。


「そろそろ寝る?」
「うーん……」


さて、実はテレビを見ながらぼんやりと考えていた問題がひとつ。


「寝るとこさぁ、どうする?」
「んー?どこでもいいよー」
「どこでもいいっていうか、客用の布団とか無いんだよなぁ」


泊めといてなんだけど、と頭を掻くとルハンはぱちりと大きく瞬きをした。


「ベッド、一緒でもいい?」


「……もちろん!」


さっきまでの眠そうな顔はどこへやら。ルハンはまた溢れんばかりの笑顔を見せる。
あー、なんか嫌な予感……


「止められなかったらゴメンねー」なんて嬉しそうに、主の俺よりも先にルハンははしゃいでベッドへと潜り込んだ。


「寒いからミンソクも早く!」
「あ、あぁうん。変なことするなよ?」
「それは、ほら。僕の理性に聞いてよ」
「アテにならないからお前に聞いてるんだろ」
「はは!」


何かを期待するとか、しないとか。
満更でもない自分とか。

少しの緊張を引き連れて入った布団の中。


何かが起こるとしたら、それはきっと───



ぜんぶ雪のせいだ。



至近距離で輝くルハンの瞳を見て、俺は盛大に頭を抱えた。




おわり
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