犬の吾郎は飼い慣らせない。
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「いってきます」
「おう、気をつけるんやで」
お嬢ちゃんの頭を撫でて見送りをする。すると、お嬢ちゃんは顔を俯きがちにさせて黙ってしまった。
「…なんで頭撫でるの?」
「あ?なんや、お嬢ちゃんは嬉しくないんか?」
「そんなことは、ないけど…」
「ワシ、お嬢ちゃんに撫でてもらうの好きやから、ワシもお嬢ちゃん撫でたろ思ったんやけど」
「…」
「…嫌なんやったら、もうやらん」
思いの外低い声が出たそれを聞いてお嬢ちゃんは首を横に振ったあと、照れ臭そうに口ごもりながら話し出した。
「いやじゃないけど、恥ずかしい、から…でも、ありがとね」
それじゃいってきます、と告げたあとそそくさに玄関から出ていった。お嬢ちゃんの言葉と表情に左胸にある心臓がどくりとした。またや。お嬢ちゃんとおるとここがよう疼く。人間の女は親父が連れてくる女しか知らんかった。話したことは何度かあるんやが、お嬢ちゃんときみたいにどくどく疼いたりせぇへんかったなぁ。
「なんなんやろな」
そう呟いた独り言は誰もいない部屋の中に静かに消えていった。
ーーーーー
飲み物を買って帰ろうとコンビニに寄ると、リードに繋がれてご主人の帰りをお利口さんに待っている犬がいた。ふわふわとした毛に覆われていてそこそこ大きな犬だ。口を開けて下を出し、ハッハッ、と息を出している。どことなく間抜けそうな顔がとても愛くるしく思える。吾郎くらいの大きさなんじゃないかな?
「ワンっ!」
犬の前で棒立ちしながらそんなことを思っていると近づいてきた。人様のわんちゃんを触っていいのか悩んだが、誰もが魅了されるそのもふもふには適わず、首の後ろを優しく触れてしまっていた。
「ふふ、いい子だね」
「ワン!」
「わっわっ」
わんちゃんは撫でられて嬉しいのか、飛びついて顔を舐められた。
「あっ、すみません!うちの犬がなにかしましたか?」
コンビニから出てきた男性が駆け足で駆け寄ってきた。恐らくこのわんちゃんのご主人様なのだろう。
「いえいえ!私が勝手に触ってしまって…むしろごめんなさい!」
「いや、こいつも喜んでるみたいなんで…遊んでくれてありがとうございます」
優しいご主人様でよかった…わんこ…尻尾振ってて可愛いな。わんちゃんとそのご主人様を見送り、後ろ姿を少し眺めてからコンビニに入る。お目当ての物を手に取り、レジへと運ぶ。そんな時でも私の頭の中は先程のわんちゃんのことで浮ついていた。吾郎の尻尾は短いから人間の状態じゃ全然見えないけどああやって降ってたら厳つい顔したおじさんでも可愛く見えそうだなぁ。想像したらちょっと笑えてきた。
「…っ!」
悪寒を感じ、後ろを振り向く。しかし人の姿はなく、誰もいない。
「………」
この時間帯の道は人通りが少なく、私以外に歩いている人はいない。なのに、後ろから誰かに見られている感覚に陥る。ここ最近ずっとそうだ。不安を振り払うように顔を左右に振り、早足で自宅へと急いだ。
ーーーーー
「…ただいまぁ」
「おう、お疲れさん!おかえりやで」
「ご飯の支度するね」
「楽しみやなぁ、今日の飯はなんな…」
「えっ!?」
吾郎の横を通り先に部屋に入ろうとすると、明るい口調で話していた吾郎は口を止め急に手首を掴まれた。
「お嬢ちゃん、」
「な、なに?」
「…」
「え、ちょ、ちょっと!?なに!?」
向かい合うように手首を引き寄せられると吾郎は私の首に顔を埋めた。スンスンという音が聞こえる。もしかして匂いを嗅がれてる?なんで匂いを嗅がれているのとか、こんな近い距離恥ずかしいとか、お風呂入ってないし汗とか大丈夫かなとか、頭の中がぐるぐるする。
「なぁ、お嬢ちゃん…」
「な、なに?」
「なんで他の犬の匂いが、すんねん」
「へ?」
他の犬の匂い?思い当たる節がないわけではない。もしかして、先程コンビニで出会ったあの犬のことを言っているのだろうか?
「ワシという犬がおりながら他の犬に浮気かいな!?」
「なんでそうなるの!?」
「あんまりやで…!ワシはこうしてお嬢ちゃんの帰りをええ子に待っとったっちゅうのに…」
「だ、だから!誤解だってば!触ったのはちょっとだけ!!」
「…ほんまか?」
う、怖い顔。吾郎ってば、ときどき今みたいに怖い顔したりするんだよなぁ。吾郎の頭に手を置き、犬の姿のときだったように優しく撫でる。
「ほんと、だから」
「…」
「不安にさせてごめんね?」
「…いや、別に、ええんや」
どことなく歯切れ悪そうに喋る吾郎が可愛く見えて自然と口角が上がる。あ、耳動いてる。嬉しいのかな?頭撫でられるの好きって言ってたもんね。
「吾郎ってほんとに犬なんだね」
「どういう意味やねん、それ」
「そのままの意味だよ」
「あぁ?ほんまかそれ?ワシのこと馬鹿にしたんとちゃうか〜?」
部屋に入ろうと歩き出すと吾郎に後ろから首に腕を巻き付けられじゃれてくる。先程外で感じていた不安はいつの間にか消え去っていて、とても穏やかな気持ちになっていた。
「お、お嬢ちゃん、いつもの顔しとる」
「え?顔?」
「せや。なんやお嬢ちゃん、帰ってきたとき落ち込んどるというか、怯えとるような顔しとったで」
「う…」
吾郎は本当に人の顔色を伺うのが上手だ。彼には隠し事をしてもすぐにバレてしまいそうだ。
「なんかあったんか」
「ううん、大丈夫。なにもないよ」
「…ほんまになんもないんか?」
「うん。さ、ご飯の支度するから待ってて」
「…」
逃げるように話を切り、ご飯の身支度をする。今日は吾郎の好きなご飯を作ることにしよう。
「おう、気をつけるんやで」
お嬢ちゃんの頭を撫でて見送りをする。すると、お嬢ちゃんは顔を俯きがちにさせて黙ってしまった。
「…なんで頭撫でるの?」
「あ?なんや、お嬢ちゃんは嬉しくないんか?」
「そんなことは、ないけど…」
「ワシ、お嬢ちゃんに撫でてもらうの好きやから、ワシもお嬢ちゃん撫でたろ思ったんやけど」
「…」
「…嫌なんやったら、もうやらん」
思いの外低い声が出たそれを聞いてお嬢ちゃんは首を横に振ったあと、照れ臭そうに口ごもりながら話し出した。
「いやじゃないけど、恥ずかしい、から…でも、ありがとね」
それじゃいってきます、と告げたあとそそくさに玄関から出ていった。お嬢ちゃんの言葉と表情に左胸にある心臓がどくりとした。またや。お嬢ちゃんとおるとここがよう疼く。人間の女は親父が連れてくる女しか知らんかった。話したことは何度かあるんやが、お嬢ちゃんときみたいにどくどく疼いたりせぇへんかったなぁ。
「なんなんやろな」
そう呟いた独り言は誰もいない部屋の中に静かに消えていった。
ーーーーー
飲み物を買って帰ろうとコンビニに寄ると、リードに繋がれてご主人の帰りをお利口さんに待っている犬がいた。ふわふわとした毛に覆われていてそこそこ大きな犬だ。口を開けて下を出し、ハッハッ、と息を出している。どことなく間抜けそうな顔がとても愛くるしく思える。吾郎くらいの大きさなんじゃないかな?
「ワンっ!」
犬の前で棒立ちしながらそんなことを思っていると近づいてきた。人様のわんちゃんを触っていいのか悩んだが、誰もが魅了されるそのもふもふには適わず、首の後ろを優しく触れてしまっていた。
「ふふ、いい子だね」
「ワン!」
「わっわっ」
わんちゃんは撫でられて嬉しいのか、飛びついて顔を舐められた。
「あっ、すみません!うちの犬がなにかしましたか?」
コンビニから出てきた男性が駆け足で駆け寄ってきた。恐らくこのわんちゃんのご主人様なのだろう。
「いえいえ!私が勝手に触ってしまって…むしろごめんなさい!」
「いや、こいつも喜んでるみたいなんで…遊んでくれてありがとうございます」
優しいご主人様でよかった…わんこ…尻尾振ってて可愛いな。わんちゃんとそのご主人様を見送り、後ろ姿を少し眺めてからコンビニに入る。お目当ての物を手に取り、レジへと運ぶ。そんな時でも私の頭の中は先程のわんちゃんのことで浮ついていた。吾郎の尻尾は短いから人間の状態じゃ全然見えないけどああやって降ってたら厳つい顔したおじさんでも可愛く見えそうだなぁ。想像したらちょっと笑えてきた。
「…っ!」
悪寒を感じ、後ろを振り向く。しかし人の姿はなく、誰もいない。
「………」
この時間帯の道は人通りが少なく、私以外に歩いている人はいない。なのに、後ろから誰かに見られている感覚に陥る。ここ最近ずっとそうだ。不安を振り払うように顔を左右に振り、早足で自宅へと急いだ。
ーーーーー
「…ただいまぁ」
「おう、お疲れさん!おかえりやで」
「ご飯の支度するね」
「楽しみやなぁ、今日の飯はなんな…」
「えっ!?」
吾郎の横を通り先に部屋に入ろうとすると、明るい口調で話していた吾郎は口を止め急に手首を掴まれた。
「お嬢ちゃん、」
「な、なに?」
「…」
「え、ちょ、ちょっと!?なに!?」
向かい合うように手首を引き寄せられると吾郎は私の首に顔を埋めた。スンスンという音が聞こえる。もしかして匂いを嗅がれてる?なんで匂いを嗅がれているのとか、こんな近い距離恥ずかしいとか、お風呂入ってないし汗とか大丈夫かなとか、頭の中がぐるぐるする。
「なぁ、お嬢ちゃん…」
「な、なに?」
「なんで他の犬の匂いが、すんねん」
「へ?」
他の犬の匂い?思い当たる節がないわけではない。もしかして、先程コンビニで出会ったあの犬のことを言っているのだろうか?
「ワシという犬がおりながら他の犬に浮気かいな!?」
「なんでそうなるの!?」
「あんまりやで…!ワシはこうしてお嬢ちゃんの帰りをええ子に待っとったっちゅうのに…」
「だ、だから!誤解だってば!触ったのはちょっとだけ!!」
「…ほんまか?」
う、怖い顔。吾郎ってば、ときどき今みたいに怖い顔したりするんだよなぁ。吾郎の頭に手を置き、犬の姿のときだったように優しく撫でる。
「ほんと、だから」
「…」
「不安にさせてごめんね?」
「…いや、別に、ええんや」
どことなく歯切れ悪そうに喋る吾郎が可愛く見えて自然と口角が上がる。あ、耳動いてる。嬉しいのかな?頭撫でられるの好きって言ってたもんね。
「吾郎ってほんとに犬なんだね」
「どういう意味やねん、それ」
「そのままの意味だよ」
「あぁ?ほんまかそれ?ワシのこと馬鹿にしたんとちゃうか〜?」
部屋に入ろうと歩き出すと吾郎に後ろから首に腕を巻き付けられじゃれてくる。先程外で感じていた不安はいつの間にか消え去っていて、とても穏やかな気持ちになっていた。
「お、お嬢ちゃん、いつもの顔しとる」
「え?顔?」
「せや。なんやお嬢ちゃん、帰ってきたとき落ち込んどるというか、怯えとるような顔しとったで」
「う…」
吾郎は本当に人の顔色を伺うのが上手だ。彼には隠し事をしてもすぐにバレてしまいそうだ。
「なんかあったんか」
「ううん、大丈夫。なにもないよ」
「…ほんまになんもないんか?」
「うん。さ、ご飯の支度するから待ってて」
「…」
逃げるように話を切り、ご飯の身支度をする。今日は吾郎の好きなご飯を作ることにしよう。
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