隣国の王子
「顔だけじゃなくて、骨格も良くなったみたい。身体ってこんなに自由だったんだ」
ニケは王子を離し、自分の背中をさすった。軽く腕を回して宙へ向けて両手を伸ばし、思うように動く四肢に感動した。
王子は目の前で起こったことが受け入れられず、後退りした。
「お、おかしいだろ……。お前、何者だ。奇術か? それとも呪いか?」
「大丈夫だから落ち着いて。これは君の力だ。僕が君に知恵を授けたように、君が僕を美しくした。奇術でも呪いでもなく、運命だ」
運命だと……?そんなものに騙されるか。自分はもう、他者に依存し、操られるだけの人形ではないのだ。現実と虚構の区別くらい、容易につく。
「もしや異端者か? あぁ、そうか。なるほど、お前の異形は人を騙すための道具だったのか……」
見えているものも、信じられるとは限らない。馬鹿だった頃の視界は、自分の意識や願望に影響されて、崩壊していた。
「僕は騙されない。その正体が何であれ、君のような不審な男の言うことを真に受けるような馬鹿じゃない」
「話を聞きなさい、王子!」
「兵を呼ぶ暇はない……な」
王子は腰の剣を抜き、正面に構え、強く踏み込んで一気に攻め立てようとした。しかし、護身術はニケの方が優っている。王子はまともに訓練を始めてから、たった一年しか経っていない。一方でニケは、自由自在に動く四肢を手に入れたばかりだ。
ニケは自分に向けて振り下ろされた刃を何とか腕で受け止め、王子の手から剣を奪い、地面に捨てた。そのまま足を払い、地面に倒れ込んで押さえつける。
「離せ、異端者め!!」
「落ち着くんだ。ここで揉め事を起こすことが双方にとって無益であることくらい、君ならわかるだろう」
掴まれた手を振り解こうとした時、王子の頭に靄がかかったような違和感を感じた。
「……あれ、まって」
抵抗していた王子の動きが止まった。
「何か、何かおかしい……。消えちゃいやだ、やめて……やめて!!」
「落ち着いて、息を吸って」
「だめだ、俺は、俺が……あぁ……」
張っていた糸が切れたように、王子は意識を失った。
ニケは王子を離し、自分の背中をさすった。軽く腕を回して宙へ向けて両手を伸ばし、思うように動く四肢に感動した。
王子は目の前で起こったことが受け入れられず、後退りした。
「お、おかしいだろ……。お前、何者だ。奇術か? それとも呪いか?」
「大丈夫だから落ち着いて。これは君の力だ。僕が君に知恵を授けたように、君が僕を美しくした。奇術でも呪いでもなく、運命だ」
運命だと……?そんなものに騙されるか。自分はもう、他者に依存し、操られるだけの人形ではないのだ。現実と虚構の区別くらい、容易につく。
「もしや異端者か? あぁ、そうか。なるほど、お前の異形は人を騙すための道具だったのか……」
見えているものも、信じられるとは限らない。馬鹿だった頃の視界は、自分の意識や願望に影響されて、崩壊していた。
「僕は騙されない。その正体が何であれ、君のような不審な男の言うことを真に受けるような馬鹿じゃない」
「話を聞きなさい、王子!」
「兵を呼ぶ暇はない……な」
王子は腰の剣を抜き、正面に構え、強く踏み込んで一気に攻め立てようとした。しかし、護身術はニケの方が優っている。王子はまともに訓練を始めてから、たった一年しか経っていない。一方でニケは、自由自在に動く四肢を手に入れたばかりだ。
ニケは自分に向けて振り下ろされた刃を何とか腕で受け止め、王子の手から剣を奪い、地面に捨てた。そのまま足を払い、地面に倒れ込んで押さえつける。
「離せ、異端者め!!」
「落ち着くんだ。ここで揉め事を起こすことが双方にとって無益であることくらい、君ならわかるだろう」
掴まれた手を振り解こうとした時、王子の頭に靄がかかったような違和感を感じた。
「……あれ、まって」
抵抗していた王子の動きが止まった。
「何か、何かおかしい……。消えちゃいやだ、やめて……やめて!!」
「落ち着いて、息を吸って」
「だめだ、俺は、俺が……あぁ……」
張っていた糸が切れたように、王子は意識を失った。