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この世の全て

 よく喋るメイドを下がらせ、ベッドから起き上がりカーテンを開けると、窓の外は夜だった。もう一度眠る気にもなれないので、机に向かって日記を開いた。ちょうど一年前から毎日つけているものだ。毎日の出来事を記録することで、自分の時間が進んでいることを確認できるし、過去の出来事も自分の中に留めておくことができる。

 昼間に森へ抜け出し、奇妙な男にあったこと。男の醜い顔が、美しく変化していったこと。気味の悪い男に斬りかかった時、思考がフェードアウトして、気絶し、あろうことかあの男に城まで運ばれていたこと。今日の出来事を一通り記録し、最初のページを開いた。
 ニケという男に関しては、特に何も書かれていない。もちろん近隣国の王子として知っていたし、何度か社交の場で見かけたが、会って話したという記憶はほとんどない。

 ニケ・パストーリ・ファルゼス。南方に隣接する、レストシア王国の第一王子だ。我が国、アリアス王国との往来に制限は設けておらず、商人の行き来が盛んである。しかし国家としての交流はあまりなかった。というのも、レストシアは西方の大国、グラン・シルフ帝国からの援助を受けており、帝国貴族とレストシア王家の繋がりもある。属国とまでは行かないが、政治の方針もほとんど帝国の意向に従っていると考えられる。

 そのシルフとアリアスは過去に数度、外交上の決裂から戦争に発展したことがあるため、シルフからの援助を受けるレストシアと表立って仲良くすることはできない。……とはいえ、ここまで王子同士の交流がなかったのは、互いの特殊性ゆえ、というか、私が馬鹿だったからだろう。もしかしたら、生まれつき賢い弟はどこかで話をしていたのかもしれない。

 レストシア王家が帝国に頼らず完全に独立することは、今の王の治世では不可能だろう。ニケが即位すればあるいは、といったところか。その頃には自分も王位に就いているのだろう。

 倒れた際の記憶は曖昧だが、城まで運んでもらったことには礼を言わなければならない。明日にでも使者を送ろう。
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