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学パロシリーズ


その人は、舞うように綺麗に踊る。



図書室で過ごす退屈な放課後。窓の向こうには踊る君。いつからだろう。こうやって窓の向こうを眺めるようになったのは。
中庭に面した大きな窓に向かって一心不乱に踊る姿は、どこか危機迫っていて、初めて見たときは目が離せなくなるような感覚で息を飲んだ。


「知ってる、そいつ」

その話をすると親友のベッキョンが教えてくれた。

「多分、1年のジョンインってやつだよ」
「有名なの?」
「あー、イケメンだしダンスも上手いみたいだからなぁ」

でも、すごい愛想悪いみたいよ。との補足情報付き。

愛想ね。って、別に話すことないだろうから関係ないけど。
って思ってたはずなのに。




放課後の図書室。いつものように誰も来ないそこで、下校時刻までの退屈な時間を消化していると、いつもは窓の向こうで踊ってるはずの彼が入ってきた。驚いてじっと見ていると、おもむろに空いている席へと座って、寝始めた。

本来はダメだけど自分の他には誰もいないし、まぁいいかと放っておく。伏せた背中が小さく上下して、呼吸の動きすら綺麗なのかと目を奪われた。

そうしてひたすらにじっと見つめること一時間。シャツの上からでも分かる流線の美しさに、その背中に無性に触れてみたくなって、気づくと彼のそばに立っていた。

そっと指先で触れる。
その背中がびくりと大きく動いて、思わず固まった。

ゆっくりと向けられた視線は、綺麗な二重でいまだ眠気を孕んでいるようだ。


「誰……?」
「……あ、ごめん」


酷く面倒くさそうな視線にたじろぐ。


「あ、あの……図書委員で……」


とっさにそう言うと、彼は考えるそぶりをして、「あぁ、すみません」と言って立ち上がった。

「あ、いや……いいよ。誰もいないし」

すると少し考えて「それじゃあ……」とまた席に着いて寝ようとするので、僕は咄嗟に口を開く。

「あの……今日は、踊らないの?」
「……は?」

何で知ってるの?って目。
僕が窓の向こうを指すと「あぁ」って興味無さげな返事。
別にいいんだけど。

ただ、君の踊る姿が好きだったから。



「だから言ったじゃん」とベッキョンが笑うから、僕は得意のチョークスリーパーをお見舞いして差し上げた。

だって本当に綺麗なんだ。しなやかに力強く舞う姿は色気すら感じるほどで。まぁ、別にわかってもらおうとは思ってないけど。自分にないものを持ってる人にはとても惹かれるから、そんな感じだと思う。



あ、踊ってる。やっぱり綺麗だな、ってまた目を奪われた放課後。
彼は不意に振り向いた。


あっ……


そして目が合うとどこかへ消えていく。

さすがに迷惑か、って苦笑いして席について本を読み始めると、コンコンと窓を叩く音。振り向くと窓から彼の顔が覗いていた。


「……なにか?」


驚きながらも駆け寄って、窓を開け声を掛ける。

「ん……」と押し付けられた缶コーヒー。

「……僕に?」
「あー、うん」

恥ずかしそうに差し出されたそれを受け取る。

「暇じゃないの?」
「え……?」
「毎日、そんなとこにいて……」
「あぁ。別に、本読むの好きだし。それに……」

君が踊るのを見てるから。

そう言うと、彼は恥ずかしそうにはにかんだ。
それからもポツリポツリと会話を繋げる。別に愛想は悪くない。


「ダンス、好きなの?」
「あー、えぇまぁ」
「そっか……」

窓越しに少しの会話をしながら飲んだコーヒーは、いつもより少しだけ苦かった。



終わり
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