【柳夢】カラーパレット
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チャイムが鳴り、数学の授業が始まった。まずは前回の宿題プリントの答え合わせから。
隣席の人とプリントを交換して丸つけをするため、仁王くんにプリントを渡した。
「おお、全て埋まっているのう」
仁王くんは私が数学苦手なのを知っている。
いつもなら空欄が一、二個あるのに、今回は解答欄を全て埋めたので驚いていた。
「そう! 柳くんに解き方を教えてもらったの。テスト前にも教えてもらえることになって……お礼に遊ぶ約束したから、行き先考えてるんだ」
授業中なので先生に聞こえないよう、口元を手で隠して小声で話す。距離が近いから十分聞こえたようで、仁王くんは目を瞬かせた。
「ほー、デートか。柳がそこまで気を許すとはのう」
「え?」
私は目を丸くした。聞き慣れない単語が聞こえたような。
困惑する私を不思議そうに見る仁王くん。
「何て言ったの?」
「柳とデートするんじゃないのか?」
「……デート?」
デート。
心の中で言葉を反芻してみるが、どうにもしっくりこない。果たして、柳くんは恋愛においての好意を持って、誘ってくれたのだろうか。
「二人で遊びに行くんじゃろう?」
「え、ええ……。た、たしかに二人で遊ぶ予定だけど、これってデートなの?」
声が裏返る。徐々に頬が熱を帯び、両手で包んだ。
「ふむ。これは柳も大変じゃのう……」
仁王くんはため息をついたが、それどころじゃない私は、彼の呟きに気づくこともなかった。
今は苦手な数学の時間なのだから、いつも以上に集中しなくては。平常心を取り戻すため、ゆっくり深呼吸をする。
テスト前に教えてもらえるとはいえ、柳くんの負担を増やすわけにはいかないわ。
ぺちぺちと頬を叩いて気持ちを切り替え、先生の解説に耳を傾けるのだった。
なんとか一日の授業を乗り切ると、机の上にひよこの饅頭が置かれた。よほどぐったりとした表情だったのだろう、顔を上げると仁王くんが苦笑していた。
「ま、深く考えずにお前さんが楽しめれば、柳も嬉しいだろうよ。それでも食べて元気だしんしゃい」
「あ、ありがとう」
お礼を言うと、仁王くんは手をひらひらさせて教室から出ていった。きっと部室へ向かうのだろう。
それにしても彼はひよこが好きなのかしら。話していると、稀に「ピヨッ」と返されるし。
ひよこの饅頭を眺めていると、少し元気が出てきた。
部室に行ってから食べようかな。
私は荷物を鞄に詰め、移動する準備をした。
掃除当番がないので、そのまま部室へ。
扉をスライドさせると、既に部長の沙良がいた。どうやら彼女が一番乗りのようだ。他の部員は掃除中らしく、姿が見えない。
「あら、時雨。悩み事?」
「えっ、どうして?」
「眉間に皺が寄ってたから。私で良ければ聞くけど……」
沙良は自身の額を指差しながら言う。彼女に相談すれば良いアドバイスがもらえるかもしれないし、口が堅いから周りに言いふらされることもないだろう。私は柳くんと遊びに行くまでの経緯を話すことにした。
図書館で宿題に取り組んでいたら、柳くんが隣に来て教えてもらえたこと。テスト前に勉強教えてもらうことになったこと。お礼に柳くんと遊びに行くことになったこと。
「それでどこに行こうか、迷ってるのだけど……」
「時雨が行きたい場所なら、柳くんも楽しめるんじゃない?」
「仁王くんが似たようなこと言ってたような」
正直、理由はよく分かっていないけれど。
「なるほど。それなら時雨が行きたい場所に誘うべきよ」
私が行きたい場所。
駅からそう遠くない場所にある、大きな本屋さんを思い浮かべる。その近くにあるカフェも良いかもしれない。
「その様子だと候補があるようね。ちゃんと伝えなさいよ?」
「わ、分かった」
沙良にじりじりと迫られ、慌てて頷く。明日にでも、柳くんに伝えたか聞かれそうだ。
「そうだ! ちょうどお菓子を買わないといけないから、買い出しに行ってほしいのよね。ついでにテニスコートに寄ってみたら? たしか今日は練習試合の日だったはずだから、柳くんの試合姿が見られるんじゃないかしら」
ブレザーから懐紙と筆ペンを取り出し、お菓子の名前を書いていく沙良。そして懐紙を二つ折りにし、私の手のひらに乗せて包み込む。
こうして私は買い出しがてら、テニス部の練習風景を見学することに。なんだかんだで見てみたかったのである。
それにしても沙良がテニス部の情報を知っているなんて意外だ。柳くんから教えてもらったのだろうか。
その瞬間、胸がズキッと痛んだ。何故だろう。考えれば考えるほどモヤモヤしてきたので、頭の隅に追いやることにした。
買い出しに必要なものは鞄に入っているので、部室を立ち去り昇降口へ。
ローファーに履き替えテニスコートへ向かう途中で、そういえば沙良は、柳くんと同じクラスだったとふと思い出すのであった。
テニスコートが近づいてくると、ボールのインパクト音が聞こえてきた。沙良が言っていたように、試合が行われているようだ。
フェンス付近にちらほらと立海の制服を纏った女子生徒が見えた。コートに近い方が良く見えるだろうが、彼女たちに混ざって観戦する度胸はなかったので、少し離れて見ることにした。
柳くんの姿を探す。コートは三面あり、真ん中のコートでちょうど試合中だった。
じっと目で追いかける。
凄い。気づけば目の前の光景に釘付けになっていた。柳くんのテニス姿を見るのは初めてだが、あっという間に魅了された。
素人目でも柳くんが強いことが分かる。彼が相手コートにショットを打てば、次々とポイントが決まった。動きに無駄がなく、余裕そうだ。
対する対戦相手は、必死にボールを追いかけるものの返せない。肩で息をし、見ているこちらが辛くなる。
実力差がありすぎて、圧倒的だった。
ゲームセットのコールが聞こえ、ハッと我に返る。試合に見入り、時間が経つのを忘れていた。そういえば買い出しに行くんだっけ。
気持ちが高揚し、心臓が早鐘を打つ。
名残惜しいけれど、そろそろ行かなくては。
平常心を取り戻そうと深呼吸をした。コートを後にし、校門へ歩を進める。
「雪宮!」
運動部の部室前を通りかかったところで、私を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、そこには柳くんが。
先ほどまでコートにいたので、おそらく急いで走ってきたからか、少し息が上がっていた。
「柳くん、どうしたの?」
「試合が終わって顔を上げたら、雪宮の姿が見えたのでな。部室に用もあるので、追いかけさせてもらった。……もしかして、先ほどの試合見ていたのか?」
「ええと、今日男テニが練習試合してるって聞いたの。柳くんがテニスしているところ見てみたくて。その……いつもより輝いて見えて、また試合している姿が見たいって思ったの」
柳くんの顔を直視できず、目線が地にさ迷う。
私の顔は林檎のように真っ赤だろう。気恥ずかしくなり、再び心臓の鼓動が速くなる。
それに、いつもは口にしない言葉を音にしたからだろうか。頬を触らなくても、熱を感じた。
「! 雪宮にそう言ってもらえて嬉しい。お前さえ良ければ、六月の県大会観に来てくれないか?」
「ぜ、ぜひ、行きたい!」
ガバッと顔を上げて伝えると、柳くんが相好を崩し、胸がときめいた。
「そうか、ありがとう。詳細は後日伝える」
それから他愛のない話をして買い出しに行ったのだが、彼の姿が頭から離れない。心ここにあらずだったせいか、部室に戻ると沙良に心配されるのだった。
隣席の人とプリントを交換して丸つけをするため、仁王くんにプリントを渡した。
「おお、全て埋まっているのう」
仁王くんは私が数学苦手なのを知っている。
いつもなら空欄が一、二個あるのに、今回は解答欄を全て埋めたので驚いていた。
「そう! 柳くんに解き方を教えてもらったの。テスト前にも教えてもらえることになって……お礼に遊ぶ約束したから、行き先考えてるんだ」
授業中なので先生に聞こえないよう、口元を手で隠して小声で話す。距離が近いから十分聞こえたようで、仁王くんは目を瞬かせた。
「ほー、デートか。柳がそこまで気を許すとはのう」
「え?」
私は目を丸くした。聞き慣れない単語が聞こえたような。
困惑する私を不思議そうに見る仁王くん。
「何て言ったの?」
「柳とデートするんじゃないのか?」
「……デート?」
デート。
心の中で言葉を反芻してみるが、どうにもしっくりこない。果たして、柳くんは恋愛においての好意を持って、誘ってくれたのだろうか。
「二人で遊びに行くんじゃろう?」
「え、ええ……。た、たしかに二人で遊ぶ予定だけど、これってデートなの?」
声が裏返る。徐々に頬が熱を帯び、両手で包んだ。
「ふむ。これは柳も大変じゃのう……」
仁王くんはため息をついたが、それどころじゃない私は、彼の呟きに気づくこともなかった。
今は苦手な数学の時間なのだから、いつも以上に集中しなくては。平常心を取り戻すため、ゆっくり深呼吸をする。
テスト前に教えてもらえるとはいえ、柳くんの負担を増やすわけにはいかないわ。
ぺちぺちと頬を叩いて気持ちを切り替え、先生の解説に耳を傾けるのだった。
なんとか一日の授業を乗り切ると、机の上にひよこの饅頭が置かれた。よほどぐったりとした表情だったのだろう、顔を上げると仁王くんが苦笑していた。
「ま、深く考えずにお前さんが楽しめれば、柳も嬉しいだろうよ。それでも食べて元気だしんしゃい」
「あ、ありがとう」
お礼を言うと、仁王くんは手をひらひらさせて教室から出ていった。きっと部室へ向かうのだろう。
それにしても彼はひよこが好きなのかしら。話していると、稀に「ピヨッ」と返されるし。
ひよこの饅頭を眺めていると、少し元気が出てきた。
部室に行ってから食べようかな。
私は荷物を鞄に詰め、移動する準備をした。
掃除当番がないので、そのまま部室へ。
扉をスライドさせると、既に部長の沙良がいた。どうやら彼女が一番乗りのようだ。他の部員は掃除中らしく、姿が見えない。
「あら、時雨。悩み事?」
「えっ、どうして?」
「眉間に皺が寄ってたから。私で良ければ聞くけど……」
沙良は自身の額を指差しながら言う。彼女に相談すれば良いアドバイスがもらえるかもしれないし、口が堅いから周りに言いふらされることもないだろう。私は柳くんと遊びに行くまでの経緯を話すことにした。
図書館で宿題に取り組んでいたら、柳くんが隣に来て教えてもらえたこと。テスト前に勉強教えてもらうことになったこと。お礼に柳くんと遊びに行くことになったこと。
「それでどこに行こうか、迷ってるのだけど……」
「時雨が行きたい場所なら、柳くんも楽しめるんじゃない?」
「仁王くんが似たようなこと言ってたような」
正直、理由はよく分かっていないけれど。
「なるほど。それなら時雨が行きたい場所に誘うべきよ」
私が行きたい場所。
駅からそう遠くない場所にある、大きな本屋さんを思い浮かべる。その近くにあるカフェも良いかもしれない。
「その様子だと候補があるようね。ちゃんと伝えなさいよ?」
「わ、分かった」
沙良にじりじりと迫られ、慌てて頷く。明日にでも、柳くんに伝えたか聞かれそうだ。
「そうだ! ちょうどお菓子を買わないといけないから、買い出しに行ってほしいのよね。ついでにテニスコートに寄ってみたら? たしか今日は練習試合の日だったはずだから、柳くんの試合姿が見られるんじゃないかしら」
ブレザーから懐紙と筆ペンを取り出し、お菓子の名前を書いていく沙良。そして懐紙を二つ折りにし、私の手のひらに乗せて包み込む。
こうして私は買い出しがてら、テニス部の練習風景を見学することに。なんだかんだで見てみたかったのである。
それにしても沙良がテニス部の情報を知っているなんて意外だ。柳くんから教えてもらったのだろうか。
その瞬間、胸がズキッと痛んだ。何故だろう。考えれば考えるほどモヤモヤしてきたので、頭の隅に追いやることにした。
買い出しに必要なものは鞄に入っているので、部室を立ち去り昇降口へ。
ローファーに履き替えテニスコートへ向かう途中で、そういえば沙良は、柳くんと同じクラスだったとふと思い出すのであった。
テニスコートが近づいてくると、ボールのインパクト音が聞こえてきた。沙良が言っていたように、試合が行われているようだ。
フェンス付近にちらほらと立海の制服を纏った女子生徒が見えた。コートに近い方が良く見えるだろうが、彼女たちに混ざって観戦する度胸はなかったので、少し離れて見ることにした。
柳くんの姿を探す。コートは三面あり、真ん中のコートでちょうど試合中だった。
じっと目で追いかける。
凄い。気づけば目の前の光景に釘付けになっていた。柳くんのテニス姿を見るのは初めてだが、あっという間に魅了された。
素人目でも柳くんが強いことが分かる。彼が相手コートにショットを打てば、次々とポイントが決まった。動きに無駄がなく、余裕そうだ。
対する対戦相手は、必死にボールを追いかけるものの返せない。肩で息をし、見ているこちらが辛くなる。
実力差がありすぎて、圧倒的だった。
ゲームセットのコールが聞こえ、ハッと我に返る。試合に見入り、時間が経つのを忘れていた。そういえば買い出しに行くんだっけ。
気持ちが高揚し、心臓が早鐘を打つ。
名残惜しいけれど、そろそろ行かなくては。
平常心を取り戻そうと深呼吸をした。コートを後にし、校門へ歩を進める。
「雪宮!」
運動部の部室前を通りかかったところで、私を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、そこには柳くんが。
先ほどまでコートにいたので、おそらく急いで走ってきたからか、少し息が上がっていた。
「柳くん、どうしたの?」
「試合が終わって顔を上げたら、雪宮の姿が見えたのでな。部室に用もあるので、追いかけさせてもらった。……もしかして、先ほどの試合見ていたのか?」
「ええと、今日男テニが練習試合してるって聞いたの。柳くんがテニスしているところ見てみたくて。その……いつもより輝いて見えて、また試合している姿が見たいって思ったの」
柳くんの顔を直視できず、目線が地にさ迷う。
私の顔は林檎のように真っ赤だろう。気恥ずかしくなり、再び心臓の鼓動が速くなる。
それに、いつもは口にしない言葉を音にしたからだろうか。頬を触らなくても、熱を感じた。
「! 雪宮にそう言ってもらえて嬉しい。お前さえ良ければ、六月の県大会観に来てくれないか?」
「ぜ、ぜひ、行きたい!」
ガバッと顔を上げて伝えると、柳くんが相好を崩し、胸がときめいた。
「そうか、ありがとう。詳細は後日伝える」
それから他愛のない話をして買い出しに行ったのだが、彼の姿が頭から離れない。心ここにあらずだったせいか、部室に戻ると沙良に心配されるのだった。