チャニョルとベッキョン
「チャニョラ~!俺のチャニョラはどこだ~!」
ベッキョンが久々に学生時代の友達と飲みに行って、ベロベロに酔っぱらって帰ってきたと思ったら、玄関で騒いでいた。
そこにはすでに騒ぎを聞き付けた他のメンバーもいて、風呂から上がった俺も何事かと駆けつけた。
「いやだぁ!チャニョラがいいのー!」
酔っぱらいを片付けようと抱き抱えようとしたジュンミョニヒョンを振り払って、ベッキョンは今にも泣きそうな勢いだ。
「チャニョラー!どこだー!」
「あー、はいはい!ここ!ここ!」
人垣を縫って駆け寄ると、ベッキョンはついに泣き出して抱き付いてきた。野次馬達の視線が背中にひしひしと感じるが、今はそれどころじゃない。
「どうしたんだよ、こんなに飲んで」
「だって、お前が……お前が……」
ひくっひくっとしゃくりあげながらベッキョンは言葉を紡ぐ。
背中を擦って、とりあえず部屋に行こうと促したが、なかなか立ち上がってくれないので、半ば無理矢理立たせて引き摺るように部屋へと誘導した。
ベッドに座らせて頭を撫でて。離れようとしないベッキョンをなだめて。
「俺、やっぱり、チャニョルが好き……」
「うん」
「みんなの話聞いてて、やっぱりチャニョルが一番だって思った」
「うん、」
「俺は、俺にはもうここしかないって……」
俺たちは孤独な商売で。時間が経てば経つほどに、周りとの違いが浮き彫りになっていく。昔はあんなに分かりあえていた友達でさえ、距離を感じずにはいられないんだ。
それは、俺たちが距離を置いてるのか、彼らが距離を置いてるのか。きっとそのどちらもで。特殊な仕事だということを否が応にも感じてしまう。
「俺、チャニョラがいれば、それでいい……」
「うん、」
愛とか恋とか、友情とか依存とか。そんなことはどうでもいい。ただ、今も、そしてこれからも。互いにとって互いが必要な存在であるということは変わらなくて。
チャニョラ、チャニョラって呟きながら涙する腕の中の温もりが、自分にとって一番大事な存在で。普段はあんなにおちゃらけたやつなのに、不意に脆くなるこいつが、堪らなく愛しいと思った。
「ベッキョナ、俺がいるよ。俺が」
「うん、」
「ずっとお前の隣にいるから…… 」
抱き締めて、背中を擦って。
こめかみや頭にキスを落として。
しばらくすると、ベッキョンは泣きつかれたのか眠りに落ちた。
ベッドへと寝かせてリビングに行くと、ジュンミョニヒョンがひとりソファーで本を読んでいた。
「ベッキョナ、大丈夫?」
「あぁ、はい。寝ました」
「そっか」
キッチンで水を一杯飲んでリビングに戻ると、不意にヒョンが口を開く。
「お前は?大丈夫?」
「え……?」
ベッキョンや俺の不安や淋しさなんて、このリーダーヒョンには簡単にお見通しなんだろう。
「俺はほら、こんなんだから大丈夫っす」
笑みをつくって向けると、ヒョンも微笑みを浮かべて「そう」と笑った。
「ベッキョナのこと、よろしくな」
「もちろん」
「でも、何かあったらいつでも言って」
「はい、」
「じゃあ寝るから。おやすみ」ってすれ違い様に肩を叩いて戻っていった。
きっと心配で待っていてくれたんだろうということはすぐに分かる。
俺たちはグループで。みんなが運命共同体で。だからきっと淋しくなんてないんだ。仲間ならたくさんいる。
あまりにも非日常なことが起こりすぎて何が現実世界なのか見失ってしまいそうになるけど、隣を見ればいつもベッキョンがいて、これが現実なんだと教えてくれる。
あいつがいる世界が俺にとっての現実だ。この現実を掴み取るために、沢山のものを手放してきたけど、あいつだけは手放さない。し、手放せないと思う。
不意に訪れたセンチメンタルな夜、涙を浮かべて寝るベッキョンの眦にそっとキスを落として眠りについた。
終わり