【跡部夢】約束
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最近跡部くんの距離感がおかしい気がする。
違う班なのにわざわざ私の班に来て、調理実習で作ったクッキーを食べたり。
体育の授業ではテニスのペアを組んだり。
立海生の時に柳くんにテニス教わっていたから、足を引っ張ることはなかったけれど。クラスには男女問わずテニス部に所属する人がいるから、その人と組めば良いのに。
美緒と侑士くんに、跡部くんのことを相談すると生暖かい目で見られた。
何故だろう。
私には彼らの考えていることが分からない。
「はあ……」
気が滅入っている状態でヴァイオリンを弾いても、良い音は出せないだろう。
昼休みを利用して、気分転換に図書館へ足を運んでみた。
特に借りたい本があるわけではないが、せっかくなので普段読まないジャンルの本が見たい。
螺旋階段で二階へ上がり、窓際の本棚に近づいた。そこには建築についての本が並んでいる。英国建築の本を手に取って席に着こうとした時、窓の外の景色が目に入った。
「……?」
裏庭に金髪の男子生徒と黒髪の女子生徒が向かい合っていた。
男子生徒の方は跡部くんだ。後ろ姿でも纏うオーラで分かる。
女子生徒の方は見たことない顔なので、他のクラス――いや、他学年かもしれない。遠目に見ても、女の子の顔立ちが整っているのが確認できた。
跡部くんの隣に並んだら、さぞ絵になるだろう。
人気が少ないところにいる一組の男女。恋愛に疎い私でも分かった。これは告白現場だ。
心臓の鼓動がやけに騒がしく感じる。
跡部くんはあの女の子の告白を了承し、付き合うのだろうか。
「!」
裏庭の景色を眺めていると、女の子が跡部くんに抱きついた。
ほぼ条件反射でしゃがみ、本棚に身を隠した。
これ以上、この光景は見たくない。恐らく跡部くんには、図書館の窓から見ていたことはバレていないはず。
だが万が一のことを考え、図書館を後にして屋上へ移動した。
「ははっ……」
雲一つない空を見上げていたら、乾いた笑みが溢れた。
空は爽やかに晴れ渡っているのに、私の心は大雨が降っている。
先日、何故モヤモヤしたり胸が痛んだりしたのか気づいてしまった。跡部くんと演奏したかもしれない人物に嫉妬したから。
私、彼のことが好きなんだ。
ようやく自分の気持ちに気づくのだった。
*
それから私は跡部くんと目が合わせられなくなった。
彼があの女の子と付き合うことになったのか、確認するのが怖い。
朝のヴァイオリンの練習は屋上で行い、予鈴十分前に生徒会室にケースを置きにいくように変えた。その時間はまだテニス部は朝練中なので、顔を合わせるようなことはない。
時々教室で跡部くんから何か言いたげな視線を感じるが、気づいていない振りをしている。
もしかしたら嫌われるかもしれない。
それでも彼と目を合わせたら、全てを見透かされそうで。
今、私が抱えている気持ちを知られたくない。
しかし、こんなことを続けていれば、当然親友は黙っていなかった。
「時雨。今日のお昼はカフェテリアでミーティングよ」
拒否権はなかった。
お昼休みとなり、大人しく美緒についていく。
カフェテリアに着くと、美緒は迷わず壁側の丸テーブルへ向かう。そこにはなんと、侑士くんがいた。
「忍足くん、お待たせ。席取っといてくれてありがとう。あとパンも。あとでお金払うね」
「お安いご用やで。時雨ちゃんも好きなパン取ってや」
「う、うん……」
美緒が椅子に座ったので、私もそれに倣って椅子に座る。
テーブルの上には、いくつかパンとお茶が置かれていた。
どういう状況なのかしら、これ。
とりあえずメロンパンとカレーパンを恐る恐る取った。
「それではお昼を食べながら、ミーティングを始めたいと思います。議題はもちろん……」
「時雨ちゃんと跡部の関係について、やな」
「うっ……!」
美緒と侑士くんからの視線が痛い。
ミーティングをやると告げられてから、ついに跡部くんのことを聞かれると予想していたけれど、彼と向き合う心の準備はできていなかった。
「ねえ、時雨。あんなに跡部くんと仲良かったのに、どうしたの? ここ数日、あなたたちが会話しているところ見てないわ」
美緒が心配げにこちらを見る。
いつまでも殻に閉じこもってられないよね。
私はこれ以上心配かけまいと思い、意を決して口を開いた。
「…………私、告白現場を見てしまったの。図書館で気になった本を手に取ったときに、たまたま裏庭の様子が目に入って……黒髪の女の子が跡部くんに抱きついたの」
「えっ!?」
「…………」
美緒は予想外だったのか驚いているのに対し、侑士くんは落ち着いた様子だ。
もしかして、知っていたのかしら?
「それ以上見たくなかったから、咄嗟にしゃがんでしまって。告白の後どうなったか知るのが怖くて、跡部くんを避けてしまったの。ヴァイオリンの練習は生徒会室ではなくて、屋上でしているし……」
「そうだったのね……」
「その黒髪の女の子……一条さんやな。跡部が時雨ちゃんと親しげにしてるから、焦って告白したようやけど」
「あ~、一条さんか」
「一条さん……? どういう人なの?」
どうやらあの黒髪の美人は、一条さんという方らしい。
顔以外分からないので聞いてみると、侑士くんが答えてくれる。
「男子テニス部のマネージャー。今朝も跡部に突っかかってたけど、突っぱねられとったから大丈夫やと思うで」
「忍足くんがそう言うなら安心ね。時雨、少しは落ち着いた?」
美緒に手を握られ、ほっとする。
ようやく、心の中で雲からお日さまが顔を出したようだ。
「うん。明日から、また生徒会室でヴァイオリンの練習してみるわ」
先程までの胸騒ぎが嘘のように消え、力が沸いてきた。
二人には感謝の気持ちでいっぱいだ。
跡部くんにちゃんと向き合おう。
そう、心に誓った。
違う班なのにわざわざ私の班に来て、調理実習で作ったクッキーを食べたり。
体育の授業ではテニスのペアを組んだり。
立海生の時に柳くんにテニス教わっていたから、足を引っ張ることはなかったけれど。クラスには男女問わずテニス部に所属する人がいるから、その人と組めば良いのに。
美緒と侑士くんに、跡部くんのことを相談すると生暖かい目で見られた。
何故だろう。
私には彼らの考えていることが分からない。
「はあ……」
気が滅入っている状態でヴァイオリンを弾いても、良い音は出せないだろう。
昼休みを利用して、気分転換に図書館へ足を運んでみた。
特に借りたい本があるわけではないが、せっかくなので普段読まないジャンルの本が見たい。
螺旋階段で二階へ上がり、窓際の本棚に近づいた。そこには建築についての本が並んでいる。英国建築の本を手に取って席に着こうとした時、窓の外の景色が目に入った。
「……?」
裏庭に金髪の男子生徒と黒髪の女子生徒が向かい合っていた。
男子生徒の方は跡部くんだ。後ろ姿でも纏うオーラで分かる。
女子生徒の方は見たことない顔なので、他のクラス――いや、他学年かもしれない。遠目に見ても、女の子の顔立ちが整っているのが確認できた。
跡部くんの隣に並んだら、さぞ絵になるだろう。
人気が少ないところにいる一組の男女。恋愛に疎い私でも分かった。これは告白現場だ。
心臓の鼓動がやけに騒がしく感じる。
跡部くんはあの女の子の告白を了承し、付き合うのだろうか。
「!」
裏庭の景色を眺めていると、女の子が跡部くんに抱きついた。
ほぼ条件反射でしゃがみ、本棚に身を隠した。
これ以上、この光景は見たくない。恐らく跡部くんには、図書館の窓から見ていたことはバレていないはず。
だが万が一のことを考え、図書館を後にして屋上へ移動した。
「ははっ……」
雲一つない空を見上げていたら、乾いた笑みが溢れた。
空は爽やかに晴れ渡っているのに、私の心は大雨が降っている。
先日、何故モヤモヤしたり胸が痛んだりしたのか気づいてしまった。跡部くんと演奏したかもしれない人物に嫉妬したから。
私、彼のことが好きなんだ。
ようやく自分の気持ちに気づくのだった。
*
それから私は跡部くんと目が合わせられなくなった。
彼があの女の子と付き合うことになったのか、確認するのが怖い。
朝のヴァイオリンの練習は屋上で行い、予鈴十分前に生徒会室にケースを置きにいくように変えた。その時間はまだテニス部は朝練中なので、顔を合わせるようなことはない。
時々教室で跡部くんから何か言いたげな視線を感じるが、気づいていない振りをしている。
もしかしたら嫌われるかもしれない。
それでも彼と目を合わせたら、全てを見透かされそうで。
今、私が抱えている気持ちを知られたくない。
しかし、こんなことを続けていれば、当然親友は黙っていなかった。
「時雨。今日のお昼はカフェテリアでミーティングよ」
拒否権はなかった。
お昼休みとなり、大人しく美緒についていく。
カフェテリアに着くと、美緒は迷わず壁側の丸テーブルへ向かう。そこにはなんと、侑士くんがいた。
「忍足くん、お待たせ。席取っといてくれてありがとう。あとパンも。あとでお金払うね」
「お安いご用やで。時雨ちゃんも好きなパン取ってや」
「う、うん……」
美緒が椅子に座ったので、私もそれに倣って椅子に座る。
テーブルの上には、いくつかパンとお茶が置かれていた。
どういう状況なのかしら、これ。
とりあえずメロンパンとカレーパンを恐る恐る取った。
「それではお昼を食べながら、ミーティングを始めたいと思います。議題はもちろん……」
「時雨ちゃんと跡部の関係について、やな」
「うっ……!」
美緒と侑士くんからの視線が痛い。
ミーティングをやると告げられてから、ついに跡部くんのことを聞かれると予想していたけれど、彼と向き合う心の準備はできていなかった。
「ねえ、時雨。あんなに跡部くんと仲良かったのに、どうしたの? ここ数日、あなたたちが会話しているところ見てないわ」
美緒が心配げにこちらを見る。
いつまでも殻に閉じこもってられないよね。
私はこれ以上心配かけまいと思い、意を決して口を開いた。
「…………私、告白現場を見てしまったの。図書館で気になった本を手に取ったときに、たまたま裏庭の様子が目に入って……黒髪の女の子が跡部くんに抱きついたの」
「えっ!?」
「…………」
美緒は予想外だったのか驚いているのに対し、侑士くんは落ち着いた様子だ。
もしかして、知っていたのかしら?
「それ以上見たくなかったから、咄嗟にしゃがんでしまって。告白の後どうなったか知るのが怖くて、跡部くんを避けてしまったの。ヴァイオリンの練習は生徒会室ではなくて、屋上でしているし……」
「そうだったのね……」
「その黒髪の女の子……一条さんやな。跡部が時雨ちゃんと親しげにしてるから、焦って告白したようやけど」
「あ~、一条さんか」
「一条さん……? どういう人なの?」
どうやらあの黒髪の美人は、一条さんという方らしい。
顔以外分からないので聞いてみると、侑士くんが答えてくれる。
「男子テニス部のマネージャー。今朝も跡部に突っかかってたけど、突っぱねられとったから大丈夫やと思うで」
「忍足くんがそう言うなら安心ね。時雨、少しは落ち着いた?」
美緒に手を握られ、ほっとする。
ようやく、心の中で雲からお日さまが顔を出したようだ。
「うん。明日から、また生徒会室でヴァイオリンの練習してみるわ」
先程までの胸騒ぎが嘘のように消え、力が沸いてきた。
二人には感謝の気持ちでいっぱいだ。
跡部くんにちゃんと向き合おう。
そう、心に誓った。