突然のスホ美シリーズ
Kai*Suho 続き
連絡先を交換して、待ち合わせをした。
俺はあのあと一度社に戻って、業務をこなして。指定された繁華街のある駅まで急ぐ。
「お待たせしました」
駅の改札の前で待つその人のもとへ駆け寄って、頭を下げる。
「お店どうしますか?」
「実はもう決めてるんです」
ワインは好きですか、と聞かれたので「強くはないですが」と返した。
「知り合いがやってるワインレストランがあって」
「へぇ、」
「カジュアルなんで値段は安いですけど料理は中々美味しいんですよ」
そこでもいいですか、と覗き込まれた顔に思わずどきりと心臓が跳ねた。
「こんばんは」
「あれ?ヒョン!いらっしゃい」
長身のウェイターが綺麗な笑顔でジュンミョンさんに近づき挨拶をすると、連れに気づいたのかこちらに向き直って「いらっしゃいませ」と丁寧にお辞儀された。
「あ、どうも」
普段から営業マンの癖に愛想が無さすぎると言われてるとおり、無愛想な挨拶だと思った。失敗したなぁと少しだけ自己嫌悪。
「チャニョルって言って大学の後輩なんです」
席に案内されながらジュンミョンさんにそのウェイターの紹介をされて、「キムジョンインと申します、初めまして」と挨拶をした。
今度は少しは上手くできただろうか。
「取引先の方で」
「あぁ、そうなんですか!」
どうぞごゆっくりお過ごしください、と丁寧な笑顔を向けられる。
料理とワインは折角なのでおすすめのものにした。
「それで……」
二人きりになったところでジュンミョンさんが気まずそうに切り出した。
「はい?」
「あの、アレのことなんですけど……」
「アレ?」
「じょ、女装……です」
「あぁ」
「誤解しないでほしいんですけど、別にいつもああな訳じゃないですから……!」
冷や汗でも流しそうなほど慌てた様子で、ジュンミョンさんは口早にそう言った。
「あ、そうなんですか?」
「はい!あの……別に趣味とかな訳では……」
「そうですか」
残念ですね。
気づいたら口から漏れていたらしく、ジュンミョンさんは「え……」と固まっていた。
「あぁ、すみません。似合ってたのでつい」
徐々に朱に染まっていく頬が綺麗だな、と思う。
実は、と話された内容は、付き合っていた男が前触れもなく急に結婚したからあまりにムカついてやってしまった、というもので。
この人にもそんな激情があるのか、と不思議な気分になった。
「でも、あの花嫁より貴方の方が綺麗でしたよ」
「な……!」
これは事実だ。
目の前にいるジュンミョンさんの方が何倍も綺麗だと思う。今はスーツ姿のどこからどう見ても真面目なサラリーマンだけど、それでもジュンミョンさんの方が綺麗なんだ。
綺麗、に男も女もない。
「あんなの、化粧とかのお陰ですよ」
ジュンミョンさんはポリポリとこめかみの辺りを掻きながら苦笑を浮かべた。
あの赤いドレスはチャニョルさんのお姉さんのを借りて、化粧も友人に手伝ってもらったのだという。
「でも、男と付き合ってたのは事実なんですね」
「それは……まぁ……」
引きますよね、とうつ向いてしまったところで、ワインが運ばれてきた。
「アルゼンチン産の白ワインです」
「……あぁ、ありがとう」
「別に引きませんよ。驚きはしましたけど」
「え……?」
とくとくと琥珀色の液体がグラスに注がれる音が響く。
スマートに配膳していたその人は、会話の途中と思ったのか空気を読んで説明もそこそこに下がっていった。
そっとグラスを持ち上げると、ジュンミョンさんも慌てたように、それでも綺麗な所作でグラスを掴んだ。
「それじゃあ、お疲れ様です」と二人してグラスを軽く持ち上げる。
別になにを期待しているわけでもない。
なのに正面に座るその人を見ると、何故か胸騒ぎがして抑えられなかったのはどういうわけだろう。
それからあとは、ほとんどが仕事の話とか、チャニョルさんの話とか、日常的な話だった。お腹いっぱいになるまで食べて、ほろ酔いになるまで飲んで。そろそろ帰りましょうか、となると、ジュンミョンさんは本当にカードを取り出して会計を済ませてしまった。
「はは!口止め料、です」
「あんなの別に冗談だったんですけど」
「いいんです。本当に誰かにしゃべられたら困りますから」
店を出ながら悪戯に笑う。
「俺、そんなに口軽く見えます……か?」
「いや、キミはとっても誠実な人だと思うよ」
「それなら……」
「でもさ、もしも会社で噂になったとき、」
キミを疑いたくはないから。
なんだそれ、と思いながらもこの人なりの誠意の見せ方なのかと考えて、思わず噴き出した。
「可笑しいかな?」
「いえ、いいと思いますよ。そのかわり、」
次はご馳走させてください。
そう言うと、ジュンミョンさんは嬉しそうに頭を掻いて笑みを浮かべる。
酒も入ってすっかり仕事モードじゃないその人は、なんだか綺麗というよりは可愛く見えて……
胸騒ぎを覚えながらも、ひとまず次回の約束を、なんて柄にもなく必死になってる自分に小さく笑った。
おわり
連絡先を交換して、待ち合わせをした。
俺はあのあと一度社に戻って、業務をこなして。指定された繁華街のある駅まで急ぐ。
「お待たせしました」
駅の改札の前で待つその人のもとへ駆け寄って、頭を下げる。
「お店どうしますか?」
「実はもう決めてるんです」
ワインは好きですか、と聞かれたので「強くはないですが」と返した。
「知り合いがやってるワインレストランがあって」
「へぇ、」
「カジュアルなんで値段は安いですけど料理は中々美味しいんですよ」
そこでもいいですか、と覗き込まれた顔に思わずどきりと心臓が跳ねた。
「こんばんは」
「あれ?ヒョン!いらっしゃい」
長身のウェイターが綺麗な笑顔でジュンミョンさんに近づき挨拶をすると、連れに気づいたのかこちらに向き直って「いらっしゃいませ」と丁寧にお辞儀された。
「あ、どうも」
普段から営業マンの癖に愛想が無さすぎると言われてるとおり、無愛想な挨拶だと思った。失敗したなぁと少しだけ自己嫌悪。
「チャニョルって言って大学の後輩なんです」
席に案内されながらジュンミョンさんにそのウェイターの紹介をされて、「キムジョンインと申します、初めまして」と挨拶をした。
今度は少しは上手くできただろうか。
「取引先の方で」
「あぁ、そうなんですか!」
どうぞごゆっくりお過ごしください、と丁寧な笑顔を向けられる。
料理とワインは折角なのでおすすめのものにした。
「それで……」
二人きりになったところでジュンミョンさんが気まずそうに切り出した。
「はい?」
「あの、アレのことなんですけど……」
「アレ?」
「じょ、女装……です」
「あぁ」
「誤解しないでほしいんですけど、別にいつもああな訳じゃないですから……!」
冷や汗でも流しそうなほど慌てた様子で、ジュンミョンさんは口早にそう言った。
「あ、そうなんですか?」
「はい!あの……別に趣味とかな訳では……」
「そうですか」
残念ですね。
気づいたら口から漏れていたらしく、ジュンミョンさんは「え……」と固まっていた。
「あぁ、すみません。似合ってたのでつい」
徐々に朱に染まっていく頬が綺麗だな、と思う。
実は、と話された内容は、付き合っていた男が前触れもなく急に結婚したからあまりにムカついてやってしまった、というもので。
この人にもそんな激情があるのか、と不思議な気分になった。
「でも、あの花嫁より貴方の方が綺麗でしたよ」
「な……!」
これは事実だ。
目の前にいるジュンミョンさんの方が何倍も綺麗だと思う。今はスーツ姿のどこからどう見ても真面目なサラリーマンだけど、それでもジュンミョンさんの方が綺麗なんだ。
綺麗、に男も女もない。
「あんなの、化粧とかのお陰ですよ」
ジュンミョンさんはポリポリとこめかみの辺りを掻きながら苦笑を浮かべた。
あの赤いドレスはチャニョルさんのお姉さんのを借りて、化粧も友人に手伝ってもらったのだという。
「でも、男と付き合ってたのは事実なんですね」
「それは……まぁ……」
引きますよね、とうつ向いてしまったところで、ワインが運ばれてきた。
「アルゼンチン産の白ワインです」
「……あぁ、ありがとう」
「別に引きませんよ。驚きはしましたけど」
「え……?」
とくとくと琥珀色の液体がグラスに注がれる音が響く。
スマートに配膳していたその人は、会話の途中と思ったのか空気を読んで説明もそこそこに下がっていった。
そっとグラスを持ち上げると、ジュンミョンさんも慌てたように、それでも綺麗な所作でグラスを掴んだ。
「それじゃあ、お疲れ様です」と二人してグラスを軽く持ち上げる。
別になにを期待しているわけでもない。
なのに正面に座るその人を見ると、何故か胸騒ぎがして抑えられなかったのはどういうわけだろう。
それからあとは、ほとんどが仕事の話とか、チャニョルさんの話とか、日常的な話だった。お腹いっぱいになるまで食べて、ほろ酔いになるまで飲んで。そろそろ帰りましょうか、となると、ジュンミョンさんは本当にカードを取り出して会計を済ませてしまった。
「はは!口止め料、です」
「あんなの別に冗談だったんですけど」
「いいんです。本当に誰かにしゃべられたら困りますから」
店を出ながら悪戯に笑う。
「俺、そんなに口軽く見えます……か?」
「いや、キミはとっても誠実な人だと思うよ」
「それなら……」
「でもさ、もしも会社で噂になったとき、」
キミを疑いたくはないから。
なんだそれ、と思いながらもこの人なりの誠意の見せ方なのかと考えて、思わず噴き出した。
「可笑しいかな?」
「いえ、いいと思いますよ。そのかわり、」
次はご馳走させてください。
そう言うと、ジュンミョンさんは嬉しそうに頭を掻いて笑みを浮かべる。
酒も入ってすっかり仕事モードじゃないその人は、なんだか綺麗というよりは可愛く見えて……
胸騒ぎを覚えながらも、ひとまず次回の約束を、なんて柄にもなく必死になってる自分に小さく笑った。
おわり