結局、それから眠気に襲われることもなく、動くこともできないままかなりの時間がたった。今は朝なのか昼なのか、ましてや時間なんて分かるはずもなく。
はじめこそ身をよじったりしてみたものの、回された腕がきつくなっただけで終わってしまったので、この寝息の主が起きてくれるのを待つばかり、ようは暇。

頭上から聞こえる寝息に混ざってたまに漏れる声、意味のある言葉ではなくただの音としてではあるけど、ここに来る前に意識を飛ばした時聞こえた声はやはりこの人で間違いはないらしい。鐘の音もきっとこの人のだろう。

それからもうしばらく暇をもて余した頃、ようやく起きたのかお腹にあった腕が離れる。ベッドから離れる足音に私も体を起こす、頭を振ってシーツからの脱出を試みるがこれがまたうまくいかない。手が不自由すると困り者だ…本当に。そうしているうちに正面の方から喉を鳴らす音。

え。声を出すよりも先にシーツからさらに私の視界は奪われた。後頭部にも回る感覚に戸惑いながらも動けずにいると、少しの締め付け感。顔の回りにこもっていた空気がはける。シーツは取り払われたけどこれではやっぱり何も見えないままだ。
もともと見えないのに見えなくする意味はあるのだろうか、なんて思ったが、この目隠しを受け入れたのを喜ぶかのように撫でられる感覚にそれでもいいか。なんて思ってしまった。

目元に当てられている布に触れながら言葉にはならない唸り声？をあげられる。多分、とっちゃだめだよって言いたいんだと思う。そもそも腕を取られてるから外すことはできないんだけど。

「これ取らないでってことですか？わかりました…えーと、」
しまった。
私、この人の名前を知らない。言葉に詰まったのに気が付いたようで鐘が一回鳴らされ、頭をぽんぽんと軽く叩かれる。あ、凄い。まともに意思疏通できた気がする。これがボディランゲージか。
なんで喋ってくれないかは分からないけど、この鐘が肯定的なものだと言うのは何となくわかったので、よしとする。

結局そのあとまた抱き抱えられたしていたのだけれど、どれくらいした時、腕の布がとられる。解放感に浸りつつ軽く肩を回したりしていればドアが開く音。

「どこか行くんですね」

鐘の音がひとつ。どうやら出掛けてくるようで動けるように腕は解放してくれたようだ。逃げたりしないかという心配はされていないらしい。なら、その期待に応えてみようと思う。