残香(支配人)
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「なぁなぁ、真島さんって付き合うとる人とかおんのかな!?」
「え〜?どうなんやろなぁ?あの人仕事一筋って感じちゃう?」
いつも通り女の子たちのメイクをしていると浮ついた話が聞こえてきた。スタッフルームではいつもこういった話を女の子達がしている。女の子たちが話している内容は私にとってあまり興味のないものが多いが、今日は自然と耳を傾けてしまっていた。
「あ!でもこの前女の子と手繋いでるの見た!」
「見間違えなんとちゃう?」
「ほんとですって!なんか急いでたっぽかったし!」
「真島さんがそないなことしてる想像するとなんやおもろいなぁ」
思わず落ち着いた女の子の言葉に確かにと思ってしまった。支配人からはそういった噂はあまり、というよりほとんど聞かないため、少し気になってしまっている自分がいた。
「なまえさんはどう思います!?」
「え、私!?」
急に話題を振られ、自然と肩が跳ねた。しかも支配人のことについて。
「なまえさん、真島さんと仲ええもんなぁ」
「い、いやいや!そんなことは…」
「真島さん絶対なまえさんのこと気に入ってますよ〜!見てて分かりますもん!」
「うーん…そうなのかな…?」
「そうですって!よく2人で話してるのも見るし!」
「この前だって呼び出されてたもんなぁ」
「あれは仕事のことであって…!」
「え〜?ほんとですか〜?」
「ほ、ほんとだって…!ほら!皆早く準備して!」
「あ!逃げた!」
支配人のことについて質問攻めにあっている状況に耐えられず、つい逃げてしまった。
「なまえ」
事務室でもくもくと仕事をしていると、支配人が入ってきた。
「支配人、お疲れ様です」
「おう、お疲れ」
「今日も外に行ってたんですか?」
「あぁ。すまんの…店任せっきりにして」
「いえいえ、大丈夫ですよ。女の子たちや他のスタッフもみんな一生懸命頑張ってくれているのでとても助かってます」
「そうなんか…」
「ですので、ご心配なさらずともグランドは大丈夫ですよ」
「いつもありがとうな」
「えっ、あ、いえ…どういたしまして」
急に面と向かってお礼を言われたからか少し戸惑ってしまった。
「ところで…今日仕事終わったあと暇か?」
「あ、はい。特に何も予定はないです」
「そんじゃあけといてや」
また迎えにくる、と言って支配人は事務室をあとにした。仕事終わりに予定をあけておけと言われたことは一度もなかったため、支配人が出ていったドアの方に向かって首を傾げた。きっと仕事のことだろうなぁと頭の中で解決させて自分の仕事へと戻った。
仕事を終えて、支配人を自分の席で座りながらのんびりと待つ。そういえば、最近支配人はよく外に出ている。たまに他店の店に出向いたりしていて外に出ていることはあったが、ここのところ忙しそうにしている。グランドの売上は悪い方ではない。むしろその逆である。そこまで焦る必要があるのだろうか。支配人の考えていることはよくわからない。まぁそんなときもあるか、と呑気に思っていると、ドアが大きな音をたてて開いた。そこには少し息をあげながら肩を上下している支配人がいた。
「ど、どうしたんですか支配人」
「いや…なまえ待たせたらあかんと思って」
「ありがとうございます…でも全然大丈夫でしたのに…」
「女の子待たせたらあかんやろ」
支配人は疲れを逃がすように大きく息を吐くと、ほら行くでと外へと出ていった。私はその後ろ姿を慌てて追いかけた。これから外へ出てなにをするのだろうか。
「ほれ、好きなん頼み」
支配人は私にメニューを渡してきた。まさか飲みに連れてきてもらえるとは思わず、内心戸惑っている。
「あの…」
「ん?決まったか」
「いや、ええと…何故居酒屋に…?」
「…あかんかったか?」
「え!?いや!全然!!…ただ、連れてきてもらえると思ってなかったので」
「たまにはええやろ。それに、なまえと飲んでみたかったしのぉ」
今日は俺の奢りだから気にせず飲み食いせぇと煙草を口にくわえて火をつけながら支配人はそう言った。女の子達やスタッフなどからは支配人と飲みに行ったなどという話は一度も聞いたことがない。いったいどうしたものかと悩みながらメニューを見る。
「あ、決まりました」
「そうか」
支配人はちょうど私たちの席を横切ろうとした店員を呼び止め、注文をした。
「生ひとつと…」
「あ、私も生で」
「…あと枝豆と…適当に焼き鳥見繕ってくれや」
店員は注文を受けると厨房の方へと向かっていった。支配人は私をまじまじと見つめてきた。
「どうかしましたか?」
見つめられて落ち着けなかったので、我慢できず聞いてしまった。
「生って…俺に気つかっとらんか?」
「へ?あ、いえいえ、好きなんですよ、ビール」
「ほんまか?なんや意外やのォ…なまえはもっとかわいらしゅうもん飲むかと思ったわ」
「そうですかね?お酒はよく飲むほうなので結構強い方だと思いますよ」
「ほぉ…そうなんか。明日は休みやろ?好きなだけ飲んでつぶれても俺がおるから家まで送ったるで」
「ふふ…ありがとうございます」
そん代わりとことん付き合ってもらうでとヒヒッと白い歯を見せながら言われたそんなことを話していると先に飲み物とつまみがテーブルに運ばれてきた。
「んじゃ、せっかくやし乾杯するか」
「そうですね」
2人してジョッキを片手にもち、お互いのジョッキをカチンと当てて乾杯をする。
「今日もお疲れさん」
「支配人こそ、いつもお疲れ様です」
お互い労いの言葉を掛け合うとジョッキを口へと運び、ビールを飲む。喉に通るビールはキンキンに冷えており、仕事疲れを癒してくれるようだった。
「ええ飲みっぷりやのォ」
「あ、はは…すみません。美味しくてつい…」
「えぇ、えぇ、今日は気つかわんと好きなように楽しめや」
「じゃあ、お言葉に甘えて…でもそう言う支配人こそ、結構いける口ですよね」
「当たり前やろォ?夜の帝王、なんて呼ばれとるやつが酒に弱いて…道の真ん中歩けんわ」
「あはは、確かにそうですね」
お酒が入って笑いのツボが浅くなったのか、支配人の話が面白く、自然と笑みが零れた。
「なまえは笑うと別嬪さんやのォ」
「な、なんですか急に…」
「そうやって笑っとき。周りはそんだけで助かるやつもおるからの」
「そうなんですか…?」
「別嬪さんが笑っとっていい気分にならんやつはおらんやろ」
「…支配人は、どうなんですか?」
私は何を聞いているのだろう。つい褒められて、お酒を飲んでいるせいもあって、気が緩んでしまっていた。
「なまえが幸せそうに笑ってくれるんやったら、嬉しくてしゃあないわ」
ずるい人。顔が熱くなるのを感じながらそう思った。グランドの客を見ていると女の子に気に入られたいがために、平気で嘘をついている男を何人も見てきた。でもこの人は違う。裏も表もないのだ。感じたことをそのまま伝えてくれるとても、ずるい人。私は顔の熱さを誤魔化すように勢いよくお酒を飲んだ。
「え〜?どうなんやろなぁ?あの人仕事一筋って感じちゃう?」
いつも通り女の子たちのメイクをしていると浮ついた話が聞こえてきた。スタッフルームではいつもこういった話を女の子達がしている。女の子たちが話している内容は私にとってあまり興味のないものが多いが、今日は自然と耳を傾けてしまっていた。
「あ!でもこの前女の子と手繋いでるの見た!」
「見間違えなんとちゃう?」
「ほんとですって!なんか急いでたっぽかったし!」
「真島さんがそないなことしてる想像するとなんやおもろいなぁ」
思わず落ち着いた女の子の言葉に確かにと思ってしまった。支配人からはそういった噂はあまり、というよりほとんど聞かないため、少し気になってしまっている自分がいた。
「なまえさんはどう思います!?」
「え、私!?」
急に話題を振られ、自然と肩が跳ねた。しかも支配人のことについて。
「なまえさん、真島さんと仲ええもんなぁ」
「い、いやいや!そんなことは…」
「真島さん絶対なまえさんのこと気に入ってますよ〜!見てて分かりますもん!」
「うーん…そうなのかな…?」
「そうですって!よく2人で話してるのも見るし!」
「この前だって呼び出されてたもんなぁ」
「あれは仕事のことであって…!」
「え〜?ほんとですか〜?」
「ほ、ほんとだって…!ほら!皆早く準備して!」
「あ!逃げた!」
支配人のことについて質問攻めにあっている状況に耐えられず、つい逃げてしまった。
「なまえ」
事務室でもくもくと仕事をしていると、支配人が入ってきた。
「支配人、お疲れ様です」
「おう、お疲れ」
「今日も外に行ってたんですか?」
「あぁ。すまんの…店任せっきりにして」
「いえいえ、大丈夫ですよ。女の子たちや他のスタッフもみんな一生懸命頑張ってくれているのでとても助かってます」
「そうなんか…」
「ですので、ご心配なさらずともグランドは大丈夫ですよ」
「いつもありがとうな」
「えっ、あ、いえ…どういたしまして」
急に面と向かってお礼を言われたからか少し戸惑ってしまった。
「ところで…今日仕事終わったあと暇か?」
「あ、はい。特に何も予定はないです」
「そんじゃあけといてや」
また迎えにくる、と言って支配人は事務室をあとにした。仕事終わりに予定をあけておけと言われたことは一度もなかったため、支配人が出ていったドアの方に向かって首を傾げた。きっと仕事のことだろうなぁと頭の中で解決させて自分の仕事へと戻った。
仕事を終えて、支配人を自分の席で座りながらのんびりと待つ。そういえば、最近支配人はよく外に出ている。たまに他店の店に出向いたりしていて外に出ていることはあったが、ここのところ忙しそうにしている。グランドの売上は悪い方ではない。むしろその逆である。そこまで焦る必要があるのだろうか。支配人の考えていることはよくわからない。まぁそんなときもあるか、と呑気に思っていると、ドアが大きな音をたてて開いた。そこには少し息をあげながら肩を上下している支配人がいた。
「ど、どうしたんですか支配人」
「いや…なまえ待たせたらあかんと思って」
「ありがとうございます…でも全然大丈夫でしたのに…」
「女の子待たせたらあかんやろ」
支配人は疲れを逃がすように大きく息を吐くと、ほら行くでと外へと出ていった。私はその後ろ姿を慌てて追いかけた。これから外へ出てなにをするのだろうか。
「ほれ、好きなん頼み」
支配人は私にメニューを渡してきた。まさか飲みに連れてきてもらえるとは思わず、内心戸惑っている。
「あの…」
「ん?決まったか」
「いや、ええと…何故居酒屋に…?」
「…あかんかったか?」
「え!?いや!全然!!…ただ、連れてきてもらえると思ってなかったので」
「たまにはええやろ。それに、なまえと飲んでみたかったしのぉ」
今日は俺の奢りだから気にせず飲み食いせぇと煙草を口にくわえて火をつけながら支配人はそう言った。女の子達やスタッフなどからは支配人と飲みに行ったなどという話は一度も聞いたことがない。いったいどうしたものかと悩みながらメニューを見る。
「あ、決まりました」
「そうか」
支配人はちょうど私たちの席を横切ろうとした店員を呼び止め、注文をした。
「生ひとつと…」
「あ、私も生で」
「…あと枝豆と…適当に焼き鳥見繕ってくれや」
店員は注文を受けると厨房の方へと向かっていった。支配人は私をまじまじと見つめてきた。
「どうかしましたか?」
見つめられて落ち着けなかったので、我慢できず聞いてしまった。
「生って…俺に気つかっとらんか?」
「へ?あ、いえいえ、好きなんですよ、ビール」
「ほんまか?なんや意外やのォ…なまえはもっとかわいらしゅうもん飲むかと思ったわ」
「そうですかね?お酒はよく飲むほうなので結構強い方だと思いますよ」
「ほぉ…そうなんか。明日は休みやろ?好きなだけ飲んでつぶれても俺がおるから家まで送ったるで」
「ふふ…ありがとうございます」
そん代わりとことん付き合ってもらうでとヒヒッと白い歯を見せながら言われたそんなことを話していると先に飲み物とつまみがテーブルに運ばれてきた。
「んじゃ、せっかくやし乾杯するか」
「そうですね」
2人してジョッキを片手にもち、お互いのジョッキをカチンと当てて乾杯をする。
「今日もお疲れさん」
「支配人こそ、いつもお疲れ様です」
お互い労いの言葉を掛け合うとジョッキを口へと運び、ビールを飲む。喉に通るビールはキンキンに冷えており、仕事疲れを癒してくれるようだった。
「ええ飲みっぷりやのォ」
「あ、はは…すみません。美味しくてつい…」
「えぇ、えぇ、今日は気つかわんと好きなように楽しめや」
「じゃあ、お言葉に甘えて…でもそう言う支配人こそ、結構いける口ですよね」
「当たり前やろォ?夜の帝王、なんて呼ばれとるやつが酒に弱いて…道の真ん中歩けんわ」
「あはは、確かにそうですね」
お酒が入って笑いのツボが浅くなったのか、支配人の話が面白く、自然と笑みが零れた。
「なまえは笑うと別嬪さんやのォ」
「な、なんですか急に…」
「そうやって笑っとき。周りはそんだけで助かるやつもおるからの」
「そうなんですか…?」
「別嬪さんが笑っとっていい気分にならんやつはおらんやろ」
「…支配人は、どうなんですか?」
私は何を聞いているのだろう。つい褒められて、お酒を飲んでいるせいもあって、気が緩んでしまっていた。
「なまえが幸せそうに笑ってくれるんやったら、嬉しくてしゃあないわ」
ずるい人。顔が熱くなるのを感じながらそう思った。グランドの客を見ていると女の子に気に入られたいがために、平気で嘘をついている男を何人も見てきた。でもこの人は違う。裏も表もないのだ。感じたことをそのまま伝えてくれるとても、ずるい人。私は顔の熱さを誤魔化すように勢いよくお酒を飲んだ。