夜よどうか攫っておくれ(支配人)
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「おい、飲み行くで」
突然の訪問で現れたどこか死んだような目をしている男の一声はそれだった。
「さっき帰ってきたばっかなんだけど…」
「俺もそんなもんや」
「いや知らんわ…」
「うだうだ言っとらんで付き合えや。あ、外ごっつ寒いから上羽織ってき。下で待っとるわ」
そう言って彼はバタンと音を立てながらドアを閉めた。遠くで彼が階段を降りている音が聞こえる。仕事で疲れているにも関わらず外に連れ回す癖に寒いから暖かい格好で来いという矛盾している彼の言動に溜め息をこぼす。部屋に戻り、ベッドの上に脱ぎ捨てたままでいたコートを羽織る。まだメイクを落としていなかったため軽く直してから必要なものをカバンに入れ、お気に入りのパンプスを履いて外に出た。
階段を降りると壁に背を預けながら煙草を吹かしている真島くんがいた。様になっているその姿を見て顔をしかめた。
くそ…背もでかいし顔もそれなりに整ってるからずるいんだよなこの人…
「…おまたせ」
「ん、ほな行くか」
真島くんは煙草を地面に落として先にシルバーの飾りがついた靴で揉み消した。
「さっむ」
「おー、せやなぁ」
「こんな夜中に女の子連れ出すなんてほんとどうかしてる」
「可愛くない口やなぁ…今日は俺の奢りやから機嫌直せや」
「ほんと!?やった」
「ほんまに現金なやっちゃな…」
ーーーーー
いきつけのスナックに入り、カウンター席のいつもの場所に2人で肩を並べて座る。真島くんに初めて連れてってもらったのもこのスナックである。夜にこうして連れ回され、このスナックにもだいぶお世話になっており、いつの間にか『いきつけ』と呼ぶようにまでなった。
「マスター、いつもの頼むで」
「かしこまりました」
真島くんがいつもの、と頼むだけでマスターは私たち二人分のお酒を作ってくれる。
「で、今日はどうしたの?」
「あ?」
「急に外に連れ出すときはいつも何か思い詰めたような顔してるじゃん」
「……そんなことあらへん」
「ふーん、まぁいいけど…なんか今日は飲みまくりたい気分だし付き合ってよね」
「誘ったんはこっちやろが…しかも俺の奢りやろ」
「なんだっていいでしょ〜。それに、奢ってもらえるなら尚更飲まなくっちゃ…それに明日は休みだし」
「しゃあないやっちゃのぉ…」
自分の髪を指でくるくると弄りながら可愛げのないことを言ったにも関わらず、真島くんの顔はどこか嬉しそうな顔をしていた。
「お店の方はどう?」
「ま、ぼちぼちでんな」
「またそれぇ?せっかく聞いてあげたのに」
「別に、みょうじちゃんが思っとるようなことはなぁんもないで」
「ふーん、あっそ」
「心配してくれておおきにな」
「…そんなんじゃないし」
ぶっきらぼうで可愛げのない口調で話しているのに、真島くんは嫌な顔ひとつせず応えてくれる。今まで付き合ってきた彼氏は私のこの素直じゃない口が原因で別れることが多かった。今更直せるものでもないし、人に合わせるのも正直面倒くさい。そんな素な自分でいられる真島くんとこうやってのんびり飲みながらだらだらと話すこの時間が、好きだ。
「お前の方はどうなんや」
「別に〜?口うるさい課長やセクハラ発言してくる部長に囲まれながらなんとかやってるって感じ」
「まぁだ凝りとらんのかそいつら」
「もう慣れちゃったし、対処の仕方も分かったから大丈夫だよ」
「いいわけないやろが…」
「大丈夫だって、先輩とかに助けて貰ってるし」
「…俺がそこにおりゃいっぺんシメたるんやがな」
「物騒なこと言わないで」
「なんかあったらすぐ俺に言えや」
「…はいはい」
ほんと、ずるい。こっちには素直に心配させてくれなくて、そっちはそうやってかっこいいこと言っちゃうんだから。
「…ありがとね」
「あ?」
「だ、だからっ…ありがと、って…」
「いや、聞こえとるわ…珍しくみょうじちゃんが素直なお口しとるから聞き返してしもたわ」
「なっ!私はいつだって素直…だし」
「ふーん?ま、そういうことにしといたるわ」
「…余裕ぶっちゃって、」
いや、そんなことはない。真島くんは何事も無かったかのように私から顔を逸らしたが、綺麗にくくられた髪のせいで何にも隠されていない耳が、赤くなっていた。
「なんで、耳赤く、」
私が指差してそう述べると真島くんは勢いよく耳を隠しながらこちらを向き、目を見開かせていた。するとすぐにその目は私から視線を外した。
「酒が、回ってきただけや…」
「え〜?ほんとにぃ?」
「うっさいわボケ…あー!なんや急に歌いとうなってきたわ!」
「えっ、ほんとどしたの急に」
「たまにはええやろ。マスター、一曲歌わせてもらうで!」
「私は歌わないからね」
「連れないこと言うなや…ちゃんと歌いやすいよう合いの手でもいれてくれや」
「御生憎様、合いの手いれるようなキャラじゃないんですけど」
「特別に俺の18番聞かせたるわ」
にいっと笑いながらそう言うと、カラオケ機器の側に立ち、マイクを握る。彼が歌っている姿が全く想像がつかないため、その異様な光景を見て少し顔がにやける。どんな曲を歌うのか心待ちにしていると、ポップな曲が流れてきた。この曲って最近流行りのアイドルの曲じゃ…
「素直にI LOVE YOU!届けよう〜♪」
「ブッッ」
ものすごくノリノリで歌い始めたため、思わず吹き出してしまった。そこから私の笑いのツボに入り、笑い声が店内に響いた。普通に上手いからそれがまた笑えてくる。
「素直すぎる君が〜とても愛しい〜♪」
「ふ、ふふっ…!ちゃんとビブラートきいてるし…!」
生き生きとした真島くんがとても新鮮で笑いを止めたくても止めることができない。
突然の訪問で現れたどこか死んだような目をしている男の一声はそれだった。
「さっき帰ってきたばっかなんだけど…」
「俺もそんなもんや」
「いや知らんわ…」
「うだうだ言っとらんで付き合えや。あ、外ごっつ寒いから上羽織ってき。下で待っとるわ」
そう言って彼はバタンと音を立てながらドアを閉めた。遠くで彼が階段を降りている音が聞こえる。仕事で疲れているにも関わらず外に連れ回す癖に寒いから暖かい格好で来いという矛盾している彼の言動に溜め息をこぼす。部屋に戻り、ベッドの上に脱ぎ捨てたままでいたコートを羽織る。まだメイクを落としていなかったため軽く直してから必要なものをカバンに入れ、お気に入りのパンプスを履いて外に出た。
階段を降りると壁に背を預けながら煙草を吹かしている真島くんがいた。様になっているその姿を見て顔をしかめた。
くそ…背もでかいし顔もそれなりに整ってるからずるいんだよなこの人…
「…おまたせ」
「ん、ほな行くか」
真島くんは煙草を地面に落として先にシルバーの飾りがついた靴で揉み消した。
「さっむ」
「おー、せやなぁ」
「こんな夜中に女の子連れ出すなんてほんとどうかしてる」
「可愛くない口やなぁ…今日は俺の奢りやから機嫌直せや」
「ほんと!?やった」
「ほんまに現金なやっちゃな…」
ーーーーー
いきつけのスナックに入り、カウンター席のいつもの場所に2人で肩を並べて座る。真島くんに初めて連れてってもらったのもこのスナックである。夜にこうして連れ回され、このスナックにもだいぶお世話になっており、いつの間にか『いきつけ』と呼ぶようにまでなった。
「マスター、いつもの頼むで」
「かしこまりました」
真島くんがいつもの、と頼むだけでマスターは私たち二人分のお酒を作ってくれる。
「で、今日はどうしたの?」
「あ?」
「急に外に連れ出すときはいつも何か思い詰めたような顔してるじゃん」
「……そんなことあらへん」
「ふーん、まぁいいけど…なんか今日は飲みまくりたい気分だし付き合ってよね」
「誘ったんはこっちやろが…しかも俺の奢りやろ」
「なんだっていいでしょ〜。それに、奢ってもらえるなら尚更飲まなくっちゃ…それに明日は休みだし」
「しゃあないやっちゃのぉ…」
自分の髪を指でくるくると弄りながら可愛げのないことを言ったにも関わらず、真島くんの顔はどこか嬉しそうな顔をしていた。
「お店の方はどう?」
「ま、ぼちぼちでんな」
「またそれぇ?せっかく聞いてあげたのに」
「別に、みょうじちゃんが思っとるようなことはなぁんもないで」
「ふーん、あっそ」
「心配してくれておおきにな」
「…そんなんじゃないし」
ぶっきらぼうで可愛げのない口調で話しているのに、真島くんは嫌な顔ひとつせず応えてくれる。今まで付き合ってきた彼氏は私のこの素直じゃない口が原因で別れることが多かった。今更直せるものでもないし、人に合わせるのも正直面倒くさい。そんな素な自分でいられる真島くんとこうやってのんびり飲みながらだらだらと話すこの時間が、好きだ。
「お前の方はどうなんや」
「別に〜?口うるさい課長やセクハラ発言してくる部長に囲まれながらなんとかやってるって感じ」
「まぁだ凝りとらんのかそいつら」
「もう慣れちゃったし、対処の仕方も分かったから大丈夫だよ」
「いいわけないやろが…」
「大丈夫だって、先輩とかに助けて貰ってるし」
「…俺がそこにおりゃいっぺんシメたるんやがな」
「物騒なこと言わないで」
「なんかあったらすぐ俺に言えや」
「…はいはい」
ほんと、ずるい。こっちには素直に心配させてくれなくて、そっちはそうやってかっこいいこと言っちゃうんだから。
「…ありがとね」
「あ?」
「だ、だからっ…ありがと、って…」
「いや、聞こえとるわ…珍しくみょうじちゃんが素直なお口しとるから聞き返してしもたわ」
「なっ!私はいつだって素直…だし」
「ふーん?ま、そういうことにしといたるわ」
「…余裕ぶっちゃって、」
いや、そんなことはない。真島くんは何事も無かったかのように私から顔を逸らしたが、綺麗にくくられた髪のせいで何にも隠されていない耳が、赤くなっていた。
「なんで、耳赤く、」
私が指差してそう述べると真島くんは勢いよく耳を隠しながらこちらを向き、目を見開かせていた。するとすぐにその目は私から視線を外した。
「酒が、回ってきただけや…」
「え〜?ほんとにぃ?」
「うっさいわボケ…あー!なんや急に歌いとうなってきたわ!」
「えっ、ほんとどしたの急に」
「たまにはええやろ。マスター、一曲歌わせてもらうで!」
「私は歌わないからね」
「連れないこと言うなや…ちゃんと歌いやすいよう合いの手でもいれてくれや」
「御生憎様、合いの手いれるようなキャラじゃないんですけど」
「特別に俺の18番聞かせたるわ」
にいっと笑いながらそう言うと、カラオケ機器の側に立ち、マイクを握る。彼が歌っている姿が全く想像がつかないため、その異様な光景を見て少し顔がにやける。どんな曲を歌うのか心待ちにしていると、ポップな曲が流れてきた。この曲って最近流行りのアイドルの曲じゃ…
「素直にI LOVE YOU!届けよう〜♪」
「ブッッ」
ものすごくノリノリで歌い始めたため、思わず吹き出してしまった。そこから私の笑いのツボに入り、笑い声が店内に響いた。普通に上手いからそれがまた笑えてくる。
「素直すぎる君が〜とても愛しい〜♪」
「ふ、ふふっ…!ちゃんとビブラートきいてるし…!」
生き生きとした真島くんがとても新鮮で笑いを止めたくても止めることができない。