その他
141212 微妙な関係(ベクチェン)
「チェナ……」
「んー?」
「あ、いや何でもない……」
「もーなんだよー!」
「はは!なんでもないですよー!」
ベッキョンが「チェナ」って呼ぶ声がとても好きだ。低くて掠れた声はチャニョルのそれよりも、ずっとずっとセクシーで。それに、「チェナ」って呼ぶそのあとに、とても含みがあって。僕はいつになったらその続きを聞けるんだろうってワクワクなのかイライラなのかよく分からない感情が押し寄せる。
もうそろそろ言ってもいいと思うんだけどな。
今夜もそっとベッキョンのベッドへと潜り込む。
ぎゅっとまるまってくっつけば、そっと抱き寄せてくれて。ふかふかと暖かくて、この瞬間が一番しあわせなんだ。
クンクンなのかうーうーなのかよく分からない唸り声をあげながら眠るベッキョンの熱を、そっと分けてもらう作業はもういつの間にか習慣になっていた。
こんなに好きなのにな、とか。
こんなに分かりやすくしてるのにな、とか。
喉に堪える不満ならたくさんある。
くっついてみたり、抱きついてみたり。
どれだけアクションを起こしたって「チェナ……」からつづく一言は出てこない。せっかく。せっかく譲ってあげてるのに。ベッキョンは存外に臆病だ。
「ばーか」
眠るベッキョンに向かって呟けば、ぴくりと反応する身体。
狸寝入りだなんて知ってるんだからね。
お前はもう、僕からは逃げられないし、逃がすつもりもない。僕たちは運命共同体なんだ。いつまでものらりくらりと逃げられると思ったら大間違いなんだから。
僕から行動を起こせば絶対に流されてくれるのは分かってるけど。
ビョンベッキョン、そろそろ男になってよ。
その言葉の続きが聞きたいんだ。
------
ぎゅっと、しがみつく腕に力が込もって、「ばーか」と呟くかすれ声。
や、うん。分かってるってば。
ジョンデが何を待ってるのか。どうして待ってるのか。全部ちゃんと分かってる。
しかしながら俺の逃げ腰は今に始まったものじゃなくて。こうも露骨にプレッシャーをかけられると、どうしたって逃げたくなってしまうんだ。
や、ごめんってば。なんて心の中で何度も何度も呟いて。その内に罪悪感ばかりが大きくなる。
膨らんだ罪悪感はさらに俺の喉を締め付けた。
ちらちらと見つめながら話す仕草が好きで。だけどまともには目なんか合わせらんなくて。いつも視線を避けるように目線を反らせば、さらに追いかけるように視線を寄越す。
べったりとした触り方も、上目遣いで見つめる視線も。心臓が落ち着かなくて苦手だ。
ジョンデと向き合えば、俺はいつだって劣等感の塊だった。歌だってバラエティーのセンスだって、勝てると思ったことがない。
でもそれでいいと思ってる。
勝てなくてもいいんだ。
諦めというよりも、そもそもジョンデ自身にそんなきらいが見えないのだから戦ったって意味がない。それに俺らは敵じゃない。
あいつの敵は常に自分の中にしかないんだ。
それに気付いたのは一緒に活動するようになってから。
そうやって見つめるうちに、自分の中の複雑な感情にまで気付いた。だけどそれは、最も面倒くさい部類のもので。考えるのが苦手な俺は、いつだって考えることを放棄したかった。
あー面倒くさい。
頭も心も、思い通りにならなくて苛々する。
「チェナ……」
それでも俺は性懲りもなくまたその名前を呼ぶんだ。
「ジョンデヤ……」
眠るはずのジョンデに向かって呟けば、モソモソと動き出す。
あ、やべ。って思った刹那……
「…………ベッキョナ!」
「え、あ、はい……」
もうさ、さすがに面倒くさいんだけど。
そう言って、ジョンデは俺を間近に見つめた。視線は離さないとでも言いたげに、強引に合わせる。
あぁ、ついに捕まるのか、って。
「あーんー、だよな」
あははって笑おうとしたら、両手で頬を挟まれて「ダメ、茶化したら」って。
ついに捕まったようだ。
だから俺は、
そのままジョンデに口づけた。
触れるだけ。
けれどゆっくりと、時間をかけて──
ビビりまくって感覚なんてよくわかんない。
呼吸の仕方すら分からなくなって、息苦しさに唇を離した。ゆっくりと目を開けると、目の前のジョンデは照れたように目を伏せていて。
あ、お前ホント睫毛長いんだなぁって。
「チェナ……」
「……ん?なに?」
「うん……」
いつもの賑やかな空気じゃなく、酷く微妙な空気が流れる。
あー、やっぱりこういうのは苦手だ。
ましてや俺とお前じゃん。
もっと、ノリ一発みたいな感じにすればよかった。なんて思っても、そうするには想いが育ちすぎてるのも分かっている。
「ベッキョナ、好きだよ」
結局、折れるのも譲るのも、いつもジョンデで。
「んー」
知ってる、なんて言いながらその細い腰を抱き寄せた。
「ばーか」
くぐもった声で少しだけ笑いながらジョンデは呟く。
俺も釣られるように少しだけ笑った。
今はまだ、照れの方が大きい。
だってやっぱりさ、俺とお前だよ?
それなのにジョンデは満足そうに抱きついてきて。心臓がくすぐったい。
やっぱり俺は、キムジョンデの強引に振り回すところも、屈託なく笑う笑顔も、存外に優しい性格も、好きなんだと思う。
今夜のキスは無かったことになんてしないから。
だから、もう少しだけ待ってろ。
おわり
「チェナ……」
「んー?」
「あ、いや何でもない……」
「もーなんだよー!」
「はは!なんでもないですよー!」
ベッキョンが「チェナ」って呼ぶ声がとても好きだ。低くて掠れた声はチャニョルのそれよりも、ずっとずっとセクシーで。それに、「チェナ」って呼ぶそのあとに、とても含みがあって。僕はいつになったらその続きを聞けるんだろうってワクワクなのかイライラなのかよく分からない感情が押し寄せる。
もうそろそろ言ってもいいと思うんだけどな。
今夜もそっとベッキョンのベッドへと潜り込む。
ぎゅっとまるまってくっつけば、そっと抱き寄せてくれて。ふかふかと暖かくて、この瞬間が一番しあわせなんだ。
クンクンなのかうーうーなのかよく分からない唸り声をあげながら眠るベッキョンの熱を、そっと分けてもらう作業はもういつの間にか習慣になっていた。
こんなに好きなのにな、とか。
こんなに分かりやすくしてるのにな、とか。
喉に堪える不満ならたくさんある。
くっついてみたり、抱きついてみたり。
どれだけアクションを起こしたって「チェナ……」からつづく一言は出てこない。せっかく。せっかく譲ってあげてるのに。ベッキョンは存外に臆病だ。
「ばーか」
眠るベッキョンに向かって呟けば、ぴくりと反応する身体。
狸寝入りだなんて知ってるんだからね。
お前はもう、僕からは逃げられないし、逃がすつもりもない。僕たちは運命共同体なんだ。いつまでものらりくらりと逃げられると思ったら大間違いなんだから。
僕から行動を起こせば絶対に流されてくれるのは分かってるけど。
ビョンベッキョン、そろそろ男になってよ。
その言葉の続きが聞きたいんだ。
------
ぎゅっと、しがみつく腕に力が込もって、「ばーか」と呟くかすれ声。
や、うん。分かってるってば。
ジョンデが何を待ってるのか。どうして待ってるのか。全部ちゃんと分かってる。
しかしながら俺の逃げ腰は今に始まったものじゃなくて。こうも露骨にプレッシャーをかけられると、どうしたって逃げたくなってしまうんだ。
や、ごめんってば。なんて心の中で何度も何度も呟いて。その内に罪悪感ばかりが大きくなる。
膨らんだ罪悪感はさらに俺の喉を締め付けた。
ちらちらと見つめながら話す仕草が好きで。だけどまともには目なんか合わせらんなくて。いつも視線を避けるように目線を反らせば、さらに追いかけるように視線を寄越す。
べったりとした触り方も、上目遣いで見つめる視線も。心臓が落ち着かなくて苦手だ。
ジョンデと向き合えば、俺はいつだって劣等感の塊だった。歌だってバラエティーのセンスだって、勝てると思ったことがない。
でもそれでいいと思ってる。
勝てなくてもいいんだ。
諦めというよりも、そもそもジョンデ自身にそんなきらいが見えないのだから戦ったって意味がない。それに俺らは敵じゃない。
あいつの敵は常に自分の中にしかないんだ。
それに気付いたのは一緒に活動するようになってから。
そうやって見つめるうちに、自分の中の複雑な感情にまで気付いた。だけどそれは、最も面倒くさい部類のもので。考えるのが苦手な俺は、いつだって考えることを放棄したかった。
あー面倒くさい。
頭も心も、思い通りにならなくて苛々する。
「チェナ……」
それでも俺は性懲りもなくまたその名前を呼ぶんだ。
「ジョンデヤ……」
眠るはずのジョンデに向かって呟けば、モソモソと動き出す。
あ、やべ。って思った刹那……
「…………ベッキョナ!」
「え、あ、はい……」
もうさ、さすがに面倒くさいんだけど。
そう言って、ジョンデは俺を間近に見つめた。視線は離さないとでも言いたげに、強引に合わせる。
あぁ、ついに捕まるのか、って。
「あーんー、だよな」
あははって笑おうとしたら、両手で頬を挟まれて「ダメ、茶化したら」って。
ついに捕まったようだ。
だから俺は、
そのままジョンデに口づけた。
触れるだけ。
けれどゆっくりと、時間をかけて──
ビビりまくって感覚なんてよくわかんない。
呼吸の仕方すら分からなくなって、息苦しさに唇を離した。ゆっくりと目を開けると、目の前のジョンデは照れたように目を伏せていて。
あ、お前ホント睫毛長いんだなぁって。
「チェナ……」
「……ん?なに?」
「うん……」
いつもの賑やかな空気じゃなく、酷く微妙な空気が流れる。
あー、やっぱりこういうのは苦手だ。
ましてや俺とお前じゃん。
もっと、ノリ一発みたいな感じにすればよかった。なんて思っても、そうするには想いが育ちすぎてるのも分かっている。
「ベッキョナ、好きだよ」
結局、折れるのも譲るのも、いつもジョンデで。
「んー」
知ってる、なんて言いながらその細い腰を抱き寄せた。
「ばーか」
くぐもった声で少しだけ笑いながらジョンデは呟く。
俺も釣られるように少しだけ笑った。
今はまだ、照れの方が大きい。
だってやっぱりさ、俺とお前だよ?
それなのにジョンデは満足そうに抱きついてきて。心臓がくすぐったい。
やっぱり俺は、キムジョンデの強引に振り回すところも、屈託なく笑う笑顔も、存外に優しい性格も、好きなんだと思う。
今夜のキスは無かったことになんてしないから。
だから、もう少しだけ待ってろ。
おわり