【仁王夢】十六夜
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「それで、相談というのは?」
「ねえ、仁王くんの眼鏡をかけた姿が見たいんだけど⋯⋯どうすれば良いと思う?」
それはまだ中学三年生だった頃。
その日、私は昼休みに蓮二をカフェテリアに呼び出していた。
蓮二は私が仁王くんのことを好きだと知っている。それに同じテニス部なので、私より仁王くんに関する情報を持っているだろう思ったのだ。
「一応、確認しておくが⋯⋯仁王が柳生の姿をした場合はダメなんだな?」
「もちろんダメです」
即座に否定する。
たしかに柳生くんと入れ替わったときは眼鏡をかけているが、仁王くんの姿ではないと意味がない。普段眼鏡をかけていない人の、かけている姿が見られるからこそ、ときめくのである。
「んんっ⋯⋯そうか」
物思いにふけていると、突然蓮二が咳払いをしたので現実に戻る。
「大丈夫? 風邪でも引いた?」
最近は朝冷えてきたので、風邪でも引いたら大変だ。
「いや、喉の調子を整えただけだ。そんなに仁王に眼鏡をかけて欲しかったら、本人直接頼めば良いだろう」
「確かにそうなんだけど⋯⋯ハードルが高いわよ」
それが一番手っ取り早いのは分かっているものの、本人に言うのは恥ずかしい。言い淀んだ末に、結局頼めない自信がある。
仁王くんに呆れられたら、しばらく立ち直れない。
「それなら、柳生に頼むしかないな」
「⋯⋯柳生くん?」
私が仁王くんに頼む度胸がないと踏んでいたのか、蓮二はあっさりと代案を出す。
仁王くんより柳生くんにお願いする方がハードルは低いが、なぜ彼なのだろう。
「柳生が仁王に変装して、眼鏡をかけてもらえば良いだろう」
「!!」
柳生くんは普段から眼鏡をかけているので、かけたまま別の姿になってもらうという発想はなかった。必死すぎて、視野が狭くなっていたようだ。
善は急げと言うし、早速柳生くんに頼みに行こう。
「ありがとう! 柳生くんのところに行ってくる!」
私は席から立ち上がり、蓮二にお礼を言って、その場を後にした。
*
カフェテリアに行ったのは偶然だった。
購買でお昼ご飯を買ってカフェテリアを訪れたら、どこからか大きな咳払いが聞こえた。
怪訝に思い、辺りを見渡してみると、左手に雪宮さんの後ろ姿が。その向かいには柳がいる。
おそらく柳は俺が気づくように、わざと咳払いしたのだろう。
これは何かある。雪宮さんにはバレない程度に、近くで様子を伺っていた方が良さそうだ。
俺は雪宮さんと柳がいるテーブルから一卓離れて、その後ろに座った。
だが、近すぎず遠すぎずのところ座ったせいか、会話が途切れ途切れにしか聞き取れない。昼休みということもあり、カフェテリアが騒々しいのもあった。
少し攻めて、雪宮さんの後ろのテーブル席に座るべきだったか。
しばらく二人を観察していると、雪宮さんが勢いよく立ち上がり、カフェテリアから去っていった。
俺は彼女が完全に見えなくなるのを確認し、柳に近づいた。
「⋯⋯雪宮さんが勢いよく去っていったが、何を話してたんじゃ」
「フ、盗み聞きとは関心しないな」
「俺が来るよう仕向けたのは、そっちじゃろ。まあ、よく聞こえたかったが」
「お前の眼鏡をかけた姿が見たいそうだ」
「⋯⋯は?」
てっきり対価が必要かと思いきや、あっさり教えてもらえた。しかし予想外の回答に、素っ頓狂な声を上げてしまった。
柳はこの状況が面白いのか、楽しげに笑っている。
「助言をしたら、柳生のもとへ向かった」
「助言って何じゃ」
「俺は親切ではないから、そこまで教えられないな」
「そうか」
流石に全部は教えてもらえないか。
基本的に柳は雪宮さんの味方だ。どんなに問い詰めても、口を割らないだろう。
まあ、今回は単に面白がっている節もあるが。
柳生のもとへ行ったことが分かっただけ御の字だが、何を相談しに行ったのか検討がつかない。
俺はすぐさまポケットから携帯を取り出し、柳生にメッセージを送った。
*
五限目の授業が終わり、チャイムが教室に鳴り響く。
私は教科書とノートを閉じて、ため息をついた。
昼休み、柳生くんに眼鏡の件ついて相談したものの、珍しく眉を八の字にして保留にさせてほしいと告げられた。彼には彼の事情があるだろうし構わないのだが、必要以上に申し訳なさそうにしていたのは、私の気のせいだろうか。
「お前さん、俺に言うことはないか?」
なんだか近くで、好きな人の声が聞こえる――――。
恐る恐る、声が聞こえた方へ顔を向けた。「⋯⋯!?」
突然の出来事に目を見張る。いつの間にか隣席に仁王くんが座っていた。彼の席は、三列くらい離れているはずに。
ぼんやりと考えごとをしていたせいか、声をかけられるまで気づかなかった。
「と、特にないわよ」
仁王くんを直視できず、目線が斜めに逸れた。これでは嘘を言っているようなものである。
「ほう?」
案の定、仁王くんは信じておらず、手を顎に当ててこちらをじとりと見る。
そもそも何で、このタイミングで来たのだろう。カフェテリアで仁王くんに遭遇していないはずなのに。
柳生くんが仁王くんに伝えたとも考えにくい。
――『仁王に眼鏡をかけて欲しかったら、本人直接頼めば良いだろう』
カフェテリアで蓮二に言われたことを思い出す。
やはり直接頼むべき⋯⋯いや、無理。
そんな簡単にできれば、回りくどいことはしないのだ。
「雪宮さん? 具合が悪いのか?」
「わ!」
ハッと我に返ると、仁王くんの顔が近すぎて心臓が飛び出るかと思った。
「それなら良いんだが⋯⋯放課後、練習試合があるんだが来てくれんかのう?」
「練習試合? 分かった、行くわ」
今日の放課後は予定が入っていないので、快諾した。仁王くんと柳生くんがダブルスを組み、試合をしてほしいという期待もある。
あわよくば柳生くんの姿でも、仁王くんが眼鏡をかけているところを見たい。
「そうか、今日は張り切って試合をしないとな」
仁王くんは晴れやかな笑みを浮かべていた。
*
約束の放課後。
テニスコート付近へ訪れると、すでに女の子たちが観戦ゾーンに集まっており、苦笑が漏れた。
相変わらずテニス部は人気だなあと思う。
彼女たちはどこからか情報を仕入れ、試合を観に来ているらしい。その行動力が羨ましい。
仁王くんや蓮二にいつ試合があるか、教えてもらわないと分からない自分とは大違いだ。
観戦ゾーンに近づくと、コートに仁王くんが――――よく見ると仁王くんに変装した柳生くんが、丸井くんと軽く打ち合っていた。
「おや? 雪宮さんじゃないですか。仁王くんの方を見て、どうされましたか」
後ろから柳生くんの声が聞こえたが、彼はコートにいるので違う人物だ。
ゆっくり振り向くと、やはり柳生くんと入れ替わった仁王くんがいた。
「⋯⋯仁王くん」
「気づいとったんか」
見破られるのが分かっていたからか、さして驚いた様子はない。むしろ開き直っているようで、声色や口調が仁王くんのそれである。
「うーん、やっぱり本人の姿じゃないとなあ⋯⋯」
首をかしげながら、じっと眼鏡を見つめる。
中身が仁王くんでも見た目が柳生くんだと、いまいちときめかない。やはり、いつもの姿じゃないとダメらしい。
「どういう意味じゃ」
小声で言ったつもりだったが、聞こえていたようだ。
仁王くんにじっと見つめられ、居心地が悪くなる。
視線に耐えきれず、眼鏡をかけた姿が見たかったことを白状すると、予想外だったのか目を見開いた。「⋯⋯だから柳生のもとへ行ったのか」
「それならお安い御用ぜよ」
仁王くんは眼鏡をポケットに入れ、髪をわしゃわしゃとかいてヘアゴムで後ろに括り、普段の髪型に戻った。そして再度眼鏡をかけ直す。
「⋯⋯!!」
――――かっこいい。
そう言おうと思ったのだが、感極まり声が出ず、代わりに息が漏れた。
仁王くんが眼鏡をかけた姿を、目に焼き付ける。
「これでどうじゃ⋯⋯て、言うまでもなかったな。今日はこの姿で試合するから、よう見ときんしゃい」
頭をぽんぽんと優しく叩かれ、仁王くんがコートに向かっていくのを目で追う。
心臓がどくどくとうるさい。
「あ⋯⋯」
ベンチに立てかけていたラケットを手に取ると、目つきが変わり、闘志が溢れ出す。
この日、さらに仁王くんに心が奪われたのだった。
▼おまけ
雪宮さんに眼鏡をかけてほしいとお願いされて以来、俺は時々眼鏡をかけている。
他の女子に頼まれてもかける気はなく、彼女が来そうなタイミングを狙って、眼鏡をかける。
常時かけたら耐性がついてしまうのでは、と思い、あくまで時々しかかけない。
自席で机の上に肩肘をつき、窓の外をぼんやり眺めていると、雪宮さんが俺の前にやってきた。
「あ! 今日は眼鏡かけてる!」
彼女は花のように微笑んだ。
この笑顔を見れば、どんなに部活が大変でも頑張れる。
「なんで、眼鏡かけてくれるようになったの?」
「さあの」
そんなの決まってる。お前さんの喜ぶ顔が見たいからじゃ。
本人には言わないが。
雪宮さんのはしゃぐ様子を見て、俺は口元を緩めた。
「ねえ、仁王くんの眼鏡をかけた姿が見たいんだけど⋯⋯どうすれば良いと思う?」
それはまだ中学三年生だった頃。
その日、私は昼休みに蓮二をカフェテリアに呼び出していた。
蓮二は私が仁王くんのことを好きだと知っている。それに同じテニス部なので、私より仁王くんに関する情報を持っているだろう思ったのだ。
「一応、確認しておくが⋯⋯仁王が柳生の姿をした場合はダメなんだな?」
「もちろんダメです」
即座に否定する。
たしかに柳生くんと入れ替わったときは眼鏡をかけているが、仁王くんの姿ではないと意味がない。普段眼鏡をかけていない人の、かけている姿が見られるからこそ、ときめくのである。
「んんっ⋯⋯そうか」
物思いにふけていると、突然蓮二が咳払いをしたので現実に戻る。
「大丈夫? 風邪でも引いた?」
最近は朝冷えてきたので、風邪でも引いたら大変だ。
「いや、喉の調子を整えただけだ。そんなに仁王に眼鏡をかけて欲しかったら、本人直接頼めば良いだろう」
「確かにそうなんだけど⋯⋯ハードルが高いわよ」
それが一番手っ取り早いのは分かっているものの、本人に言うのは恥ずかしい。言い淀んだ末に、結局頼めない自信がある。
仁王くんに呆れられたら、しばらく立ち直れない。
「それなら、柳生に頼むしかないな」
「⋯⋯柳生くん?」
私が仁王くんに頼む度胸がないと踏んでいたのか、蓮二はあっさりと代案を出す。
仁王くんより柳生くんにお願いする方がハードルは低いが、なぜ彼なのだろう。
「柳生が仁王に変装して、眼鏡をかけてもらえば良いだろう」
「!!」
柳生くんは普段から眼鏡をかけているので、かけたまま別の姿になってもらうという発想はなかった。必死すぎて、視野が狭くなっていたようだ。
善は急げと言うし、早速柳生くんに頼みに行こう。
「ありがとう! 柳生くんのところに行ってくる!」
私は席から立ち上がり、蓮二にお礼を言って、その場を後にした。
*
カフェテリアに行ったのは偶然だった。
購買でお昼ご飯を買ってカフェテリアを訪れたら、どこからか大きな咳払いが聞こえた。
怪訝に思い、辺りを見渡してみると、左手に雪宮さんの後ろ姿が。その向かいには柳がいる。
おそらく柳は俺が気づくように、わざと咳払いしたのだろう。
これは何かある。雪宮さんにはバレない程度に、近くで様子を伺っていた方が良さそうだ。
俺は雪宮さんと柳がいるテーブルから一卓離れて、その後ろに座った。
だが、近すぎず遠すぎずのところ座ったせいか、会話が途切れ途切れにしか聞き取れない。昼休みということもあり、カフェテリアが騒々しいのもあった。
少し攻めて、雪宮さんの後ろのテーブル席に座るべきだったか。
しばらく二人を観察していると、雪宮さんが勢いよく立ち上がり、カフェテリアから去っていった。
俺は彼女が完全に見えなくなるのを確認し、柳に近づいた。
「⋯⋯雪宮さんが勢いよく去っていったが、何を話してたんじゃ」
「フ、盗み聞きとは関心しないな」
「俺が来るよう仕向けたのは、そっちじゃろ。まあ、よく聞こえたかったが」
「お前の眼鏡をかけた姿が見たいそうだ」
「⋯⋯は?」
てっきり対価が必要かと思いきや、あっさり教えてもらえた。しかし予想外の回答に、素っ頓狂な声を上げてしまった。
柳はこの状況が面白いのか、楽しげに笑っている。
「助言をしたら、柳生のもとへ向かった」
「助言って何じゃ」
「俺は親切ではないから、そこまで教えられないな」
「そうか」
流石に全部は教えてもらえないか。
基本的に柳は雪宮さんの味方だ。どんなに問い詰めても、口を割らないだろう。
まあ、今回は単に面白がっている節もあるが。
柳生のもとへ行ったことが分かっただけ御の字だが、何を相談しに行ったのか検討がつかない。
俺はすぐさまポケットから携帯を取り出し、柳生にメッセージを送った。
*
五限目の授業が終わり、チャイムが教室に鳴り響く。
私は教科書とノートを閉じて、ため息をついた。
昼休み、柳生くんに眼鏡の件ついて相談したものの、珍しく眉を八の字にして保留にさせてほしいと告げられた。彼には彼の事情があるだろうし構わないのだが、必要以上に申し訳なさそうにしていたのは、私の気のせいだろうか。
「お前さん、俺に言うことはないか?」
なんだか近くで、好きな人の声が聞こえる――――。
恐る恐る、声が聞こえた方へ顔を向けた。「⋯⋯!?」
突然の出来事に目を見張る。いつの間にか隣席に仁王くんが座っていた。彼の席は、三列くらい離れているはずに。
ぼんやりと考えごとをしていたせいか、声をかけられるまで気づかなかった。
「と、特にないわよ」
仁王くんを直視できず、目線が斜めに逸れた。これでは嘘を言っているようなものである。
「ほう?」
案の定、仁王くんは信じておらず、手を顎に当ててこちらをじとりと見る。
そもそも何で、このタイミングで来たのだろう。カフェテリアで仁王くんに遭遇していないはずなのに。
柳生くんが仁王くんに伝えたとも考えにくい。
――『仁王に眼鏡をかけて欲しかったら、本人直接頼めば良いだろう』
カフェテリアで蓮二に言われたことを思い出す。
やはり直接頼むべき⋯⋯いや、無理。
そんな簡単にできれば、回りくどいことはしないのだ。
「雪宮さん? 具合が悪いのか?」
「わ!」
ハッと我に返ると、仁王くんの顔が近すぎて心臓が飛び出るかと思った。
「それなら良いんだが⋯⋯放課後、練習試合があるんだが来てくれんかのう?」
「練習試合? 分かった、行くわ」
今日の放課後は予定が入っていないので、快諾した。仁王くんと柳生くんがダブルスを組み、試合をしてほしいという期待もある。
あわよくば柳生くんの姿でも、仁王くんが眼鏡をかけているところを見たい。
「そうか、今日は張り切って試合をしないとな」
仁王くんは晴れやかな笑みを浮かべていた。
*
約束の放課後。
テニスコート付近へ訪れると、すでに女の子たちが観戦ゾーンに集まっており、苦笑が漏れた。
相変わらずテニス部は人気だなあと思う。
彼女たちはどこからか情報を仕入れ、試合を観に来ているらしい。その行動力が羨ましい。
仁王くんや蓮二にいつ試合があるか、教えてもらわないと分からない自分とは大違いだ。
観戦ゾーンに近づくと、コートに仁王くんが――――よく見ると仁王くんに変装した柳生くんが、丸井くんと軽く打ち合っていた。
「おや? 雪宮さんじゃないですか。仁王くんの方を見て、どうされましたか」
後ろから柳生くんの声が聞こえたが、彼はコートにいるので違う人物だ。
ゆっくり振り向くと、やはり柳生くんと入れ替わった仁王くんがいた。
「⋯⋯仁王くん」
「気づいとったんか」
見破られるのが分かっていたからか、さして驚いた様子はない。むしろ開き直っているようで、声色や口調が仁王くんのそれである。
「うーん、やっぱり本人の姿じゃないとなあ⋯⋯」
首をかしげながら、じっと眼鏡を見つめる。
中身が仁王くんでも見た目が柳生くんだと、いまいちときめかない。やはり、いつもの姿じゃないとダメらしい。
「どういう意味じゃ」
小声で言ったつもりだったが、聞こえていたようだ。
仁王くんにじっと見つめられ、居心地が悪くなる。
視線に耐えきれず、眼鏡をかけた姿が見たかったことを白状すると、予想外だったのか目を見開いた。「⋯⋯だから柳生のもとへ行ったのか」
「それならお安い御用ぜよ」
仁王くんは眼鏡をポケットに入れ、髪をわしゃわしゃとかいてヘアゴムで後ろに括り、普段の髪型に戻った。そして再度眼鏡をかけ直す。
「⋯⋯!!」
――――かっこいい。
そう言おうと思ったのだが、感極まり声が出ず、代わりに息が漏れた。
仁王くんが眼鏡をかけた姿を、目に焼き付ける。
「これでどうじゃ⋯⋯て、言うまでもなかったな。今日はこの姿で試合するから、よう見ときんしゃい」
頭をぽんぽんと優しく叩かれ、仁王くんがコートに向かっていくのを目で追う。
心臓がどくどくとうるさい。
「あ⋯⋯」
ベンチに立てかけていたラケットを手に取ると、目つきが変わり、闘志が溢れ出す。
この日、さらに仁王くんに心が奪われたのだった。
▼おまけ
雪宮さんに眼鏡をかけてほしいとお願いされて以来、俺は時々眼鏡をかけている。
他の女子に頼まれてもかける気はなく、彼女が来そうなタイミングを狙って、眼鏡をかける。
常時かけたら耐性がついてしまうのでは、と思い、あくまで時々しかかけない。
自席で机の上に肩肘をつき、窓の外をぼんやり眺めていると、雪宮さんが俺の前にやってきた。
「あ! 今日は眼鏡かけてる!」
彼女は花のように微笑んだ。
この笑顔を見れば、どんなに部活が大変でも頑張れる。
「なんで、眼鏡かけてくれるようになったの?」
「さあの」
そんなの決まってる。お前さんの喜ぶ顔が見たいからじゃ。
本人には言わないが。
雪宮さんのはしゃぐ様子を見て、俺は口元を緩めた。
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