カイとディオ
交わす言葉は少ないと思う。
それよりは触れていた方がずっといい。
「綺麗な背中……」
ギョンスヒョンが、俺の背骨に沿って指を這わして。つーっと一本の線を描く。それから仄かな熱を感じて。唇が触れたのがわかった。
「くすぐったいよ……」
「……ジョンイニの背中は、コーラの匂いがする」
不思議だな、って呟いて、頭がこてんとぶつかった感触がした。
背中には愛しい人の温もり。
「ねぇ、ヒョン、」
「んー?」
甘い微睡みの中で不意に、告白でもしてみようか、なんて珍しく思った。
その存在が、あまりにも愛しかったから。
好きだとか、愛してるとか。そんなことは今まで一度だって言ったことがない。俺のことを何でも感じ取ってしまうヒョンは、俺の気持ちすら言わずに感じ取ってしまった。
初めて唇を重ねたときも、初めて身体を重ねたときも、「いい?」と聞いただけで、ヒョンは「いいよ」と言ってくれた。
だけど今、なんだか無性に言いたくなって。なのに。
「あのさ、」
「……いい」
「え……」
「 いいよ別に。言わなくて」
「でも……」
言い淀む俺に、「そんなの、いらない」とヒョンは呟く。
言わせてくれないんじゃない。きっと聞きたくないんだと思う。甘い言葉は苦手だと、昔言っていた。
体温を押し付けられた背中から、そんなことを感じ取れるくらいには、俺もヒョンの気持ちを感じ取れてる、と思う。
背中を向けていた体勢から向き直って、その小さな身体を胸に閉じ込めた。
情事のあとの気だるい空気ごと一緒に。
「ヒョンは、日向の匂いがする」
「なにそれ」
「……眠くなる感じ?」
言えば、ヒョンは小さく笑った。
大事なものは、それほど多くなくていい。
踊りと歌と、この人がいれば。
終わり