【仁王夢】十六夜
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工学部の女子の割合は、他の学部と比べて少ない。今年入学した機械工学科の学生は約150人だが、女子はたったの5人だ。
そんな中、中学から仲の良い友人である一ノ瀬香穂――香穂ちゃんと同じ学科であるのは心強かった。彼女は立海の工業高校に通っていたため、大学で再会した。
先日開催されたガイダンスの資料に機械工学科の名簿も入っており、そこで名前を見つけて話しかけにいったのだ。
香穂ちゃんは温厚な性格で話しやすい。隣にいると安心する。
お互い時間が空いていたので、大学の近くのカフェでお茶会をすることになった。テーブル席に向かい合って座る。
「それにしても、時雨ちゃんが機械工を選ぶとは思わなかったよ。また会えて嬉しい」
「ものづくりに興味が湧いて、学びたいと思ったの。私も香穂ちゃんに会えて嬉しいわ」
立海生で理系に進む人の大半は工業高校へ行き、そのまま大学でも理系の学部を選ぶ。私のように普通科の高校へ通って、理系の学部を選ぶのは珍しいのだ。
「そうだ。確認したいことがあるんだけど……」
「ん? うん」
香穂ちゃんがキョロキョロと周囲を見渡す。そして左手で口元を隠し、先程より声のボリュームを下げて言った。
「高校の時、時雨ちゃんと柳が付き合っているって噂が流れてたんだけど、本当なの……?」
「え」
まさかの恋愛話。その噂は工業高校でも流れていたのか。
「それは嘘よ。私が蓮二と付き合うことなんて、天地がひっくり返ってもないわ」
「そうよね、安心した」
香穂ちゃんは私の好きな人を知っているので、気が気でなかったのだろう。胸を撫で下ろしていた。
「あの時の仁王は、全身から俺に聞くなってオーラが出てたから、誰も真相を確かめられなかったのよ」
「そうなんだ……?」
思い返してみれば噂が流れていた時、そのまま放置していた気がする。蓮二に放っておけば良い、と言われたていたし。
もしかしたら、それで誰かが工業高校の生徒に話して、仁王くんの耳に入ったのかもしれない。
私は深く考えることをやめた。
「あ、仁王で思い出した。時々ネクタイを優しい眼差しで見てたんだけど……ふふ、何があったか聞くまでもなかったね」
完全に不意打ちだった。
仁王くんとネクタイを交換したので、それを身につけるのは必然だけれど。彼もネクタイを大事にしてくれていたことを知り、胸がときめいた。
直接その場面を見れなかったのが、悔やまれる。
いや、香穂ちゃん経由で聞けて良かったのかも。ネクタイを見つめる仁王くんを想像したら、挙動不審になる自信しかなかった。
恥ずかしくて、両手で顔を覆い隠す。
「……またの機会に、詳しく聞かせて下さい」
「分かった。ひとまずこの話は終わりにしよう。次に、時雨ちゃんの時間割を聞きたいんだけど――」
香穂ちゃんはクスクスと笑いながら話題を変えて、時間割について話し始めた。
*
期限内に履修登録をし、授業が本格的に始まってきた。
次のコマは第二外国語の初回授業。私はドイツ語を選んだので、フランス語を選んだ香穂ちゃんとは別々だ。
一人で講義室へ向かう。
大学の授業は、基本的に席は自由だ。私は中央列の端の席に座った。
教科書と筆記用具を準備し、時計を見る。授業が始まるまで、あと5分くらいだろうか。
教科書をパラパラ見ていると、隣に誰かが座る気配がした。
まだ空いてる席は、ちらほらあるのに誰だろう。せめて、一つ席を空けて座れば良いのに。
訝しげに思い、隣を見ると仁王くんが座っていた。つい先日、同じようなことがあった気がする。
「……え? なんで、仁王くんがいるの?」
「ドイツ語を選んだからじゃ」
確かに第二外国語は学部を跨いで授業が実施されるので、同じ授業を選択することもあり得るだろう。だが、それだけではない気がした。
「ま、この前、雪宮さんが時間割作っていたのを見たからのう。特別履修したい言語はなかったから、同じドイツ語を選択したわけじゃ」
「は……」
楽しげに話す仁王くん。
色々聞きたいことがあったが、タイミングが良いのか悪いのか、授業開始の鐘の音が講義室に響き渡った。
講師が教壇に立ち、まず授業の進め方を説明する。教科書に沿って、日常会話や文法を中心に学ぶそうだ。
「それと日常会話は近くの席の方と、二人一組で音読してもらいます。今日は今のままで良いのですが、次回からはペアを作れるように座ってください」
二人一組で音読。つまり、今日は仁王くんとペアを組むというわけで。
ゆっくりと隣を見る。仁王くんと目が合うと、彼は朗らかに笑った。
「……仁王くん。もしかして、このこと知っていたの?」
「もちろん、知っていたぜよ。毛利先輩から聞いたからのう」
小声で聞くと、当然のように返された。
毛利先輩は、蓮二や仁王くんたちテニス部の先輩だ。高校時代に蓮二から、テニス部の先輩だと紹介してもらった。
睡眠学習が得意と聞いていたが、ドイツ語の単位を取得できたのだろうか。
「ちなみにこの授業のテストは、ペアを組んで講師の前で会話の発表。会話内容は事前にペアで考えるから、俺と組んで損はさせないぜよ」
仁王くんは一時期世界を旅していたようで、簡単な日常会話ならマスターしているそうだ。
「ふふ、期待してるね」
「任せんしゃい」
得意気に笑う仁王くん。
これから毎週ドイツ語の時間は、隣に彼がいる。同じ授業を受けるのは中学生以来だ。
授業に集中できるか少し不安だが、何だかんだ楽しみな自分がいた。
そんな中、中学から仲の良い友人である一ノ瀬香穂――香穂ちゃんと同じ学科であるのは心強かった。彼女は立海の工業高校に通っていたため、大学で再会した。
先日開催されたガイダンスの資料に機械工学科の名簿も入っており、そこで名前を見つけて話しかけにいったのだ。
香穂ちゃんは温厚な性格で話しやすい。隣にいると安心する。
お互い時間が空いていたので、大学の近くのカフェでお茶会をすることになった。テーブル席に向かい合って座る。
「それにしても、時雨ちゃんが機械工を選ぶとは思わなかったよ。また会えて嬉しい」
「ものづくりに興味が湧いて、学びたいと思ったの。私も香穂ちゃんに会えて嬉しいわ」
立海生で理系に進む人の大半は工業高校へ行き、そのまま大学でも理系の学部を選ぶ。私のように普通科の高校へ通って、理系の学部を選ぶのは珍しいのだ。
「そうだ。確認したいことがあるんだけど……」
「ん? うん」
香穂ちゃんがキョロキョロと周囲を見渡す。そして左手で口元を隠し、先程より声のボリュームを下げて言った。
「高校の時、時雨ちゃんと柳が付き合っているって噂が流れてたんだけど、本当なの……?」
「え」
まさかの恋愛話。その噂は工業高校でも流れていたのか。
「それは嘘よ。私が蓮二と付き合うことなんて、天地がひっくり返ってもないわ」
「そうよね、安心した」
香穂ちゃんは私の好きな人を知っているので、気が気でなかったのだろう。胸を撫で下ろしていた。
「あの時の仁王は、全身から俺に聞くなってオーラが出てたから、誰も真相を確かめられなかったのよ」
「そうなんだ……?」
思い返してみれば噂が流れていた時、そのまま放置していた気がする。蓮二に放っておけば良い、と言われたていたし。
もしかしたら、それで誰かが工業高校の生徒に話して、仁王くんの耳に入ったのかもしれない。
私は深く考えることをやめた。
「あ、仁王で思い出した。時々ネクタイを優しい眼差しで見てたんだけど……ふふ、何があったか聞くまでもなかったね」
完全に不意打ちだった。
仁王くんとネクタイを交換したので、それを身につけるのは必然だけれど。彼もネクタイを大事にしてくれていたことを知り、胸がときめいた。
直接その場面を見れなかったのが、悔やまれる。
いや、香穂ちゃん経由で聞けて良かったのかも。ネクタイを見つめる仁王くんを想像したら、挙動不審になる自信しかなかった。
恥ずかしくて、両手で顔を覆い隠す。
「……またの機会に、詳しく聞かせて下さい」
「分かった。ひとまずこの話は終わりにしよう。次に、時雨ちゃんの時間割を聞きたいんだけど――」
香穂ちゃんはクスクスと笑いながら話題を変えて、時間割について話し始めた。
*
期限内に履修登録をし、授業が本格的に始まってきた。
次のコマは第二外国語の初回授業。私はドイツ語を選んだので、フランス語を選んだ香穂ちゃんとは別々だ。
一人で講義室へ向かう。
大学の授業は、基本的に席は自由だ。私は中央列の端の席に座った。
教科書と筆記用具を準備し、時計を見る。授業が始まるまで、あと5分くらいだろうか。
教科書をパラパラ見ていると、隣に誰かが座る気配がした。
まだ空いてる席は、ちらほらあるのに誰だろう。せめて、一つ席を空けて座れば良いのに。
訝しげに思い、隣を見ると仁王くんが座っていた。つい先日、同じようなことがあった気がする。
「……え? なんで、仁王くんがいるの?」
「ドイツ語を選んだからじゃ」
確かに第二外国語は学部を跨いで授業が実施されるので、同じ授業を選択することもあり得るだろう。だが、それだけではない気がした。
「ま、この前、雪宮さんが時間割作っていたのを見たからのう。特別履修したい言語はなかったから、同じドイツ語を選択したわけじゃ」
「は……」
楽しげに話す仁王くん。
色々聞きたいことがあったが、タイミングが良いのか悪いのか、授業開始の鐘の音が講義室に響き渡った。
講師が教壇に立ち、まず授業の進め方を説明する。教科書に沿って、日常会話や文法を中心に学ぶそうだ。
「それと日常会話は近くの席の方と、二人一組で音読してもらいます。今日は今のままで良いのですが、次回からはペアを作れるように座ってください」
二人一組で音読。つまり、今日は仁王くんとペアを組むというわけで。
ゆっくりと隣を見る。仁王くんと目が合うと、彼は朗らかに笑った。
「……仁王くん。もしかして、このこと知っていたの?」
「もちろん、知っていたぜよ。毛利先輩から聞いたからのう」
小声で聞くと、当然のように返された。
毛利先輩は、蓮二や仁王くんたちテニス部の先輩だ。高校時代に蓮二から、テニス部の先輩だと紹介してもらった。
睡眠学習が得意と聞いていたが、ドイツ語の単位を取得できたのだろうか。
「ちなみにこの授業のテストは、ペアを組んで講師の前で会話の発表。会話内容は事前にペアで考えるから、俺と組んで損はさせないぜよ」
仁王くんは一時期世界を旅していたようで、簡単な日常会話ならマスターしているそうだ。
「ふふ、期待してるね」
「任せんしゃい」
得意気に笑う仁王くん。
これから毎週ドイツ語の時間は、隣に彼がいる。同じ授業を受けるのは中学生以来だ。
授業に集中できるか少し不安だが、何だかんだ楽しみな自分がいた。