犬の吾郎は飼い慣らせない。
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なんとか必要なものを買い揃えることができた。ついでにスーパーで晩御飯の材料を買ってから家に戻る。そういえば何も考えずに普通に留守番をさせてしまったけど、大丈夫だっただろうか。マンションの階段を上がり、自分の部屋へと向かう。ペットOKのマンションで本当によかった。といっても大型犬を飼うには部屋が狭すぎる気はするが。鍵を取り出して玄関の扉を開ける。
「えっ」
扉を開けた先にいたのは留守番をしていたあの犬がいた。つい驚いてしまい声をあげてしまったが、犬は今朝のようには驚かずに堂々とした態度で座っている。
「…た、ただいま」
動かずにその場に座っていたので私は玄関で靴を履いたまましゃがみ、犬と同じ高さの目線になり、なんとなくその言葉を言ってみた。何かが返ってくるとは思わなかったけど、家に誰かがいるということが久しぶり過ぎてついそう言ってしまった。犬はしばらく私の方を見つめていたが、部屋の方に戻っていった。出迎えてくれたのだろうか。
部屋に戻るとドッグフードが入った皿が目についた。明らかに今朝いれた時と変化が全くない。水は飲んでくれたみたいだが、ご飯を食べないと治るものも治らない。私は買ってきたものを袋から出し、ドッグフードの皿と大型犬が好みそうなドッグフードやおやつを出す。
「いろいろあるんだけど…どれがいい?」
「………」
「こ、これなんかどう!?お、大型犬のワンちゃんも大喜び!だって!あは、あはは…」
「………」
駄目だ…全然食いついてくれない…。一体どうすればいいんだろう。私が頭を抱えていると犬はいつの間にか傍に近づいてきていた。
「…どうしたの?」
犬の視線を辿っていくと、昨日私が噛まれた跡が綺麗に残っていた。見た目ほど痛いものでもなかったため特に手当てもしていなかった。ずっと見ているけど、もしかして噛んだこと気にしてるのかな。私は恐る恐る噛まれていない方の手を犬の頭に伸ばす。優しく頭を撫でると犬は顔を上げて私の顔を見てきた。
「大丈夫だよ」
「………」
「起きたばっかで急に近づかれてびっくりしちゃったんだよね…ごめんね」
「…」
まただ。昨日私の手を噛んだ後と同じ顔をしている。驚いているような、戸惑っているような、そんな顔。こうして犬に触れることができただけでも距離を縮められた気がした。
「わっ」
撫でていた頭が離れたかと思えば、犬は私の手にある噛み跡を舐めてくれた。もしかして心配してくれてる?
「ふふ…ありがとう。もう痛くないよ」
「…わふ」
「はぁ〜…かわいいなぁ」
怖い顔をしているが自分のしたことに罪悪感を感じ、心配してくれているとても優しい犬だ。そんなギャップが可愛くてつい顔がにやけてしまうし、頭を撫でたくなる。
「そういえば名前なんていうんだろ」
きっと素敵な名前がついているのだろうが、特に手がかりもなく結局この犬の名前はわからなかった。それに呼び名がないと少し不便である。何かいい名前はないかと部屋をきょろきょろ見回してみると、ふとカレンダーが目に止まった。
「初めて出会った日は5月6日だから…ご、ろく…ごろ…吾郎…あはは、なんちって…」
「………」
「5月6日で吾郎、なんて、安直過ぎるよね」
「ワンッ!」
「え?もしかして気に入った?」
こうして、突如私の目の前に現れた犬の仮名は『吾郎』となった。
―――――
ご飯も食べてお風呂も入り、まったりとテレビを見る。特に食い入るように見るほど面白い番組はやっていなかったため、吾郎の様子を見てみる。最初に寝ていた場所が気に入っているのかあまり動こうとしなかった。たまに窓の方をじっと見つめていることがある。やっぱりご主人様のところに帰りたいよね…。でもしばらくは安静にさせなければいけないし、飼い主を探すにしても何をすればよいのやら…。私は吾郎に近づき、目の前に座る。
「ご主人様のことが恋しい?」
「………」
前までは顔も合わしてくれずガン無視状態だったが、今では顔を合わせてくれるようになった。少しは気を許してくれたのかな。
「ふふ…眼帯、かっこいいね」
「ッ!」
「ご主人様につけてもらったの?」
「………」
吾郎は左目についた眼帯を見られたくないのか顔の左側を腹部に埋めるように体を丸めた。まさか地雷を踏んでしまった?誰にだって触れて欲しくない部分はある。それは犬だって同じだ。かっこつけてるわけじゃない。オシャレなわけではない。おそらく吾郎の左目は、もう。
「…ごめんね」
私はそう言いながら吾郎に優しく触れた。
「…痛かったよね…大変だったよね」
背中を撫で続けていても吾郎は動かずにただじっとしていてくれた。
「もう、大丈夫だよ」
この犬を見ているとどうしてこんなにも胸を締め付けられるのだろう。
吾郎が家に来てから一週間が経った。吾郎もだいぶ私の家に慣れてきたのか、ご飯もよく食べるようになった。相変わらず外には出たがっているけど…。仕事で会社にいるときは吾郎を一人にさせてしまう為、仕事を終えたらなるべく早く帰るようにしている。
「お先に失礼しまーす」
「あっなまえちゃん!これからご飯行くんだけどなまえちゃんもどう?」
「あ、ごめんね…ちょっと用事が…」
「最近忙しそうねぇ…もしかして!彼氏でもできたんじゃ!?」
「ち、違う違う!ほんとになんでもないの!よかったらまた誘って…!」
同期の子からの誘いを断り家へと早足で帰宅する。バス停に着くと運良く私の家の方面に行くバスが近づいていた。バスに乗り込んで空いている席に腰を落ち着かせる。吾郎は今頃、家で何をしているのだろうか。最近、バスが目的のバス停に着くまでそんなことをいつも考えている。吾郎はいたずらをするようなことはしないため、とてもいい子である。きっとご主人様の躾がいいのだろうなぁと変わる風景を眺めながらそんなことを感じた。
目的のバス停に着いたため、バスを降りる。自然と家へと向かう足は早くなっていた。家に帰ると誰かがいるというのは少し、いやとても嬉しいものである。自宅についてドアの鍵を開ける。
「ただいまー」
あれ、今日はお出迎えなしか…。少し肩を落としながら靴を脱いで部屋へと続く廊下を歩く。
「吾郎ー?」
吾郎の名前を呼びながら部屋のドアを開ける。
「おっ、お嬢ちゃんおかえり」
そこには私が待ち望んでいた吾郎の姿はなく、代わりに左目に眼帯をし、派手なジャケットを素肌に着たテクノカットのおじさんがいた。
「えっ」
扉を開けた先にいたのは留守番をしていたあの犬がいた。つい驚いてしまい声をあげてしまったが、犬は今朝のようには驚かずに堂々とした態度で座っている。
「…た、ただいま」
動かずにその場に座っていたので私は玄関で靴を履いたまましゃがみ、犬と同じ高さの目線になり、なんとなくその言葉を言ってみた。何かが返ってくるとは思わなかったけど、家に誰かがいるということが久しぶり過ぎてついそう言ってしまった。犬はしばらく私の方を見つめていたが、部屋の方に戻っていった。出迎えてくれたのだろうか。
部屋に戻るとドッグフードが入った皿が目についた。明らかに今朝いれた時と変化が全くない。水は飲んでくれたみたいだが、ご飯を食べないと治るものも治らない。私は買ってきたものを袋から出し、ドッグフードの皿と大型犬が好みそうなドッグフードやおやつを出す。
「いろいろあるんだけど…どれがいい?」
「………」
「こ、これなんかどう!?お、大型犬のワンちゃんも大喜び!だって!あは、あはは…」
「………」
駄目だ…全然食いついてくれない…。一体どうすればいいんだろう。私が頭を抱えていると犬はいつの間にか傍に近づいてきていた。
「…どうしたの?」
犬の視線を辿っていくと、昨日私が噛まれた跡が綺麗に残っていた。見た目ほど痛いものでもなかったため特に手当てもしていなかった。ずっと見ているけど、もしかして噛んだこと気にしてるのかな。私は恐る恐る噛まれていない方の手を犬の頭に伸ばす。優しく頭を撫でると犬は顔を上げて私の顔を見てきた。
「大丈夫だよ」
「………」
「起きたばっかで急に近づかれてびっくりしちゃったんだよね…ごめんね」
「…」
まただ。昨日私の手を噛んだ後と同じ顔をしている。驚いているような、戸惑っているような、そんな顔。こうして犬に触れることができただけでも距離を縮められた気がした。
「わっ」
撫でていた頭が離れたかと思えば、犬は私の手にある噛み跡を舐めてくれた。もしかして心配してくれてる?
「ふふ…ありがとう。もう痛くないよ」
「…わふ」
「はぁ〜…かわいいなぁ」
怖い顔をしているが自分のしたことに罪悪感を感じ、心配してくれているとても優しい犬だ。そんなギャップが可愛くてつい顔がにやけてしまうし、頭を撫でたくなる。
「そういえば名前なんていうんだろ」
きっと素敵な名前がついているのだろうが、特に手がかりもなく結局この犬の名前はわからなかった。それに呼び名がないと少し不便である。何かいい名前はないかと部屋をきょろきょろ見回してみると、ふとカレンダーが目に止まった。
「初めて出会った日は5月6日だから…ご、ろく…ごろ…吾郎…あはは、なんちって…」
「………」
「5月6日で吾郎、なんて、安直過ぎるよね」
「ワンッ!」
「え?もしかして気に入った?」
こうして、突如私の目の前に現れた犬の仮名は『吾郎』となった。
―――――
ご飯も食べてお風呂も入り、まったりとテレビを見る。特に食い入るように見るほど面白い番組はやっていなかったため、吾郎の様子を見てみる。最初に寝ていた場所が気に入っているのかあまり動こうとしなかった。たまに窓の方をじっと見つめていることがある。やっぱりご主人様のところに帰りたいよね…。でもしばらくは安静にさせなければいけないし、飼い主を探すにしても何をすればよいのやら…。私は吾郎に近づき、目の前に座る。
「ご主人様のことが恋しい?」
「………」
前までは顔も合わしてくれずガン無視状態だったが、今では顔を合わせてくれるようになった。少しは気を許してくれたのかな。
「ふふ…眼帯、かっこいいね」
「ッ!」
「ご主人様につけてもらったの?」
「………」
吾郎は左目についた眼帯を見られたくないのか顔の左側を腹部に埋めるように体を丸めた。まさか地雷を踏んでしまった?誰にだって触れて欲しくない部分はある。それは犬だって同じだ。かっこつけてるわけじゃない。オシャレなわけではない。おそらく吾郎の左目は、もう。
「…ごめんね」
私はそう言いながら吾郎に優しく触れた。
「…痛かったよね…大変だったよね」
背中を撫で続けていても吾郎は動かずにただじっとしていてくれた。
「もう、大丈夫だよ」
この犬を見ているとどうしてこんなにも胸を締め付けられるのだろう。
吾郎が家に来てから一週間が経った。吾郎もだいぶ私の家に慣れてきたのか、ご飯もよく食べるようになった。相変わらず外には出たがっているけど…。仕事で会社にいるときは吾郎を一人にさせてしまう為、仕事を終えたらなるべく早く帰るようにしている。
「お先に失礼しまーす」
「あっなまえちゃん!これからご飯行くんだけどなまえちゃんもどう?」
「あ、ごめんね…ちょっと用事が…」
「最近忙しそうねぇ…もしかして!彼氏でもできたんじゃ!?」
「ち、違う違う!ほんとになんでもないの!よかったらまた誘って…!」
同期の子からの誘いを断り家へと早足で帰宅する。バス停に着くと運良く私の家の方面に行くバスが近づいていた。バスに乗り込んで空いている席に腰を落ち着かせる。吾郎は今頃、家で何をしているのだろうか。最近、バスが目的のバス停に着くまでそんなことをいつも考えている。吾郎はいたずらをするようなことはしないため、とてもいい子である。きっとご主人様の躾がいいのだろうなぁと変わる風景を眺めながらそんなことを感じた。
目的のバス停に着いたため、バスを降りる。自然と家へと向かう足は早くなっていた。家に帰ると誰かがいるというのは少し、いやとても嬉しいものである。自宅についてドアの鍵を開ける。
「ただいまー」
あれ、今日はお出迎えなしか…。少し肩を落としながら靴を脱いで部屋へと続く廊下を歩く。
「吾郎ー?」
吾郎の名前を呼びながら部屋のドアを開ける。
「おっ、お嬢ちゃんおかえり」
そこには私が待ち望んでいた吾郎の姿はなく、代わりに左目に眼帯をし、派手なジャケットを素肌に着たテクノカットのおじさんがいた。