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隣国の王子

賢くなった王子の噂を聞きつけた諸侯から、次々に見合いの話が舞い込んできた。その中に、王子が心惹かれる美しい女性がいた。その女性は大きな川を隔てた東国の出身で、噂によるとその美しさと聡明さから、多くの民に慕われているのだという。
 しかし、王子は大変賢かったため、結婚を急かす大臣達をよそに、思いとどまった。このまま周囲に流されるままに結婚していいのか、絵と噂話だけで女性を判断していいのか。その悩みを打ち明けたところでまともに取り合う人はいないだろうから、全て一人で考えて決めていった。
 王子が何件も舞い込んでくる見合いを全て断っていくため、城の者達はついに怪しみ始めた。心に決めた人、もしくは想いを寄せる女性がいるのではないか、といった話から、そっちが使い物にならないのでは…といったあらぬ話まで、密かに囁かれていた。

 ある日また、兄王子がいつものように森に抜け出して思索に耽っていた。呆けていた時から何度も抜け出していたし、本当に忙しい時は仕事を全うするようになったため、突然いなくなっても咎めるものはいない。 
 ふと、人の気配がしたので顔を上げると、向こうから歩いてくる人影が見えた。立ち上がって身構えると、覚えのある気配がした。

「約束通り、来てくれたんだね」
「……誰だ」

 遠目に見て知り合いの誰かだろうと思っていたが、顔を見ても誰だか思い出せなかった。近寄ってきた人物は王子の前に跪いて、そっと王子の手を取った。

「覚えていないのかい。あなたに知恵を授けた者だ。ちょうど一年前、ここで」 
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