One-week Story
ディオ×スホ×事務職
総務部の昼休みは派遣の女子も社員の男子も総じて回り番だ。とはいえ、お昼当番は大して忙しくもないので鳴らない電話を前に大抵がのんびりとお喋りに興じている。
「ジョンイナ頑張ってるかなぁ」
「頑張ってるんじゃないですか?」
「暑い中外回りとか大変だよねぇ」
「そうですね」
月木の当番は僕とジュンミョニヒョンの二人で、向かいのデスクに座るヒョンは、頻りに最近営業に回された後輩の心配をしている。ここにいたときはヒョンが彼の教育係だった。
「ミンソクさんに付いてるみたいだし、心配ないですよ」
「そうだよね……あ、でもますます黒くなっちゃうかも!」
面白いこと言ったとばかりに一人ではははと笑うヒョンの笑い声を背に、僕は給湯室へ向かった。
専用のじょうろに水を汲んで戻ると、ヒョンはブーブーと文句を言って口を尖らせていた。
「話の途中だったのに勝手に消えないでよ!一人でしゃべってるみたいで恥ずかしいじゃん」
「あぁ、すみません」
僕はフロアの片隅にあるユッカエレファンティペスの元へと歩いた。
別名を『青年の木』と呼ばれる名前に相応しく、ユッカは今日も青々と葉を繁らせている。
さっそく葉の手入れをして、水を与えた。
このフロアでこの木の世話をしているのは、『恐らく』なんて前置詞もなく僕だけだ。
「ねぇ、その木ってどうしたんだっけ?」
「これですか?」
「うん」
「確か……このビルに引っ越してきたときに取引先からもらったんです」
「あぁ、そっか!」
『祝御移転』なんて書かれたカードが刺さって仰々しくラッピングされたそれは、引っ越しのバタバタが落ち着くと同時にフロアの隅に追いやられていて、それを見たとき僕は何だか居心地の悪そうにしてるこの木が放っておけなかったんだ。
それ以来、僕が地道に世話をしている。誰も気にしてなんかいないけど、たまに部長が「大きくなったなぁ」なんて笑ってくれるので、それはやっぱり嬉しいと思う。
お日様に当たる角度を調節していると、ヒョンは近づいてきて尚も話し始めた。
「で、なんでギョンスが世話してるの?」
「なんでって……誰もやらないから」
「ははは!そっか!確かに、うちの部じゃマメな人いないもんね」
「枯らされても嫌ですし」
「じゃあさ、ギョンスが辞めるときは持って帰んないと枯れちゃうね」
夏休み前の小学生みたい!と笑うジュンミョニヒョンの腕を、僕は気づくと掴んでいた。
「じゃあヒョンは?ヒョンは僕が辞めたら枯れますか?」
「え……?」
辞める予定なんて微塵もないけど。
笑顔のまま固まるヒョンを置いて、僕はじょうろを持つと給湯室へ向かった。
廊下に出る間際、青年の木と並んで固まるヒョンを見て可笑しくてくすりと笑った。
おわり