【仁王夢】十六夜
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目の前に仁王くんがいる。
同じキャンパスなのでいつか会うかもしれないが、まさか大学生になり、たった数日で会うとは思っていなかった。当然心の準備は出来ていないし、何を話せば良いか分からない。
故に、キャパオーバーした私は
「ひ、人違いだと思います!」
と、思いっきり嘘をついてしまった。
地面に落ちた鞄を慌てて拾い、もう一度頭を下げる。
「ぶつかって、すみませんでした。それでは!」
「え」
やらかしてしまったでの一秒でも早く去りたく、脱兎の如く走って体育館へ向かった。
だから罰が当たったのだろう。くまの巾着を落としていたことに、気づかなかった。
なんとか体育館に辿り着き、入口で資料を受け取る。
機械工学科のスペースへ向かうと、既に半分以上席が埋まっていた。席順は決まっておらず、前に詰めて座る形式だ。
腰をかけて一呼吸すると、少しずつ落ち着きを取り戻した。
まさか、こんなにも早く仁王くんに会うなんて。
突然の出来事に頭が真っ白になった。しかも嘘を吐いてしまい、自分のダメさ加減に落ち込んだ。
腕時計を見ると、ガイダンスが始まるまであと十分弱。
仁王くんのことは、ガイダンスが終わってから考えよう。
メモを取るため、鞄の中から筆記用具を出そうとして、あることに気づいた。
くまの巾着がない。どうして。
「はっ……」
さっきぶつかって鞄を落としたとき、巾着が鞄から溢れ落ちてしまったのかも。
誰かが拾ったかと思うと、血の気が引いた。
今すぐ来た道を戻りたいところだが、もうすぐガイダンスが始まってしまう。心の中で盛大にため息をつき、頭を抱えた。
ガイダンスが終わってから巾着を探してみたが、結局なかったのだった。
*
翌日。
昨日通った道を中心に、もう一度くまの巾着を探してみたが見つからず、ひとまずカフェテリアに来た。
窓際の日当たりの良い席に座る。
あの巾着の中には大切なネクタイが入っていたのに。誰かが拾ってしまったのだろうか。
気分転換のためガイダンス資料に目を通し、ため息をついた。
ガイダンス資料には、授業についても記載されている。早いところ、時間割を決めなくては。
くまの巾着が頭から離れないが、一旦頭の片隅に置かないと、ずっと考えてしまう。
私は鞄からペンを取り出し、時間割を作ることにした。
カタン。
時間割作りに励んでいると、左隣の席に誰かが座る気配がした。
顔はガイダンス資料に向けたまま、目線だけ横に向ける。
「…………」
何故か仁王くんが、隣に座っていた。彼は冊子を見ながら作業をしている。
私は何事もなかったかのように、目線をさっと正面に戻す。
もしかして、私に気づいていない……?
少しでも、そう思った自分は甘かった。
数分後。やたら左側から視線を感じる。
私は内心、滝のような汗をかいていた。
昨日のことで怒っているのだろうか。悪いのは全面的に私なので、一思いに言ってほしい。
「…………あの……?」
「ん?」
隣からの視線――無言の圧力――に耐えきれず、声をかけてしまった。
仁王くんは片ひじをついて、穴が開くほどじっとこちらを見つめている。
「私に何か用が……?」
「ようやく見てくれたと思ったのに、よそよそしいのう。まあ、それは置いといて」
仁王くんは鞄の中から、あるものを取り出した。テーブルの上に、スッと置かれる。
「これ、お前さんのじゃないか?」
「あっ、それ!」
彼が見せてくれたのは、どんなに探しても見つからなかったくまの巾着だった。
よりによって、彼が拾ってくれていたなんて。巾着の中を見られただろうか。
ネクタイを贈ってくれた本人に、大事に持ち歩いていることを知られるのは、少々恥ずかしいものがある。
「やはり、お前さんのか」
「あの……巾着の中身見ましたか?」
「プリッ」
誤魔化された。
だがこの反応は、絶対巾着の中身を知られている。先程から顔がにやけているんだもの。
思わず、じとりと見つめた。
「……その反応を見るに、俺のこと忘れたわけじゃなくて安心したぜよ」
「うっ……」
仁王くんが穏やかに笑うので、心臓が高鳴った。
「さて。これを返すのには、条件があるぜよ」
「条件?」
「そ、俺と連絡先を交換してもらおうかのう」
連絡先。高校時代から知りたかったもの。
大事なネクタイが返ってくる上に、仁王くんの連絡先も教えてもらえるなんて。
これは夢じゃないか、勘違いしそうになる。風の噂で、仁王くんから連絡先聞き出すのは難しいと聞いていたし。
「…………分かったわ」
私はポケットから携帯を取り出し、連絡先を交換した。
携帯を操作して仁王くんの連絡先を確認し、口元が緩みそうになる。
「確認するまでもなかったが、やはり雪宮さんか。……俺が間違えるはずもないが」
「…………」
顔を上げると、仁王くんと視線がぶつかった。
嬉しさのあまり現実逃避していたが、一瞬で現実に戻される。彼が真顔だったのだ。
「巾着を返す前に聞きたいんじゃが。ぶつかった時に、他人のふりをしたのは?」
「仁王くんと同じキャンパスなのは知っていたけれど、その……いざ目の前にすると頭が真っ白になってしまって。……ごめんなさい」
もし仁王くんに他人のふりされたら、しばらくへこむだろう。それなのに、私はやってしまった。
仁王くんと顔を合わせられず、目線が自身の手元に落ちる。
「そう落ち込みさんなって。雪宮さんがそんな調子だと、こっちも調子が狂うぜよ」
「……怒ってない?」
「なんで怒るんじゃ」
「前みたいに接してくれるの……?」
「もちろん。だって、雪宮さん…………………何でもないぜよ」
「今の間は?」
「そのうち分かるナリ。ほら、巾着」
そう言うと、仁王くんは私にくまの巾着を握らせ、話を逸らした。
彼の顔を盗み見ると、ほんのり頬が赤い。珍しく焦っているように見える。
先程の間が気になるものの、今は教えてくれないだろう。
私は巾着の中身を確かめ、ほっと息を吐いた。
その後、仁王くんの高校生活を聞いたり、私の高校生活を話したり。私たちは空白の三年間を埋めるのだった。
同じキャンパスなのでいつか会うかもしれないが、まさか大学生になり、たった数日で会うとは思っていなかった。当然心の準備は出来ていないし、何を話せば良いか分からない。
故に、キャパオーバーした私は
「ひ、人違いだと思います!」
と、思いっきり嘘をついてしまった。
地面に落ちた鞄を慌てて拾い、もう一度頭を下げる。
「ぶつかって、すみませんでした。それでは!」
「え」
やらかしてしまったでの一秒でも早く去りたく、脱兎の如く走って体育館へ向かった。
だから罰が当たったのだろう。くまの巾着を落としていたことに、気づかなかった。
なんとか体育館に辿り着き、入口で資料を受け取る。
機械工学科のスペースへ向かうと、既に半分以上席が埋まっていた。席順は決まっておらず、前に詰めて座る形式だ。
腰をかけて一呼吸すると、少しずつ落ち着きを取り戻した。
まさか、こんなにも早く仁王くんに会うなんて。
突然の出来事に頭が真っ白になった。しかも嘘を吐いてしまい、自分のダメさ加減に落ち込んだ。
腕時計を見ると、ガイダンスが始まるまであと十分弱。
仁王くんのことは、ガイダンスが終わってから考えよう。
メモを取るため、鞄の中から筆記用具を出そうとして、あることに気づいた。
くまの巾着がない。どうして。
「はっ……」
さっきぶつかって鞄を落としたとき、巾着が鞄から溢れ落ちてしまったのかも。
誰かが拾ったかと思うと、血の気が引いた。
今すぐ来た道を戻りたいところだが、もうすぐガイダンスが始まってしまう。心の中で盛大にため息をつき、頭を抱えた。
ガイダンスが終わってから巾着を探してみたが、結局なかったのだった。
*
翌日。
昨日通った道を中心に、もう一度くまの巾着を探してみたが見つからず、ひとまずカフェテリアに来た。
窓際の日当たりの良い席に座る。
あの巾着の中には大切なネクタイが入っていたのに。誰かが拾ってしまったのだろうか。
気分転換のためガイダンス資料に目を通し、ため息をついた。
ガイダンス資料には、授業についても記載されている。早いところ、時間割を決めなくては。
くまの巾着が頭から離れないが、一旦頭の片隅に置かないと、ずっと考えてしまう。
私は鞄からペンを取り出し、時間割を作ることにした。
カタン。
時間割作りに励んでいると、左隣の席に誰かが座る気配がした。
顔はガイダンス資料に向けたまま、目線だけ横に向ける。
「…………」
何故か仁王くんが、隣に座っていた。彼は冊子を見ながら作業をしている。
私は何事もなかったかのように、目線をさっと正面に戻す。
もしかして、私に気づいていない……?
少しでも、そう思った自分は甘かった。
数分後。やたら左側から視線を感じる。
私は内心、滝のような汗をかいていた。
昨日のことで怒っているのだろうか。悪いのは全面的に私なので、一思いに言ってほしい。
「…………あの……?」
「ん?」
隣からの視線――無言の圧力――に耐えきれず、声をかけてしまった。
仁王くんは片ひじをついて、穴が開くほどじっとこちらを見つめている。
「私に何か用が……?」
「ようやく見てくれたと思ったのに、よそよそしいのう。まあ、それは置いといて」
仁王くんは鞄の中から、あるものを取り出した。テーブルの上に、スッと置かれる。
「これ、お前さんのじゃないか?」
「あっ、それ!」
彼が見せてくれたのは、どんなに探しても見つからなかったくまの巾着だった。
よりによって、彼が拾ってくれていたなんて。巾着の中を見られただろうか。
ネクタイを贈ってくれた本人に、大事に持ち歩いていることを知られるのは、少々恥ずかしいものがある。
「やはり、お前さんのか」
「あの……巾着の中身見ましたか?」
「プリッ」
誤魔化された。
だがこの反応は、絶対巾着の中身を知られている。先程から顔がにやけているんだもの。
思わず、じとりと見つめた。
「……その反応を見るに、俺のこと忘れたわけじゃなくて安心したぜよ」
「うっ……」
仁王くんが穏やかに笑うので、心臓が高鳴った。
「さて。これを返すのには、条件があるぜよ」
「条件?」
「そ、俺と連絡先を交換してもらおうかのう」
連絡先。高校時代から知りたかったもの。
大事なネクタイが返ってくる上に、仁王くんの連絡先も教えてもらえるなんて。
これは夢じゃないか、勘違いしそうになる。風の噂で、仁王くんから連絡先聞き出すのは難しいと聞いていたし。
「…………分かったわ」
私はポケットから携帯を取り出し、連絡先を交換した。
携帯を操作して仁王くんの連絡先を確認し、口元が緩みそうになる。
「確認するまでもなかったが、やはり雪宮さんか。……俺が間違えるはずもないが」
「…………」
顔を上げると、仁王くんと視線がぶつかった。
嬉しさのあまり現実逃避していたが、一瞬で現実に戻される。彼が真顔だったのだ。
「巾着を返す前に聞きたいんじゃが。ぶつかった時に、他人のふりをしたのは?」
「仁王くんと同じキャンパスなのは知っていたけれど、その……いざ目の前にすると頭が真っ白になってしまって。……ごめんなさい」
もし仁王くんに他人のふりされたら、しばらくへこむだろう。それなのに、私はやってしまった。
仁王くんと顔を合わせられず、目線が自身の手元に落ちる。
「そう落ち込みさんなって。雪宮さんがそんな調子だと、こっちも調子が狂うぜよ」
「……怒ってない?」
「なんで怒るんじゃ」
「前みたいに接してくれるの……?」
「もちろん。だって、雪宮さん…………………何でもないぜよ」
「今の間は?」
「そのうち分かるナリ。ほら、巾着」
そう言うと、仁王くんは私にくまの巾着を握らせ、話を逸らした。
彼の顔を盗み見ると、ほんのり頬が赤い。珍しく焦っているように見える。
先程の間が気になるものの、今は教えてくれないだろう。
私は巾着の中身を確かめ、ほっと息を吐いた。
その後、仁王くんの高校生活を聞いたり、私の高校生活を話したり。私たちは空白の三年間を埋めるのだった。