「…………」

何故だろう。なんで、私はまた意識を取り戻してしまっているのか。死んだはずなのだ、二回も、それなのに。

目を開ければ視界は開けていて、ここはどこだろうかとぐるり見回す。
小屋のように見えるが、簡単な生活設備のある…ワンルームといってしまえばいいのかそんな空間。寝かされていたベッドに座り込んで状況を整理する。首を吊って、生きて。肩口から大量の血を出して、生きて。ここまで死ぬことができないのならもう、少し諦めているところ。少なからず上司からの着信なんて聞こえない場所にいるのなら、もうそれでいい気がした。

そういえば、最後に聞こえたような声は誰のものだったのだろうか。
私よりもいくらか低い多分男性の声であったと思うのだけれど、そうなるとこの小屋はその男性の？死にかけの女を取って連れてくるような事をするのはよっぽどのお人好しか、そういうのが好きな変態か…

どちらにせよここから勝手に出ていくのは気が引けた。前者は申し訳なさ、後者はその後の展開の読めなさで単純に怖いのだ。

どこへいくでもなく、室内を眺めてどれくらいかたった時、壁の向こうで鐘の音がしたあとに小屋の唯一の出入口だろうドアが開いた。が、そこには誰もいない。それなのに、まるで普通に人が入ってきたような動きでドアは再び閉じた。
見えない、見えないけれど、多分確かに私とドアの間に誰かがいる気がする。

そのままドアの方を見ていると頭に触れられる感覚。
指先で軽くすくような、それは何回かすれば無くなった。
見えない驚きと撫でられた疑問とで呆けているとドアはまた開閉して、小屋にはまた私一人だけ残された。

…あったかかった
一瞬だけ触れた指だと思うそれはちゃんとした人の温度だった
悔しいけど、一瞬だったけど、その確かな感覚に泣きそうになった

だめだなぁ、情緒不安定かよ…最近、仕事以外で人と関わることなかったからなぁ。目に溜まり始めた水分で視界が歪むのを誤魔化すように目を閉じた。
寝かされていたベッドに再び横になると、まどろみに身を任せ眠りにつく。
私はこれからどう生かされるのか、殺されてしまうのか。わからないけど、明らかに分岐が変わってしまっている人生を誰かに任せてしまうしかない気がした。