【跡部夢】約束
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「それじゃあ、掃除の後で良いから、これを社会準備室まで運んでもらえないか?」
「分かりました」
今日は日直だったということもあり、六限目の地理の先生に荷物持ちを任されてしまった。
先生に任されたものは、巨大地図と磁石だ。そんなに重いものでもない。
授業の時にノートを回収していたので、それを運ぶ先生の方が大変だっただろう。
私は掃除をとっとと終えて、荷物をまとめて社会準備室に運んだ。
「いや~、助かったよ。ありがとね」
「いえ……」
無事先生のもとに荷物を届け終えたので、準備室を後にする。
A組の教室へ戻るが、教室にはもう誰もいない。みんな下校したか、部活に行ってしまったようだ。
私はスクールバッグを机の上に置き、中からクリーム色のポーチを取り出す。
「あれ……?」
何だかいつもよりポーチが軽い気がする。
慌ててポーチを開いて血の気が引いた。中に入れていたはずのブレスレットがない。
その代わりか、小さく折られた紙が入っていた。すぐさま開けば、『あなたの大事なもの、返してほしければ屋上まで来ること』と記載が。
「屋上へ行かなきゃ!」
あのブレスレットが失くなってしまったら、本当にケイゴくんとの関係が断ち切られるような気がして――。
私は血相を変えて、屋上に続く道へ駆け出した。
*
バタン。
屋上の扉を勢いよく開ける。
全力疾走して来たので息が苦しいが、そんなことは言ってられない。
「思ったより早かったじゃない、雪宮さん」
「……あなた、は!」
なんと目の前に待ち構えていたのは、数日前跡部くんに告白していた、テニス部マネージャーの一条さんだった。
彼女の手にはブレスレットが握られている。私の鞄から盗って紙を入れたのは、彼女で間違いないだろう。
「どうして、こんなことを……」
「どうしてですって? そんなの決まっているじゃない!」
美しい顔が悲しそうに歪められる。
「あなたがいなければ、私は跡部くんに振られることはなかった! 今までマネージャーとして一生懸命、テニス部のみんなを支えて……あなたより跡部くんのこと見てきたのに! こんなもの――」
一条さんが手を振り上げる。
まさか、フェンスの向こうにブレスレットを投げるつもりなのか。
私は急いで一条さんに向かって走り出す。
「――それは俺が時雨に贈ったものだ。もし、それをフェンスの向こうに投げ捨てるというなら……分かってるんだろうな?」
後ろから聞き覚えのある声がした。
次第に足が思うように動かなくなる。まるで足だけ氷漬けにあったかのようだ。
一条さんが身を翻し、目を見開いた。彼女の手のひらからブレスレットが落下する。
振り返らなくても、誰が来たのか分かった。
「あ、跡部くん……なんでここに」
「てめえが時雨を屋上に呼び出すからだろうが」
跡部くんの怒りのオーラで、空気がビリビリする。
私のために来てくれたのは嬉しいのだが、何故屋上だと分かったのだろう。
跡部くんが私の横を通り過ぎ、一条さんの近くで屈む。ブレスレットを拾うためだ。
「もう二度と下らないことで時雨を呼び出すな」
「ご、ごめんなさい!」
一条さんは今にも涙が溢れ落ちそうだ。頭を一度下げてから、駆け足で屋上から去っていった。
彼女が去った今、当然ながら屋上には私と跡部くんが取り残されている。彼と向き合うと決めたものの、数日間話していなかったので少々気まずい。
なんで来てくれたのか聞いて良いのかな。
深呼吸して話しかけようとした瞬間、跡部くんがこちらに振り返った。
「俺のせいで悪かった。……あとブレスレットを大事にしてくれて、ありがとよ」
まるで壊れ物を扱うかのように優しく左手が包み込まれ、手のひらにブレスレットが乗せられる。
「こちらこそ、ブレスレット取り返してくれてありが、とう……?」
一つにしては重みがあるのでよく見ると、手のひらにブレスレットが二つあった。
一つは雪の結晶がモチーフのブレスレット。
もう一つは花がモチーフのブレスレット。私が幼少期に失くしてしまったブレスレットだ。
長時間探しても見つからなかったから諦めていたのに、我が手に戻ってきたことに驚きが隠せない。
「こ、これ! どうしたの!?」
「お前と別れた後、来た道もう一回探したら、雪の中に埋もれてるのを発見した」
「ありがとう!! じゃあ、やはりあなたは、あの時のケイゴくん……?」
「ああ。……初めはお前の奏でる音が好きで、毎年開催されている発表会に足を運んだ。日本に引っ越してもな」
「!」
発表会に来てくれたのはイギリスにいた頃だけかと思っていたら、どうやら日本での発表会も来てくれていたらしい。
もしかして、今年のチケットを渡さなくても来てくれる予定だったということ……?
「そして何度も通っているうちに気付いたんだ。次第に音に直向きなお前自身も好きだってな」
「……!! で、でも転校初日、ケイゴくんって教えてくれなかったじゃない!」
彼の告白が素直に受け取れなくて、つい反論してしまう。
「それは時雨がファンクラブのやつとかに、目をつけられるのが嫌だったからだ」
「……侑士くんが、発表会で弾いた曲なら全部伴奏弾けるって言ってたけど、なんで?」
「いつか、お前と一緒に演奏したかった」
アイツ、余計なこと言いやがって……と景吾くんは顔を背け、ため息を吐く。
私は頬に熱が集まるのを感じ、慌てて手を頬に当てた。
「生徒会室の鍵を貸してくれたのは?」
「お前の音を独占したいからに決まっているだろう。――言いたいことは、それだけか?」
「……わ、私も景吾くんのことが好き。あなたのためにワーグナーの曲弾くから聴いてほしい」
「勿論だ。あの時の約束を覚えていてくれて嬉しい」
私は景吾くんにぎゅっと抱きしめられ、幸せを噛み締めた。
*
翌日の昼休み。
景吾くんと共に生徒会室へ。
譜面台は既にセッティング済みのため、楽譜と楽器の準備をする。
初めて生徒会室に訪れたとき、教室の広さに驚いたのが懐かしい。
あの時は何故、鍵に雪結晶のストラップがついていたのか分からなかったが、今なら分かる。
自分がケイゴであると伝えたかったのだろう。
私は楽譜を譜面台に乗せた。
両足は肩幅に開き、ヴァイオリンを左肩に乗せて構え、右手でふわりと弓を持つ。
これから何の曲を弾くか、景吾くんに伝えていない。
本来は管弦楽曲であるが、一人で弾くために編曲したと伝えたら、彼は驚くだろうか。いや、「これからも、俺のために弾いてほしい」と言いそうな気がする。
私は彼が喜んでくれることを期待し、一音目を奏でた。
「分かりました」
今日は日直だったということもあり、六限目の地理の先生に荷物持ちを任されてしまった。
先生に任されたものは、巨大地図と磁石だ。そんなに重いものでもない。
授業の時にノートを回収していたので、それを運ぶ先生の方が大変だっただろう。
私は掃除をとっとと終えて、荷物をまとめて社会準備室に運んだ。
「いや~、助かったよ。ありがとね」
「いえ……」
無事先生のもとに荷物を届け終えたので、準備室を後にする。
A組の教室へ戻るが、教室にはもう誰もいない。みんな下校したか、部活に行ってしまったようだ。
私はスクールバッグを机の上に置き、中からクリーム色のポーチを取り出す。
「あれ……?」
何だかいつもよりポーチが軽い気がする。
慌ててポーチを開いて血の気が引いた。中に入れていたはずのブレスレットがない。
その代わりか、小さく折られた紙が入っていた。すぐさま開けば、『あなたの大事なもの、返してほしければ屋上まで来ること』と記載が。
「屋上へ行かなきゃ!」
あのブレスレットが失くなってしまったら、本当にケイゴくんとの関係が断ち切られるような気がして――。
私は血相を変えて、屋上に続く道へ駆け出した。
*
バタン。
屋上の扉を勢いよく開ける。
全力疾走して来たので息が苦しいが、そんなことは言ってられない。
「思ったより早かったじゃない、雪宮さん」
「……あなた、は!」
なんと目の前に待ち構えていたのは、数日前跡部くんに告白していた、テニス部マネージャーの一条さんだった。
彼女の手にはブレスレットが握られている。私の鞄から盗って紙を入れたのは、彼女で間違いないだろう。
「どうして、こんなことを……」
「どうしてですって? そんなの決まっているじゃない!」
美しい顔が悲しそうに歪められる。
「あなたがいなければ、私は跡部くんに振られることはなかった! 今までマネージャーとして一生懸命、テニス部のみんなを支えて……あなたより跡部くんのこと見てきたのに! こんなもの――」
一条さんが手を振り上げる。
まさか、フェンスの向こうにブレスレットを投げるつもりなのか。
私は急いで一条さんに向かって走り出す。
「――それは俺が時雨に贈ったものだ。もし、それをフェンスの向こうに投げ捨てるというなら……分かってるんだろうな?」
後ろから聞き覚えのある声がした。
次第に足が思うように動かなくなる。まるで足だけ氷漬けにあったかのようだ。
一条さんが身を翻し、目を見開いた。彼女の手のひらからブレスレットが落下する。
振り返らなくても、誰が来たのか分かった。
「あ、跡部くん……なんでここに」
「てめえが時雨を屋上に呼び出すからだろうが」
跡部くんの怒りのオーラで、空気がビリビリする。
私のために来てくれたのは嬉しいのだが、何故屋上だと分かったのだろう。
跡部くんが私の横を通り過ぎ、一条さんの近くで屈む。ブレスレットを拾うためだ。
「もう二度と下らないことで時雨を呼び出すな」
「ご、ごめんなさい!」
一条さんは今にも涙が溢れ落ちそうだ。頭を一度下げてから、駆け足で屋上から去っていった。
彼女が去った今、当然ながら屋上には私と跡部くんが取り残されている。彼と向き合うと決めたものの、数日間話していなかったので少々気まずい。
なんで来てくれたのか聞いて良いのかな。
深呼吸して話しかけようとした瞬間、跡部くんがこちらに振り返った。
「俺のせいで悪かった。……あとブレスレットを大事にしてくれて、ありがとよ」
まるで壊れ物を扱うかのように優しく左手が包み込まれ、手のひらにブレスレットが乗せられる。
「こちらこそ、ブレスレット取り返してくれてありが、とう……?」
一つにしては重みがあるのでよく見ると、手のひらにブレスレットが二つあった。
一つは雪の結晶がモチーフのブレスレット。
もう一つは花がモチーフのブレスレット。私が幼少期に失くしてしまったブレスレットだ。
長時間探しても見つからなかったから諦めていたのに、我が手に戻ってきたことに驚きが隠せない。
「こ、これ! どうしたの!?」
「お前と別れた後、来た道もう一回探したら、雪の中に埋もれてるのを発見した」
「ありがとう!! じゃあ、やはりあなたは、あの時のケイゴくん……?」
「ああ。……初めはお前の奏でる音が好きで、毎年開催されている発表会に足を運んだ。日本に引っ越してもな」
「!」
発表会に来てくれたのはイギリスにいた頃だけかと思っていたら、どうやら日本での発表会も来てくれていたらしい。
もしかして、今年のチケットを渡さなくても来てくれる予定だったということ……?
「そして何度も通っているうちに気付いたんだ。次第に音に直向きなお前自身も好きだってな」
「……!! で、でも転校初日、ケイゴくんって教えてくれなかったじゃない!」
彼の告白が素直に受け取れなくて、つい反論してしまう。
「それは時雨がファンクラブのやつとかに、目をつけられるのが嫌だったからだ」
「……侑士くんが、発表会で弾いた曲なら全部伴奏弾けるって言ってたけど、なんで?」
「いつか、お前と一緒に演奏したかった」
アイツ、余計なこと言いやがって……と景吾くんは顔を背け、ため息を吐く。
私は頬に熱が集まるのを感じ、慌てて手を頬に当てた。
「生徒会室の鍵を貸してくれたのは?」
「お前の音を独占したいからに決まっているだろう。――言いたいことは、それだけか?」
「……わ、私も景吾くんのことが好き。あなたのためにワーグナーの曲弾くから聴いてほしい」
「勿論だ。あの時の約束を覚えていてくれて嬉しい」
私は景吾くんにぎゅっと抱きしめられ、幸せを噛み締めた。
*
翌日の昼休み。
景吾くんと共に生徒会室へ。
譜面台は既にセッティング済みのため、楽譜と楽器の準備をする。
初めて生徒会室に訪れたとき、教室の広さに驚いたのが懐かしい。
あの時は何故、鍵に雪結晶のストラップがついていたのか分からなかったが、今なら分かる。
自分がケイゴであると伝えたかったのだろう。
私は楽譜を譜面台に乗せた。
両足は肩幅に開き、ヴァイオリンを左肩に乗せて構え、右手でふわりと弓を持つ。
これから何の曲を弾くか、景吾くんに伝えていない。
本来は管弦楽曲であるが、一人で弾くために編曲したと伝えたら、彼は驚くだろうか。いや、「これからも、俺のために弾いてほしい」と言いそうな気がする。
私は彼が喜んでくれることを期待し、一音目を奏でた。