※「蝶ノ光」設定
※夢主の名前はデフォルト

「はあ……」

雨の日は憂鬱な気持ちになる。
梅雨の時期に入り、外でテニスの練習ができない日が増えた。今日の練習メニューは校舎内をランニング、その後は筋トレだ。
練習メニューが終わり、予定より早く部活は終了。
私は女子テニス部の更衣室を借りて、いつもより時間をかけて着替えてから部室へ。
ノックしたが反応がないので、ドアノブを回した。
おそらく皆、すでに帰ったのだろう。ドアを開けると、予想通り誰もいなかった。
棚から筆記用具などが入った箱と日誌を取り出し、中央にある長机へ向かい、椅子に座る。箱からシャーペンを手に取り、日誌をのろのろと書き進めた。
本日の練習メニュー、所要時間、反省点、課題、伝達事項。
のんびりと項目を埋めていっても、いつかは終わる。

「…………」

部室の窓に雨が伝う。シトシトと不規則に雨音が聞こえ、やむ様子は一向にない。
いつもなら、テニススクールに行ってトレーニングをするが、今日はどうも気分が乗らなかった。

「貞治と蓮二の誕生日は、晴れると良いのだけど」

せめて曇りで、テニスができると良いのだが。
ぼんやりと窓を眺めていると、机の端にティッシュ箱が置いてあるのが目に入った。
柳曰く、天気予報は過去のデータをもとに、スーパーコンピュータで未来の大気の状態を計算しているらしい。
私には、そんな難しいことはできない。できるのは願うことだけだ。
そういう訳で、てるてる坊主作りを始めたのだった。
ティッシュを三回引っ張り、二枚は丸め、残りは丸めたものに被せる。箱から輪ゴムを取り出して、てるてる坊主の頭となる部分をふんわりと留めた。
あとは顔を書くわけだが――――。

「せっかくだし、貞治に似せようかしら？」

マジックを手にして、てるてる坊主の顔に四角い眼鏡、口の部分は小さく曲線を描いた。我ながら、結構貞治に似ていると思う。
てるてる坊主をつついていると、ぴたぴたと部室に近づいてくる足音が聞こえ、ハッと我に返る。
慌てて箱にてるてる坊主を入れ、蓋を被せた。
私は何事もなかったように、日誌を開いて読み返す。しかし文字が滑り、全然内容が頭に入ってこない。
部室のドアが開き、視線を向けると、そこには柳がいた。

「今、何か隠さなかったか？」

「気のせいでしょう」

「そうか」

柳が私の隣の席に座り、箱に手を伸ばす。
一連の動作に迷いがない。もしかして、最初から私の言葉が嘘だと分かっているのだろうか。
柳がてるてる坊主を手にし、私に向けて問う。

「これは、貞治か？」

「ソウデス……」

「フ、妬けるな。俺のは作ってくれないのか？」

「もちろん作るわよ。蓮二のも作る予定だったし」

「そうか。それなら俺も、てるてる坊主を作ろう」

柳はてるてる坊主を机に置き、ティッシュを手に取って作り始める。

「……蓮二に嘘をついても、すぐにバレるわね」

「時雨の目が泳いでいたからな」

私もてるてる坊主を作りながらぼやくと、柳はクスりと笑いながら答えた。
さて、あとは顔を描くだけ。
糸目と小さく曲線を描き、乾似のてるてる坊主と並べた。可愛くできて満足だ。
柳が作ったてるてる坊主を覗くと、にこにこ顔が描かれていた。

「お前が微笑んだ顔だ。時雨は笑った表情の方が似合う」

「ふふ、ありがとう！ それじゃあ飾ろうか」

「ああ」

先ほどまでの暗澹とした気持ちが晴れていく。
箱に入っていた紐をてるてる坊主につけ、柳と窓際に飾った。
柳、私、乾の順だ。
三人でテニスの練習をした日を思い出し、自然と口角が上がる。
どうか、蓮二と貞治の誕生日が晴れますように。

――――
柳さん誕生日おめでとう！！
何のお話書くか悩みましたが、なんとか間に合ってよかったです…！(最初は柳さん視点で、立海で夢主に再会する話にしようかなと考えてました)