君の心
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コンコンコンッ
「失礼致します」
扉をノックし中に入る
中央に置かれた理事長席にその姿は無く、
窓際には細身の老紳士が外を眺めて立っていた
「サリバン様、お連れ致しました」
オペラさんの声かけで振り向き、私と目が合う
唯ならぬ雰囲気を纏うこの方のプレッシャーに、手に汗を握った
「初めまして、キサと申します」
瞼を伏せて礼をすると、「ようこそバビルスへ」と声を掛けられる
「もう知っているとは思うけれど、僕はサリバン。このバビルスの理事長だよ」
「お忙しい中、お時間を取って頂き感謝致します」
サリバン様は私の肩に手を置くと
「も〜そんな堅苦しくならなくて大・丈・夫!レヴィから聞いてるよ、真面目過ぎる子だって。はい!こっちこっち!こっちに座って!オペラはお茶菓子宜しく!」
「かしこまりました」
サリバン様は私をふかふかのソファに座らせ、同じくふかふかのクッションやぬいぐるみやらで私を囲んだ。
突然の事にされるがままで、言葉を失い、
「あ、あの、その、お構いなく......」
歓迎ムードに押されて挙動不審になる
「僕がやりたくてやってるの♪」
にっこり微笑むサリバン様にそう返されると、それ以上何も言えなかった。
「どうぞ、熱いのでお気をつけください」
オペラさんに淹れて貰った茶を口に含む
「.........美味しい」
ほっとする
緊張で冷えていた手足に血が巡り始めた
私の肩の力が抜けたのを確認したサリバン様は
「僕に、聞きたい事があるんだって?」
「はい。あの、言語変換の魔術、というものは、どういう方式で成り立っているのかを教えて頂きたくて...」
本題を切り出したサリバン様へ私の疑問をぶつける。
私の勘が当たっていれば.......
「残念だけど、その様な魔術は無い」
やっぱり........
サリバン様は前で手を組むと、
「悪魔の魔力で、魂に刻まれた魔界の言語情報を無理やり引き出す魔術の事を言ってるんだね?」
「魂.......に刻まれていない場合はどうなるのですか?」
「相淹れない物が混ざり合う事はない。ただ、死ぬだけだ」
「死......!?でも、ベリアール様は何も....」
「ベリやんは賭けが好きだからねぇ」
ははははと笑うサリバン様だが、笑えない
下手したら魔界に来て早々死んでいたのだ
「キサちゃんは運が良いね」
「運が良いというか....私にその素質があった事の方が驚いています」
母さんは知っているのだろうか
お婆様は?
『魔界』というものが存在するなんて話は一切聞かされなかった
一体何故、自分の魂には刻まれているのだろう
「先祖に悪魔と交わった者が居たのか、あるいは悪魔と契約を交わした者が居たのか........定かではないけれどね」
自分が『特別』だという驕りに酔いしれる事は無い
寧ろ、『異端』だという表現の方が近い
良くない考えばかりが頭を過り、頭を抱える
「私は、魔界に来て良かったのでしょうか」
自由とは、一歩踏み出せば花畑に繋がっているものではない事は解っていた。
だけど、踏み出さなければ何も変わらない
踏み出した先が花畑では無く魔界だっただけだ
「後悔しているの?」
「いえ、後悔はしていません。自分の浅い考えに、反省しているだけです」
「来て良かったかだなんて、それはキサちゃん次第。君にしか答えられない」
サリバン様は私の手を取り、
その手に手鏡を持たせた
情けない顔をした自分が鏡に写っている
「今の君に必要なのは自分と対話する事だ。ここに居る間、ゆっくりと向き合いなさい」
蚊の鳴くような声で返事をした私は、
手鏡を手に理事長室を後にした