【跡部夢】約束
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それは音楽の時間だった。
氷帝に転校してか一ヶ月ほど経ち、学校生活に慣れてきた頃。
次の授業が音楽のため、美緒と音楽室へ向かう。
席順はA組の教室と同じなので、私は窓側の一番後ろで美緒は廊下側の前から二番目の席である。この前席替えをし、美緒と席が遠くなってしまったのが残念だ。
チャイムが鳴り、榊先生が準備室から出てきた。
「それでは授業を開始する。今日からお前たちには自由課題に取り組んでもらう」
自由課題は、皆の前で演奏するというものだった。
曲目は自由。楽器は問わず、歌でも良い。人数は一人から五人までで、各持ち時間は七分。練習期間は一ヶ月だそうだ。
発表会みたいでわくわくする。
「今から用紙を配る。授業が終わるまでに、それに出席番号と氏名を記入して私に提出。複数人で演奏する場合は、メンバー全員分のを一枚の用紙に纏めて記するように」
メンバーが決まったら、楽器や曲目などを相談する時間にあてて良いようだ。
私はヴァイオリンで演奏しようと思う。
誰かと演奏するの好きだし、美緒を誘ってみようかしら。ピアノを習っていると聞いたし、出来れば伴奏を頼みたい。
早速彼女のところへ向かおうと立ち上がると、ふわりと右手首を掴まれる。誰だろうと思って顔を上げると、なんと目の前には跡部くんがいた。
「雪宮、俺と一緒に演奏しないか?」
キラキラと輝く青き瞳が私を射抜く。自信に満ち溢れた目が眩しい。
チラリと跡部くんの後ろに視線をずらすと、彼を誘いたそうな女子生徒たちが様子を窺っている。
「……後ろに跡部くんと組みたそうな子がいるけど良いの?」
「ああ。俺はお前の伴奏をやりたいから、こうして誘っている」
どうして私なのだろう。跡部くんなら引く手あまたで、メンバー候補の選択肢はたくさんあるでしょうに。
「私がピアノを弾くって言ったらどうするの」
もちろんヴァイオリンの方が得意なのだが、演奏する曲の伴奏も目を通すのでピアノもある程度は弾ける。
彼の真意を探るべく、細やかな抵抗を試みた。
「アーン? そしたら連弾をするまでだ」
「え」
待って。連弾? 至近距離で跡部くんと演奏するの? 呼吸を合わせるなんて絶対無理だ。それどころじゃない。
私の心境を察しているのか、ほくそ笑む彼が憎たらしい。やはり、からかわれているのだろう。
「跡部くんはピアノ上手いから、彼に頼んでみれば?」
悩んだ末に申し出を断ろうと口を開こうとした瞬間、後ろから声をかけられた。右手を掴まれたままなので、上半身を左に捻る。そこには苦笑している美緒がいた。
「美緒は?」
誘おうとした相手なだけに、彼女は自由課題をどうするのか気になった。
「私はピアノの独奏かな。時雨の伴奏やってみたかったけど……そこの我が儘キングが睨みを利かせるからね」
美緒がじとりと跡部くんを見る。
「誰が我が儘キングだ。で、どうする」
一瞬視線が美緒に移って否定したが、すぐに私に戻った。
正直、ピアノが上手いと聞いて気になるところである。
この機会を逃すと、跡部くんと演奏する機会はないかもしれない。
「……わかった、跡部くんに伴奏をお願いします」
「フッ……当然だ」
跡部くんに伴奏を頼むと、ようやく右手が解放された。そして用紙とペンを渡される。
既に彼の分は記入してあり、私もその下の欄に記入した。
さっきまで自信満々な態度だったのに、あからさまにホッとした様子で可愛いと思ってしまったのは秘密だ。
用紙は後で榊先生に提出しよう。
「曲はどうするの?」
「雪宮の好きな曲で良い。難易度は気にするな。俺様はどんな曲でも弾ける」
すると跡部くんは机の上の用紙を取り、榊先生のところに提出しに行ってしまった。
彼の背中を目で追うと、先程の女の子たちが肩を落としている様子が視界に入り、申し訳ない気持ちになった。自分で決めたこととはいえ、本当にこれで良かったのかと心に影を落とす。
氷帝に転校してから跡部くんがどれほど人気者なのか目の当たりにした。
カリスマ性があり、努力家で仲間思い。
ファンクラブがあるのも頷ける。
彼が何かと世話を焼いてくれるのは、私が氷帝に馴染むのに時間がかかっているからだ。何だか彼を独り占めしているようで気が引けた。
「なーに暗い顔してるの?」
隣の席に腰を掛けていた美緒が、私をじっと見つめる。
「流されるように跡部くんと組んでしまったけど、これで良かったのかなって思って」
「ああ、跡部くんの後ろにいた子たちを気にしてるの? 大丈夫よ。彼女たちは、跡部くんのファンじゃなくて時雨のファンだもの」
「私の、ファン……?」
予想外の返答に目を丸くした。
美緒曰く、私が生徒会室で演奏しているのを聴いてファンになったのだとか。
どうも練習中の音が廊下に漏れていたようだ。
彼女は目を弓なりに細めて笑う。
「そうよ、時雨の伴奏をやりたかったの。だから彼女たちにとびっきりの演奏を聴かせてあげてね」
跡部くんとなら、きっと極上の音を届けられるだろう。
私は力強く頷いた。
氷帝に転校してか一ヶ月ほど経ち、学校生活に慣れてきた頃。
次の授業が音楽のため、美緒と音楽室へ向かう。
席順はA組の教室と同じなので、私は窓側の一番後ろで美緒は廊下側の前から二番目の席である。この前席替えをし、美緒と席が遠くなってしまったのが残念だ。
チャイムが鳴り、榊先生が準備室から出てきた。
「それでは授業を開始する。今日からお前たちには自由課題に取り組んでもらう」
自由課題は、皆の前で演奏するというものだった。
曲目は自由。楽器は問わず、歌でも良い。人数は一人から五人までで、各持ち時間は七分。練習期間は一ヶ月だそうだ。
発表会みたいでわくわくする。
「今から用紙を配る。授業が終わるまでに、それに出席番号と氏名を記入して私に提出。複数人で演奏する場合は、メンバー全員分のを一枚の用紙に纏めて記するように」
メンバーが決まったら、楽器や曲目などを相談する時間にあてて良いようだ。
私はヴァイオリンで演奏しようと思う。
誰かと演奏するの好きだし、美緒を誘ってみようかしら。ピアノを習っていると聞いたし、出来れば伴奏を頼みたい。
早速彼女のところへ向かおうと立ち上がると、ふわりと右手首を掴まれる。誰だろうと思って顔を上げると、なんと目の前には跡部くんがいた。
「雪宮、俺と一緒に演奏しないか?」
キラキラと輝く青き瞳が私を射抜く。自信に満ち溢れた目が眩しい。
チラリと跡部くんの後ろに視線をずらすと、彼を誘いたそうな女子生徒たちが様子を窺っている。
「……後ろに跡部くんと組みたそうな子がいるけど良いの?」
「ああ。俺はお前の伴奏をやりたいから、こうして誘っている」
どうして私なのだろう。跡部くんなら引く手あまたで、メンバー候補の選択肢はたくさんあるでしょうに。
「私がピアノを弾くって言ったらどうするの」
もちろんヴァイオリンの方が得意なのだが、演奏する曲の伴奏も目を通すのでピアノもある程度は弾ける。
彼の真意を探るべく、細やかな抵抗を試みた。
「アーン? そしたら連弾をするまでだ」
「え」
待って。連弾? 至近距離で跡部くんと演奏するの? 呼吸を合わせるなんて絶対無理だ。それどころじゃない。
私の心境を察しているのか、ほくそ笑む彼が憎たらしい。やはり、からかわれているのだろう。
「跡部くんはピアノ上手いから、彼に頼んでみれば?」
悩んだ末に申し出を断ろうと口を開こうとした瞬間、後ろから声をかけられた。右手を掴まれたままなので、上半身を左に捻る。そこには苦笑している美緒がいた。
「美緒は?」
誘おうとした相手なだけに、彼女は自由課題をどうするのか気になった。
「私はピアノの独奏かな。時雨の伴奏やってみたかったけど……そこの我が儘キングが睨みを利かせるからね」
美緒がじとりと跡部くんを見る。
「誰が我が儘キングだ。で、どうする」
一瞬視線が美緒に移って否定したが、すぐに私に戻った。
正直、ピアノが上手いと聞いて気になるところである。
この機会を逃すと、跡部くんと演奏する機会はないかもしれない。
「……わかった、跡部くんに伴奏をお願いします」
「フッ……当然だ」
跡部くんに伴奏を頼むと、ようやく右手が解放された。そして用紙とペンを渡される。
既に彼の分は記入してあり、私もその下の欄に記入した。
さっきまで自信満々な態度だったのに、あからさまにホッとした様子で可愛いと思ってしまったのは秘密だ。
用紙は後で榊先生に提出しよう。
「曲はどうするの?」
「雪宮の好きな曲で良い。難易度は気にするな。俺様はどんな曲でも弾ける」
すると跡部くんは机の上の用紙を取り、榊先生のところに提出しに行ってしまった。
彼の背中を目で追うと、先程の女の子たちが肩を落としている様子が視界に入り、申し訳ない気持ちになった。自分で決めたこととはいえ、本当にこれで良かったのかと心に影を落とす。
氷帝に転校してから跡部くんがどれほど人気者なのか目の当たりにした。
カリスマ性があり、努力家で仲間思い。
ファンクラブがあるのも頷ける。
彼が何かと世話を焼いてくれるのは、私が氷帝に馴染むのに時間がかかっているからだ。何だか彼を独り占めしているようで気が引けた。
「なーに暗い顔してるの?」
隣の席に腰を掛けていた美緒が、私をじっと見つめる。
「流されるように跡部くんと組んでしまったけど、これで良かったのかなって思って」
「ああ、跡部くんの後ろにいた子たちを気にしてるの? 大丈夫よ。彼女たちは、跡部くんのファンじゃなくて時雨のファンだもの」
「私の、ファン……?」
予想外の返答に目を丸くした。
美緒曰く、私が生徒会室で演奏しているのを聴いてファンになったのだとか。
どうも練習中の音が廊下に漏れていたようだ。
彼女は目を弓なりに細めて笑う。
「そうよ、時雨の伴奏をやりたかったの。だから彼女たちにとびっきりの演奏を聴かせてあげてね」
跡部くんとなら、きっと極上の音を届けられるだろう。
私は力強く頷いた。