memo
蝶ノ光SS
2025/10/18 16:13※「蝶ノ光」設定
※夢主の名前はデフォルト
『ハロウィン』
「トリック・オア・トリート!」
今日は10月31日――ハロウィンだ。
教室で肩肘つきながら窓の外を眺めている仁王に近づき、お決まりの台詞を言った。
彼がブレザーのポケットに棒付き飴を入れているのは、これまでの付き合いで分かっている。そのパッケージがこの時期、ハロウィン仕様になっていることも。
別にお菓子が欲しくて言ったわけじゃないが、きっと棒付き飴をくれるだろう。
ただ単にイベントに乗っかってみたかったのだ。
目の前の仁王はというと――。
ブレザーのポケットの中を確認したかと思えば、何かアイディアが浮かんだようで口角を上げた。なんだか嫌な予感がする。
「トリックで」
「え」
「それで、どんなイタズラをしてくれるんじゃ?」
仁王が目を輝かせながら、声を弾ませている。
「ええと⋯⋯」
事前に、仁王がトリックとトリートどちらを選ぶか、柳生に聞いてみたら「仁王くんならお菓子を持ってても、トリックを選ぶと思いますよ」と申し訳なさそうに返された。
本当にその通りに返ってくるとは思わなかったが。
そもそも、イタズラって何をすれば良いのかしら。
手を顎にあてながら考えると、これなら仁王が驚くのではないかと思うものが頭に浮かんだ。
「じゃあ、もう仁王くんとダブルス組まないわ!」
目を瞑り、後先考えず勢いに任せて言った。もちろん冗談である。
「ほーう⋯⋯そうか」
――――耳に届いたのは温度を感じない声。
ゆっくり目を開けると、仁王の表情は先ほどとは一転、冷え切っていた。
徐々に呼吸が早くなり、さっと血の気が引くのを感じる。
「あ⋯⋯。その、仁王くんを驚かそ、うと⋯⋯」
声がかすれ、最後まで音にならない。
仁王を傷つけるくらいなら、最初からイタズラの内容を考えとけば良かったと後悔する。
私が言い出したことなのに、もう仁王とダブルスを組めないと思うと胸が締め付けられた。
「――もちろん冗談だと分かってても焦ったぜよ。ほら、泣きなさんなって」
ふと仁王が表情を緩め、私の頬を指先で拭う。気づけば涙が頬を伝っていた。
「ごめんなさい⋯⋯」
「ん。⋯⋯チョコあげるぜよ。これでトリックは取り消しナリ」
仁王は机の中から箱を取り出し、私の手のひらに乗せた。
箱の表面に描かれているのは、とあるチョコのブランドのロゴ。彼が普段食べているような駄菓子ではない。
「もしかして最初から用意してたの?」
「ああ。だが、時雨の慌てた顔が見たくてのう」
「む」
「お前さんが嘘をつくときのクセは知っとるが⋯⋯流石に予想外の返しで心臓に悪かった」
「ご、ごめ――っ!?」
冗談でも相手を悲しませてはいけない。
再び謝ろうとしたら、途中で口にチョコを入れられ、最後まで言葉にすることはできなかった。
手元の箱は開けられてない。箱のとは別にチョコを用意してあったらしく、準備の良さに驚く。
仁王の手のひらの上で踊らされていた気がしなくもないが、そもそも、この手の駆け引きで勝てるはずがなかった。
チョコがじわりじわりと口の中で溶けていく。
「ま、放課後テニスに付き合いんしゃい」
妖艶に微笑む仁王の声は、チョコより甘かった。
※夢主の名前はデフォルト
『ハロウィン』
「トリック・オア・トリート!」
今日は10月31日――ハロウィンだ。
教室で肩肘つきながら窓の外を眺めている仁王に近づき、お決まりの台詞を言った。
彼がブレザーのポケットに棒付き飴を入れているのは、これまでの付き合いで分かっている。そのパッケージがこの時期、ハロウィン仕様になっていることも。
別にお菓子が欲しくて言ったわけじゃないが、きっと棒付き飴をくれるだろう。
ただ単にイベントに乗っかってみたかったのだ。
目の前の仁王はというと――。
ブレザーのポケットの中を確認したかと思えば、何かアイディアが浮かんだようで口角を上げた。なんだか嫌な予感がする。
「トリックで」
「え」
「それで、どんなイタズラをしてくれるんじゃ?」
仁王が目を輝かせながら、声を弾ませている。
「ええと⋯⋯」
事前に、仁王がトリックとトリートどちらを選ぶか、柳生に聞いてみたら「仁王くんならお菓子を持ってても、トリックを選ぶと思いますよ」と申し訳なさそうに返された。
本当にその通りに返ってくるとは思わなかったが。
そもそも、イタズラって何をすれば良いのかしら。
手を顎にあてながら考えると、これなら仁王が驚くのではないかと思うものが頭に浮かんだ。
「じゃあ、もう仁王くんとダブルス組まないわ!」
目を瞑り、後先考えず勢いに任せて言った。もちろん冗談である。
「ほーう⋯⋯そうか」
――――耳に届いたのは温度を感じない声。
ゆっくり目を開けると、仁王の表情は先ほどとは一転、冷え切っていた。
徐々に呼吸が早くなり、さっと血の気が引くのを感じる。
「あ⋯⋯。その、仁王くんを驚かそ、うと⋯⋯」
声がかすれ、最後まで音にならない。
仁王を傷つけるくらいなら、最初からイタズラの内容を考えとけば良かったと後悔する。
私が言い出したことなのに、もう仁王とダブルスを組めないと思うと胸が締め付けられた。
「――もちろん冗談だと分かってても焦ったぜよ。ほら、泣きなさんなって」
ふと仁王が表情を緩め、私の頬を指先で拭う。気づけば涙が頬を伝っていた。
「ごめんなさい⋯⋯」
「ん。⋯⋯チョコあげるぜよ。これでトリックは取り消しナリ」
仁王は机の中から箱を取り出し、私の手のひらに乗せた。
箱の表面に描かれているのは、とあるチョコのブランドのロゴ。彼が普段食べているような駄菓子ではない。
「もしかして最初から用意してたの?」
「ああ。だが、時雨の慌てた顔が見たくてのう」
「む」
「お前さんが嘘をつくときのクセは知っとるが⋯⋯流石に予想外の返しで心臓に悪かった」
「ご、ごめ――っ!?」
冗談でも相手を悲しませてはいけない。
再び謝ろうとしたら、途中で口にチョコを入れられ、最後まで言葉にすることはできなかった。
手元の箱は開けられてない。箱のとは別にチョコを用意してあったらしく、準備の良さに驚く。
仁王の手のひらの上で踊らされていた気がしなくもないが、そもそも、この手の駆け引きで勝てるはずがなかった。
チョコがじわりじわりと口の中で溶けていく。
「ま、放課後テニスに付き合いんしゃい」
妖艶に微笑む仁王の声は、チョコより甘かった。