学パロシリーズ
クリスの場合
──あ、空が呼んでる
そう思った。
聞き流すだけの授業中、ふと空を眺めたら、鮮やかなスカイブルーが広がっていて。こんな小さな箱の中で、授業を聞いてるのなんか馬鹿らしくなって。俺も相当クレイジーだな、なんて。天然はレイあたりにでも任せておけばいいものを。馬鹿げてる。
あー、煙草吸いたい。
授業終了のチャイムが鳴って、俺はそそくさと教室を出た。
ここ最近、やたらとしつこく俺のまわりを彷徨くクラス委員長のせいで、教室という空間が息苦しくて仕方ない。なのに。
「……なに?」
教室を出た俺の後ろには、やっぱりあいつがいたんだ。
授業の間の休み時間なんて、せいぜい用を足す程度の時間しかないのに、こんな離れた特別棟のさらに奥、あまり人がいない辺りまで来た俺の後ろには、何を察したのか困った顔の委員長がいた。
「あ、や……えっと、授業、出ないの?」
「は?」
「や、だから……その……授業……」
怖いならついつてこなければいいのに。
そいつは恐る恐ると口を開く。
正しく真面目で、道を外れたりなんかしたことがないんだろう。
委員長のジュンミョンは酷く真面目な奴だ。
すぐにふらふら居なくなる俺について、担任にでも何か言われたんだろう。律儀に連れ戻そうと後を付いてきたけど、話しかけるタイミングを図りかねていた、といったところか。そのくせ俺のことが怖いらしい。小さく肩を震わせる姿はまるで蛇に睨まれた蛙……いや、狼に睨まれた野うさぎの方が似合ってるか。真っ白な肌と赤い目は雪ウサギに似ている。
俺は構わず、屋上へと続く階段を登り始めた。
「あ、あの……」
何度か後ろから呼び止めようとして躊躇する声が聞こえたが、とりあえずは無視だ。
放っておけばそのうち居なくなるだろう。
屋上へ出ると、やはり空は抜けるような青さで気持ちがいい。フェンスに寄り掛かって煙草を取り出す。ソフトケースのそれはポケットの中でしわくちゃになっていた。どこかで拾った百円のライターはガスがもうすぐ切れそうだ。
煙草をくわえて二、三度点火すると気持ちのいい空気と一緒に吸い込んだ。
「あっ!」
声が聞こえたと思ったら目を丸くして猛ダッシュで近づいてくる物体。
「ダメだよ!未成年なのに!!」
怒るポイントはそこなのか。やっぱり正しく真面目な奴だ。
顔を真っ赤にして抗議する委員長がなんだか可笑しくて、俺は吸い込んだ息をその顔目掛けて吹き掛けた。
げほげほと咳き込む姿はやっぱり小動物に似ている。
「はは!」
こういう真面目な人間をからかうのもたまには面白い。
「……笑った」
「は?」
「笑わない人かと思った……」
ジュンミョンが呟く。
「はは!面白いことを言うんだな」
「え……あ、ごめん……」
「俺を何だと思ってんだよ」
言って、また一口吸う。
「……あ、ダメだって!」
煙草を持つ腕を握られた。
白くて小さな手は本当に雪ウサギみたいで。乗せられた体温も雪のように冷たい。
「冷たいな……」
「……え?」
あ、ごめん、と離すから咄嗟にその手を追いかけて掴んで。
「え……」
「……それに、小さい」
「そ……、それは君がデカいから!」
「あぁ、そうか」
掌に収まる小さな白い手を見つめて呟く。
何が可笑しいのか「……くく」と笑う姿が、酷く眩しかった。あんなにおどおどとしていたっていうのに。
「なに?」
見上げたその目と視線が重なって。
瞬間、掴んでいた手を引いて、その唇に口づけていた。
「……ぇ」
「……あ、悪い」
驚いてそして、うつむいた顔は赤くなっていた気がする。
始業のチャイムはとうに鳴り終わっていた。
おわり
──あ、空が呼んでる
そう思った。
聞き流すだけの授業中、ふと空を眺めたら、鮮やかなスカイブルーが広がっていて。こんな小さな箱の中で、授業を聞いてるのなんか馬鹿らしくなって。俺も相当クレイジーだな、なんて。天然はレイあたりにでも任せておけばいいものを。馬鹿げてる。
あー、煙草吸いたい。
授業終了のチャイムが鳴って、俺はそそくさと教室を出た。
ここ最近、やたらとしつこく俺のまわりを彷徨くクラス委員長のせいで、教室という空間が息苦しくて仕方ない。なのに。
「……なに?」
教室を出た俺の後ろには、やっぱりあいつがいたんだ。
授業の間の休み時間なんて、せいぜい用を足す程度の時間しかないのに、こんな離れた特別棟のさらに奥、あまり人がいない辺りまで来た俺の後ろには、何を察したのか困った顔の委員長がいた。
「あ、や……えっと、授業、出ないの?」
「は?」
「や、だから……その……授業……」
怖いならついつてこなければいいのに。
そいつは恐る恐ると口を開く。
正しく真面目で、道を外れたりなんかしたことがないんだろう。
委員長のジュンミョンは酷く真面目な奴だ。
すぐにふらふら居なくなる俺について、担任にでも何か言われたんだろう。律儀に連れ戻そうと後を付いてきたけど、話しかけるタイミングを図りかねていた、といったところか。そのくせ俺のことが怖いらしい。小さく肩を震わせる姿はまるで蛇に睨まれた蛙……いや、狼に睨まれた野うさぎの方が似合ってるか。真っ白な肌と赤い目は雪ウサギに似ている。
俺は構わず、屋上へと続く階段を登り始めた。
「あ、あの……」
何度か後ろから呼び止めようとして躊躇する声が聞こえたが、とりあえずは無視だ。
放っておけばそのうち居なくなるだろう。
屋上へ出ると、やはり空は抜けるような青さで気持ちがいい。フェンスに寄り掛かって煙草を取り出す。ソフトケースのそれはポケットの中でしわくちゃになっていた。どこかで拾った百円のライターはガスがもうすぐ切れそうだ。
煙草をくわえて二、三度点火すると気持ちのいい空気と一緒に吸い込んだ。
「あっ!」
声が聞こえたと思ったら目を丸くして猛ダッシュで近づいてくる物体。
「ダメだよ!未成年なのに!!」
怒るポイントはそこなのか。やっぱり正しく真面目な奴だ。
顔を真っ赤にして抗議する委員長がなんだか可笑しくて、俺は吸い込んだ息をその顔目掛けて吹き掛けた。
げほげほと咳き込む姿はやっぱり小動物に似ている。
「はは!」
こういう真面目な人間をからかうのもたまには面白い。
「……笑った」
「は?」
「笑わない人かと思った……」
ジュンミョンが呟く。
「はは!面白いことを言うんだな」
「え……あ、ごめん……」
「俺を何だと思ってんだよ」
言って、また一口吸う。
「……あ、ダメだって!」
煙草を持つ腕を握られた。
白くて小さな手は本当に雪ウサギみたいで。乗せられた体温も雪のように冷たい。
「冷たいな……」
「……え?」
あ、ごめん、と離すから咄嗟にその手を追いかけて掴んで。
「え……」
「……それに、小さい」
「そ……、それは君がデカいから!」
「あぁ、そうか」
掌に収まる小さな白い手を見つめて呟く。
何が可笑しいのか「……くく」と笑う姿が、酷く眩しかった。あんなにおどおどとしていたっていうのに。
「なに?」
見上げたその目と視線が重なって。
瞬間、掴んでいた手を引いて、その唇に口づけていた。
「……ぇ」
「……あ、悪い」
驚いてそして、うつむいた顔は赤くなっていた気がする。
始業のチャイムはとうに鳴り終わっていた。
おわり