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カリブー
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きっと鐘の人の日常はもともとこういったものであったんだと思う。起きてから暫く私を抱えて時間を潰してはいるけれど、ある程度時間がたてばどこかへ出掛けていく。そして、帰ってきた鐘の人は鉄っぽい死のにおいを纏っている。そして、そのままベッドに沈むのだ。
その血が人間でないことに期待しながら思うのは、そのままにして染み付いていってしまわないだろうか。本人はさして気にした様子もないけれど、出来ることなら取り払ってしまえたら。私に今の生活を、下手なプレッシャーのない生活を維持させてくれているのは他でもない鐘の人なのだ。彼の喉をならす音と体温に救われているのだ。何かしてあげたくなって然るべきではないか。
そして今日もまた出かけるようで、腕の布を解かれる。
「いっておかえりなさい」と声をかけると鐘を一つ鳴らして出ていくのも慣れたものになりつつある。それでもまだ名前のひとつも知らないのだけれど。
さて、一人の時間になるわけで、以前手を怪我して以来刃物の類いには細心の注意のもと手探りをする。包丁、ハサミ、他にも何かしらの凶器になり得るものの場所は把握して行動するようにしている。怪我をするのも、また傷を舐められるのもこりごりだ…恥ずかしい。それは置いといて、何度も歩き回った空間はそろそろ手放しでも歩けそうで喜ばしい。
シャワールームへの仕切りのカーテンを引くと脱衣所の棚に向かう。いくらかタオルが積んであるのだけれど用途が違うだろう色んな大きさのタオルが入り乱れているので分けてやろうという魂胆だ。一枚とって広げて畳んで大きさ別に積む、また一枚とってはそれを繰り返す。それが終わればもとの棚に詰め直して終わり、それだけでも目が見えないぶん大仕事だ。
中くらいのタオルを二枚とって、一枚は水に浸して絞りこむ。如何せん目隠しをしたままだとシャワーのひとつも浴びれない、というのと人様の家で勝手するにも限度があるだろうと思うので濡れタオルで体を拭くに至っている。しっかり拭けばわりとさっぱりするので構いはしない。
私自身は構いはしないのだけれど、問題はそこではない。あの鐘の人、多分まともな形で体を洗うということをしていないと思う。沸かしたお湯で落とせたはずのものが残ったような、洗い落とすことを諦めているようなそんな感じ。シャワールームはあれどそう使うこともないのだろう。何かしてあげたいとは思うけれどできることなんて知れているし、本人が嫌がってしまえばそれまでなのだけど、もし許されるなら染み付こうとしているあの血のにおいを拭ってあげられないかと考えが至ったのだ。
幸いシャワールームでお湯は使えるようで、自分の拭いたタオルも含めもう数枚をお湯に浸して迎えるための鐘が鳴るのを待つ。
壁の向こうからコーンカーンと鐘がならされ扉が開く音がする。
「おかえりなさい…、」
名前を呼び掛けられないのがどうも歯がゆいけれど、間髪いれずにカーンと鳴らされる鐘に安心する。二人しかいないだろうなのは分かっているけど、それでも貴方に声をかけたのを示したいので嬉しい。
お湯のタオルをちゃぷちゃぷさせている私の目の前にまで来たのだろうすぐ近くでグルルと喉をならされる。どういう反応をされるかはわからないのに少し緊張しつつ、声をかける。
「あの、良かったらこれで、体、拭かせてもらえたらって…お湯タオルって気持ちいいから、よく眠れるかもですし、」
そこから先はうまい言葉が思い付かなくて、少しの間があってから座っているベッドの隣がギッと沈み混んだ。どうやら座ってくれたみたいで、それを許可がおりたことにして軽く絞ったタオルを手にそちらを向く。
手をさ迷わせているとタオルごと手を引かれて肌に触れる。空いている方の手もそちらに伸ばしタオルに触れる肌を拭けるように添えると、多分腕。少し固く感じる肌にタオルを強めに当てる、ゆっくり、ゆっくり動かす。タオルの熱が冷めるとまたお湯につけたタオルを出しては拭く。見えないのもあって範囲は全然広くはないけれど、とりあえず案内された腕は拭けた。その先の手はタオルで包むようにして、指もひとつひとつをぎゅっと握り混むようにしては拭き取っていった。それだけなのにひと仕事だ。
寝るときに分かってはいたがやはり体の大きい人みたいで、片腕拭くだけで結構な時間がかかってしまって、貯めておいたお湯も冷え始めてしまってどうしたものかと考えあぐねていると頭を緩く撫でられる。…今日はもういいよって事かな、気を使わせてしまってるかな。
「すいません、また明日もさせてもらえますか?」
鐘が一つ。この人は本当に優しい。
冷めたお湯とタオルを片付けにいって戻った私を捕まえていつものように腕をまとめて横になる。首の後ろでゴロゴロと喉をならしながら夢の世界に落ちていく。
不思議な話が今私はとても幸せを感じている。
その血が人間でないことに期待しながら思うのは、そのままにして染み付いていってしまわないだろうか。本人はさして気にした様子もないけれど、出来ることなら取り払ってしまえたら。私に今の生活を、下手なプレッシャーのない生活を維持させてくれているのは他でもない鐘の人なのだ。彼の喉をならす音と体温に救われているのだ。何かしてあげたくなって然るべきではないか。
そして今日もまた出かけるようで、腕の布を解かれる。
「いっておかえりなさい」と声をかけると鐘を一つ鳴らして出ていくのも慣れたものになりつつある。それでもまだ名前のひとつも知らないのだけれど。
さて、一人の時間になるわけで、以前手を怪我して以来刃物の類いには細心の注意のもと手探りをする。包丁、ハサミ、他にも何かしらの凶器になり得るものの場所は把握して行動するようにしている。怪我をするのも、また傷を舐められるのもこりごりだ…恥ずかしい。それは置いといて、何度も歩き回った空間はそろそろ手放しでも歩けそうで喜ばしい。
シャワールームへの仕切りのカーテンを引くと脱衣所の棚に向かう。いくらかタオルが積んであるのだけれど用途が違うだろう色んな大きさのタオルが入り乱れているので分けてやろうという魂胆だ。一枚とって広げて畳んで大きさ別に積む、また一枚とってはそれを繰り返す。それが終わればもとの棚に詰め直して終わり、それだけでも目が見えないぶん大仕事だ。
中くらいのタオルを二枚とって、一枚は水に浸して絞りこむ。如何せん目隠しをしたままだとシャワーのひとつも浴びれない、というのと人様の家で勝手するにも限度があるだろうと思うので濡れタオルで体を拭くに至っている。しっかり拭けばわりとさっぱりするので構いはしない。
私自身は構いはしないのだけれど、問題はそこではない。あの鐘の人、多分まともな形で体を洗うということをしていないと思う。沸かしたお湯で落とせたはずのものが残ったような、洗い落とすことを諦めているようなそんな感じ。シャワールームはあれどそう使うこともないのだろう。何かしてあげたいとは思うけれどできることなんて知れているし、本人が嫌がってしまえばそれまでなのだけど、もし許されるなら染み付こうとしているあの血のにおいを拭ってあげられないかと考えが至ったのだ。
幸いシャワールームでお湯は使えるようで、自分の拭いたタオルも含めもう数枚をお湯に浸して迎えるための鐘が鳴るのを待つ。
壁の向こうからコーンカーンと鐘がならされ扉が開く音がする。
「おかえりなさい…、」
名前を呼び掛けられないのがどうも歯がゆいけれど、間髪いれずにカーンと鳴らされる鐘に安心する。二人しかいないだろうなのは分かっているけど、それでも貴方に声をかけたのを示したいので嬉しい。
お湯のタオルをちゃぷちゃぷさせている私の目の前にまで来たのだろうすぐ近くでグルルと喉をならされる。どういう反応をされるかはわからないのに少し緊張しつつ、声をかける。
「あの、良かったらこれで、体、拭かせてもらえたらって…お湯タオルって気持ちいいから、よく眠れるかもですし、」
そこから先はうまい言葉が思い付かなくて、少しの間があってから座っているベッドの隣がギッと沈み混んだ。どうやら座ってくれたみたいで、それを許可がおりたことにして軽く絞ったタオルを手にそちらを向く。
手をさ迷わせているとタオルごと手を引かれて肌に触れる。空いている方の手もそちらに伸ばしタオルに触れる肌を拭けるように添えると、多分腕。少し固く感じる肌にタオルを強めに当てる、ゆっくり、ゆっくり動かす。タオルの熱が冷めるとまたお湯につけたタオルを出しては拭く。見えないのもあって範囲は全然広くはないけれど、とりあえず案内された腕は拭けた。その先の手はタオルで包むようにして、指もひとつひとつをぎゅっと握り混むようにしては拭き取っていった。それだけなのにひと仕事だ。
寝るときに分かってはいたがやはり体の大きい人みたいで、片腕拭くだけで結構な時間がかかってしまって、貯めておいたお湯も冷え始めてしまってどうしたものかと考えあぐねていると頭を緩く撫でられる。…今日はもういいよって事かな、気を使わせてしまってるかな。
「すいません、また明日もさせてもらえますか?」
鐘が一つ。この人は本当に優しい。
冷めたお湯とタオルを片付けにいって戻った私を捕まえていつものように腕をまとめて横になる。首の後ろでゴロゴロと喉をならしながら夢の世界に落ちていく。
不思議な話が今私はとても幸せを感じている。