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ルハンとシウミン

161111 これでも僕らは



あ、いる!


所々電気も消されて、もう残ってる人なんて疎らな残業時間のフロア。そこで一際頑張ってるのは、僕の大好きなミンソクだ。
ワイシャツを腕捲りして、パソコンと書類を見比べて唸って。
今抱えてる案件がもうすぐ大詰めを向かえるので微調整の数字あわせが大変だってこの前言っていた。

一方僕はというと、ちょうど抱えていた仕事が昨日上がって、昨日は仲間と打ち上げをしたばかり。だから本当だったら速攻家に帰って寝たいところだけど、そうしないでこんな時間まで会社に残ってるのは、さっきも言ったとおり、大好きなミンソクが頑張ってるから。


「まだやってくの?」
「あれ?いたの?」
「うん、ちょっと忘れ物して」

なんて、本当は嘘。
下の喫茶店で時間潰してたし。

「大変そうだね。まだやってくの?」
「んー、もうちょっと、かな。明日の資料まとめとかないといけなくて」
「手伝おっか?」
「いや、もう終わるから」
「そっか。じゃあお先に」


仕事中の彼はとても格好いい。
一重の大きなアーモンドアイを少し細めて。真っ白なワイシャツを無造作に腕捲りして。小さな背中をさらに小さく丸めて。そうしてパソコンの画面にかじりついている。キメの細かい仕事をする彼はもちろん上司にも信頼されてるし、フットワークの軽さは同僚たちにも好かれている。もちろん女子社員にも人気だ。

ミンソクと僕は謂わば同期と言われるもので。研修中から一緒だった僕らはすぐに仲良くなった。配属先は同じだったけどグループが違ったので一緒に仕事をすることはないが、同じフロア内なので何かと顔を合わせたりしている。

僕とミンソクは、本当によく合った。
面倒くさいことが嫌いな性格や仕事に対する考え方、きれい好きなところまで。だから一緒にいるのが本当に楽だったし、二人でいるときの空気のようなものが、本当に好きだった。



お先に、なんて言ったくせに僕が向かったのはエレベーターではなく、給湯室。
お湯を沸かして簡単に淹れるドリップコーヒー。それを僕のマグカップにセットして注いだ。ミンソクのカップはデスクの横で冷たくなったコーヒーが残りあと一口、といったことろだろう。


コーヒーの芳ばしい香りが湯気と共に漂う。



入れたてのそれを持ってフロアに向かえば、香りに気がついたのかミンソクが振り向いた。


「あれ?帰ったんじゃないの?」
「うん、帰ろうと思ったけど差し入れ」


そう言ってカップを差し出せば、少しだけ疲れが滲んだ顔で「ありがとう」と苦笑を浮かべた。

あー、好きだなぁって思う。
残業頑張ってるミンソクには悪いけど、そのふわりと揺れるつむじとか、かぶりついてしまいたい。昨日までの忙殺から解放されて、僕の欲望がむくりと顔を出し始めたんだろうか、なんて。


「ルハナ……?」
「なに?」

怪訝な顔で振り向いたミンソクに笑顔で返せば、「なんか悪寒がするんだけど……」なんて。


「なに?もしかして風邪!?」
「いやいや、そうじゃないだろ」
「え?なに?」
「何っていうか、用済んだなら帰れよ」
「えー!冷たいなぁ」
「冷たいって、俺は仕事してんの!残業なの!」
「だから手伝おうか?って言ったんじゃん」
「ルハナがいたら終わるもんも終わんなくなるからいい」
「えー!そんなことないよ。早く終わらせて帰ろうよ」


そう言って、その美味しそうなつむじをさらりと撫でた。
びくりとミンソクが震える。

あぁこの一画、普段はミンソクが見えなくて邪魔だったけど、棚とてっかい観葉植物で死角になっててよかったなぁ、なんて……


そのまま首もとまで手を滑らせて上を向かせて、キョロキョロと泳ぐ視線を捕らえて、愛らしい薄い唇を塞いだ。


息苦しそうに開いた口内に舌を差し込んで、暴れまわる舌を捕まえて吸い上げれば、ミンソクの手はおずおずと僕の背広の裾を掴んでいた。
ぎゅっと掴む小さな白い手に滲む赤い関節を思い浮かべて思わずにやけそうになる。


「ルハナ……」って苦しそうに小さく呟くから、僕は名残惜しくもその唇を解放した。

至近で目を合わせれば、バカって小さく呟くミンソク。


「場所わきまえろ」
「だって……」


だって君があまりにも可愛かったから。
なんて言ったら怒るだろうか。


「早く終わらせてね。下で待ってるから……」
「あぁ、うん……」


照れくさそうに笑うミンソクを見て、なぜだか僕も照れくさくなって笑った。



パタパタと手で顔を扇ぎながら、結局僕はまた下の喫茶店に逆戻りするのだ。ミンソクもパソコンの前でその小さな手でパタパタと扇いでることも知らず。


これでも僕らは、まだ付き合いはじめだったりする。






おわり
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