レイとチェン
140921 きみのうた(レイチェン)
暑さもまだ残る8月の21日。
あの子の誕生日が1ヶ月のカウントダウンを始めた日、不意に僕はたずねた。
『プレゼント何がいい?』
そしたらあの子は、こう言ったんだ。
そうですね、じゃあ曲を作ってください。
世界中で僕だけの曲。
僕だけのために、僕だけの曲。
うん、これは参った。
はてさてどうしたものか。
君のための曲?
君だけの?
漠然としすぎて思わず頭を抱えた。
世界中の作曲家たちはどうやって愛する人に曲を作ったんだろう。
ベッドで愛を囁きながら?
それとも日常会話を交わしながら?
そう、たとえばインスピレーションは悪くない方だと思う。
作曲は好きだし、なによりあの降りてきた瞬間は麻薬にも似た快感がある。
だけど君のために一音一音拾う作業は、酷く大変なものだった。
あの子の賑やかな笑い声を拾ってみたり。
溢れる笑顔に旋律を載せてみたり。
なのに、何度も何度も書いては消した。
どれもこれも違うような気がしたから。
チープなオリジナリティーなんて要らないのかもしれない。あの子の目は、あの子の耳は、ホンモノとニセモノをいとも簡単に分けてしまう。時折見せる冷たい目はそれらに対する軽蔑だ。僕なんかじゃ敵わないほどの社交性を持っているのに、その中での線引きは誰よりもシビアなのだ。
そんなあの子の本質に触れると、僕はいつそちら側に転がってしまうんだろうかと怖くなる時がある。いや、実はもうすでにそちら側にカテゴライズされてるのかもしれない。だからあの子は僕にこんな難題を出したんだ。
9月21日。
僕はとうとう完成できなかった。
ごめんね、と謝ると、彼は顔中をくしゃくしゃにして笑った。
「……どうして笑うの?僕が作れなかったことが、そんなに可笑しい……?……あぁ、そうか。君は端から無理だと思っていたんだもんね。どうせ僕はあちら側の人間だし、僕を困らせることができて満足した?笑いたければ笑いなよ!」
徐々にヒートアップして気づけば溢れる感情のまま一息にぶつけていた。
あぁ、なんて虚しいんだろう。
どうして好きな人の誕生日に笑顔でおめでとうの一言も言ってあげられないのかな。
でもさ、これは君が悪いんだよ。
笑うから。
僕の純粋な気持ちを、軽いものみたいに笑うから。
彼は驚いて目を見開いていた。
「……ヒョン?なんの話ですか?あちら側とか笑うとか」
「だって君が、笑うから……」
不貞腐れたみたいに呟くと「だってヒョン、本当に悲しそうに謝るから」とまた笑われて。
ああ、なんて虚しいんだ。
その言葉にまた怒りが込み上げそうになった。
だけどその時、彼は言葉を続けたんだ。
「曲なんて別にいいんです」
そう言った彼は微笑んでいた。
あぁ、やっぱり愛しいなぁと思うと同時に結局そうなのかと自己嫌悪。
「やっぱり、からかってただけなんだ……」
しゅん、と音がなりそうなほど項垂れた。
───違います、
静寂が広がる中で明瞭な声が、ぽろり溢れる。
「僕は、ヒョンの1ヶ月が欲しかったんです」
僕の、1ヶ月……?
「はい。ヒョンはこの1ヶ月僕のことばっかり考えてたでしょ?」
うん、それはそうだけど。
だって君に喜んでもらいたくて必死だったから。
「そういうことです」と彼は眉を下げた。
「僕のことばかり考えてくれたその1ヶ月が、僕には最高のプレゼントですから」
ふむふむ。
え……?
なんだかよくわからないけど。
もしかして、からかわれていたわけでも、試されていたわけでもないの?
あれれ?
ほっとすると、じわりと視界が歪んだ。
「もー、なんでヒョンが泣くんですか」
「だってジョンデがぁ!」
「まったく……やっかいなヒョンですね」
僕の好きな下がり眉をさらに下げて抱き締められる。
……ジョンデなんて……ジョンデなんて!
「僕なんて?」
……大好き!
「はは!知ってます」
君のための曲は、もう少し時間がかかりそうだ。
だって君は僕にはとっても難しすぎるから。
1ヶ月やそこらじゃ作れるわけがないんだ。
だから僕の時間ならいくらでもあげる。
だって一生をかけて愛する人だから。
おわり
2014.9.21 #HappyChenChenDay
暑さもまだ残る8月の21日。
あの子の誕生日が1ヶ月のカウントダウンを始めた日、不意に僕はたずねた。
『プレゼント何がいい?』
そしたらあの子は、こう言ったんだ。
そうですね、じゃあ曲を作ってください。
世界中で僕だけの曲。
僕だけのために、僕だけの曲。
うん、これは参った。
はてさてどうしたものか。
君のための曲?
君だけの?
漠然としすぎて思わず頭を抱えた。
世界中の作曲家たちはどうやって愛する人に曲を作ったんだろう。
ベッドで愛を囁きながら?
それとも日常会話を交わしながら?
そう、たとえばインスピレーションは悪くない方だと思う。
作曲は好きだし、なによりあの降りてきた瞬間は麻薬にも似た快感がある。
だけど君のために一音一音拾う作業は、酷く大変なものだった。
あの子の賑やかな笑い声を拾ってみたり。
溢れる笑顔に旋律を載せてみたり。
なのに、何度も何度も書いては消した。
どれもこれも違うような気がしたから。
チープなオリジナリティーなんて要らないのかもしれない。あの子の目は、あの子の耳は、ホンモノとニセモノをいとも簡単に分けてしまう。時折見せる冷たい目はそれらに対する軽蔑だ。僕なんかじゃ敵わないほどの社交性を持っているのに、その中での線引きは誰よりもシビアなのだ。
そんなあの子の本質に触れると、僕はいつそちら側に転がってしまうんだろうかと怖くなる時がある。いや、実はもうすでにそちら側にカテゴライズされてるのかもしれない。だからあの子は僕にこんな難題を出したんだ。
9月21日。
僕はとうとう完成できなかった。
ごめんね、と謝ると、彼は顔中をくしゃくしゃにして笑った。
「……どうして笑うの?僕が作れなかったことが、そんなに可笑しい……?……あぁ、そうか。君は端から無理だと思っていたんだもんね。どうせ僕はあちら側の人間だし、僕を困らせることができて満足した?笑いたければ笑いなよ!」
徐々にヒートアップして気づけば溢れる感情のまま一息にぶつけていた。
あぁ、なんて虚しいんだろう。
どうして好きな人の誕生日に笑顔でおめでとうの一言も言ってあげられないのかな。
でもさ、これは君が悪いんだよ。
笑うから。
僕の純粋な気持ちを、軽いものみたいに笑うから。
彼は驚いて目を見開いていた。
「……ヒョン?なんの話ですか?あちら側とか笑うとか」
「だって君が、笑うから……」
不貞腐れたみたいに呟くと「だってヒョン、本当に悲しそうに謝るから」とまた笑われて。
ああ、なんて虚しいんだ。
その言葉にまた怒りが込み上げそうになった。
だけどその時、彼は言葉を続けたんだ。
「曲なんて別にいいんです」
そう言った彼は微笑んでいた。
あぁ、やっぱり愛しいなぁと思うと同時に結局そうなのかと自己嫌悪。
「やっぱり、からかってただけなんだ……」
しゅん、と音がなりそうなほど項垂れた。
───違います、
静寂が広がる中で明瞭な声が、ぽろり溢れる。
「僕は、ヒョンの1ヶ月が欲しかったんです」
僕の、1ヶ月……?
「はい。ヒョンはこの1ヶ月僕のことばっかり考えてたでしょ?」
うん、それはそうだけど。
だって君に喜んでもらいたくて必死だったから。
「そういうことです」と彼は眉を下げた。
「僕のことばかり考えてくれたその1ヶ月が、僕には最高のプレゼントですから」
ふむふむ。
え……?
なんだかよくわからないけど。
もしかして、からかわれていたわけでも、試されていたわけでもないの?
あれれ?
ほっとすると、じわりと視界が歪んだ。
「もー、なんでヒョンが泣くんですか」
「だってジョンデがぁ!」
「まったく……やっかいなヒョンですね」
僕の好きな下がり眉をさらに下げて抱き締められる。
……ジョンデなんて……ジョンデなんて!
「僕なんて?」
……大好き!
「はは!知ってます」
君のための曲は、もう少し時間がかかりそうだ。
だって君は僕にはとっても難しすぎるから。
1ヶ月やそこらじゃ作れるわけがないんだ。
だから僕の時間ならいくらでもあげる。
だって一生をかけて愛する人だから。
おわり
2014.9.21 #HappyChenChenDay