【柳夢】カラーパレット
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぽつぽつと雲が浮かんでいる青空の朝。
本を片手に中庭へ足を運ぶ。ベンチに座り、本の表紙を撫でた。
早めに学校へ行って、中庭で読書するのが私の日課だ。いつも通り、読み途中の本の栞を挟んでいるページを開く。
「はあ…………」
文字が滑り、内容が頭に入らない。
理由は検討がついている。昨日の柳くんのテニスをしている姿が、脳裏から離れないのだ。
スマッシュを決めるシーンが、鮮やかに再生される。試合を思い出すと、鼓動が少し速くなった。
県大会に観に来てほしいと誘われたが、大会は一月以上先。
また柳くんのテニスをしている姿が見たい。そうだ。今の時間なら、朝練をしているはず。試合はしていないかもしれないが、基礎練の風景なら見られるかも。
善は急げとも言うし、私は本を閉じて、テニスコートへ向かった。
校舎の側からテニスコートの様子を窺うと、昨日ほどではないが周りに女子生徒たちがいた。
これなら私が見学しても、テニス部員側からは分からないだろう。そもそも、テニスに集中しているだろうし。
少しだけテニスコートの近くへ移動すると、仁王くんや丸井くんの姿を捉えた。髪の色が目立つから、分かりやすい。
柳くんはどこだろう、と視線を動かすと、真ん中のコートで黒髪癖毛の子とラリーをしていた。こちらから見て手前側のコートにいるので、残念ながら柳くんの表情は見えないが、きっと涼しげな表情をしていると思う。
向かいの子はコートの隅から隅まで走らされているのに、柳くんは殆ど動いてない。柳くんの方が実力が上なのだろう。
立海テニス部は昨年の全国大会で優勝しているし、全体的に部員のレベルは高い。部内でも相手を圧倒しているということは、相当研鑽に励んでいるはず。
「やっぱり凄い……」
私は感嘆の吐息を洩らす。
努力している人を見るのは好きだ。自分も頑張ろう、と活力が湧くから。
朝練が終わるまで練習風景を見ていたいところだが、こっそり見学していたことは、恥ずかしいので隠したい。私は後ろ髪を引かれる思いのまま、チャイムが鳴る前に教室へ戻るのだった。
結局朝練を見学しても落ち着かず、授業があまり集中できなかった私は、中休みに息抜きがてら図書館へ行くことにした。
中休みの図書館は、それほど人が多くないので快適だ。
シリーズものの三巻を借りるため、壁側の本棚へ向かう。
「あった!」
二巻を借りる時はタイミングが合わなくて苦労したが、三巻はすんなり借りられそうだ。
目的の文庫本を手に取り、貸出機へ行く途中で「体育・スポーツ」と書かれたプレートがついている、棚の側面に目が行った。
まだ時間はあると自分に言い聞かせ、該当の棚に近づく。上段から視線を動かしていくと、中段あたりにテニス関連の本が並んでいた。
せっかくだから借りようかな。ルールや戦略など分かった方が、試合見ていて面白いだろうし。
一冊ずつ手に取り、ぱらぱらと軽く中身を見てみる。その中からテニス初心者向けの本を選び、今度こそ貸出機へ向かった。
手続きを済ませて壁の時計を見ると、休み時間は残りあと十分弱。テニスの本を選ぶのに、思いの外時間がかかってしまったようだ。
図書館を後にし、早歩きで移動する。所々走ったおかげで、なんとかチャイムが鳴る前に、B組の教室に戻れた。
息を整えながら、自分の席に座る。
「雪宮。図書館に行ってたのか?」
隣の席の仁王くんが頬杖をつきながら、私の机上に置かれている本をしげしげと見ている。
「そうよ」
「テニスに興味を持ったようで、なによりじゃ。柳のテニスを見た影響かのう」
これは朝練を見学したことが、バレているのだろうか。それとも単に、昨日の練習試合を見学したことを指しているのだろうか。そもそもなぜ柳くん限定なのだ。いや、実際柳くんのテニスを見た影響なので、合ってはいるのだが。
答えに窮していると、仁王くんがふと笑った。
「お前さんが図書館に行ってる間に、柳が来たぜよ。雪宮は教室にいないと伝えたら、昼休みにまた来るって言ってたのう」
「え」
柳くんがわざわざB組に来るなんて。用件が思いつかない。
強いて挙げるなら、県大会の話だろうか。
仁王くん経由で伝言じゃなくて、トークアプリで伝えてもらえれば、と思ったが柳くんの連絡先を交換していないことを思い出す。
「くくっ、さっきから百面相で面白いのう。朝からそわそわしてたし」
「しょうがないじゃない。昨日の練習試合が凄かったんだもの」
「そうか、そうか」
まるで「柳のテニスに惹かれたんじゃな」と言わんばかりの表情。
何か言い返そうとして口を開いたが、チャイムが鳴ってしまったので、言葉は音にならなかった。
「雪宮、一緒にお昼食べないか?」
昼休みを告げるチャイムが鳴った数分後、柳くんが颯爽とB組に現れた。
廊下側の席の子に、「柳くんが呼んでるよ」と言われて教室の出入口へ行くと、お昼を誘われた。
正直教室だと、周りの目が気になるのでありがたい。特に隣の席からの視線だ。
「分かった。お弁当取ってくるから、ちょっと待ってて」
すぐさま自分の席に向かい、鞄からお弁当を取り出して、ささっと柳くんのところへ戻った。
柳くんと並んで廊下を歩く。さりげなく歩く速度を合わせてくれる、些細な気遣いが嬉しい。
「どこで食べる?」
「中庭はどうだろうか」
「良いよ」
廊下には人がちらほらいるが、私たちに注目する人はいない。
昨日言えなかったことを伝えるチャンスだ。
「……雪宮?」
私が立ち止まったので、柳くんも止まった。不思議そうにこちらを窺っている。
「あ、あのね。この前のお礼なのだけど……一緒に本屋に行きませんか?」
心臓がばくばくと鳴っている。緊張したが、なんとか言えた。
恐る恐る柳くんの顔を見ると、片手で口元を隠していた。心なしか頬が赤いような。
「もちろん。雪宮の行きたいところならば、どこでもついていくぞ」
「えっ!?」
どこでもというのは、さすがに大袈裟ではないだろうか。
「お前の時間ほしい、と言ったのは俺だからな。今から楽しみだ」
上機嫌で話す柳くん。
勇気を持って伝えられて良かった。
テニスをしている時の凛々しい表情も素敵だったが、今の穏やかな微笑みにも心が惹かれる。笑顔が眩しい。
私は柳くんから目が離せなかった。
本を片手に中庭へ足を運ぶ。ベンチに座り、本の表紙を撫でた。
早めに学校へ行って、中庭で読書するのが私の日課だ。いつも通り、読み途中の本の栞を挟んでいるページを開く。
「はあ…………」
文字が滑り、内容が頭に入らない。
理由は検討がついている。昨日の柳くんのテニスをしている姿が、脳裏から離れないのだ。
スマッシュを決めるシーンが、鮮やかに再生される。試合を思い出すと、鼓動が少し速くなった。
県大会に観に来てほしいと誘われたが、大会は一月以上先。
また柳くんのテニスをしている姿が見たい。そうだ。今の時間なら、朝練をしているはず。試合はしていないかもしれないが、基礎練の風景なら見られるかも。
善は急げとも言うし、私は本を閉じて、テニスコートへ向かった。
校舎の側からテニスコートの様子を窺うと、昨日ほどではないが周りに女子生徒たちがいた。
これなら私が見学しても、テニス部員側からは分からないだろう。そもそも、テニスに集中しているだろうし。
少しだけテニスコートの近くへ移動すると、仁王くんや丸井くんの姿を捉えた。髪の色が目立つから、分かりやすい。
柳くんはどこだろう、と視線を動かすと、真ん中のコートで黒髪癖毛の子とラリーをしていた。こちらから見て手前側のコートにいるので、残念ながら柳くんの表情は見えないが、きっと涼しげな表情をしていると思う。
向かいの子はコートの隅から隅まで走らされているのに、柳くんは殆ど動いてない。柳くんの方が実力が上なのだろう。
立海テニス部は昨年の全国大会で優勝しているし、全体的に部員のレベルは高い。部内でも相手を圧倒しているということは、相当研鑽に励んでいるはず。
「やっぱり凄い……」
私は感嘆の吐息を洩らす。
努力している人を見るのは好きだ。自分も頑張ろう、と活力が湧くから。
朝練が終わるまで練習風景を見ていたいところだが、こっそり見学していたことは、恥ずかしいので隠したい。私は後ろ髪を引かれる思いのまま、チャイムが鳴る前に教室へ戻るのだった。
結局朝練を見学しても落ち着かず、授業があまり集中できなかった私は、中休みに息抜きがてら図書館へ行くことにした。
中休みの図書館は、それほど人が多くないので快適だ。
シリーズものの三巻を借りるため、壁側の本棚へ向かう。
「あった!」
二巻を借りる時はタイミングが合わなくて苦労したが、三巻はすんなり借りられそうだ。
目的の文庫本を手に取り、貸出機へ行く途中で「体育・スポーツ」と書かれたプレートがついている、棚の側面に目が行った。
まだ時間はあると自分に言い聞かせ、該当の棚に近づく。上段から視線を動かしていくと、中段あたりにテニス関連の本が並んでいた。
せっかくだから借りようかな。ルールや戦略など分かった方が、試合見ていて面白いだろうし。
一冊ずつ手に取り、ぱらぱらと軽く中身を見てみる。その中からテニス初心者向けの本を選び、今度こそ貸出機へ向かった。
手続きを済ませて壁の時計を見ると、休み時間は残りあと十分弱。テニスの本を選ぶのに、思いの外時間がかかってしまったようだ。
図書館を後にし、早歩きで移動する。所々走ったおかげで、なんとかチャイムが鳴る前に、B組の教室に戻れた。
息を整えながら、自分の席に座る。
「雪宮。図書館に行ってたのか?」
隣の席の仁王くんが頬杖をつきながら、私の机上に置かれている本をしげしげと見ている。
「そうよ」
「テニスに興味を持ったようで、なによりじゃ。柳のテニスを見た影響かのう」
これは朝練を見学したことが、バレているのだろうか。それとも単に、昨日の練習試合を見学したことを指しているのだろうか。そもそもなぜ柳くん限定なのだ。いや、実際柳くんのテニスを見た影響なので、合ってはいるのだが。
答えに窮していると、仁王くんがふと笑った。
「お前さんが図書館に行ってる間に、柳が来たぜよ。雪宮は教室にいないと伝えたら、昼休みにまた来るって言ってたのう」
「え」
柳くんがわざわざB組に来るなんて。用件が思いつかない。
強いて挙げるなら、県大会の話だろうか。
仁王くん経由で伝言じゃなくて、トークアプリで伝えてもらえれば、と思ったが柳くんの連絡先を交換していないことを思い出す。
「くくっ、さっきから百面相で面白いのう。朝からそわそわしてたし」
「しょうがないじゃない。昨日の練習試合が凄かったんだもの」
「そうか、そうか」
まるで「柳のテニスに惹かれたんじゃな」と言わんばかりの表情。
何か言い返そうとして口を開いたが、チャイムが鳴ってしまったので、言葉は音にならなかった。
「雪宮、一緒にお昼食べないか?」
昼休みを告げるチャイムが鳴った数分後、柳くんが颯爽とB組に現れた。
廊下側の席の子に、「柳くんが呼んでるよ」と言われて教室の出入口へ行くと、お昼を誘われた。
正直教室だと、周りの目が気になるのでありがたい。特に隣の席からの視線だ。
「分かった。お弁当取ってくるから、ちょっと待ってて」
すぐさま自分の席に向かい、鞄からお弁当を取り出して、ささっと柳くんのところへ戻った。
柳くんと並んで廊下を歩く。さりげなく歩く速度を合わせてくれる、些細な気遣いが嬉しい。
「どこで食べる?」
「中庭はどうだろうか」
「良いよ」
廊下には人がちらほらいるが、私たちに注目する人はいない。
昨日言えなかったことを伝えるチャンスだ。
「……雪宮?」
私が立ち止まったので、柳くんも止まった。不思議そうにこちらを窺っている。
「あ、あのね。この前のお礼なのだけど……一緒に本屋に行きませんか?」
心臓がばくばくと鳴っている。緊張したが、なんとか言えた。
恐る恐る柳くんの顔を見ると、片手で口元を隠していた。心なしか頬が赤いような。
「もちろん。雪宮の行きたいところならば、どこでもついていくぞ」
「えっ!?」
どこでもというのは、さすがに大袈裟ではないだろうか。
「お前の時間ほしい、と言ったのは俺だからな。今から楽しみだ」
上機嫌で話す柳くん。
勇気を持って伝えられて良かった。
テニスをしている時の凛々しい表情も素敵だったが、今の穏やかな微笑みにも心が惹かれる。笑顔が眩しい。
私は柳くんから目が離せなかった。