memo

仁王夢SS

2026/10/05 20:59
※短編「君の隣にいたい」の番外編ですが、他校生の夢主が仁王くんと付き合っていることを押さえておけば読めます。


「⋯⋯痛っ」

それは通学時の出来事。
待ち合わせ場所の改札へ向かっている途中、くるぶしが痛くて足を止めた。
今日おろしたばかりのローファーに目を落とす。
靴擦れを防止するため、インソールを使用すべきだったと後悔しても遅い。
止まっている間にも、ズキズキとくるぶしが痛みを訴えてくる。
歩いているときより痛みは落ち着くものの、ずっと立ち止まっているわけにはいかない。
待ち合わせ時間は刻一刻と迫っていた。
私は靴擦れの痛みに目を瞑り、駅を目指して再び歩き始めた。


改札前に着くと、既に仁王が待っていた。
走って近づきたいところだが、とてもできそうにない。
むしろ痛みを我慢しているのが顔に出ないよう、気をつけないと。
仁王は目敏いから、普段と違う行動をすれば、きっと靴擦れしていることに気づくだろう。

「おはよう、雅治くん」

「――ああ、おはようさん」

いつものように片手を上げて挨拶を交わす。
ズキン、ズキン。
足の痛みを無視して仁王と電車に乗車する。
朝早い時間だから、座席はちらほら空いていた。席に座れば痛みは悪化しないはず。
ホッと胸を撫で下ろし、ボックス席に仁王と向き合って座った。
それから学校生活や部活動について聞いたり、話したりしていると、心なしか足の痛みが引いた。仁王との会話に夢中になり、少しの間、靴擦れのことを忘れられたからだろう。
ずっとこの時間が続けば良いのに――――。
そう思ったのも束の間、最寄り駅である月音中学前駅に着いてしまった。
靴擦れした箇所に負荷がかからないよう慎重に下車すると、仁王に手を差し伸べられた。
戸惑いつつも手を取ると、ホームのベンチに座らされる。
仁王が眉を顰めて詰め寄ってきた。

「お前さん、足怪我してないか?」

「ど、どうして?」

仁王を相手に隠しきれるとは思っていなかったが、声が裏返った。これでは肯定しているようなものだ。

「足を庇っているような歩き方に見えてな」

「さすが、雅治くんにはお見通しだね。⋯⋯実は靴擦れしちゃって」

「そうか」

仁王は肩からラケットバッグを下ろし、バッグの中を何やら漁る。すぐさまポーチを取り出すと、絆創膏を私に差し出した。

「ほら、貼りんしゃい。俺はあっち向いてるから」

「ありがとう」

私はありがたく絆創膏を受け取った。よく見ると、ひよこ柄で可愛い。
ベンチに鞄を置き、ハイソックスを下ろす。
予想通り、くるぶしあたりの皮膚がむけて赤くなっていた。
患部に絆創膏を貼り、ハイソックスを元に戻す。
ふわりと風が頬を撫で、潮の匂いが鼻をかすめた。
顔を上げると、仁王はベンチに背を向け、海を見ていた。
きっと、私が絆創膏を貼っているところを見られたら恥ずかしいことを察してくれたのだろう。些細な気遣いが嬉しかった。

「雅治くん、お待たせ。絆創膏貼り終わったよ」

「ん、行くか」

仁王が肘を90度くらいに曲げ、腕を差し出した。「掴まりんしゃい。体重かけてもらって構わんぜよ」

「⋯⋯それじゃあ、お言葉に甘えて」

私はベンチから腰を上げて、仁王の腕に手を添えた。
いつもよりゆっくりとしたペースで学校へ。重心が安定しているおかげか、坂道を歩いても足の痛みは緩やかだ。
仁王と距離が近くて緊張したが、無事、月音中学校に着いた。

「ありがとう。今日の雅治くん、執事みたいにスマートでかっこよかった」

お礼を言い、仁王の腕から手を離そうとすると――

「帰りはお迎えに上がります、お嬢様⋯⋯なーんてな」

仁王は私の左手をそっと握り、手の甲に口づける。
どくん、と鼓動が跳ねた。

「執事だったら、お前さんを口説けなくて困るナリ。今日は無理しなさんな。大人しくしときんしゃい」

「う、うん⋯⋯!?」

予想外の出来事に、心臓がバクバクと鼓動を速める。
あたふたとしている間に、仁王は手をひらひらさせながら立海方面へ歩き出す。
こんなの反則だ。平常心でいられるはずがない。
私は朝練があることを忘れ、しばらく仁王の背中を目で追っていた。
いつもより歩くのが速いのか、仁王が見えなくなるのが速いような。
彼も慣れないことをして照れていたのだと気づくのは、校舎に足を踏み入れたときだった。

――――
新しい靴を履いたら、靴擦れになって痛かったので書いた話です。
多分、歩き方が良くなかったのでしょう⋯。

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