突然のスホ美シリーズ
Sehun
ルハニヒョンより綺麗な人なんて、いるわけがないと思っていた。
日頃から親しくしてるヨリヒョンに「お前なにしてた?暇ならちょっと飲みに行かない?」なんて誘われて、「いいですよ」と繁華街のいつもの居酒屋に行って、いつものように仕事の愚痴やら野望やら聞かされて、「そうなんですか、大変ですね」って適当な相づち打って、「お前は気楽そうでいいよな」とかワケの分からない八つ当たりされて。
(僕だってこう見えて色々考えたり悩んだりしてるっていうのに。ただそれをヨリヒョンみたいには表に出さないだけで。)
とにかく、いつものようによく分からない絡まれ方をしてると、気分がよくなってきたのか「折角だからとっておきの店に連れてってやるよ」と言って、ヨリヒョンは僕の腕を掴んで居酒屋を出た。
(まぁこんなんだけど僕は決してヨリヒョンを嫌いな訳じゃない。面白いし面倒見もいい。何より年下に対して無駄に気前がいい。)
呼び込みの女の人達が店先で誘惑の声を撒き散らしてる中、そんなものには一切の目もくれずヨリヒョンに連れられて着いた店は、雑居ビルの三階にあるクラブだった。クラブといっても踊る方ではなく、着飾った女性が隣に座ってお酒を飲みながら歓談する方。
こういうお店、僕はもちろん初めてだ。
ヨリヒョンは慣れた様子で店に入り挨拶をする。
「いらっしゃいませ~!あ、チャンニョラまた来たんだ~!」と下がり眉の笑顔の女性が近づいてきてボックス席へと案内される。席についておしぼりを渡されたところでヨリヒョンがその女性に「いる?」と聞くと「ちょっと待ってて」と踵を返していった。
「よく来るんですか?」
「うんまぁ、たまに」
「はい?たまにだって??」
ヒョンが答えたのと同時にひょっこりと女性が現れて可笑しそうにケラケラと笑いながら言う。
「週3で来てるじゃん!」
「あ、や、ちょっと!ベク!!」
どうやらヒョンは、このベクという女性にご執心のようだ。
「あ、いらっしゃいませ!チャニョリの友達?」
「あぁうん、セフンっていうんだ」
ヨリヒョンが紹介してくれたので「どうも」と軽く頭を下げた。
「へぇ、可愛いね」なんてえらく簡単に言ってくれるもんだから、巧い返しが見つからない。あまり親しくない人とポンポン会話のキャッチボールをするのは得意ではないのだ。ましてや女性となれば直のこと。
ベクさんと一緒に来て僕の隣に座ったのはタオというスレンダーで神秘的な女性だった。鋭い目付きに驚いて身構えると、ふにゃりと笑って「よろしくでーす」と首をかしげる。
その時ふわりと漂ったのはとても甘ったるい香水で。甘ったるいしゃべり方とよく似合ってると思う。
はじめての世界に戸惑いながら隣を見れば、ヨリヒョンはベクさんにデレデレで、いい様に扱われてるのが見てて可笑しかった。
(そうだ、ヨリヒョンが昔からツンデレが好きだったんだ。)
「なに飲みますかぁ?」とまた甘ったるいしゃべり方で聞かれたのでヨリヒョンと同じく水割りを作ってもらって、僕はごくりと飲み込んだ。そんな僕をタオさんはにこにこと見ている。
「フンはぁ、タオのちょータイプ!ヨルくん、連れてきてくれてありがとう!」
そう言ってタオさんは僕の腕をがっしりと掴んで肩に頭を凭れさせてくる。ふわりと香水の香りが鼻を掠めた。ヨリヒョンを見れば「よかったな!」と爆笑寸前の顔で。
あぁもー、ホントに……!
拗ねて顔を背けてると「チャニョルくん、」と不意に声がかかって、自分が呼ばれたわけでもないのにゆっくりと視線を戻した。
そこには真っ赤なドレスを来た白い肌の女性が立っていて、「いらっしゃいませ」と綺麗にお辞儀をする。
はらりと落ちた髪の毛を耳に掛けながら、ふわりと微笑んだ。
──僕は、ルハニヒョンより綺麗な人なんて、いるわけがないと思っていた。
でも今、そうじゃなかったと気付いた。
気付いてしまった。
目の前のその人を見て。
こんな綺麗な人っているんだな、って僕の足りない語彙力じゃ表せられないような、そんな綺麗な人。
呆然としてる僕にその人はくすりと笑った。
「あ、ママ!」
「……ママ?」
ヨリヒョンが放った言葉を聞き返す。
「そう、この店のママだよ」
「いらっしゃいませ」
来てくれて嬉しいわ、と微笑まれて心臓がびくりと飛び跳ねた。
優雅で品のある仕草は僕のツボをピンポイントで捉えた。それからふわりと香る香りは甘くて、でも甘すぎなくてやっぱり優雅で品のある香り。大胆に入ったスカートのスリットからは白くて綺麗な足が見え隠れしていて、思わずごくりと唾を飲み込んだ。
ルハニヒョン、とは知り合いのヒョンで、それはそれは絶世の美女顔で、女装なんかしなくても十分にそこら辺の女性より綺麗な人で。本人は嫌がるからあまり言わないけれど、僕は今までルハニヒョンより可愛い人もルハニヒョンより綺麗な人も見たことがない。
だけど今日、初めてその人を見て、僕はこっそり心の中でルハニヒョンに謝った。
「大きなお世話だよ」って笑うヒョンが脳裏に浮かぶ。
「チャニョルくんのお友達?」
「え……?あぁはい」
セフンです、とトリップしていた思考を取り戻して戸惑いながら答えると、隣に座るタオさんが絡み付く腕に力を込めた気がした。
「ママ、ダメだよ!フンはタオのなんだからね!」
何がタオのだよ……
そんなタオさんの言動に、ママは口許に手を当てて華奢な肩を震わせる。
目が、離せない。
「セフナには高嶺の花だよ!」
呆然とする僕にヨリヒョンもクスクスと笑った。
なに言ってるの、と微笑むその人からまたふわりと香水の香りがして。
思わずまたごくりと唾を飲み込んだ。
終わり
ルハニヒョンより綺麗な人なんて、いるわけがないと思っていた。
日頃から親しくしてるヨリヒョンに「お前なにしてた?暇ならちょっと飲みに行かない?」なんて誘われて、「いいですよ」と繁華街のいつもの居酒屋に行って、いつものように仕事の愚痴やら野望やら聞かされて、「そうなんですか、大変ですね」って適当な相づち打って、「お前は気楽そうでいいよな」とかワケの分からない八つ当たりされて。
(僕だってこう見えて色々考えたり悩んだりしてるっていうのに。ただそれをヨリヒョンみたいには表に出さないだけで。)
とにかく、いつものようによく分からない絡まれ方をしてると、気分がよくなってきたのか「折角だからとっておきの店に連れてってやるよ」と言って、ヨリヒョンは僕の腕を掴んで居酒屋を出た。
(まぁこんなんだけど僕は決してヨリヒョンを嫌いな訳じゃない。面白いし面倒見もいい。何より年下に対して無駄に気前がいい。)
呼び込みの女の人達が店先で誘惑の声を撒き散らしてる中、そんなものには一切の目もくれずヨリヒョンに連れられて着いた店は、雑居ビルの三階にあるクラブだった。クラブといっても踊る方ではなく、着飾った女性が隣に座ってお酒を飲みながら歓談する方。
こういうお店、僕はもちろん初めてだ。
ヨリヒョンは慣れた様子で店に入り挨拶をする。
「いらっしゃいませ~!あ、チャンニョラまた来たんだ~!」と下がり眉の笑顔の女性が近づいてきてボックス席へと案内される。席についておしぼりを渡されたところでヨリヒョンがその女性に「いる?」と聞くと「ちょっと待ってて」と踵を返していった。
「よく来るんですか?」
「うんまぁ、たまに」
「はい?たまにだって??」
ヒョンが答えたのと同時にひょっこりと女性が現れて可笑しそうにケラケラと笑いながら言う。
「週3で来てるじゃん!」
「あ、や、ちょっと!ベク!!」
どうやらヒョンは、このベクという女性にご執心のようだ。
「あ、いらっしゃいませ!チャニョリの友達?」
「あぁうん、セフンっていうんだ」
ヨリヒョンが紹介してくれたので「どうも」と軽く頭を下げた。
「へぇ、可愛いね」なんてえらく簡単に言ってくれるもんだから、巧い返しが見つからない。あまり親しくない人とポンポン会話のキャッチボールをするのは得意ではないのだ。ましてや女性となれば直のこと。
ベクさんと一緒に来て僕の隣に座ったのはタオというスレンダーで神秘的な女性だった。鋭い目付きに驚いて身構えると、ふにゃりと笑って「よろしくでーす」と首をかしげる。
その時ふわりと漂ったのはとても甘ったるい香水で。甘ったるいしゃべり方とよく似合ってると思う。
はじめての世界に戸惑いながら隣を見れば、ヨリヒョンはベクさんにデレデレで、いい様に扱われてるのが見てて可笑しかった。
(そうだ、ヨリヒョンが昔からツンデレが好きだったんだ。)
「なに飲みますかぁ?」とまた甘ったるいしゃべり方で聞かれたのでヨリヒョンと同じく水割りを作ってもらって、僕はごくりと飲み込んだ。そんな僕をタオさんはにこにこと見ている。
「フンはぁ、タオのちょータイプ!ヨルくん、連れてきてくれてありがとう!」
そう言ってタオさんは僕の腕をがっしりと掴んで肩に頭を凭れさせてくる。ふわりと香水の香りが鼻を掠めた。ヨリヒョンを見れば「よかったな!」と爆笑寸前の顔で。
あぁもー、ホントに……!
拗ねて顔を背けてると「チャニョルくん、」と不意に声がかかって、自分が呼ばれたわけでもないのにゆっくりと視線を戻した。
そこには真っ赤なドレスを来た白い肌の女性が立っていて、「いらっしゃいませ」と綺麗にお辞儀をする。
はらりと落ちた髪の毛を耳に掛けながら、ふわりと微笑んだ。
──僕は、ルハニヒョンより綺麗な人なんて、いるわけがないと思っていた。
でも今、そうじゃなかったと気付いた。
気付いてしまった。
目の前のその人を見て。
こんな綺麗な人っているんだな、って僕の足りない語彙力じゃ表せられないような、そんな綺麗な人。
呆然としてる僕にその人はくすりと笑った。
「あ、ママ!」
「……ママ?」
ヨリヒョンが放った言葉を聞き返す。
「そう、この店のママだよ」
「いらっしゃいませ」
来てくれて嬉しいわ、と微笑まれて心臓がびくりと飛び跳ねた。
優雅で品のある仕草は僕のツボをピンポイントで捉えた。それからふわりと香る香りは甘くて、でも甘すぎなくてやっぱり優雅で品のある香り。大胆に入ったスカートのスリットからは白くて綺麗な足が見え隠れしていて、思わずごくりと唾を飲み込んだ。
ルハニヒョン、とは知り合いのヒョンで、それはそれは絶世の美女顔で、女装なんかしなくても十分にそこら辺の女性より綺麗な人で。本人は嫌がるからあまり言わないけれど、僕は今までルハニヒョンより可愛い人もルハニヒョンより綺麗な人も見たことがない。
だけど今日、初めてその人を見て、僕はこっそり心の中でルハニヒョンに謝った。
「大きなお世話だよ」って笑うヒョンが脳裏に浮かぶ。
「チャニョルくんのお友達?」
「え……?あぁはい」
セフンです、とトリップしていた思考を取り戻して戸惑いながら答えると、隣に座るタオさんが絡み付く腕に力を込めた気がした。
「ママ、ダメだよ!フンはタオのなんだからね!」
何がタオのだよ……
そんなタオさんの言動に、ママは口許に手を当てて華奢な肩を震わせる。
目が、離せない。
「セフナには高嶺の花だよ!」
呆然とする僕にヨリヒョンもクスクスと笑った。
なに言ってるの、と微笑むその人からまたふわりと香水の香りがして。
思わずまたごくりと唾を飲み込んだ。
終わり