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この世の全て

 ベッドの上で、目を覚ました。体を起こそうとして、酷い頭痛に襲われた。天井を見つめる。何も聞こえないし、何も感じない。手を動かすほどの気力も起こらず、ただ瞬きを繰り返している。
 頭を働かせようとしても、上手くいかなかった。無理やり動かそうとしても、鍵がかかっているかのように、先に進むことができない。ただぼうっとしている。自分が誰だかも、認識できていないのかもしれない。ここはどこだろう。見覚えがあるような気はする。右腕が痛い。痛いのは本当に右腕だろうか。何も確信が持てない。
 しかし、頭ではたくさんの事柄を考えているような気がする。実際には何も考えられていないのだが、すでに飽和しているのだ。

 そのまま、何時間経ったかわからない。途中で眠っていたかもしれない。扉が叩かれる音に気がついた。コンコン、と繰り返される音をぼんやりと聞き流していると、扉が開いた。

「失礼いたします……」

 ワゴンを引く音とともに、メイドの声が聞こえた。頭痛を堪えて顔を扉のほうに向ける。

「殿下!やっと気がついたのですね。ああ、よかった……。気を失った貴方が運び込まれてきた時は一体何があったのかと、心配で心配で……」

 メイドの話が理解できず、彼女をぼうっと見つめていた。

「殿下は覚えていらっしゃらないかも知れませんが、数刻前に見知らぬ男性が気を失っている殿下を抱えてお城にいらっしゃったのです。身なりが大変立派で、見目麗しいお方だったのですが、名前を教えてくださらなくて、一体どなただったのでしょう。あれほど素晴らしいお方なら、どこかで聞いたことがあると思うのだけれど」
「……」

 王子が黙り込んでいることに関しては気に留める様子もなく、メイドが話し続ける。

「とても聡明な方だったのですよ。言葉遣いや振る舞いだけでも十分にわかるくらいに。そういえば、隣の国の王子も、頭がいいと評判でしたね。お姿はあまりよろしくないけれど。確か、ニケ様とおっしゃったかしら?」

 その名前を聞いた途端に、王子は頭痛も忘れて勢いよく起き上がった。

「ニケ!」
「まぁ、殿下! 無理して起き上がってはいけません」
「あいつはどうした!?」
「ニケ様ですか? 私は何も存じ上げませんが……」

 メイドは王子の言っていることが理解できなかった。

「だから、俺をここに連れてきた奴だ!」
「とっくにお帰りになられました。名前も告げられずに」
「チッ……」

 先ほどまで全く動かなかった頭は、衝撃を受けて回り始めた。しかし、意識を失う前と同じようにはいかなかった。破れない壁が、思考を強制的に遮ってしまう。
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