【柳夢】カラーパレット
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放課後を告げるチャイムが鳴った。掃除当番ではない私は、鞄を片手に図書館へ向かう。
今日は図書委員の当番の日。
扉に体重を乗せて押し、館内に入る。まだ掃除の時間だからか、利用者は少ない。カウンターに行く前に壁側の本棚へ足を運ぶ。
今日こそ、あると良いのだけど……。
お目当ての本は、一巻の作風が好みだったので続きが気になっていたのだが、タイミングが悪いせいか、二巻はいつも貸し出し中だった。
「あ、あったわ……!」
探し求めてから二週間。
ようやく巡り会えた本をさっと手に取り、自動貸出機へ向かった。カウンターでも貸出手続きはできるが、慣れれば貸出機の方が楽なのだ。
鞄を貸出機の横に置き、ブレザーの内ポケットから学生証を取り出す。貸出機の挿入口に学生証を入れ、画面をタッチして本の貸出手続きを行った。無事、画面に手続き完了と表示されたので一安心。返却日を確認し、貸出機から出てきた学生証を内ポケットにしまう。
鞄を持ち上げ、今度こそカウンターへ。
図書委員は各クラス男女一人ずつペアで当番なのだが、今日は私だけだ。もう一人の図書委員である男の子は、もうすぐサッカー部の県大会前で、練習が大忙しなのでいない。
一方私は茶道部なので大会はなく、茶道を学びながら、のんびり活動している。
放課後の図書館利用者は少ないから、一人でも大丈夫と引き受けた。それにカウンターでゆっくり読書ができて、至福のひとときなのである。
椅子に座って早速借りた本を捲り、物語の世界へ旅立った。
「雪宮」
「う、うん……?」
何故か視界が揺れるので顔を上げれば、目の前には柳くんがいた。彼が私の腕を揺らしたようだ。
どうやら本に夢中になっている間に、掃除の時間は終わってしまったらしい。
「あ、あれ……柳くん。もしかして本借りに?」
「ああ。読書中のところ悪いが、これを頼む」
目の前にずいっと本が差し出される。柳くんが借りる本を受け取って確認すると、全部で五冊だった。
「これが私の仕事だから気にしないで。むしろすぐに気づかなくてごめんね。あと一冊借りられるけど、五冊で良いの?」
いつも上限の六冊借りるので気になった。
念のため聞いてみると、柳くんは右手を顎にあてて考え込んだ。
「そうだな、何かオススメの本はないか? 雪宮の好きなジャンルで構わない」
「うーん……そうだ! ちょっと待ってて!」
私は窓側の本棚へ向かい、とある本を探した。
柳くんは図書館の常連なので、彼が純文学を好んでいることは知っている。それでもせっかくの機会なので、私の好きな本を薦めたい。
私は表紙に本と羊毛フェルトで作られた猫、フライパンなどが写っている小説を手に取り、カウンターへ戻った。
「これね、私のオススメ本」
先ほど柳くんから渡された本と一緒に、貸出手続きをする。
「ありがとう。これは、どんな本なんだ?」
「不愛想だけど温かみのある司書さんが、思いもよらない選書と可愛い付録……その表紙の羊毛フェルトで、人生に行き詰まりを感じている人の背中をそっと押してくれるの」
あらすじを伝えると、柳くんは興味深そうに表紙をじっと見つめた。
どうやら普段読まないタイプの小説だったらしい。
「ほう、読むのが楽しみだな」
「この作者の本を読むと心が温まるから、もし作風があえば他の本も読んでもらえると嬉しいわ」
「分かった。次来るときは、この作者の別の本を借りよう」
手続きを終えた本を渡すと、柳くんはふわりと微笑んだ。
意外と表情豊かだなあ。
彼の周りに花が舞っているように見えた。
*
翌日。昼休みになり、私はお弁当と水筒、昨日借りた本を持って中庭へ。
ベンチに腰をかけ、ため息を零した。
ここなら桜を愛でつつ、お弁当を食べ終えたらすぐに本が読める。
教室でも読書できなくはないが、私には少々騒がしかった。
お弁当を静かに味わい、お茶を飲もうと水筒に手を伸ばしかけたその時。
「隣に座っても良いか?」
ふと目線を上げれば、お弁当を抱えた柳くんがいた。どうも彼は気配を消して、私の前に現れるのが得意らしい。
「もちろん構わないよ」
「では、お言葉に甘えて」
柳くんは私の隣に座る。間にお弁当を挟んでいるからか、調度良い距離感だった。
「どうしてここに?」
教室からこっそり抜けて中庭に来たのに。
そもそもクラスが違うから、図書館を除けば休み時間に会うことは殆どなかった。
「雪宮が中庭に向かっているのが見えたからな。昨日薦めてもらった本が読み終わったから、追いかけさせてもらった」
「わ、もう読んでくれたの!?」
「昨日借りた中で、最初に手をつけたからな。連作短編集でちょっとした時間に読みやすかったし、心温まる話で前向きな気持ちになれた。何より、また図書館で雪宮のオススメの本を借りたい」
「柳くん……」
昨日追加で借りた本なのに、最初に読んでくれたのね。私の好きな本を、柳くんにも楽しんでもらえて嬉しい。また私のオススメの本を読んでほしいわ。
色々言いたいことがあったのに、彼の名前を呼ぶので精一杯だった。柳くんがあまりに優しい表情だったから。
「……それじゃあ、お昼食べ終わったら図書館行く? 柳くんのオススメの本も知りたいな」
本の続きを読むのも良かったが、お互いに好きな本を紹介する方が、新たな発見があって面白そうだと思った。
なんとか言葉にすると、柳くんは驚いたのか珍しく目を見開いた。
風が吹き、桜の花びらが舞う。柳くんに桜が似合っていて、絵になった。
「ぜひ、行きたい。俺の好きな本を紹介しよう」
手を重ねられ、心臓が跳ね上がる。きっと私の頬は、みるみる紅潮しているだろう。
柳くんにバレないと良いけど。
それからなんとかお弁当を食べ終えた私は、柳くんと本の感想を話しながら、図書館へ向かうのだった。
今日は図書委員の当番の日。
扉に体重を乗せて押し、館内に入る。まだ掃除の時間だからか、利用者は少ない。カウンターに行く前に壁側の本棚へ足を運ぶ。
今日こそ、あると良いのだけど……。
お目当ての本は、一巻の作風が好みだったので続きが気になっていたのだが、タイミングが悪いせいか、二巻はいつも貸し出し中だった。
「あ、あったわ……!」
探し求めてから二週間。
ようやく巡り会えた本をさっと手に取り、自動貸出機へ向かった。カウンターでも貸出手続きはできるが、慣れれば貸出機の方が楽なのだ。
鞄を貸出機の横に置き、ブレザーの内ポケットから学生証を取り出す。貸出機の挿入口に学生証を入れ、画面をタッチして本の貸出手続きを行った。無事、画面に手続き完了と表示されたので一安心。返却日を確認し、貸出機から出てきた学生証を内ポケットにしまう。
鞄を持ち上げ、今度こそカウンターへ。
図書委員は各クラス男女一人ずつペアで当番なのだが、今日は私だけだ。もう一人の図書委員である男の子は、もうすぐサッカー部の県大会前で、練習が大忙しなのでいない。
一方私は茶道部なので大会はなく、茶道を学びながら、のんびり活動している。
放課後の図書館利用者は少ないから、一人でも大丈夫と引き受けた。それにカウンターでゆっくり読書ができて、至福のひとときなのである。
椅子に座って早速借りた本を捲り、物語の世界へ旅立った。
「雪宮」
「う、うん……?」
何故か視界が揺れるので顔を上げれば、目の前には柳くんがいた。彼が私の腕を揺らしたようだ。
どうやら本に夢中になっている間に、掃除の時間は終わってしまったらしい。
「あ、あれ……柳くん。もしかして本借りに?」
「ああ。読書中のところ悪いが、これを頼む」
目の前にずいっと本が差し出される。柳くんが借りる本を受け取って確認すると、全部で五冊だった。
「これが私の仕事だから気にしないで。むしろすぐに気づかなくてごめんね。あと一冊借りられるけど、五冊で良いの?」
いつも上限の六冊借りるので気になった。
念のため聞いてみると、柳くんは右手を顎にあてて考え込んだ。
「そうだな、何かオススメの本はないか? 雪宮の好きなジャンルで構わない」
「うーん……そうだ! ちょっと待ってて!」
私は窓側の本棚へ向かい、とある本を探した。
柳くんは図書館の常連なので、彼が純文学を好んでいることは知っている。それでもせっかくの機会なので、私の好きな本を薦めたい。
私は表紙に本と羊毛フェルトで作られた猫、フライパンなどが写っている小説を手に取り、カウンターへ戻った。
「これね、私のオススメ本」
先ほど柳くんから渡された本と一緒に、貸出手続きをする。
「ありがとう。これは、どんな本なんだ?」
「不愛想だけど温かみのある司書さんが、思いもよらない選書と可愛い付録……その表紙の羊毛フェルトで、人生に行き詰まりを感じている人の背中をそっと押してくれるの」
あらすじを伝えると、柳くんは興味深そうに表紙をじっと見つめた。
どうやら普段読まないタイプの小説だったらしい。
「ほう、読むのが楽しみだな」
「この作者の本を読むと心が温まるから、もし作風があえば他の本も読んでもらえると嬉しいわ」
「分かった。次来るときは、この作者の別の本を借りよう」
手続きを終えた本を渡すと、柳くんはふわりと微笑んだ。
意外と表情豊かだなあ。
彼の周りに花が舞っているように見えた。
*
翌日。昼休みになり、私はお弁当と水筒、昨日借りた本を持って中庭へ。
ベンチに腰をかけ、ため息を零した。
ここなら桜を愛でつつ、お弁当を食べ終えたらすぐに本が読める。
教室でも読書できなくはないが、私には少々騒がしかった。
お弁当を静かに味わい、お茶を飲もうと水筒に手を伸ばしかけたその時。
「隣に座っても良いか?」
ふと目線を上げれば、お弁当を抱えた柳くんがいた。どうも彼は気配を消して、私の前に現れるのが得意らしい。
「もちろん構わないよ」
「では、お言葉に甘えて」
柳くんは私の隣に座る。間にお弁当を挟んでいるからか、調度良い距離感だった。
「どうしてここに?」
教室からこっそり抜けて中庭に来たのに。
そもそもクラスが違うから、図書館を除けば休み時間に会うことは殆どなかった。
「雪宮が中庭に向かっているのが見えたからな。昨日薦めてもらった本が読み終わったから、追いかけさせてもらった」
「わ、もう読んでくれたの!?」
「昨日借りた中で、最初に手をつけたからな。連作短編集でちょっとした時間に読みやすかったし、心温まる話で前向きな気持ちになれた。何より、また図書館で雪宮のオススメの本を借りたい」
「柳くん……」
昨日追加で借りた本なのに、最初に読んでくれたのね。私の好きな本を、柳くんにも楽しんでもらえて嬉しい。また私のオススメの本を読んでほしいわ。
色々言いたいことがあったのに、彼の名前を呼ぶので精一杯だった。柳くんがあまりに優しい表情だったから。
「……それじゃあ、お昼食べ終わったら図書館行く? 柳くんのオススメの本も知りたいな」
本の続きを読むのも良かったが、お互いに好きな本を紹介する方が、新たな発見があって面白そうだと思った。
なんとか言葉にすると、柳くんは驚いたのか珍しく目を見開いた。
風が吹き、桜の花びらが舞う。柳くんに桜が似合っていて、絵になった。
「ぜひ、行きたい。俺の好きな本を紹介しよう」
手を重ねられ、心臓が跳ね上がる。きっと私の頬は、みるみる紅潮しているだろう。
柳くんにバレないと良いけど。
それからなんとかお弁当を食べ終えた私は、柳くんと本の感想を話しながら、図書館へ向かうのだった。